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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
57/398

苺騎士団と蒼の縞々の食事会

 ストロベリーナイツとブルーストライプスのライダーたちは、ハンナたちが宿泊しているホテル近くのギリシャ料理のレストランに揃っていた。ブルーストライプスからは、ハンナとラニーニだけでなく、リンダとナオミも来ている。

 ストロベリーナイツからも、予定通りシャルロッタも付いて来て、両チームのライダー全員が顔を合わせた。


 当然と言えば当然だが、シャルロッタは機嫌が悪い。ただいつものようにプンプン怒っているのではなく、元気なく黙り込んでいる。

 シャルロッタだけでなく、愛華までなにか深刻そうに考え込んでいるようだった。

 隣り合わせの四人掛けテーブル二つには、チームごとにではなく、未成年の愛華、シャルロッタ、ラニーニ、ナオミの四人と、アルコールの飲めるエレーナ、スターシア、ハンナ、リンダと2チームが各テーブルちょうど二人ずつに別れて席に着いていた。


「二人とも、新生ブルーストライプスはどうだった?」

 旧友とワインで乾杯して上機嫌のエレーナは、話のはずんでいない様子のソフトドリンク組を気にして、走行終了後ずっと釈然としない表情のシャルロッタと愛華に尋ねた。

「……」

「リヒター先生が巧いのは知ってましたけど、なんだか、えっと、」

 愛華としては、本人を目の前にして本音を言いづらかった。それでもはっきりさせたい気持ちが勝っていた。。

「上手く言えないですけど、勝ったとか負けたとかじゃなくて、シャルロッタさんはたぶん調子悪かったっていうか……。いえ、わたしが未熟なのはわかっています。アカデミーにいた頃も、リヒター先生には子供あつかいされていたので。でもあの頃はわたしも全然下手だったから、もちろん今なら勝てるとか思ってませんけど、正直シャルロッタさんの方が凄いって言うか、あれほど苦戦するとは思っていなかったので」

「あたしはちっとも苦戦なんてしてないわ!ちょっと様子見てただけよ。コケ嚇し魔力なんか、あたしに通用しないんだから」

 愛華が慎重に言葉を選び過ぎて、要領を得ない発言になっていたのを、シャルロッタがズバリ言ってしまった。そこまで思ってないが、リヒター先生が次元の違う速さのシャルロッタやエレーナさんたちと同等とは思えない。過去はともかく、現役スピードトップのシャルロッタを抑えるなんて、本当に魔法でも使わないと無理だと思った。

 ハンナは気分を害した様子もなく、余裕の微笑みを浮かべていた。

 その微笑みに、やっぱり自分たちは敗けたんだと感じる。


「アイカ、サッカーはよく観るか?」

 エレーナが唐突にサッカーの話に振った。

「日本代表の試合はよく観ますけど、普段はあまり観ません」

 どうしてここでサッカーの話題なんだろう、と思いつつも正直に答えた。

「あたしはインテルね。ACミランは終ったわ」

 シャルロッタはイタリア人らしく、サッカーに詳しいらしい。愛華には聞いた事ある名前ぐらいの知識しかない。きっと強いチームなんだろう。

「サッカーでもバスケットでも、それほど目立つディフェンス選手がいるでもないのに、なぜか失点の少ないチームがある」

 エレーナはシャルロッタの発言には無視して話を続けた。

「そういうチームには、大抵目立たないが優れた司令塔がいる」

 なんとなくエレーナの言わんとする事はわかるが、具体的にどういう事なのかわからない。

「本当に優れた司令塔は、相手の動きを先読みする。相手のパスコースを読み、攻撃に入られる前に出来るプレーを潰していく。相手チームは、自分たちの得意とする攻撃パターンが作れず、苛立ちだけを募らせていく。ディフェンス側の真のファインプレーと言えるが、素人目にはオフェンスのチームワークが噛み合っていないように見える」

 ハンナの動きを思い出し、『あっ、なるほど』と愛華は納得した。愛華だけでなく、ブルーストライプスのラニーニとナオミまで合点がいったという顔をしていた。彼女たちも、自分たちがどうして暴虐シャルロッタを抑えられていたのか、理解してなかったようだ。しかしシャルロッタはまだ不満顔だ。

「そんなゲーム、ぜんぜん面白くないわ。あたしなら単独ドリブルで、全員突破してやるわ!」

「そうだな、おまえなら可能かも知れん。ファンタジスタと呼ばれてカッコいいぞ」

 エレーナから褒められたと疑わないシャルロッタは、どや顔で全員を見回す。

「だが、それこそが相手の思う壺だ」

「そんなの魔力を持たない一般人相手の場合よ!現にあたしは突破したじゃない!」

 どや顔から憤懣で真っ赤な顔になって反論した。ムキになってるあたりに、実は本人も自覚してる事が窺える。

「ハンナたちはまだ組んだばかりのチームだったからな。それにおまえがようやく抜いた時は、既にハンナは疲れ果てていた。もう歳だからな」

「あら?エレーナさんから年寄り扱いされるとはちょっとショックですね。まあ、久しぶりに激しく攻められて疲れたのは事実ですけど。でもシャルロッタさんには驚きました。非凡なセンスだとはビデオなどで研究して知ってましたけど、実際一緒に走ってみて改めてその凄さを理解しました。あれほどの変則的なアタックを次々に仕掛けられるとは、本当に人間離れした才能です」

