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巨神騎士伝ルトラ ~光の巨神よ、この世界を照らせ~  作者: 長月トッケー
第2話 光と影を追って -熱線魔獣べグス登場-
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第2話 光と影を追って (Part7)

 イディは人々を守りながら必死に銃口を怪物に向けていた。ソカワは空から怪物に果敢に立ち向かっていた。アヌエルは少女をかばいながらタクトを片手に怪物を睨んでいた。フィジーはドクマとアーマッジの応急手当を終えて飛び立とうとしたところだった。そしてキリヤは、地走竜にのって戦地に急いでいた。

 彼らの前に、あの巨大な光が空から現れた。怪物も光の方を向いた。


「……ルトラ」


 キリヤはぽつりと言った。

 光は地上に降り立ち、ルトラに姿を変え、怪物と相対した。

 怪物はすかさず、4つ目を輝かせた。瞬時にして、ルトラの全身が炎に包まれた。


「そんな、いきなり……!?」


 ソカワはその光景をただ茫然と見ていた。眼前で見ていた者たちは皆、衝撃にその身をすくませた。

 しかし、巨大な人型の炎はまるで動じることなくその場に立っていた。ルトラは両腕を交差させると、身体全体を光らせ、炎を振り払うように両腕を思い切り広げた。すると、彼を包む炎はきれいにかき消されてしまった。

 怪物が怯むと、ルトラは素早く駆け寄り、正面から首を抱え込むように組み付いた。そしてそのまま、肩で怪物の喉を潰すように力を込めた。


「アヌエル隊員、今のうちにこっちに!!」


 イディが必死に呼びかけると、アヌエルは子供を抱えなおし、力を振り絞って彼と孤児院の皆のいる所へと走っていった。そこに辿り着き、アヌエルはゆっくりと少女を下ろすと、少女と修道女は涙を流しながら抱き合った。


「僕は戦闘に向かう、アヌエル隊員は皆の避難を」

「了解、今すぐに転移の魔法陣を展開させるわ」 


 アヌエルは丸薬を飲み、魔力を補充すると、改めてタクトを構えた。


 ルトラの眼に、その小さな姿が映っていた。ルトラは怪物の首を抱えたまま、孤児院だった所から離れるように後ろに引きずり、胴体を持ち上げ火の海広がる田園へと投げ捨てた。

 しかし、怪物はするりと尻尾をルトラの足に巻き付けると、そのままルトラを転倒させた。足はきつく締められ、ルトラがいくら振り払おうとしても無駄だった。そして、怪物は立ち上がると口から魔弾を連続して放った。ルトラは地面を転がりながら必死でかわした。ルトラは何とか立ち上がろうとするが、足を引っ張られてそりのように地面を引きずりまわされた。

 怪物はとびかかると、ルトラの頭を鷲掴みにしてギリギリと絞めた。そして、その眼を輝かせ、ルトラを発火させた。身を焼かれながら頭を締め付けられ、ルトラはもがき苦しんだ。


 その時、1本の矢と赤い弾が飛んできた。矢と弾が怪物の尾の根元のほぼ同じ場所に、同時に当たると、大爆発が起こった。たまらず怪物は飛び上がった。


「おっし、成功!」

「……よし」


 少し離れた場所で、空ではワイバーンに乗ったソカワが、地上では地層竜に乗ったキリヤが力強く頷いた。

 ルトラは怪物を跳ね飛ばすと、体を起こし、炎を振り払った。そしてまだ足に絡む尾をつかむと、そのまま引きちぎった。怪物は苦しむ声を上げながら、ルトラに向けてめちゃくちゃに魔弾を乱射した。

 周囲にいた【流星の使徒】機動部隊員たちは当たらないように必死にかわした。


 しかし、ルトラは動じなかった。すぐに両手から光の球を出すと、連続して怪物の放つ魔弾にぶつけ、次々に打ち消していく。

 怪物は大きくのけぞり息を吸うと、一際大きな弾をルトラに向けて放った。ルトラはその場を動かず、両腕を前方に伸ばした。巨大な弾がそこにぶつかろうとした瞬間、鈍い音ともに弾はそのまま宙に浮かんだまま止まった。そして、そのままルトラが1歩踏み込むと、弾は押し返され、怪物に向かって飛んでいった。

 魔弾は怪物に当たり、火山が爆発したかのような爆発が起こった。怪物は大きく吹き飛ばされ、近くの山に激突した。

 それでも怪物は立ち上がり、ルトラを燃やそうと睨んだ。その瞬間だった。怪物の後頭部で何かが弾ける音がした。それと同時に怪物まるでしびれたような挙動を見せた。


「やった……! まだ試作段階だったけど、効果はあるっ!」


 イディはやや大型の射出装置を持ちながら喜んだ。

 その隙に、再びルトラは怪物に駆け寄ると、先ほどとは逆に今度は右手で怪物の頭を鷲掴みにし、左手で右手首をつかんで固定させた。すると、ルトラの右手が輝きだし、つかんだ所から猛烈な火花が飛び跳ね、次第にそこから黒い液体……以前、アグルドが出したものと同じ液体が滴り落ちてきた。

 ルトラは叫ぶ怪物の上下のあごをつかむと、力を込めて、怪物の口を開いたままにさせた。暴れる怪物を抑えながら、ルトラはどこかを見ていた。ルトラの視線の先に、包帯で頭や肩をぐるぐるにまいた、ドクマが大型の兵器を担いで立っていた。


