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48/88

48:(よく考えたら)戦闘経験約20年、ソフィアちゃん!

・この子、前世含めて戦闘経験20年+死亡経験ありのプロ戦士なんすよ……!



 特区『シリウス』の領主となってから二日目。

 エルフの人たちからある程度の信頼を得た私は、ウォルフくんと一緒に獣人族の人たちに接触することにした。

 というわけで作り立ての石造りの街をあちこち探し回ってるわけだけど……、


「いないねーウォルフくん。獣人国の王子様がここにいるっていうのに」


「ああ、獣人族を纏めているっていう『ガンツ』のヤツなら顔見知りだからな。もしも会えたら俺から話を通してやれるんだが……」


 黒髪をボリボリと掻くウォルフくん。どこを探しても全然出てこないせいで私も溜め息を吐いてしまった。

 そんな状況に疲れ切っていた時だ。ふとウォルフくんが「いいことを思いついた!」と言うと、いきなり一軒家の屋根に上って……、


「――オォオオオオオオオオオオイッ! ビビってんじゃねぇぞ獣人族どもーッ! ヒト族が来たからって引きこもりを決めるとか、お前らすっかり負け犬になっちまったなァーーーーーーッ!」


 って、んあああッ!?


「なっ、何言ってるのウォルフくん!? そんなこと言ったら失礼でしょ!?」


「何言ってんだ、領主であるお前がわざわざ探し回ってる状況のほうが失礼だろうが。普通だったら向こうから顔を合わせに来るのがスジってもんだろう?」


「い、いや、そうだけど……!」


「だったらこれでいいんだよ! ほらソフィア、ふかふかで甘々な胸をドーンと張って、リーダーらしく構えてろって。そのうち飛び出してくるはずだぜ?」


 などとシレっとセクハラじみたことを言いつつ、腕を組んでワッハッハと笑うウォルフくん。

 相変わらず彼は今日も恐いもの知らずだ。私なんて恨みからの暗殺が怖くて、獣人族の人たちと一刻も早く仲良くなりたいと思ってるのに。ホント、媚びでも何でも売りまくるから平穏な生活を送れるようにしてほしい。

 

 そうして内心ビクビクしながら待つこと数分。ふいにあちこちの物陰から、イヌ耳を尖らせた人たちが姿を現した。


「聞こえたぞ。我らのことを、負け犬と言ったな」

「貴様、ヒト族に首輪をかけられている分際で……!」

「族長の命令で様子を伺っていれば調子に乗りやがって。同胞とはいえ容赦しねぇッ!」


 怒りで目を血走らせ、爪や牙を尖らせる獣人族の皆さん。

 って、やっぱりめちゃくちゃ怒ってるよーーーーーー!? あとウォルフくんのことも王子様だと気付いてないっぽいし……!

 まぁ彼が王国に拉致されたのは五歳くらいの時だっていうからしょうがないか。でも、そうなるとどうやってこの状況を収めれば……。

 そう私が思い悩んでいた時だ。ウォルフくんが私の前に堂々と立ち、獣人族の人たちに向かって挑発的な笑みを浮かべた。


「なんだぁお前ら? 囲ってワンワン吼えることしか出来ねーのか?」


「なんだと貴様ぁ!?」


「オラこいよッ! 誇り高い獣人族だったら、拳で決着つけてみやがれーーーッ!」


 その一声がきっかけとなり、ついに獣人族の人たちがキレた!

 彼らは唸り声をあげながら、一斉にウォルフくんに向かって飛び掛かっていく――!

 だが、


「王子パァンチッ! 王子キーーーック!」


「ぐああああああああああッ!?」


 ……勝負はまさしく一瞬だった。ウォルフくんは身体能力を強化する漆黒の魔力を纏うと、一瞬にして何人もいた獣人族たちを吹き飛ばしたのだ。

 もはや彼の戦闘力は出会った頃の比ではない。冒険者として実戦経験を積み、ハオ・シンランとの死闘を経たことで魔力にも目覚めたことで、かつてとは比べ物にならないほどの実力者となっていた。

 対する私は……う~ん、あそこまでは成長してない気がする。こればっかりは才能だよねぇ……。


 ハァ、まぁ落ち込んでいてもしょうがない。私は民家に激突して苦しそうにしている獣人族の一人に駆け寄り、手当を行うことにする。


「大丈夫? 骨は折れたりしてない?」


「なんだ貴様ッ!? ヒト族が近づくなッ!」


「そういうわけにもいかないでしょう? 私はこの地の領主なんだから。どれだけ領民に嫌われていようが、健康を守る義務があるの」


「ふっ、ふざけるなヒト族のメスがー!」


 ギャアギャア騒ぎながら罵倒やらまでしてくるが無視だ無視。グレイシア領の裏山でバトルしたりたまに食料にしたりした長年の親友たち、狼の群れと同じようなもんだと思い込む。

