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アルファの章_4-4

 たまたま雨が止んだので、傘を持ってくることもなくショッピングセンターに来た。


 もちろん記憶喪失少女アルファと一緒に。


 アルファは、ずんどうな猫のぬいぐるみを大事そうに抱えながら俺の手をグッと強く握っていた。


「なぁアルファ。何か思い出せないのか?」


 さすがにずっと記憶喪失のまま居られると困るんだが。


「……ねこ、かわいい……」


 ぬいぐるみを抱きしめた。


「そうっすか……」


 何なの、この子。


「あっ……」


 アルファが、まず目を付けたのはショッピングセンター内にあるジュエリーショップだった。


「これ、リボンだ……」


 言って、銀色っぽい色で、リボンの形をした金属が取り付けられたネックレスを見ていた。


「リボンがどうかしたのか?」


「昔、リボン、してた」


「そうなのか。いくらだ? 安ければ買ってやるぞ」


 値札を確認する。


 瞬間、驚愕した。声を失った。息が止まった。


「アルファ。ここはダメだ。無理だ」


「え」


「ケタが一個違う。いや、二個くらい違う。万単位のものを買ってやることはできない。物理的に不可能だ。というわけで、次のお店を見に行こう」


「…………」


 歩き出そうとしたが、アルファは動かない。


 黙って見つめて、その場を動こうとしない。急に地蔵になっちまったかのようだった。


 ぬいぐるみを見つめていた時のように、そのリボン型のネックレスをじっと見つめている。


「ええい、アルファにはまだ早いっ!」


 俺は言って、少女を無理矢理小脇に抱えて走った。


「リボン……」


 呟く。


「リボンな。わかってる」


 俺は、近くにあった小物屋で、リボンがついたカチューシャを発見した。


 値段、200円。


 これでもかってくらい色あせているが、一見して他にリボンっぽいものは見当たらない。よし、これを買おう。


「すみません、これください」


「あら、いらっしゃぁい。まぁ、可愛い子ねぇ」


 しかしこの店、店員が少し特殊だった。男性店員だったのだが、喋り方が思いっきりオカマっぽいのだ。


「妹さんには見えないわねぇ。彼女?」


「いえ、そういうんじゃないです」


 俺はロリコンではない。と思う。あんまり弁解すると逆に怪しいとか言われそうだから、何度も否定はしないが、俺はロリコンではない、と思う。


「あら、そうなの。あ、そうだ。でもごめんなさい、このカチューシャはね、先約があって、売れないのよ」


「あぁ、そうなんですか」


 200円のカチューシャに先約とは。ありそうでなさそうなシチュエーションだな。そして、予約されている品を店頭に出したままにしておくあたりに可愛いエピソードの匂いがするが、まぁそんなことは置いておいて、リボンを買わねば。そうしないと、この子が納得してくれない気がする。


「あー、っと、それじゃあこの子に似合いそうなリボンとか無いですかねぇ」


「そうねぇ、これなんか、どうかしら」


 どこからか差し出して来たのは、妙に見覚えのあるリボン。


「……これ、学校の女子が制服にくっつけてるリボンじゃないですか」


「そうよ。これは、学校指定のリボンを改造したものなの。今年はね、これを髪に付けるのがこの町の流行なのよっ」


 何だか、すげぇ限定的でダサイ流行のような気がするのは気のせいだろうか。


「リボン……」


「付けてみる?」と店員。


「うん」


 アルファが店員の言葉に頷いた次の瞬間、アルファの頭はあっという間にリボン装備状態になった!


 少し波打った銀髪の後頭部に、リボン髪飾りが装備された。


 一秒もかからない早業だった。この店員、なかなかできるヤツかもしれない。


「うーん、少し地味ねぇ……」


 確かに。


「色違いを作ってみたの。今年は、制服にカラフルリボンを付けるのを流行させようと思って用意したんだけど、これを使えば……!」


 そして、一瞬で後頭部のリボンは外され、黄色いリボンが、左側頭部に装備された。


 子供っぽくて、可愛かった。


「グッ!」


 男性店員は女性らしいウインクしながら親指を立てていた。


「…………」


 アルファは、付けられたリボンをワシャワシャと触って確かめる。


 男性店員は、アルファに丸い鏡を渡し、


「どうかしら?」


 相変わらずのオカマ口調で問いかける。


「うん」


 アルファはこくこくと頷いた。


「これ、お値段は……?」


「399円よ」


「あ、じゃあ、これ下さい」


 俺は、五百円玉を手渡す。


「今なら、このリボンが、二つで五百円にまりますけど」


「アルファ、どうする?」


「うん」


 頷いた。


 いや、あの、どうするか訊いてるんだが。でも、あれか、ここでの頷きは、きっと「欲しい」を意味しているのだと思う。


「よしわかった。色は何が良い?」


「レインボー」


 何というセンス。


 虹色リボンなんて、変な目立ち方するんじゃないか。


「きれいなの」


 アルファは言って、期待の色に満ちた目を俺に向けた。


「そんな色あるわけ――」


「あるわよ」


「あるのかっ」


「こちらです」


 店員が差し出してきたのは、虹色っぽく染められたリボンだった。何だろう、でも虹とは何かが、どこかが違う色。


「じゃあ、これを下さいな」


 俺は言った。


「はぁーい」


 男性店員が声を裏返して返事してきた。


 俺は、品物を受け取り、それをそのままアルファに渡した。


 そして、二人でその小物屋を後にする。


「よかったな、アルファ」


「うん」


「ありがとうございましたー」


 オカマが手を振っていた。




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