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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
132/398

チームメイトとライバルと親友

 愛華はエレーナに代わりシャルロッタを堅実にリードし、シャルロッタは愛華の指示に大人しく従った。

 未熟な点もあったが、互いに補い合い、シャルロッタは普通に優勝した。


 普段の実力通り走って、普通に優勝する。競技者にとっては理想であり、それをめざして努力する。


 しかしシャルロッタにとっては、これほどつまらないものはない。自分が優勝したのに、ちっとも目立ってない。


 彼女の苛立ちも、わからなくもない。

 なにしろトップでチェッカーフラッグを受けたのに、観客の目は三位争いにくぎ付けで、ウイニングランの派手なパフォーマンスも、ラニーニがスターシアとエレーナから健闘を称えられる姿に注目を奪われてしまっていた。


 この日、最もスリリングだったシーンは、ラニーニを追うスターシア、エレーナたちによる最終ラップのデッドヒートであったのは間違いない。地元の寡黙な少女が、エレーナとスターシアという最強のコンビに追いつめられる場面は、ラニーニファンでなくとも応援したくなる。そして最後まで逃げきった瞬間には、同じイタリア出身であるシャルロッタの優勝以上に歓喜した。観客は、危なげない優勝より、スリリングな三位争いに興奮した。


 レース後、表彰式の前にその場面のリピートを場内のモニターで観た愛華すら、大勢の記者たちの前にも関わらず、思わずラニーニに抱きついて褒め称えていた。

「あんたまで、なに歓んでいるのよ!こいつは敵よ!そこのちっこいのも、いい気にならないでよね。エレーナ様もスターシアお姉様も、ガソリンもタイヤも、とっくに終わってただけなんだから!」

 ちっこいのとはラニーニのことである。どうしてこうも自分から好感度を下げるセリフを口にしてしまうのか。一部マニアには、それがいいらしいが。因みにラニーニとシャルロッタの身長はほとんど同じだ。愛華は一番小さい。

「はい!わかってます。今日はエレーナさんとスターシアさんから、いっぱい学ばせてもらいました!」

 ラニーニの好感度はますますアップする。

「甘いわね。いい、レースってのは仲良し……」

「すごいね、ラニーニちゃん。すごいプレッシャーだったでしょ?」

「うん、ライオンに襲われてるみたいだった。もう泣きそうだったんだよ」

「ほんとは泣いてたでしょ。目が赤いよ」

「これはゴールしてからだよ。でも正直に言うと、少し泣いてたかも。一回諦めかけたんだ。でもアイカちゃんが見えたら、『がんばらなきゃ』って勇気が湧いた」

「え~ぇ、わたしなんかで?でもやっぱりすごいのはラニーニちゃんだよ」

「ちょっと、あんたたち!なにイチャイチャしてんのよ。人の話聞きなさいよ」

 シャルロッタにとって、レースは自身の存在意義そのものである。シビアにレース観を語ろうとしたのに、愛華とラニーニは、きゃっきゃっと部活帰りの女子高生のように騒がしい。

「それにしてもスターシアさんとエレーナさんから逃げ切るなんて、本当にすごいよ!」

 愛華はすごいを連発した。

「あたしはすごいなんて認めないから!あんたなんて、すぐに首位の座から引き摺り降ろしてやるから覚悟してなさい!」

 シカトされてしまったシャルロッタは、ラニーニに向かって大きな声を出した。愛華とラニーニはちょっと驚いたが、すぐに顔を見合わせて笑いだした。


 二人は、モニターを観ていた間中、シャルロッタの「そこでインを空けたらダメでしょ!」とか「もっと早くアクセル開けなさいよ!」とか、ラニーニを叱咤応援したい心情が駄々漏れになっている声を聞いていたのだ。


