予備の家も買っておくか
我妻さんと、これからのことを相談しているとセールスマンの男が一人近づいてくる。
「これはセキレイハウスの小川さん」
「これはこれは――、我妻さん」
どうやら我妻さんと、小川さんという人は知り合いのようで、我妻さんに話しかけるために近づいてきたようだ。
「取り壊し予定の建造物をどうかされましたか?」
取り壊し予定?
「すぐに用立てて欲しいと要望がありましたので、お客様に案内していただけです」
「ほう……」
小川という男が眼鏡をクイッと動かすと、俺が購入予定の建物を一瞥したあと俺を見てくる。
「それでいくらで購入される予定だったのですか?」
「――え? 800万円ですが」
「なるほど、なるほどー―、それはとってもぼったくられていますね。いやー我妻さん、素人さん相手にぼったくりはよろしくないのでは?」
どういうことだ?
「おっと、これは申し訳ない。私、セキレイハウスの小川と言います。当社もモデルハウスの中古がございますが如何でしょうか?」
「中古ですか……」
「はい。モデルハウスは3年から5年で建て替えるのが一般的です。それを超えたモデルハウスについては建て替えなどを行うのが一般的です。築10年を800万円で取引されるのは聊かもんだいかと」
「なるほど……」
つまり、小川という人物は俺が不動産初心者だと思って話しかけてきたという事か。
でも、まぁ一度買いますと言ったことを撤回すると角が立つからな。
それに我妻さんには無理言っているし。
「それでは、我妻さんの方は800万円でそのまま購入するとして、もう一軒モデルハウスを購入しておきます」
また燃やされたらメンドクサイからな。
それなら予備の家くらいは持っておいても損はないだろう。
案内されたのは外装がピンクのメルヘンな一軒家。
「築5年になります」
建物の中を確認すると、6LDKだった。
「価格はいくらほどに?」
「400万円前後でどうでしょうか?」
「買います」
俺はアイテムボックスから現金を取り出して、小川さんと我妻さんにそれぞれ渡したあとモデルルームを土台ごとアイテムボックスの中に突っ込む。
「御高名な冒険者の方でしたか」
「高名ではありませんが、冒険者です」
「そうでしたか。最近、冒険者の方が田舎に家を建てる方が非常に多くなっていますよ」
「そうなんですか?」
「はい。氷河期世代なら誰でもダンジョンに入れて鑑定とアイテムボックスで月100万は軽く稼げるらしいですからね。私は一歳の差で入ることはできませんが、本当に羨ましい限りです。それでは、また用件がありましたらセキレイハウスをご利用ください」
去っていく小川さん。
「あの……佐藤さん」
少し困った表情な我妻さん。
完全に横から割って入ってきたセキレイハウスの小川さんに立場を奪われた感じだったので、仕方ないと言えた。
「我妻さんには、いつもお世話になっていますので、気にしないでください。それよりも前のモデルハウスの時と同じで電気・ガス・水道設備の手配をお願いします」
「分かりました」
まぁ、ある程度は付き合いも考えてお金を出すことも大事だからな。
養老渓谷ダンジョン近くの自宅に戻ったあとはモデルルームを設置する。
もちろんアイテムボックスから取り出して移転設置。
「これが、妾と旦那様のおにゅーな愛の巣!?」
ようやく再起動したミツハが目をキラキラさせて俺の肩を揺さぶってくる。
「そうだな。とりあえず、カーテンとか買いにいくぞ」
「そうね!」




