76:オラッ出世だよ喜べソフィアちゃん!
「――ん~っ、いっぱい休んだおかげで身体がかる~い!」
シリウス領の草原をブラブラしながら、私はぐぐっと身体を伸ばした。
疲労で寝込んでしまってから三日後。ようやくシンくんから退院の許可が出たのだ。
といっても今日一日はまだ働いちゃダメって言われてるんだけどね~。ずっとベッドの中にいたんだから、散歩でもして身体をほぐしてこいとのことだ。
もう、すっかり元気になったっていうのに心配性だなーシンくんは。
……あのままハオ・シンランだったことを思い出さず、良い子に育てくれるといいんだけどねー。王様からも“これ以上ハオとしての記憶を取り戻すようなら、そちらで処分も考えたまえ”って手紙で仰せつかってるしさぁ。
正直この三日間、食事からお風呂まで付きっきりでお世話してもらった身としては複雑だ。
まぁ襲ってくるようならまた戦うしかないけど、復讐心を忘れてただの男の子になってしまった彼はすごく真面目で素直な子だから、出来ればこのまま穏便に済めばいいと思っている。
「はぁ、シンくんが煎じてくれた薬のおかげで倒れる前より逆に元気になっちゃったけど、アレって間違いなくシンラン公国秘伝の薬だよねぇ。絶対にあの子、順調に記憶を取り戻してるよ……」
寝る前にしてくれてたマッサージもこの国では馴染みのないものだったしね。
う~んはてさてどうしたものか。そう私が思い悩んでいた、その時。
「――うぉぉぉおおおおおおーーーーーーッ! ソフィアぁあああーーーーーーーっ! 元気になったのかーーーーッ!」
ズドドドドドドドッと土埃を立てながら、ウォルフくんがすごい速さで駆け込んできた!
滝のような涙を流すイヌ耳王子様。彼はダッシュしてきた勢いのままに私に抱きついてくる!
「わぁっ!? ちょっ、ウォルフくん!?」
「うぅぅううっ、ソフィア……ソフィア……! 元気になったみたいで本当によかったぜ……!
俺、ずっとお見舞いに行きたかったのに、あのシンって野郎が『お前は騒がしいから来るな』って偉そうに言ってきてよぉ……!」
でも医者の言うことは聞くものだってソフィアに教えられたからなぁと、ウォルフくんはイヌ耳をションボリさせながら呟いていた。
もう、本当に可愛いなぁこの子は……! 私は彼のボサボサした髪をワシャワシャと撫でつける。
「心配してくれてありがとうねウォルフくん。私はこの通り大丈夫だよっ!」
「おうっ、もう無理しないでくれよなぁソフィア! あ、そうだ。実はお前に一つ……いや二つ? プレゼントがあるんだよ」
そう言うと彼は、なにやら腰に差されていた二振りの長剣を手渡してきた。え、なにこれ?
刃の幅はずいぶんとあり、私が使っているレイピアもどきの双剣(※セール品)と比べたら三倍はありそうだ。纏われている鞘の上からでも重量感が伝わってくる。
かなり重いんだろうなぁと思いながら受け取ってみると――ってなにこれ軽いッ!? ほとんど鞘の重さしか感じないんだけどどういうことなの!?
「ウォルフくん、これは……?」
「へへへっ。実はお前が倒れていた三日間、もしもダンジョンからモンスターが飛び出してきて大騒ぎってことにはならないよう、冒険者連中を連れ回して徹底的にモンスターどもをぶっ殺しまくってたんだよ。ソフィアに会えなくてクッソイラついてたしな。
そんである時、いきなり現れたデカいドラゴンを殴り倒したらそいつの体内から変な結晶が出て来てよぉ」
ド、ドラゴンッ!? え、さらっとウォルフくん言ってるけどそれって世界最強クラスのモンスターじゃない!?
それを殴り殺すって……えええええええ、この子どんだけ強いわけ……? うわぁ、絶対に彼をイラつかせないようもっと構うことにしよっと。もはや戦闘力が異次元だ。
「そ、それで?」
「あぁ。ギルドの鑑定士曰くすっげー希少な結晶らしくてよ。『アダマンタイト魔晶石』とか言って、持ってるだけで魔力しょーひりょーが少なくなったりコントロールが上手くなったり、あと単純にすげー頑丈なのに軽いとか話してたな。それをドルチェのチビ助に頼んで剣にしてもらったんだよ! 頑張ってるお前にプレゼントするためになっ!」
ウォ、ウォルフくん……!
――って、アダマンタイト魔晶石ーーーーーーーーーーッ!? それってドラゴンの体内で極々低確率で生成される代物で、拳サイズの物でも数千万はするっていう全魔法使い憧れのレジェンドアイテムじゃんッ!?
それを丸ごと長剣にしちゃうなんて……ええええええええええ!?
