50:次なる目標へ
「領主殿もわかってるだろうが、コイツは賢そうな見た目してかなりのアホだぞ。族長のくせしてすぐにテンパる」
「んなっ!? アホとはなんですかガンツッ! アナタもデカい図体をしてナイーブなくせにっ! 酒が回るとすぐに愚痴るじゃないですか、少年エルフたちに怯えられていて傷付くって!」
「なっ、貴様!? 酒の席での戯言を領主殿に教えるな!」
ギャーギャーと争い合うシルフィードさんとガンツさん。
仲が悪いとされるエルフ族と獣人族だが、さすがに族長同士では連絡を取り合っているようだ。お互いに遠慮なく罵り合っているあたり、言い争うことにも慣れているんだろう。仲がいいようで何よりだ。
「もう、二人ともそこまで。……というわけでシルフィードさん、私はガンツさんたちにさらわれたわけじゃなくて、自分の意志で彼の屋敷に来ただけだから。心配してくれてありがとうね?」
「むっ……まぁヒト族とは言え、信じてみようと思った方ですからね。それになによりソフィア殿は女性だ。野獣の巣に飛び込むような真似はよしておいたほうがいい」
「おいシルフィード、誰が野獣だッ! そこらのケモノと誇り高い獣人族を一緒にするな!」
皮肉っぽいエルフ族の長の言葉にガンツさんが再び怒鳴る。
まさに犬猿の仲ってやつなんだろう。なんだかウェイバーさんとウォルフくんのやりとりを見ているみたいで懐かしいや。
さて、ひとまずこれでエルフ族と獣人族の人たちとは最低限の絆を紡げたのかな。寝込みを襲われる心配が減ってよかったよかった。
私はほっと胸を撫でおろしながら族長たちに訊ねる。
「二人に聞きたいんだけど、あとはどんな種族がこの『シリウス』の街に集められてるの? 国王のジークフリート曰く、『兵士たちに命じて大陸中から適当に集めまくったから、よくわからない亜人種が混じってるかもしれない』って言ってたけど」
「て、適当に集めるだけ集めてソフィア殿に管理を一任したんですか。相変わらずあの男は暴君ですねぇ……。
わたくしの知る限り、あとはドワーフ族がいましたね。手を動かさないと落ち着かないという妙な性質の持ち主たちで、奥屋に篭って一日中何かを作ってますよ。ねぇガンツ」
「ああ。他にも川の中に住んでいる魚っぽい連中や羽と尻尾が生えた変なヤツがいるが、そういうのは極々少数だ。
このシリウスを占めているのは、エルフと獣人とドワーフが主だろう」
なるほどなるほど、じゃあ後はドワーフの人たちと話を付ければひとまず安心ってことね。
それにしても色んなタイプがあるんだなぁ、亜人種って。ごく一部の地域でしか生まれない少数民族っていうのが大陸中にチラホラとあるらしいしね。出来ればみんな、平和的な性質をしていることを祈ろう。
「じゃあさっそくドワーフの人たちのところにいこうかな。出来る限り早く仲良くなりたいしね。いこう、ウォルフくん」
「おうよ!」
獣人族のちっちゃい子たちと遊んでいたウォルフくんに声をかける。
王子様なのに肩車なんかして喜ばせているあたり、本当にウォルフくんは良い意味で気安い。ときおり愛が重いけど、やっぱりウォルフくんは私の心の癒しだよ……!
そうして獣人族の屋敷を後にしようとした時だ。
シルフィードさんとガンツさんが、神妙な顔で私に問うてきた。
「ソフィア殿……聞けばガンツと戦闘行為があったというのに、今からすぐにドワーフのところに向かうのですか? ひとまず今日は休まれては」
「うむ……勘違いから襲ってしまった自分が言うのもなんだが、そう焦ることもないのではないか? 疲れているところにまた一騒動あったら大変だろう」
っていやいやいや、何言ってるのかな二人とも?
私以外は全員亜人種で、その全員がセイファート王国に故郷を焼かれて、王国民を恨んでいても仕方がない人たちなんだよ? こんな状況じゃおちおち寝てもいられないよ。心から信頼できるのは(あんまり頭脳面での活躍は出来ない)ウォルフくん一人って、ぶっちゃけかなりの地獄だし。私はめちゃんこビビりなんだよぅ。
だから私は正直に答える。
「どうして急ぐのかって、そんなの決まっているでしょう? (自分の)平和のためだよ。そのために、私は頑張るって決めたんだから」
そう言うと、シルフィードさんとガンツさんは「平和のために……なるほど」と納得がいったように頷いてくれたのだった。
ふふふ、私の臆病者っぷりが分かってくれたみたいで何よりだよ。……ごめんねぇ、こんなに情けない領主様で……!
たぶん二人も呆れてるだろうなぁと、私は内心ちょっぴりへこむのだった。
↓ブクマにご感想お待ちしてます!