 エレーナから歳と言われてハンナもチクリと言い返した。やはりスターシアと同じタイプの人だ。

 それより人間離れという言葉に、シャルロッタは再び機嫌をよくしていた。

「よく見抜いたわね。そうよ、あたしはチェンタウロ族の末裔よ。アンタたちがどんな魔法を使ったか知らないけど、あたしには通じないわ」

 横に向けた左手指のVサインの間に、緑色のコンタクトレンズの入った左目にあてて言い放った。最高レベルのどや顔表現である。

「アイカさんも、いろいろ経験を積んだようね。よくカバーしてたわ」

「まだまだぜんぜんです。エレーナさんやスターシアさんの足手まといにならないよう、もっともっと頑張らないと」

 スーパーどや顔をスルーされたシャルロッタは、またも話を巻き戻しにかかる。

「今日はちょっと小手調べしただけよ。まだ本気の必殺技は見せてないんだからね。秘密兵器だからナイショだけど」

 自分が中心でないと気がすまない子である。

「秘密兵器なら自分から言うな。誰も訊いていないぞ。それを言うなら、ハンナたちの本当にコンビネーションが組み立てられるのも、まだこれからだ」

 エレーナは、ハンナの加わったブルーストライプスが、今まで以上の強敵になると宣言していた。

「あの、リヒター先生が凄いのはわかったんですけど、あとラニーニちゃんも、リンダさんとナオミさんも速いのは知ってますけど、四人は今日初めて一緒に走ったんですよね?どうしてあんなに息ぴったりの走りが出来るんですか?」

 愛華の質問には、ハンナが答えた。

「あら、知らなかった?リンダもナオミもアカデミーでは私の教え子だったのよ。つまりあなたの先輩よ。あなたと違って二人とも同期ではトップだったわ。何回か一緒に国内レースに出場した事もあるから。それからアイカさん、リヒター先生はやめなさいと言ったでしょ。ハンナでいいわ。これからは同じ立場のライバル同士なんだから」

「えっ、そうだったんですか!」

 愛華は驚いたが、Motoミニモを走るライダーの多くがGPアカデミー出身者なのでそれほどの偶然でもない。

「ラニーニさんとは初めてだったけど、基本もしっかりしてるし、素直ないい子だから問題なかったわ」

「そういう事だ。ハンナはバレンティーナ以上にリンダとナオミの事を理解している。当然アイカの長所も短所も知られているし、シャルロッタの走りも今日記憶されたろう。明日もう一度やってみるか?」

 エレーナの言葉に、シャルロッタが噛みついた。

「エレーナ様!いったいどっちの味方なのですか!?」

「そうです、エレーナさん。わかってたならどうしてシャルロッタさんを止めなかったんですか?」

 愛華も抗議した。


「面倒だったからだ」

「「めんどうって!?」」

 二人が同時に声を挙げる。

「アイカちゃんのことはハンナさんも知っているし、シャルロッタちゃんの常識はずれな走りも見ればわかるでしょ?」

 面倒なエレーナに変わって、几帳面なスターシアが説明してくれる。

「常識はずれとは心外です。人間離れと言って下さい」

 シャルロッタは妙な部分に拘った。人間離れはお気に入りになったが、常識はずれと言われるのには抵抗あるようだ。

「人間離れのライディングも、シーズンが開幕すれば何れ攻略されるでしょう。だったら早く攻略された方がいいのですよ」

「スターシアさんまでどうしてですか?少なくても開幕戦は有利に戦えたんじゃないですか?」

 シャルロッタと違って、愛華はまともな抗議をする。

「シャルロッタちゃんとアイカちゃんに、早く強くなって欲しいからよ」

 ???

「だってアイカちゃん、相手が強いほど頑張って成長するでしょ。シャルロッタちゃんも、強敵であるほど進化していくわよね」

 さすがスターシアである。微妙に表現を使い分けている。

「でもそれだったら、シーズン中でも成長していけるんじゃないですか?」

「我々はお互いに少しでも早く強くならなければならない」

 エレーナが真剣な口調で言った。

「だからって仲良く切磋琢磨しよう、なんてゴメンよ!敵と馴れ合うつもりもないわ」

 シャルロッタにそんな真似が出来ない事は、誰もが知っている。

「私も馴れ合うつもりはない。お互いに敬意と信頼を持って真っ正面から真剣勝負する。ハンナたちもそのつもりだ。その上でお互いを利用する」

「つまりわたしたちが強くなるために、ラニーニちゃんたちにも強くなってもらう、ってことですね。それはわかりましたけど、どうしてそんなに急ぐんですか?」

 愛華はライバルとしてラニーニと共に成長する事に不満はないが、エレーナの急ぐ理由がわからなかった。

「バレンティーナが迫って来るからです。今のままでは、ブルーストライプスもストロベリーナイツも、シーズン半ばには勝てなくなるかも知れません」

 ハンナが衝撃的な発言をした。

「ちょっとアンタ、エレーナ様の元チームメイトだかアイカの先生だか知らないけど、取り込みたいからってデタラメ言わないでくれる?」

「いや、デタラメではない。私もハンナと同じ見解だ。バレンティーナと言うより、ヤマダワークスに追い上げられるだろう」

 エレーナにまで言われて、シャルロッタは愕然とした。


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[一言] いくら小説とは言え、的確すぎませんか?
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