65:降臨の救世主(必死)
『グガァアアアーーーーーッ!』
ひっ、ひえええええええーーーーーーーーーーーッ!?
街の中心部までたどり着いた瞬間、私は心の中で絶叫を上げた。
だってアレおかしいでしょっ!? アリの巣みたいに広場に空いた『ダンジョン』の穴から、上級モンスター『タイタン』の群れがわんさか飛び出してきてるんですけどっ!?
よわよわだった前世だったら見ただけで失神してたくらいにタイタンはやばいモンスターだ。
五メートルから十メートルもの人間を遥かに超える巨体に、そこから繰り出される圧倒的なパワー。まともに一撃受けたらどんな冒険者だろうがペチャンコだ。
幸い、ごく一地域の上級ダンジョンにしか現れないとされているが……はぁ、そんなバケモノたちがなんで私の領地に湧き出してるわけぇ!?
『コロス、コロスゥウウ……!』
『ニンゲンコロス……!』
嘆いている間にもポコポコ出てくるタイタンたち。
筋肉ムキムキクソデカ巨人が何体も揃っている姿を見て、私は確信した。『あ、これもう無理だわ』と。
――だってあんなの全滅させられるわけないじゃんッ!? 一体や二体だって苦戦するだろうに、なんか十体以上湧き出してるんですけどッ!?
はい、というわけですぐ逃げよう! 今すぐ逃げようッ! 悲しいことにトラブルに巻き込まれすぎてバトル慣れしちゃった私でも、あれは流石にやばいって!
領地のピンチに領主が逃亡ダッシュなんてしたら重罪ものだけど、あんなのに挑んで死ぬよりマシだよっ! 二度もモンスターに殺されるなんて嫌だーーーーーっ!
そうして背を向けて駆けだそうとした時だった。
獣人族のまとめ役であるガンツさんが、何人もの老人や子供を引き連れてこちらに走ってきたのだ。
「おぉ領主殿っ、救援に来てくれたか! 信じていたぞ!」
え、いや、確かに最初はそのつもりでしたけど、あのねっ!?
「安心されよ、非戦闘員たちはこうして私がまとめてきたッ! ……だがその代わりに、ウォルフ王子がタイタンどもを足止めしているのだ。
そのように危険な役目、このガンツが引き受けますぞと進言したのだが……王子から『お前よりも強い俺が足止め役をしたほうが一人でも助かる可能性が上がるだろうが』と言われてしまってな……」
悔しげに肩を落とすガンツさん。まぁ、立場的には臣下なのに王子様を差し置いてくることになったわけだからね。きっと断腸の思いで戦場から背を向けてきたのだろう。……私は全力で回れ右しようとしてたけど。
ていうか――えぇえええ、ウォルフくんあいつらに立ち向かってるの!?
ま、まずいまずいまずいまずい! おそらく次にガンツさんはこう言うはずだ……!
「――頼む領主殿、私の代わりにウォルフ王子を援護してくれッ! あのバケモノどもの相手を出来るのは、王子とアナタしかいないッ!」
うぎゃーーーーーーーッ!? やっぱり頼んできたーーーーっ!?
いやいやいやいや嫌なんですけどッ! みんなで仲良く逃げたいんですけどっ!
……そんな私の想いをぶっ壊すように、街路を抜けたほうから凄まじい激突音が響いてきた。
十中八九、ウォルフくんが例の強化系魔法を使ってタイタンとガチンコ勝負をしているのだろう。
う、うわぁ~……そんなんもう逃げられないじゃんッ! ここで逃げたら良心が痛みまくる上、全ての獣人族から『王子を見殺しにしたガチクズ女』として永遠に恨まれること不可避だよッ!
――かくして、私の進退は完全に決まってしまったのだった。
あ……ああああああああああああもうっ! こうなったら覚悟を決めてやるッ!
