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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
153/398

日本GP初日

 此処でシャルロッタのチャンピオン決定するか否かが注目される日本GPだが、その裏側で来年の各チーム体制について、様々な憶測が飛び交っていた。

 当然、ストロベリーナイツとブルーストライプスからは何も発表されておらず、普通であれば両チームとも、現体制を敢えて変更する必要性は見当たらない。

 しかし、ヤマダは今季から大幅に体制を変えるだろう事は、誰の目にも明らかだった。そのヤマダからも、両チームの紳士協定に合わせるように、何もリリースされてこない。

 その理由のわかっている記者たちは、敢えて記事にする事はなかったが、ヤマダと愛華の情報を必死に集めていた。


 その陰で、ヤマダからフレデリカが復帰していた事を、特に気にする者はそれほど多くはなかった。一時はシャルロッタと並ぶ天才ライダーと騒がれたが、結果が残せなければすぐに話題から消えるのがこの世界の常識だ。

 フレデリカの代役として出場していた琴音は、今回はワイルドカード(主催者推薦枠)としての出場となっていた。


 しかし、金曜日のフリー走行が始まると、メディアの動きは一変した。

 フレデリカと琴音が、モテギのMotoミニモコースレコードを上回るタイムを連発したのだ。これに対し、シャルロッタとラニーニは、慎重にセットアップを進めているのか、本格的なタイムアタックまでいってない。


 予想では、この日本GPでシャルロッタのタイトル獲得はほぼ間違いないだろうと言われてきただけに、フレデリカの復帰と好調さは、少なからぬ驚きと期待を一気に集めた。


 アメリカで右手の手術を受けたフレデリカは、万全とは言えないまでも、欠場前より遥かに良い状態でモテギに乗り込んできた。

 YC213Vも、以前よりパワフルになっている。


 本来、ケリー主導で旋回性重視の方向で進められてきた213だったが、車体よりエンジンの開発が先行してしまった。というより、フレデリカ専用にハイパワー化されたエンジンを、バレンティーナなどが自分たちのマシンに載せるように要求した為に、極端にパワーが車体性能を上回るマシンになってしまった。

 繊細なバランスを追求していたYC213は、パワーに見合う車体の強度アップを余儀なくされ、ストレートでは圧倒的な速さを発揮するが、コーナリングではとても曲がり難い、ケリーの求めていたものとは正反対のマシンとなっていた。

 たとえコーナーリング性能を犠牲にしても、結果的にはバレンティーナが乗っても、現状ケリーであっても、その方がよいタイムが出たので、それをベースに旋回性を向上させていく方向で、開発が進められる事が決まった。


 バレンティーナやケリーのような、常識的なライダーにはコーナーで非常に苦労させられるマシンであったが、極端なパワードリフトを多用するフレデリカのライディングスタイルには、計らずもベストマッチのマシンとなっていた。


 フレデリカ&YC213V。シャルロッタのスピードに、唯一対抗できる組み合わせ。

 しかも二人とも、極端な天才肌で対抗意識が強い。

 シャルロッタは、優勝でチャンピオンを決めたいと思っているはずだ。彼女がそれに拘れば、ひょっとしたら思わぬイレギュラーも起こりうる。

 不謹慎ながら、最終戦までファンの興味を引っ張りたい関係者は、フレデリカがシャルロッタを挑発してくれる事を願った。


 琴音に関しても、アシストとしての評価の試される場だ。

 特に彼女の場合、日本での国内レースの経験のない愛華と違い、モテギはコースが完成した当時から走り込んできた、おそらく今此処にいる誰よりも知り尽くしたコースだ。YC213Vについても、誰よりも知っている。

 テストライダーの琴音にとって、フレデリカ同様、ここで結果を残さねば、GPを走る機会もここで終わる可能性が高い。

 なんとしてもここで結果を残したいのは、この二人だけではない。

 Motoミニモ復帰初年度のヤマダであっても、ホームコースのモテギでは、文句なしの勝利をあげておきたかった。


 

 ファーストプラティスクから驚異的なタイムを連発したヤマダの二人を除けば、上々の走りで一回目のフリー走行を終えたシャルロッタだったが、パドックでも辺りをキョロキョロ見回して、落ち着かない様子だ。


「どうしたんですか?シャルロッタさん。なんか落ち着かないみたいですけど」

 インターネットを賑わす移籍話に振り回された愛華も、エレーナたちにわかってもらえてたと安心すれば、従来通りシャルロッタの保護者役に戻った。


「トモカたちはどこにいるのよ?あんた、ちゃんとパドックパス渡したの?」

 シャルロッタは、応援に来ると言っていた智佳たちを捜しているらしかった。

「みんな学校があるから、土曜日にしか来れませんよ」

「なんでよ!金曜日から行くって、メールに書いてあったわよ!」

「いえ、金曜日の授業の終わったあと、名古屋を出発するってことで、サーキットに来るのは早くても土曜の朝だと思います」

 決勝の翌日は休めるって言っていたが、さすがに金曜日の授業まではサボることは出来ないだろう。

「……仕方ないわね……。な、なによ、別にさみしいとか思ってないわよ!ま、まあ、遠くから来るんだから、ご褒美にあたしがブッチギリのトップタイム叩き出す予選でも見せてあげようかしら。予選にはちゃんと間に合うんでしょうね!?」

 独りでしゃべって、一人で照れて、勝手に怒ってる。

「たぶん大丈夫ですよ。去年も予選のときにはスタンドに応援幕拡げて応援してくれてましたから」

 パッと明るくなったシャルロッタの表情を見てると、本当にみんなに会うのを心待ちにしてるんだと嬉しくなった。もちろん愛華もみんなに会うのは楽しみだ。自分も余計な雑音なんか気にしていないで、シャルロッタさんに負けない走りを披露しようと、気持ちが昂まってくる。



 午後のフリー走行が始まると、すぐにラニーニがフレデリカと琴音を上回るトップタイムを記録すると、シャルロッタが更にそれを塗り替え、愛華もそれに続くという事を何度も繰り返し、競い合うようにして記録を更新していった。終盤にはバレンティーナも好タイムを記録し、本番さながらのアタック合戦が繰り広げられた。


 フレデリカのベストタイムを、ラニーニが0.02秒短縮するタイムを刻んだところでその日のフリー走行は終了した。


 ラニーニがトップタイムと言っても、六人が0.3秒以内という僅差にひしめく接戦で、予選本番ではどうなるのか、ましてや決勝の予想にはまったくならない。「これから本気のタイムアタック仕掛けようと思ってのに!」と憤慨するシャルロッタだが、決して虚勢でなく実際まだまだタイムを詰められる余地を残していた。

 それにエレーナやスターシア、ハンナ、ケリーといったベテランたちは、セッティングに終始していたので、予選になれば必ず上位にくい込んで来るに違いない。ナオミやリンダも、狙っているはずだ。

 ここでチャンピオンを決定したいストロベリーナイツだけでなく、負ければタイトルへの夢が絶たれるブルーストライプスも、ホームコースで地元のメンツに賭けて絶対に負けられないヤマダも、総力をあげてぶつかり合うことは必至だろう。昨年の日本GP以上に熱いドラマへの期待がモテギを包んでいた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 絶対に負けられないチームが三つ.....。
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