天照大御神と須佐之男命
その土方の言葉に俺は頭を左右に振る。
「面白くはないな」
「何故だ?」
「戦艦大和しかり、日本軍人は自国を攻撃するための方々ではないだろう?」
いくら神々の怒りを買ったからと言って日本国を守るために戦った英霊を神々の一存で利用して言い訳がない。
「ふむ……。――では、我らを使ったことは良いのか?」
「相手が殺しに掛かってくるなら話は別だ」
「間接的な相手にはいいのか?」
「パーティなら、たしかに関係者がいるのかも知れない。だが、艦砲射撃では、どれだけの被害が出来るのか予想できない。それに、日本国を守ると誓って散っていった日本兵である彼らに対して、俺は少なくとも日本兵が本来は守るべき国土に対して艦砲射撃することを頼むことは出来ない」
「それで、あとから自身に火の粉が降りかかってきてもか?」
俺を試すように土方が、真っ直ぐに俺を見てくる。
「その時を想定して、俺は強くなって対処することを誓うさ」
俺は真っ直ぐに土方を見て答える。
そこに嘘偽りはない。
「なるほど! なるほど!」
土方の姿が崩れると同時に、古代日本で着用されていた衣服を纏った2メートル近い男が姿を現す。
それと同時に沖合の戦艦大和が消える。
さらに、俺を取り囲んでいた新選組の面々もいつの間にか消えていた。
「なかなかに気骨溢れる男ではないか! ――だが、神々の意志に逆らってダンジョン内で得た力を全て失うとしても、その言葉が口に出来るか?」
「ああ」
間髪入れずに答える。
すると目の前の大男は大きく高笑いすると俺の背中をバン! と、叩いた。
「その気概やよし! それでこそ日本男児である! 流されて艦砲射撃をしていたら、見損なうところであったぞ!」
「……それは、俺を試していたという事ですか?」
「1割ほどな。佐藤、貴様の答え、十分に我を楽しませた!」
「――え?」
「後始末は、我々、八百万に任せて去るがよい」
「どういう――」
「おそらくは朝になれば分かる。何時までも此処に居れば、警察組織に発見されることになるぞ? 佐藤とやら」
「――ッ ありがとうございます」
佐藤和也が去って行ったあと、須佐之男命は腰に手を当てたまま首を一回転させる。
「随分と気にいったようですね」
「姉貴か……。中々に面白いやつに力を与えたな。それで、これからどうするんだ?」
「そうですね。とりあえずは、関係者の首は全員落とすとしましょう」
「いいのか? 大陸の神が何を言ってくるのか」
「既に大陸の神々の神名は失われて久しいのです。信仰されない神は力が衰え――」
「消えるってことか」
「そうです」
「何で偽りの神なんてモノを作るかね――、大陸の連中は」
「本当の神名を持つ神々は操ることは出来ませんから」
「たしかにな。やつはら自分達の守護をしている者を、自分達で破壊していくのだから始末に負えんな。」
須佐之男命は、後頭部を掻きながら天照大御神と共に、その場をあとにした。
残されたのは血痕のみで死体は、他の場所と同じく地面に吸い込まれていたのであった。
そして翌日、養老渓谷ダンジョン改札口で絡んできた日本ダンジョン冒険者協会の職員5名と、その親族――、7親等内の人間の首が同時に落ちたのだった。
その数は1万人を超えており、宗教の票を多く集めて当選していた一つの野党が消滅した。




