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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
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第27話  オフの日4  

 エリカと約束をした次の日、ルータスは一人で考えこんでいた。一体どうやって誘えばいいのか? そもそも誘っても何処に行って何をすればいいのか? ルータスには普通に友達と遊んだ経験すらほとんどない。それどころか歳が近い者で友達と呼べる人物はエリオットくらいだった。

 娯楽といったものに今まで縁がなかったルータスは何をしていいか分からなかった。しかし約束した以上は近い内に誘わなければいけないだろう。流石にこればかりはアイに聞く訳にもいかないので一人悩んでいたのだ。


 エリカ・クラウスはデニス・ローレンスが班長を務めるデニス班の一員で同じ3級生だ。同じ教室ということもあって出会えば挨拶や雑談などもする機会は多少なりとあった。

 エリオットの情報によればエリカ・クラウスはその可愛い容姿と豊満な胸もあって男子に人気が高いらしく何気ない仕草一つするだけでも絵になる女子だ。

 そんな女の子がルータスを遊びに誘っているのだ。エリカの態度から察するにルータスには少なくとも好意的ではあった。しかしルータスからすれば遊んだところでエリカを満足させる自信はなかった。それどころかヘマをやらかして幻滅されるのがオチだろう。


 ルータスはボーっと歩きながら教室へ続く廊下を歩いていると、後ろから可愛らしい声が聞こえた。


「ルータス君、こんにちは」


 ルータスは振り返ると、その声の主はエリカであった。丁度エリカの事を考えていただけに本人の登場に少し動揺するものの、


「やあ、エリカちゃん、教室に戻る途中なの?」

「お昼ご飯の時間だから教室に誰かいないかなと思って」


 そういうルータスも同じで昼食の為に誰かいないか教室を見に行くところだった。


「エリカちゃんも食堂に行くんだ。僕も今からご飯なんだけどよかったらどうかな? 一緒に食べない?」


 深い考えはなかったが自然に言葉がでた。エリカは少し驚いたような仕草をするものの、すぐに笑顔になり、


「いいよ、やっとルータス君から誘ってくれたね」


 エリカはまるで今まで誘ってくれるのをずっと待っていたかのような言い方だ。


「じゃぁ行こうか。色々話したいこともあるしね」


 エリカはルータスの横に並びながら一緒に食堂に向かった。食堂に入ると流石に昼食時はかなりの人で混雑していて至る所から話し声が聞こえ一気に騒がしくなった。そして給食を受け取るためのカウンターに2人は行くと少しの列が出来ていた。給食を作っている人達が忙しそうに動き回っているのが見える。

 エリカを先に並ばせ、その後ろにルータスも並ぶとエリカのサラサラの黒髪が目の前に見える。カウンターからは給食のいい匂いがルータスの元までただよってきて、ルータスの心を弾ませた。

 学園の給食のメニューは日によって異なりどんなメニューになるのかはその日にならないと分からないためルータスにとってはこの時間が一番楽しみだったのだ。

 

「今日はなんのメニューなんだろうね」


 ルータスは声を弾ませながら言った。


「ルータス君は給食が好きなんだね」


 エリカはルータスの声のトーンで察したのか、クスリと笑いながら言った。そしてルータス達の順番が回ってくると給食を受け取り空いている席に座った。今日の給食はご飯と焼き魚にサラダと温かいスープがお盆にのせられている。スープからでる湯気からは食欲をすする良い香りが立ち込めていた。

 

 しかし何か周りから視線を感じる。やはり可愛くて人気な女子と2人だけで昼食を取るといった行為は少なからず目立つのだろうか? 周りの男子からの嫉妬に似た視線が感じられた。

 しかし人から妬まれた事のないルータスにとってはそれが優越感となって悪い気分ではなかった。


「エリカちゃんってデニスさんの班だったよね。クラスは何?」


 エリカとは何度か話した事はあったがエリカ本人の事についてはあまり知らなかった。


「私はヒーラーだよ」

「そうなんだ。重要な役割だから大変だね」

「最初は前に出て戦ったりするのは怖いからヒーラーになろうって思っただけなの。でも色々覚えていく内にそれが凄く大切な役割だって分かって今は頑張ってるの。でもね最初はすごく怖かったんだよ」


 皆の命を預かるクラスなだけに怖いという気持ちはルータスもよく分かった。しかし今のエリカの表情からは不安などは皆無で自信のほどが見て取れた。

 ヒーラーは基本的に班に1名の為、代わりはいないので他のクラスと違って誰かに頼るような事はできない。だからエリカは武芸科に来てから相当の努力をしてきたのだろう。

 

