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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
366/398

強さとは?

「タチアナのことか?」


 エレーナは、愛華が強くなりたいと思った動機を、チームメイトにあたりをつけていた。おそらく最初からわかっていたのだろう。隠しても無駄のようだ。愛華は小さく頷く。


「アイカちゃん、ターニャさんが従わないからって力づくで言うこときかせるのは、間違ってますよ。却って反発するだけだと思うわ」

「ちがいます!わたしだって暴力で従わせようなんて思ってません。でも武道をすれば心も強くなって、自信が持てると思ったんです。わたし、芯から強くなりたいんです!」

 愛華の心の内を曝すような訴えに、スターシアは戸惑ったが、エレーナは納得したように頷いた。

「武道で心を鍛えるとは、如何にも日本的考え方だが、おまえが必要だと感じたのならそれもいいだろう。私も協力しよう。本格的に日本の武道を学んだ経験はないが、旧ソ連の軍隊格闘術というのは世界中の格闘技の実践的な技術を取り入れている。当然空手や柔術も含まれる。なぁに、武術など元は(いくさ)で生き延びるための技だ。私が学んだことを教えるぐらいはできる」

「だあっ!ありがとうございます!」

 なにかちがう気もするが、愛華はパッと明るい表情になって答えた。たとえ正当な武道でなくても、愛華にとってこれ以上心強い指導者はいない。


 だがスターシアは認める訳にはいかない。

「アイカちゃんは心を強くしたいって言ってるんです!武術なんてしなくてもアイカちゃんは芯のとても強い子です!エレーナさんだって知ってるはずです!」

「知っている。だが足りないものもある。それを本人が気づいて、なんとかしようとしているのだ。余計な口を挟むな」

「もっと合理的な方法で導いてあげるのが私たちの務めです!」

「これはアイカの心の問題だ。アイカにしか答えは見つけられない。合理的な方法などないし、導くなど誰にもできない。私にできることは、少しばかり手助けすることぐらいだ」


 エレーナの言いたいことはスターシアにもわかっていた。スターシア自身、どんなに諭されても性格は変えられなかった。


「いいか、アイカ。格闘技もライディングも同じだ。派手で華麗な技術もすべて基本の延長にある」

「だあっ!」

 スターシアを置いて、さっそく二人は稽古を始めた。

「形だけ真似しても使い物にならん。実際に使えるのはシンプルでしっかりした基本の上に立つ技術だ」

「だあっ!よくわかります!」

「逆に言えば、基本さえしっかり身につければ大概のことに対処できる」

「だあっ!」


 エレーナの言ってることは正しい。愛華が自分の足りないものに気づいて、それを克服しようと努力してるなら、たとえ無意味と思えることでも応援してあげるべきなのだろう。得るものはきっとあるはずだ。


「必殺技だのプリキュラみたいに眼から光線出すだのは、アニメの世界だけだ。狙ったところに的確に打ち込む、単純だがそれこそ武術の真髄だ」

「だあっ!」

「プリキュラは眼から光線なんて出しません!!」


 せっかくエレーナに共感しかけたスターシアだが、プリキュラに関しての大きな間違いは見過ごせない。

「どうでもいい。大事なのは都合のいい技術などないということだ。たゆまぬ努力を続ければおまえは強くなる。肉体的強さだけではないぞ。芯から強くなれる。強さは自信だ。おまえは今でも強い。だが他人に気を使い過ぎるところがある。それは美徳だが、自分の意見を抑えてしまうときがある。それはなぜだ?」

「それは、自信がないからです!」

「わかっているようだな。自分が正しいと思うなら主張しろ。他人の意見を聞く姿勢は大事だが、過ちは堂々と否定しろ。それでも従わなければ捩じ伏せろ。強さとはその覚悟だ」


 「強さは自信」「強さとは捩じ伏せる覚悟」……。

 ライダーが自信を持つなら、ライディングを向上させるべきだ。それは確かに正論だが、人とはそれほど単純ではない。そしてバイクを速く走らせるのと他者を従わせるのとはちがう。

 シャルロッタのように、実力を認める者に従う人間はむしろ稀だ。小者ほど他者を認めることができない。

 誰もがシャルロッタのように単純なら愛華も苦労しない(愛華もエレーナも、とても苦労してきたが、それは別の問題)。人は無意識に相手の覚悟を測って対応する。


 スターシアは、指導者(リーダー)としてのエレーナの本質を見た気がする。スターシアにはあのような導き方はできない。だが同時に、その指導法が誰にでも有効とは限らないとも思わずにいられない。シャルロッタはエレーナを認めていた。愛華は強い憧れを抱き、絶対的にエレーナを信頼している。自分を含めてストロベリーナイツのスタッフは皆エレーナを尊敬している。だから時に理不尽であっても従い、ついてきた。だがもし、そういった気持ちを持たない者にとって、エレーナはよいリーダーと言えるだろうか?


 人というのは、こうしたら必ずこうなるという絶対の法則があるものではない。

 様々な要因が関わり、時には挫折や理不尽という化学物質によって爆発的反応が起こる。他者との関わりが化学反応を促す。

 おそらくエレーナは、それを期待しているのだろう。


(そうね……アイカちゃんには、必要とする時、必要な人を引き寄せる不思議な力があります。いつも真剣に生きているから巡り会えるのか、選ばれし者の運命(さだめ)なのかわかりませんが、もし運命とするなら、ターニャさんもアイカちゃんにとって必要な人なのかも知れませんね……)


 愛華がどう成長していくのか、自分にできることをしながら、これからも見守りたいスターシアであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人と人の出会いに無意味なものは無いと思っています。 この小説に出会えたことも、一つの運命。
[一言] 更新お疲れ様です 2話更新していたので纏めてこちらで エレーナとスターシアの漫才?を久しぶりに見た気がします 二人はこうでなきゃw お姉様、目からビームを出すプリキュラはいますよ?(と、…
[一言] なんか今回ベストキッドみたいなノリですなぁ
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