私はガッツリとガンツさんの手を握り、彼の背後にいる戦えない亜人種たちに見せつけるように言い放つ。
「任せて、ガンツさん。ウォルフくんの仲間として……そして何よりアナタたちの領主として、みんなの背中は守り抜いて見せるわッ!」
「おっ、おぉおおおッ、領主殿……ッ!」
感動の声を上げるガンツさん。さらに他のみんなも尊敬の目で私を見ていることに満足すると、そのまま一気に駆け出した。
あぁそうだ――こうなったらもうこの状況を全力で利用してやるッ! みんなの好感度を稼ぎまくって、絶対に反逆されないようにしてやる!!
そんな汚すぎる決意と共に、私は両足に炎と水の魔力を注ぎ込んだ――!
「混合術式発動、『ハイドロバースト・フレアボム』!」
次の瞬間、轟音と共に足元で水蒸気爆発が発生する。その爆風に乗って私は一瞬で空を翔け、タイタンどもの頭上を取った。
上から街を見渡してみれば、血塗れになりながらも二体の巨人を相手にしているウォルフくんと、タイタンに睨まれてパニック状態になっている謎の集団が。
「ああ、そういえばなぜか貧民の人たちがこの街に押しかけて来てたんだっけ」
上級モンスター大量発生の衝撃ですっかり忘れていた。うん、ちょうどいい。あの人たちも助けてあげれば少しは大人しくなるだろう。
さぁ、思い立ったらあとは気合で実行するだけだ。私は双剣を鞘から抜くと、水蒸気爆発によって一気に急降下! そのままウォルフくんと戦っていたタイタンの頭に剣をぶっ刺す!
『ゴガァアアアアアアアッ!?』
頭蓋骨をブチ抜かれて絶叫を上げるタイタン。死力を振り絞って私を振り払おうとするが、無駄だ。
「属性付与魔法発動、『エンチャント・ファイヤ』」
そして燃え盛る双剣の刃。それはタイタンの脳細胞を一気に蒸発させ、完全に息の根を止めるのだった。
……さて、こうして一体ぶっ殺している間に、二体目がめちゃくちゃ怒った表情で拳を振り上げているわけだけど……、
「――させるかよぉッ! 忠犬パァーーーーンチッ!」
『グゴォォオオッ!?』
漆黒の魔力を纏ったウォルフくんのアッパーが見事に炸裂。巨人の太い首からゴキリッッッ! というすさまじい轟音が鳴り、二体目も仲良く死亡するのだった。本当にすごいパワーだなぁ。
タイタンの巨体が倒れ伏すや、ウォルフくんは私に向かってまっしぐらに駆けてきた。
「ソフィア、来てくれたんだなっ! お前だったら駆けつけてくれると信じてたぜっ!」
などと言いながら信頼の眼差しで私を見つめるウォルフくん。
うぐぐぐっ、お願いだからそういうこと言うのやめてーーー! 私、逃げる気マンマンだったからッ!
――などと言うわけにもいかず、私は綺麗な微笑を浮かべて彼に応える。
「そんなの当たり前じゃない。さぁウォルフくん、私と一緒にこの地の平和を取り戻しましょう!」
「おうよッ!」
キラッキラした目で私を見てくるウォルフくんと共に、タイタンの群れに向かって駆け出した!
こちらが狙うは一撃必殺。水蒸気爆発による飛行によって心臓や首に斬りかかり、たとえ討ち漏らしてもウォルフくんが瞬時に超パワーの一撃を叩きこむ二段構えで攻めていく。
そうして一気にタイタンに殺されそうになっている貧民の集団の頭上までたどり着いた。
さぁアナタたち見てなさい! 怖くて怖くて仕方ないのにこうしてガチバトルすることになっちゃったんだから、せめて私の勇姿を見てせいぜい尊敬しまくりなさいッ!!!
そんな薄汚い思惑を胸に、
「――もう大丈夫よ、私が来たわ」
急降下した私は、彼らに見せつけるようにしてタイタンを一撃で仕留めたのだった。
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