「エリカちゃんなら将来凄いヒーラーにきっとなれるよ」

「ありがとう、ルータス君」


 エリカはルータスにそう言ってもらえたのが良かったのか凄く嬉しそうな様子がその表情から見て取れた。 


「そういえばエリカちゃんの班長のデニスさんってどんな人なの?」


 デニス・ローレンス――同じ教室なのでたまに見かける時はあったが話した事はなかった。デニスはスコールよりもひと回り大きく大柄の男だった。大きいだけではなく体つきもトレーニングを欠かさず行っている事が十分に分かるほどの引き締まった体で、目の前に立たれるとまさに壁の様な男だった。


 学園では依頼書は他の班と合同で受ける事も出来る。しかしマヤカ班はスコールとルータスの二人がいる事もあってか全てマヤカ班だけでこなして来た為に他の班と関わりが少なかった。

 

「班長は凄く優しい人だよ。大きいから怖いって思われがちだけどね」

「たしかに大きいから、見た目は怖そうだね」

「でも依頼書の時も班の人達の事を凄く考えてくれて気遣ってくれるの」

「流石は一級生だね。僕の班の班長のマヤカさんも凄くいい人で皆の事考えてくれてるよ」

 

 やはり一級生は今まで数多くの班長を見てきただけに、班をまとめたり細かい気遣いに関してはかなりのものだった。これも又、違う強さに繋がる事なのだろうか。


 そして2人の会話は弾み楽しい時間が流れた。ルータスも意外と会話に困る事はなく最初に心配していたような問題は起こらなかった。給食も食べ終わりホッと一息を付くと。


「美味しかった! 明日の給食は何かな」

「給食の事ばかりだね。でもルータス君って思ってたより話しやすいね。私もルータス君と同じ班がよかったな」


 エリカの言葉にドキッとするルータスだったが必死に表には出さないようにして、


「僕と同じ班だと、幻滅されそうで怖いな」 

「そんなことないよ。ルータス君ならもし外でハーフとかに襲われてもすぐに助けてくれそうだし」


 エリカの何気ない言葉にルータスは苛立ちを覚えたが表情には出さずなんとか飲み込んだ。エリカに悪気はない事は分かっていた。実際にエルドナでの犯罪者のほとんどがハーフなのは間違いない事実だ。しかしルータスにはそれがハーフだけの責任ではないと思っていた。

 ルータスはハーフだ。やはり純血をハーフには大きな(へだ)たりがある。それを感じるに十分なエリカの言葉は、ルータスの心に深く大きな傷をつけた。


「そ、そうだね。何かあったらすぐに飛んで行くね」


 ルータスは何とか返事を返す。そして目が覚めた気がした。一体純血のエリカと仲良くなって何がしたいのか? 仮に仲良くなったり恋人になったとしてそれがどうなるというのか? エリカが仮にルータスに好意があったとしてもそれはエルフのルータスであって自分じゃない。


 ルータスは初めて異性に好意らしきものを持たれた事に舞い上がっていただけなのだ。純血とハーフは分かり合えないそれは歴史が証明している。


 ルータスは思い出した。純血達が今まで自分にしてきた事を――そして魔王軍とエルフが対立するような時がくれば敵になるという事を――

 




 夜中の魔王城のバーに、4人の女性の姿があった。黄色い光を放つランプの下のカウンターに1列に並んだ4人は今日の仕事も終わり女同士皆で飲みに来たのだ。

 その中の一人であるミクがカウンターの向こうにいる2匹のモグローンの一匹に向かって口を開く。


「ホクロンさん、甘いカクテル3人分で」


 ホクロンは片手を上げながら、


「了解でやんす!」


 そのやり取りを見ていたミクの右側にいたのはティアだ。ピンクの髪に大きな耳で、座っている椅子からは綺麗な尻尾がたれていた。ティアは驚きの表情で、


「ミクさん、よくモグローンを見た目で判断できますね」


 魔王城に住む者のほとんどの者はモグローン種である。しかし人類にとってモグローンは、ほとんど違いがなく同じにしか見えない為に見た目で判断するのは至難の業であった。

 そしてミクの左側にいたミシェルもそれに続いて口を開く。


「ほんとそうよね。この城でモグローン一族の違いを唯一分かる謎のスキルの持ち主だわ。というかカクテルは3人分でいいの?」

 

 4人なのに何故3人分なのか分からない様子のミシェルの疑問に対して、一番左に座っているスカーレットが答える。


「わたくしはアンデッドですので物理的に飲むことが出来ませんから――」


 スカーレットはスケルトンだ。骸骨(がいこつ)の口から飲み物を飲もうとしてもダダ漏れるだけで飲むことはできない。ミシェルはその答えになるほどと納得したようだ。ミクはホクロンに手をかざすと。


「一番大きなのがホクロンさん」


 ミクはホクロンの左横に立っているもう一匹のモグローンにその手を移動させて、


「で、隣にいるのは少し小さなマクロンさんよ」   

 

