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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
346/398

モヤモヤする

Motoミニモ チーム紹介④


Team VALE


マシン    ノエルマッキRS


チーム監督  ジジ・バッリーニ(56)


ライダー   46 バレンティーナ・マッキ(26)


       99 ジョセフィン・ロレンツォ(20)


       21 エリー・ローソン(24)


       33 マリア・メランドリ(15)


 

 

 史上最高と言われた契約金でヤマダに移籍したものの成績が奮わず、チームとの問題も多発したバレンティーナの、再起をかけたチーム。監督のジジ・バッリーニはジュリエッタ時代のバレンティーナの元メカニック。他のスタッフ、設備もほとんどが旧ブルーストライプスのジュリエッタからそのまま移っている。現在のマシンはノエルマッキになってから開発された新型である。

 長年バレンティーナのアシストを務めたマリアローザに代わり、若いマリア・メランドリの投入で勢いを取り戻したいところ。今季はマシン、ライダー共に早い段階から順調で、久しく遠ざかっていたタイトル奪還に意欲を燃やしている。

 最近のMotoGPシリーズの開幕は、三月のカタールGPとなっているが、例年ここではMotoミニモクラスは行われない。

 近い将来、Motoミニモも開催されるとの噂もあるが、昼間の気温が摂氏50度を超えるような砂漠に作られたサーキットでは、たとえ決勝がナイトレースであってもあまりやりたくないのが本音だ。

 プロである以上、レースが行われるなら全力で走るが、とりあえず今年はないので、MotoGPシリーズ第2戦アルゼンチンGPが今年のMotoミニモの開幕戦となる。


 ここ数年続いたシャルロッタ=ストロベリーナイツの支配が、シャルロッタの移籍によって誰が勝つかわからなくなったMotoミニモクラスは、ファンにとって開幕前から目が離せなくなっていた。


 セパンでの合同テストでは、新生フェリーニLMSを駆る二人の天才、シャルロッタとフレデリカが予想外の速さを見せつけ、バレンティーナも久々のタイトル奪回に向け、好調さをアピールした。ヤマダに新しく加わった加藤由加理も、ラニーニ、ナオミに引けを取らない走りを見せ、強力な戦力としての活躍を期待させた。シャルロッタに代わってエースとなった愛華も奮闘している。


 続くオーストラリア、フリップアイランドで行われたテストでも、各チーム順調な仕上がりで、可能性としては、ほぼ横並びと思われた。ただ、一見好調そうに見えても、それぞれ問題は抱えている。これは今年に限ったことではなく、たとえワークスチームでも、いつも万全の態勢とはいかないものだ。むしろ万全で挑める方が珍しいと言っていい。

 

 

 ストロベリーナイツの抱える問題は、やはり新エース愛華と新しく加入したタチアナの関係だろう。チームワークが、まるでストロベリーナイツらしくない。


 決して遅いわけではない。チームで走っても、タイムは出ている。しかし、なんでもないところでミスが出る。

 先頭交代のタイミングで誰も前に出なかったり、コーナーへの進入が乱れ、立ち上がりで一列になってない場面が何度も見られた。シャルロッタがいた時でも、そんな場面はまずなかった。


 多くは慣れないタチアナが加わったことによる混乱と思われた。

 いずれ慣れるだろう、土壇場になれば愛華がまとめる。愛華はそういうものを持っている、というのが、大方の見方だった。


 しかし、事はそれほど単純ではなかった。チーム走行の凡ミスは、タチアナが加わったのが原因ではあるが、愛華にもその原因がある。


 愛華は心の中で、セパンでタチアナに説教した時、タチアナが最後に返した言葉を引きずっていた。


『でもアイカさん、担当メカニックのこと、本当はわかってなかったみたいですね』

 

 

 

 

 エースライダーはセルゲイが担当する、というエレーナの指示で、今季から愛華の担当メカニックは、これまで見てくれていたミーシャからセルゲイとなった。

 しかし愛華は、本当の理由がわかっていた。


 いくら鈍感な愛華でも、五年以上一緒にいれば、ミーシャが自分に好意を抱いていることは気づく。

 愛華もミーシャのことは嫌いではない。むしろ好きと言っていい。いつも自分のために一生懸命になってくれて、信頼もしてる。祖父母に育てられ、学校は女子校だった愛華には、これまでの人生で祖父以外の一番親しくなった男性といえる。しかしそれは、ライダーとしてメカニックに対する信頼であって、恋愛感情など考えたこともなかった。