「そ、そんなこと、言うわけないでしょ!」

「無意識に声に出してたってのは、やっぱり本音ですよね」

 愛華がいたずらっぽく茶化す。ツンデレをイジル愉しさを、最近知った。

「本音とか、絶対あり得ないし!なんであたしがライバル応援するのよ。アイテムの効力が落ちていたとはいえ、エレーナ様とスターシアお姉さまから逃げ切った、強敵よ!」

「強敵とは認めるんですね」

「!………うぅ」

 シャルロッタは、顔を赤くして言葉に詰まった。

「ありがとうございます。わたし、ポイントリーダーとして、すごくプレッシャー感じていたんですけど、なんか残りのレースが楽しみになってきました」

 屈託ない顔のラニーニに、嬉しそうに言われた。

「楽しみ!?ってあんたねぇ、喧嘩売ってるの?それよりアイカ!あんたどっちの味方よ!裏切るつもり?」

「わたしはもちろん、全力でシャルロッタさんを守りますよ」


「わかってれば……のよ………頼り……んだから」恥ずかしそうに小言でボソボソ言っている。なんか可愛い。


「わたしだって、ハンナさんにリンダさん、ナオミさんもついていますから、アイカちゃんがいたって、絶対に負けません」

 ラニーニが二人に向かって宣言する。また強くなった気がする。

「あたしがあんたに負けるなんてありえないし!エレーナ様とスターシアお姉様だって、今度は手を抜かないから!アイカだって………まあ、それなりにがんばると思うわ」

「なんですか、それ!わたしだって苺騎士団の一人です!」

「ストロベリーナイツ四天王、最弱の騎士だけどね」

「ひっどぉい。前のレースでは優勝してんですから!」

 ストロベリーナイツで一番弱いのは事実ですけど……


 二人のやり取りを聞いて、ラニーニがクスクスと笑った。愛華も笑いだす。

「・・・プッ!」

 シャルロッタまで釣られてつい吹きだしてしまった。気がつけば、三人でケラケラ笑っていた。

 そばにいたカメラマンたちは、不思議そうに顔を見合わせ、肩をすくめた。十代の少女たちが笑い転げるのは、大人には理解不能だ。


 これまでシャルロッタは、こんなふうに笑ったことがなかった。しかもシーズン途中で、ポイントを争っているライバルと親しく笑い合うなんて、想像もしてなかった。だからってレースでは馴れ合いにならず、本気でぶつかり合える気がする。


「次は後ろの方で盛り上がっていないで、あたしのとこまでちゃんと来なさいよね。魔力のちがい、思い知らせてあげるわ」

「ポイントをリードしてるのは、わたしの方ですから」


 シャルロッタは(こんなのもいいかな)と思った。彼女の好感度も、少しだけ回復した。


 第12戦サンマリノGP終了時点のポイントランキング


1 ラニーニ・ルッキネリ(ブルーストライプス)J

            231p      

2 シャルロッタ・デ・フェリーニ(ストロベリーナイツ)S

            224p            

3 アイカ・カワイ(ストロベリーナイツ)S

            153p

4 エレーナ・チェグノワ(ストロベリーナイツ)S

            134p 

5 ナオミ・サントス(ブルーストライプス)J

            130p

6 ハンナ・リヒター(ブルーストライプス)J 

           125p             

7 アナスタシア・オゴロワ(ストロベリーナイツ)S

            112p

8 ケリー・ロバート(ヤマダインターナショナル)Y

            104p

9 リンダ・アンダーソン(ブルーストライプス)J

             94p

10 バレンティ-ナ・マッキ(ユーロヤマダ)Y

             89p

11 フレデリカ・スペンスキー(USヤマダチームカネシロ)Y

             56p

12 アンジェラ・ニエト(アフロデーテ)J

             56p             

13 マリアローザ・アラゴネス(ユーロヤマダ)Y

             43p

14 ソフィア・マルチネス(アフロデーテ)J

             23p 

 15 アルテア・マンドリコワ(アルテミス)LS

             23p

16 エバァー・ドルフィンガー(アルテミス)LS

             23p

17 エリー・ロートン(ヤマダインターナショナル)Y

             15p

18 ウィニー・タイラー(ヤマダインターナショナル)

             12p   

19 ジョセフィン・ロレンツォ(アフロデーテ)J

             10p             

20 ノリコ・カタベ(ヤマダインターナショナル)Y

             7p

21 アンナ・マンク(アルテミス)LS

             3p

22 ミク・ホーラン(ユーロヤマダ)Y

             2p

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― 新着の感想 ―
[一言] う〜ん、とても気持ちいいポディウム。
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