若返りの昭和のアイドル
――本日、茂原の降魔真理教文化会館から原因不明の出火があり、施設は全焼しており――。
養老渓谷のダンジョンから車で自宅に戻ったあと自宅でテレビの電源を入れてみると、降魔真理教の建物が燃え尽きたというニュースが流れていた。
出火場所は、ホールであったが、燃え始めた原因は不明で信者どころか誰一人、施設内で人の姿はなかったと続けてニュースで流れている事から、原因究明をすることは出来ないだろうと予測する。
そして、その予測は当たっており、俺達が拉致され反撃してから2週間が経過しても事件の真相は何一つ進んでないようで、茂原警察署は近隣で聞き込みをすることが精一杯なようであった。
そして、先日、俺達の自宅はと言うと水道局の担当と工事業者により上下水道がようやく開通した。
「お風呂もいいものですね! 旦那様。それで、どうして旦那様は一緒にお風呂に入らないのですか?」
「一緒って……」
一応、ミツハとは一緒に暮らしているが、そこまで許しているわけではないので、俺とミツハは別々に風呂に入っている。
「それにしてもお風呂とトイレが普通に使えるのはデカいな」
おかげで自己処理型水洗トイレに関しては、新築中の作業員の方々に開放している。
仮設トイレを使っていた大工さんや作業員からは、とても好評だ。
そして、俺とミツハは2週間近く自宅でゴロゴロしていた。
理由は、いつ工事業者が来るのか分からないからという至極普通なことであった。
2週間の間、菊池涼音さんから何度か電話があったが、半年近く、かなりの新米を無料に近い形で提供していたので、俺からの手助けはいらないと判断し忙しいからと伝えてスルーしていた。
俺の計算では、20億円近くは貢献していたはずだし。
風呂から出たあとは、食事を作り夕食を食べたあと、ノートパソコンで情報を得る。
日本ダンジョン冒険者協会のホームページから見ることが出来る冒険者掲示板をチェックしていくが、どうやらダンジョン攻略は41階層から難航しているらしい。
「41階層からゴーレムが出るのか……」
刃物がほどんと通らないゴーレムというモンスター。
しかも足の遅いゴーレムだけでなく浮遊し移動速度が人が走るほどの速度を持つリビングアーマーも出るらしい。
「リビングアーマーとゴーレムか……。両方とも刃物が通らないらしいな」
「ふむ。――と、なると魔法の出番ですね」
「そうだな。それにしても――」
俺はテレビの方を見る。
どうやら、最近のミツハは人間の女性アイドルというのが気になっているらしい。
「俺と比べて、このアイドル……60歳近かった気が……」
テレビ画面の中で踊って歌っているアイドルは客観的に見て18歳前後に見える。
冒険者掲示板からの情報によると、氷河期世代のファンが大勢で31階層を回って1歳若返ることが出来る薬を組織的に集めていたらしい。
「みんなー! 私のためにありがとー! これからも、私を応援してねー!」
テレビに映っているアイドルが、手を振るうと氷河期世代のファンたちが一斉に「わー!」と、反応する。
さらに言えば、世界中の金持ちがどんなに願っても手に入れることが出来なかった若返りを昭和のアイドルが達成したとのことで、時の人という形でいろんな番組に復活した元・アイドルは引っ張りだこだと、ネットで情報が流れていた。
「人は石垣というやつね。旦那様」
「そういう意味で使う言葉ではないと思うが……。まぁ、それだけファンからの復活を望む希望と期待はあったんだろうなー」
いつか、こういう風に若返って活動をする人が出てくると思ったが実際にファンに支えられて若返ったアイドルの活躍を見ると、感慨深いものがあるな。
「次は、旦那様が若返る番ね!」
「たしかに……若い方が体を動かすのも楽だよな……」
そうなると31階層まで降りることになるが……。