「ちょ、ちょっとウォルフくん!? これだけのサイズの物なら、絶対に五億ゴールド以上はするよ!? せっかく国王様に借金を返すチャンスだったのに……!」
「ははっ、別に気にすんなっての。むしろそんなレアアイテムをジークフリートのアホ野郎に渡すだなんてもったいないだろ? 世界中探しても滅多にないモノだったら、世界で一番大切なお前に持っていてほしいだろうが」
あっけらかんと明るく笑うウォルフくん。何億もする価値のものをポンと人に渡しておいて、その笑顔には『惜しい事をした』とかそういう感情は一切なかった。
ああ、もう嫌というほどわかってしまう……この子は本気で私のことを想ってくれているのだと。
もうもうもうっ! 私みたいな打算まみれの元根暗女、ここまで愛してもらえる価値なんてないっていうのに……!
「……ありがとうねウォルフくん。これ、自分の命よりも大切にするから」
「馬鹿言え、お前の命のほうが大切だっつの。それよりも早く鞘から抜いてみてくれよっ! 俺、お前が剣を持ってる姿ってすげーカッコいいと思ってるからさ!」
少年のようなキラキラとした目をした彼にせかされ、私はさっそく二振りの刃を鞘から引き抜いた。
すると、
「っ、これって……!?」
その刀身を見た瞬間に驚いた。右の刃は燃えるような赫色をしていて、左の刃は透き通るような蒼色をしていたのだから。
どちらもちょうど、炎属性と水属性の魔力を持つ私にピッタリの色といった感じだ。
驚く私に、ウォルフくんが自慢げな顔で説明してくる。
「どーだよソフィア、ビックリしただろ? なんでもギルドの鑑定士曰く、アダマンタイト魔晶石にはそれぞれ相性がいい魔力属性があるらしいぜ? 雷の魔力と相性がいいヤツだったら紫だったり、風の魔力と相性がいいなら緑だとかわかりやすい感じになってるらしい。
そんで例のドラゴンから出てきた魔晶石は、実は二つあってよ。片方は炎の魔力と相性がいいヤツで、もう片方は水の魔力と相性がいいヤツが出やがったんだ。どうだソフィア、まさにお前にピッタリって感じだろ!?」
「えええええっ!?」
そ、そんな偶然ってあるのーーー!?
私がこの地の領主になってからすぐにダンジョンが現れちゃったことは不幸としか呼べないけど、でもそこで採れた希少なアイテムが私と相性抜群な代物だったって……ええ、なにそれ、そんな幸運が私なんかに起きていいのッ!?
いきなりの事態に戸惑う私だけど、とにかくこの剣はすごいと感じる。
握っているだけで全身を流れる魔力が冴えわたっていくのだ。今ならば炎と水の魔力を無理やり混ぜて爆発させる混合術式すらも安定して放てそうな気がする。
あ、そうだ。同じアダマンタイト同士なら相性もいいだろうし、この双剣を触媒に二つの魔力を混ぜ合わせたら、もしかしたら魔力同士が反発せずに完全に混ざりあうなんてことも――!
「へへっ、新しい剣に夢中になってるみたいだなぁソフィア。プレゼントした甲斐があったぜ」
「あっ、ご、ごめんねウォルフくん! 私ってば考え込んじゃって……!」
「いいってことよ、そんだけ気に入ってくれたってことだろ? んじゃあさっそく、ダンジョンまで試し斬りにいこうぜー!」
「えー!?」
いやいやいや、あのダンジョンって試し斬りとかで踏み込めるほど簡単な場所じゃないと思うんですけどー!?
私のことをすっごく想ってくれてるウォルフくんだけど、自分と同じくらい強いと思うのはやめてほしい。
いやホント、無限大に成長期の彼と違って私の才能はもう枯れてるから。幼少期の頃に限界まで育ち切っちゃってるんだからぁ……!
よーし、いい加減にそう言ってあげることにしよう。
そうして私の手をひっぱってくるウォルフくんに対し、口を開こうとした――その時、
「――たっ、大変だソフィア姫ッ! 第三王子と王家の執事さんが、大怪我を負いながらここに駆け込んできたぞッ!」
息を切らしながらギルド職員のレイジさんが走ってきた。
って、えええええっ!? それってヴィンセントくんとウェイバーさんのことだよね!? 大怪我を負ってるってどういうこと!?
「い、一体どういうことなんですかレイジさん!?」
「はぁ、はぁ……いや、すまないがオレにも詳しいことはわからない。彼らはここに辿り着いてからすぐに気絶してしまったからね。
だが意識を手放す直前、執事さんのほうがキミにこう伝えてくれと言っていたよ」
“王都にて反逆が起きました。『第一王子・ニーベルング』が、アナタのことを女王とすべく暴走を繰り広げています”――と。
って……えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーなにそれどういうことぉおおおおーーーーーッ!?
ていうかニーベルングって、誰なのよぉーーーーッ!?
【悲報】厄介オタク、スパチャで王位をプレゼント。
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