 見た目から全く大きさの違いは分からない。そしてマクロンは敬礼のポーズをとりながら。


「オイラはマクロンでげす! おやびんがお世話になってるでげす」

「アタシは口調以外では判別できないわ。全く同じに見えるわね」

「わたくしも分かりませんね……」

「私もです――」


 やはりミク以外の三人にはモグローン種の見た目での判別は難しいようである。ホクロンとマクロンは2人で手際よくカクテルを5人分作るとカウンターにその3個と空のグラスを1個並べた。余った2個はホクロンとマクロンがそれぞれ持ち大きくそれを掲げると。


「とりあえず乾杯でやんすよ!」

「乾杯でげす!」

「つかあんた達も飲むのかよ!」


 ミシェルのツッコミもあって、グラスの合わせる音がバーに響いた。ティアはカクテルを一口飲むと、


「私お酒って、ここに来るまで飲んだ事なかったんです。でもこのカクテルという飲み物は甘くて美味しいですね」

「なんだかんだ言ってディーク様のバーも役に立ってるわね」


 ミシェルはそう言うとカクテルを一口飲む。するとスカーレットが、


「そういえば、わたくしホクロンさんとはあまりお話しをする機会が無かったのです。建築大臣と聞いておりますが普段はどんな事をされているのですか?」


 スカーレットの疑問に、一同の視線はホクロンにあつまった。


「オイラでやんすか? うーむどこからいったらいいでやんすかね」

「アタシもちょっと気になるわ。モグローンの生体ってどんなの?」

「そうでやんすね。とりあえず朝起きたら魔王様と畑見に行ったり、新たな施設の打ち合わせをしたりしてでやんすね。畑仕事が終わると温泉でゆっくり一日の疲れを取とるでやんす。そしてここで皆で打ち上げしたりして、終わったら部屋で寝るというのが日課でやんすかね」

「あんた……もうちょっと野生を覚えていたほうが良いんじゃないの」


 ミシェルは呆れた表情で言った。魔王城を作ったのはモグローン一族である為、今いる者全ての個室が完備されているのである。


「わたくし、前から少し気になっていたんですが、若いメイドを雇うのにお二人は反対されていましたよね? ティアさんが魔王城に来た時は、なぜ何も言わなかったんです?」


 スカーレットの疑問に対しティアも聞き耳を立てる。そしてミクはグラスの氷を回しながら、


「あーそれはね、私達はディーク様の好みのメイドを雇うことに反対だけなんです。だからティアそれに当てはまらなかった」


 ミクはティアのその豊満な胸に指を指した。ティアはいきなり胸に指を指されどうしていいか分からず戸惑っている。


「ディーク様は、巨乳には興味はないの。だから何も問題ないですね」


 ミクの横で大きくミシェルが頷いている。スカーレットはミクとミシェルの胸を交互に見つめると納得した樣子で、


「なるほど……」

「ちなみにアタシは、ディーク様の理想のタイプとして創造されたのよ」


 ミシェルは胸に手を当てながら誇らしげにいった。

 

「そういえばティアは最近どうなの? ルータスとは」


 ミクがティアの方を向きながら少し意地悪そうな表情でいった。


「べ、別にルー君とはいつもと変わらないですよ」


 ティアはかなり動揺している様子で尻尾はピンと立って、頭の大きな耳はパタパタしている。ミシェルはクスクス笑うと、


「早くゲットしないと誰かに取られちゃうよ。バーンといっちゃえ! バーンと!」

「う――」

「なんなら相部屋でもつくるでやんすよ」


 ティアは顔を真赤にしながら下を向いてしまった。


「ルータスで思い出したけど。もうすぐ春の合同訓練ってのがあるみたいよ」

「そんなものがあるのね。ミシェルは内容を知ってるの?」

「なんかね、エルドナから目的の場所まで往復で2日かけて移動するらしいの。ついた先でハンコ貰って帰ってくるだけらしいわよ」

「へーそんなのがあるのね。ミシェルはお姉さんなんだから合同訓練見に行ってあげたら?」

「そんな心配しなくても大丈夫よ。まー気が向いたらね」

「あーあ、私もディーク様と一緒に学園入りたかったな」

「そんなのアタシだってそうよ! 制服着姿せたら、ミシェルは本当に可愛いな! 流石俺の嫁! とか言って抱きしめらたりしてクフフ……」

「いいわね! 私だって同級生にディーク様とは将来を誓い合った仲なんです。とか言って自慢したいわ。フフフ……」


 2人のやり取りを横で聞いていたティアがまるで貴重なものを見たかの様に、


「お二人は仲がいいんですね。いつもと違うミク様の一面を見れた気がします」


 ミクはコホンと咳払いをすると、


「ミシェルとは長い付き合いですから」

「そうそう、アタシと話すと素がでちゃうのよ。いつもは作ってるだけに。プププ」

「そんなことないです!」


 ミクは図星を突かれたのか声のトーンが上がった。ミシェルはグラスを高く掲げると、


「せっかく女の子だけの集まりなんだし今日はとことん飲みながら話そう!」


 その声に一同は答え、騒がしい夜は続いた。

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