「……ありがとう、よっ!!」


 ドクマは引き金を引いた。特大の火の玉は山なりに飛んでいき、怪物の大きく開けさせられた口の中に入っていき、それと同時にルトラは怪物を離した。爆音が怪物の喉元から聞こえてきたと同時に、怪物の口から、鼻から、目から黒い液体が噴出した。

 そして、ルトラは右腕から光の剣を伸ばすと、怪物に向けて振るった。

 怪物の首が、空高く飛んでいった。

 切断面から黒い液体を滝のように垂れ流しながら、怪物の体は崩れ落ちた。それと同時に首も地面に落下した。少し経って、怪物の体は消え去り、黒い液体は煙となって飛んでいった。

 怪物が消えるのを見届けると、ルトラは光となり、弾けて消えてしまった。



 戦いが終わり、地上では、アヌエル、ソカワ、イディ、そしてキリヤが集まっていた。


「また、彼に助けられましたね、副隊長」


 アヌエルがキリヤに話しかけた。


「……仕方あるまい、我々が力不足なのだ」

「それでも、やはり俺たちだけでやってしまいたかったがな」


 ソカワは溜息をついた。


「だとしたら、ルトラの力を研究しないと、一連の怪物たちに抵抗できるのはそれなんだから」

「イディ隊員、あの時撃った奴は効果あったろう?あれは量産できないのか?」

「すみません副隊長、あれは何100パターンも試して昨日やっと実用可能と判断して試作したもので、量産できるかはまだわかりません、それに、今後も効果があるかどうか……」

「それは残念だな……そうだ、ハイアット君を見なかったか?」


 キリヤの不意な質問に、隊員たちは面食らったような表情を見せた。


「いや、目を離したすきに飛び出して行ってな……無事だといいんだが」

「うおーい、みんなー!!」


 遠くからフィジーの声が聞こえた。キリヤ達がそちらの方に向くと、フィジーが誰かを担ぎながら飛んできていた。ハイアットだった。肌のあちこちでやけどしているのを見て取れた。


「フィジー隊員、彼をどこで見つけた」

「町の近くの並木道に転がっていたよ、そばに2輪車のまる焼けも見つかった、ま、無謀なことして失敗したんだろうね」

「はあ、まったくわけわかんねぇ奴だな」


 ソカワは呆れたように頭を掻いた。


「……アヌエル隊員、手当てを」

「はい、《慈愛の神よ、この小さき人に多大な愛を与えたまえ》……」


 アヌエルが手当てしている間、キリヤは訝しげにハイアットを見ていた。



「うーん、やっぱりルトラがどこから来るかわからないか」

「はい、すみません、まだ私が未熟で……うまく周りを見渡せるように式神を操れたら……」


 【流星の使徒】本部の作戦室内で、ムラーツとホシノは話していた。


「なあに、気にするな、機会はいくらでもあるさ、ルトラがこれからも現れるだろうしね」


 ムラーツは窓際まで行き、パイプを咥え、火をつけた。


「それは、アグルドや今回の怪物みたいなものが今後も出てくるということですか?」

「わからんが、可能性は大いに高いのは確かだな」


 ムラーツの答えに、ホシノは不安げな様子を見せた。ムラーツは笑いかけながら、小柄な彼女の頭に手を置いた


「心配か、確かにルトラがいなければ壊滅していたかもしれん、だが、今回はキリヤとソカワの働きとイディの新兵器が有効打となった、全く抵抗できないわけじゃない、進歩したら、我々の手で勝てるようになるさ」

「……ありがとうございます」


 ホシノの顔は赤く染まっていた。


「……それにしても、隊長、隊長はハイアットさんと、ルトラの間に何か関係があると思っているんですか?」

「少なくとも、私は全くの無関係ではないと思ってる、推測にすぎんけどね」


 ムラーツはホシノにかからないようにしながら、パイプの煙を吹いた。


「今回、キリヤからも報告があったように、彼はいきなりあの怪物の元に突っ込んでいったらしい、そしてルトラはその直後に現れた、彼の不可解な行動とルトラの出現には何らかの関連があるとみていいだろうね」

「今後も彼を観察するんですか? でも彼は一般人です、私たちが個人を監視し続けているとなると、彼にも、私たちにも余計な疑いが出る恐れがありませんか?」

「そうだねぇ、私だけじゃなく、彼を気にしてる人はギルド内に結構多いからなぁ」


 ムラーツは椅子にどっかと座ると。両腕を組んで天井を見上げた。しばらく、考え込んだ後、ムラーツはにやりと笑って、ホシノの方に向いた。


「……いい考えを思いついちゃった」



 「私」が目覚めたその時、「僕」は死んだ、……「邪」の尖兵の襲撃で。


 「僕」の魂はこの肉体から去り、代わりに「私」がこの肉体に入り込んだ。


 「僕」、ディン・ハイアットは「私」、ルトラが本来のディン・ハイアットの記憶を複写したものにすぎない。


 つまり、「私」、ルトラは「僕」、ディン・ハイアットの体と記憶を借りているのだ……不完全に目覚めた「私」がこの世にとどまるために、再び目覚めた「邪」と戦うために。




「……以上を持って、ディン・ハイアットを【流星の使徒】機動部隊の隊員に任命する」


 僕の目の前で、テイジフという人が証書を読み上げていた。


「この世界で生きる人々のために、全力で働いてくれることを期待しているぞ」

「……はい」


 一礼して証書を受け取ると、拍手の音が僕を包み込んだ。

 ルトラとして、ディン・ハイアットとして、私は、僕は、「邪」に立ち向かう。それが、私に神が与えた使命であり、僕の意思で決めた道なんだ。

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