みどりウラシマルート-3
大きな貨物船は、波の上をゆっくりと進んでいく。
二人並んで、同じ方角を見ていた。
あの夜に見た方角と、同じ方角。
でも、その場所とは違う場所。
湖畔ではなく、海の上。
町の中ではなく、町の外。
遠ざかっていく陸地。
城壁のような崖の裂け目からかすかに見える風車の街。
「これでよかったのか? みどり」
「当然。別に街が消滅するわけじゃないもん。達矢が更生したって認められて、街を出て行くことになったら、一緒に出て行くって昨日ベッドの上で決めたから」
「そんな話、今初めてきいたぞ」
「そりゃそうでしょ、寝るときに達矢いなかったし」
「まぁ、そうか」
「よかったよ。お父ちゃんも納得してくれて」
納得してたか?
とてもそうは見えなかったが……。
あの悲しそうな、あわれを誘う顔を思い返すと、本当にこれで良かったのかと思えてくる。
「大好きな、街だったんだろ?」
「くどいよ、達矢」
「すまんな。でも、少しはあるだろ、心残りとか」
「それは……そうだけど……」
言葉を交わしている間にも、街はどんどん遠ざかっていく。
トビウオの群れが、跳ねているのが見えた。
潮を吹くクジラも視界に入ってきた。
しばらく静かな空間があって、次に言葉を発したのはみどりだった。
「あ、そうだ」
「どうした、みどり」
「いやぁ、達矢の生まれたとこって、どんなんだろうなって思って」
「すげぇ都会だぞ。だから、みどりみたいな田舎娘は浮いちまうかもな」
「なんですってぇ?」
「いや、何ていうかな……新鮮で注目を集めるかもな」
「なんだ、そういう意味か」
どういう意味だと思ったんだろうか。あまり良いことを言った気はしないのだが、あれか、新鮮という言葉が良かったのかもしれない。
「達矢、あたしさ、達矢に会えて、本当によかった」
「そうか、俺も、みどりに会えてよかった」
「ふふふ」
「何笑ってんだよ」
「すごく幸せだなぁって思って」
「そ、そうっすか」
俺は、照れて視線を逸らした。
「でも……やっぱすこし、不安かな。今まで町の外に出たこと、ほとんど無かったから」
「大丈夫だ、俺がついてる」
俺が努めて強くそう言うと、
「うん」
小さな声で、彼女は言った。




