幕間_09_トン吉の話
昔々、あるところに、トン吉というブタさんがおりました。
トン吉は、お母さんと一緒に幸せに暮らしていました。お父さんは別居でした。
トン吉は、いつもお母さんに甘えます。
「トン吉、今日もハーブが美味しいわよ」
「うん! おかーたん!」
国産ハーブブタであるトン吉は、ハーブをもりもり食べました。
とても美味しいようすでした。
「ごめんね、ごめんね、トン吉」
突然、お母さんは謝りました。
「どうして謝るの? おかーたん」
すると、お母さんブタは、今度は黙ってしまいました。
次の瞬間でした。
子ブタのトン吉は人間の女に優しく抱きかかえられました。
そして、お母さんブタから引き離して、ゆっくりと歩いていきました。
「お、おかーたん! 何があるの! 何をされるの?」
「トン吉ぃ!」
「おかーーたーん!」
「トン吉! トン吉ぃいい!」
「おかーーーたーーーん!」
「トン吉ぃ!」
「おかーたーーーーーぁぁぁあん!」
「トン……トン吉ぃ……うぅ……」
「…………」
トン吉の声が、きこえなくなりました。
☆
「――むぁあああ! 何じゃこりゃああ!」
洞窟の一室に、女の子の声が響き渡った。
トン吉物語と題された物語が綴られた原稿用紙が、グシャッと丸められた。気に入らなかったのだ。
「わたしに小説なんて無理だぁああ!」
そう嘆き叫んで机に勢いよく伏せようとしたその時――
「あうっ!」
電気スタンドに頭をぶつけた。
「いたいなあああもおおおおお!」
宮島利奈は、部屋に一人で居るとよくわからない元気さを発揮する子だった。
「はぁ……」
大きく溜息を吐いた。
「あ、そうだ。日記つけよ。えっとー」
日記をつけ始めた。
『今日は、久しぶりに家に帰った。目的は、本棚を固定する道具を取りに行くため。先日埋めたネジを掘り出すため。達矢って男の子が、手伝ってくれた。ていうか全部やってくれた。わたしが読書してサボってる間にやってくれたから、わたしのお気に入りの中華料理屋さんでラーメンをおごってあげた。男の子だから食べるの早かった。そしてトン吉が』
そこまで書いて、ペンを置いた。
「トン吉……」
宮島利奈はお腹を押さえて呟いて、天井を見た。




