クリスマス会
クリスマスイブの日、愛華たちは学校のクリスマス礼拝の後、mioで開かれるハンドベル部と合唱部の演奏会の準備を生徒会の人たちと手伝って、その美しい演奏と歌声をシャルロッタと一緒に味わってから、紗季の家に集合した。
最初は、特に仲のいい紗季、智佳、美穂、そして愛華の四人で、お泊まり会を兼ねたクリスマス会しようと思いついた企画だったが、シャルロッタが加わり、彼女の意向で茂木まで応援に来てくれた由加里とかも呼ぼうとなり、それだったら愛華の補習を手伝ってくれた由美たちクラスメイトもみんな呼ばなきゃ、それならトレーニングで体育館使わせてくれてる体操部の後輩たちにも声を掛けよう、だったらバスケ部の智佳の後輩も、と気づいたらかなり大きなクリスマスパーティーとなってしまった。
すでに予定の入ってる子や、mioでのハンドベル部合唱部のコンサートの後なので夜遅くなることもあって、参加出来ない子もいたが、それでもニ十人以上が参加を申し出た。
因みにお泊まり会は、最初の仲良し四人+シャルロッタだけの予定だ。
祖父が代議士をしてた頃は、いつも大勢のお客さんが来てたという大広間は、それだけの人数が入っても十分に広々としており、昨日紗季と美穂が飾り付けたというクリスマスツリーのもと、美穂の弾くキーボードの音色をBGMに、和気あいあいと全員が揃うのを待っていた。
「生徒会長が時間に遅れるなんて、なんか意外だなぁ」
そろそろ空腹に我慢できなくなってきた智佳が呟いた。
「由美さんは現生徒会の子たちとコンサートの打ち上げに顔を出してるから、少し遅くなると思います。他はだいたい揃ってるみたいですし、先に始めましょうか」
「だったら紗季も行かなくてよかったの?副会長でしょ」
「引退した三年生がいつまでもでしゃばってたら、二年生もやりにくいでしょ。由美さんも一言『お疲れさま』と伝えたらすぐに来ると言ってましたが、捕まってるかもしれませんね、彼女、後輩の子たちにも人気ありますから」
「なにしろ『お蝶夫人』だからね。でも、わたしが後輩だったら堅苦しそうな由美より、断然優しい紗季の方がいいけどな」
何気に智佳に対する皮肉にも聞こえなくない紗季の返答に対して、気づいてないのか対抗してるのか、堂々と女たらしのセリフで返す“王子さま”。
愛華はそんな智佳の態度を恨めしく思いながら、シャルロッタにそのやり取りを説明する。
「みなさんもお腹空いているようですし、由美さんも『遅れるようなら先に始めてて』と言ってましたから、もう始めましょうか」
『だったらもうすぐ来るんでしょ!クリスマスはみんなで祝うものよ!』
イタリア訛りの英語が大広間に響いた。愛華に通訳してもらっていたシャルロッタが、まだそれほど親しくない由美を思いやるようなことを言ったのだ。
「そうだね、乾杯はみんな揃ってからがいいよ」
少し間があって、一番お腹が空いてそうな智佳が、シャルロッタに賛成した。
この二人、どちらも相当な自信家で、それをはばかりなく口にするところなんかもよく似ているが、案外仲間思いのところも共通している。
智佳については、彼女のおかげでクラスに溶け込めたこともあり、最初からわかっていたけど、シャルロッタに関しては、自分の認めた相手以外はいつも他人を見下すような物言いで、誤解されやすい。というより誤解されてるが、エレーナやスターシアだけでなく、愛華にもすごく気を使っていると感じるようになっていた。
メカニックの人たちにも、自分のお馬鹿のせいで彼らの仕事を増やしてしまった時なんかは、心の中では申し訳なく思ってるみたいだ、たぶん……そう信じたい。
エレーナさんにどつかれて反省してるのもあるけど。
『アイカ、なにニヤニヤしてんのよ!』
「気持ちわるいぞ、あいか」
似た者二人から、同時に責められた。
「いえ、二人とも本当にやさしいな、って」
「なっ!なに言ってるの!やさしいとかじゃなくて、クリスマスってのはそういうものだから!勘違いしないでよね!」
人間性を褒められると、ツンデレ反応をしてしまうのはシャルロッタだった。いじりがいがある。
対する智佳は、
「ボクの本当の優しさは、キミだけのものさ」
と、男だったら歯が浮いて全部抜け落ちてしまうようなセリフを自然にいい、愛華を赤面させ、後輩たちから『きゃあー』と歓喜の悲鳴をあげさせた。
「そう言えば、亜理沙ちゃんもまだ来てないね。招待してるんだよね。あいか、なんか聞いてる?」
顔を真っ赤にする愛華など知らぬかの如く、智佳はさっさと別の話に切り替えた。
「えっと、クリスマス礼拝のあと、ちょっとプレゼント取りに行ってから来るって言ってたけど、遅れるとは聞いてないよ……」
愛華は火照る顔を意識しながら、平常を装おって答えた。
(ともか、絶対わたしのこといじって楽しんでるでしょ……)
「亜理沙ちゃん、またどこかで迷ってるのかしら?」
智佳が愛華を恥ずかしがらせて遊ぶのはいつものことだが、後輩やシャルロッタの前でいじるのはちょっとかわいそうに思ってか、美穂が助け船を出してくれた。
「この前のmioでの親睦会のときも、亜理紗先生、随分早くmioには来ていたらしいんだけどモール内で迷子になって、結局辿り着けなかったそうですからね」
紗季も、智佳のいたずらがこれ以上暴走しないように、話を亜理沙ちゃんに絞った。
「でも今日はカーナビに登録したから、大丈夫じゃないかなぁ?」
昼間、愛華は亜理沙ちゃんに、紗季の家をカーナビに入力するように頼まれた。
「さすがGPライダー。カーナビとかも扱えるんだ」
「そんなの関係ないよ。スマフォよりずっと簡単だよ」
「でも、あいかが入力間違ってたら、意味なくない?」
「大丈夫、ルーシーさんがやってくれたから」
「なんだ、あいかがしたんじゃないじゃん」
みんながどっと笑った。
「でも茂木に行った時も、カーナビあったけどかなり迷ったからなあ」
智佳は根本的に亜理沙ちゃんの方向感覚を信用していないらしい。
「亜理沙ちゃん、私が『大丈夫ですか?』って訊いても、自信たっぷりに運転してて、実は迷ってることすら気づいてなかったんだから」
紗季も思い出して、微笑みながら話した。
「そうでした。私もスマフォのGPS見てて、“逆じゃないの?”って思っても、こっちが裏道とか言って」
茂木に行った子たちが、愉しそうにその時の様子を語り始めた。今となっては、いい思い出だ。
愛華や美穂など、そこにいなかった子たちも、如何にも“亜理沙ちゃんあるある”な話の数々を聞いて笑いあった。
シャルロッタは日本語がわからないからか、少し離れて一年生の子たちと綺麗に飾り付けられたクリスマスツリーを、興味深そうに眺めているようだ。
以前のシャルロッタなら、愛華に「通訳しなさい!」と無理やり割り込んできただろうが、余程ツリーに興味あったのか、一年生の子とも仲良くなりたかったのか、気を使ってくれてるのか、あまり三番目は考えにくいが、愛華はちょっとうれしかった。
べったりまとわりつかれなくなったからでなく、シャルロッタさんも少し大人になった気がした。