 獣人族から嫌われるのはわかってるけど、だからって接触を避けて放置なんてしたら『やはりヒト族の領主は冷酷だ。怪我人に何もせず立ち去った』と悪評を立てられることだろう。そっちのほうが面倒くさい。だったらいらないおせっかいを焼いてあげたほうがまだいいだろう。


「このぉ! 死ねーッ!」


「はーい落ち着いてー」


 自家製の回復薬をハンカチにつけて、あちこちに出来た擦り傷に当てていく。そのたびに獣人族は過敏に反応し、全力で私に顔面パンチを放ってくる。

 獣人族の身体能力はものすごいからね。まともに当たったら首の骨が折れて死ぬだろうけど、まぁ当たったら死ぬ攻撃なんていつものことだ。

 音速でぶっ刺そうとしてきたヴィンセントくんや八本の触手で逃げ場なく殺そうとしてきたハオに比べたら甘いので、すいすいと避けて治療を続ける。

 そうしていると、やがて獣人族は顔を青くして大人しくなっていった。他の者たちも同じくだ。


「なっ……何なんだよ、アンタ。それにアンタが飼い犬にしているあっちの獣人族も……」


「飼い犬じゃなくてウォルフくんは仲間だよ」


「ウォルフ? ……って、それって王国にさらわれた王子の名前じゃッ!?」


 彼が驚愕の声を上げた時だった。何かが頭上より『死の気配』を感じたので立ち退くと、次の瞬間には私が立っていたところに大剣が突き刺さっていた。


「むッ、音もなく放った我が一撃を避けただと……!?」


 それに遅れて降りてくる巨漢の男。もう筋肉で全身パッツンパッツンだ。頭にちょこんと生えているイヌ耳がまったく目立たない。

 彼はうっすらと頬に汗を浮かべながら、私のことを睨み付ける。


「何なんだ、貴様は……!」


「私はソフィア・グレイシア。この地の領主に任命された者よ」


「いやッ、名前や役職を聞いてるわけでは……えぇい、まぁいい! それよりも貴様、我が同胞を壁際に追い詰めて何をしようとしておった!? このガンツ、族長として同胞への暴虐を見過ごすわけにはいかんッ!」


 大剣を引き抜いて私に切っ先を向けてくる。なるほど、この人が族長のガンツさんか~。

 ……って、なんか私疑われてるッ!? ただ治療してあげてただけなのに!? そんな~~~……!


「待ってガンツさん、私はただ治療してあげてただけで……」


「えぇい、問答無用ーーーーっ!」


 そう叫びながら斬りかかってくるガンツさん。ってもちゃんと問答しようよ!? 誤解が解けないまま襲われるとか冗談じゃないんですけど!?

 あーもうっ、怖いけどこうなったらやってやるー!


 私は水魔法を足元から噴射することで一瞬で彼の懐へと接近。そうしてその胸元に手を当て、火と水の魔力を融合させる。


「なっ!?」


「吹き飛びなさい。混合術式『ハイドロバースト・フレアボム』」


 次の瞬間、超小規模の水蒸気爆発による波動が炸裂した。ガンツさんの巨体は弾かれたように吹き飛んでいき、何十メートルも地をバウンドしながら転がっていったのだった。


「ふぅ……」


 どうにか危機を退けたことで、私はホッと胸を撫でおろした。

 ちゃんと手加減はしたからガンツさんも死んではいないだろう。まぁ気絶くらいはしてるだろうけど、それで気分が落ち着いてくれれば何よりだ。

 私は周囲にいた獣人族の人たちに向かい、出来る限りの優しい笑顔で微笑みかける。


「さぁみんな、悲しい戦いはもうお終い。ガンツさんが目を覚ましたら、一度ご飯でも食べながら話し合いましょう?」


 そう言うと、獣人族の人たちはコクコクコクと首を猛烈に振って頷いてくれたのだった。

 どうにか平和に向かいそうだねっ! あ~怖かった~と。




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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 足の裏から風魔法出せば、ド○の様な「ホバー走行」が可能に成るだろう。
[良い点] ソフィアちゃん獣人族から見たら 『消えた獣人族の王子を従者みたいに連れ歩き、殴ろうとしても表情一つ変えずにスイスイ避けながら、なんかよく分からない液体染み込ませたハンカチで傷口をペタペタし…
[一言] 水魔法で水素発生させられるとかすごいな。 というかソフィア、水素の存在知ってるのな。
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