 なのにミーシャくんは、自分との間にライダーとメカニックの以上の関係を望んでいることに気づいてしまった。それはある意味ショックでもあった。


 何度かいい雰囲気になりかけた事もあったが、毎回愛華は突然用事を思い出し、それ以上の発展を避けてきた。

 その歳でそれは、と言われるかも知れないが、今の愛華はレースのこと、チームのことで頭がいっぱいだ。


 このままじゃいけない、はっきり言わないといけないと思いつつ、信頼関係を壊したくない、ミーシャくんを傷つけたくないという中途半端な優しさを続けていた。

 愛華は初めて「ライダーとメカニックの色恋はご法度」の意味がわかった。たとえ恋愛経験が豊富でも、愛華の立場であれば、はっきり拒絶するのは難しいだろう。


 それに気づいた─おそらくスターシアが進言したのだろう─エレーナは、セルゲイおじさんを愛華の担当メカニックにして、ミーシャくんはタチアナの担当となった。


 愛華はエレーナもスターシアも恨んでいない。むしろ感謝してる。ミーシャくんにも感謝してるし、今でもメカニックとして好意を持ってる。

 セルゲイおじさんは、凄いメカニックだ。走りを見ただけで、愛華がピットに入るとなにも言わなくてもピッタリのセッティングに合わせてくれる。天才はここにもいるんだと思ってしまった。


 ここまではいい。愛華はミーシャに恋愛感情を持ってなかったし、チームのためにも彼のためにもよかったと思ってる。



 だけど、タチアナさんのあの言葉、たぶんミーシャくんがわたしを好きだったの知ってる!


 愛華に敵意(としか思えない)を持ってるタチアナが、ミーシャに嫌がらせとか、愛華を好きだったことをネタに困らせるようなことしないか心配になった。


 それからの愛華は、タチアナとミーシャの様子を注意して見るようになった。


 特に嫌がらせとかは、していない様子だった。愛華が言った通り、互いに信頼を築こうと仲良くしていた。

 しかし段々、その仲の良さに、なにかモヤモヤしてくる。


 なんで、あたしが苛つかなきゃいけないの!?


 二人の仲の良さに、愛華は自分に苛ついた。

 いや、愛華の嫉妬心だけがイライラの原因ではない。

 明らかに二人は仲良すぎる。それは段々エスカレートしていき、ライダーとメカニックの関係を越えているとしか思えなくなった。


 走行を終えた日の夜、愛華はセルゲイおじさんとの打ち合わせを終えて、トレーラーに戻ろうとした時のことだ。タチアナのマシンを整備してるテントに、少し隙間が開いているのが見えた。

 愛華は気になって、少しだけ中を覗いた。


 その時の愛華の驚きとショックは、心臓が止まってしまうと思うほどだった。


 台に腰かけ作業をしているミーシャに、タチアナが背後から抱きついているのを見てしまったのだ。


 愛華にも、なにをしてるかわかる。ストロベリーナイツの男性スタッフは、総じて口が悪い。実際は皆紳士だが下ネタ好きで、愛華は耳年増になっていた。

 そしてこのあと、どうなるのかも。


 唯一愛華の前で下ネタ言わなかったミーシャが、よりによってタチアナと……


 ミーシャくんのバカ……

 

 

 

 翌日、タチアナに注意しようかと思ったが、逆に言い負かされそうだ。ミーシャに関しては愛華にも負い目があるし、その方面ではタチアナの方が上手みたいだ。(というより愛華はまるっきり初心者)


 エレーナとスターシアにも相談できない。あまりに恥ずかしいし、今さらヤキモチ妬いてるみたいで格好わるい。


 しかも二人は、他の人がいるところではすごく真面目に仕事して、まったくそんな素振りを見せない。特にタチアナが。

 もしかしたら愛華が覗いていたのをわかってたのかもと疑ってしまう。



 愛華のモヤモヤは、どんどん大きくなっていって、とうとう走ってる最中にも、タチアナを見ると思い出してしまうほどになっていた。

 逆にタチアナは調子を上げ、愛華より速いタイムが当たり前になると、「ミーシャくんのおかげ」と堂々と言うようになった。

 

 

 べつにわたしには関係ない。仲良くなってそれで調子いいなら問題ないじゃない。わたしはわたしのやるべきことに集中するだけ。

 

 

 意識しないようにしようとすればするほど、頭から離れなくなる。どんな困難も、必ず乗り越えられると信じてきた愛華だが、今回ばかりはどうしたらいいのかすらわからない。

 

 そんな状態のまま、開幕戦アルゼンチンGPを迎えていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 初心もここまで行けば立派!
[気になる点] ゼッケンの割り振りってどうなってるんですか? 基本はランキング順?WGPはそうだった記憶が…… 一部のライダーは元ネタが(げふんげふん [一言] 更新お疲れ様です ここに来て、ミーシ…
[良い点] 15才のマリアはワークスチーム所属選手としては最年少? どんな走りをするのか [気になる点] バレのチームってだいたいバレ以外は出番が少なくて存在感が希薄になるんだよなぁ… [一言] ノエ…
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