41:王様に媚びよう!!!
――彼が、この国の支配者……ジークフリート国王陛下……!
悠々と歩み寄ってくる王を前に、私は硬直するしかなかった。
第三王子であるヴィンセントくんなどとはオーラが違う。近づいてくるごとに息が詰まり、彼から視線が逸らせなくなっていく……!
そして、ついに私の目の前にまで来ると――!
「ああ……聞いていた以上に麗しいな、君は……! その顔をもっと私によく見せてくれ……!」
彼は指先で私の顎を持ち上げ、唇が触れ合いそうなほどにまで顔を近づけてきたのだった!
って近い近い近い近い近い近い近い近いッ!? 意味わからんほど綺麗な顔がすっっっっごい目の前にまで来てるんですけどぉおおおッ!?
うわすごっ、瞳まで金色だしどうなってんのこの人……!? ていうかまだまだ近づいて……あっやばっ、唇当たっちゃう唇当たっちゃう~~~~!?
身じろぎしようにも、王様の手は私の腰やお尻にガッツリ回されていて動けない!
いやこれ本当にどうしようかと思った――その時、
「やめろクソ野郎ッ! 俺の女に手を出すなッ!」
ウォルフくんが私の腕を掴み、無理やり胸の中へと引き寄せた!
「……大丈夫か、ソフィア?」
「う、うん……!」
ふわぁ、助かった~……! 本当にありがとうねウォルフくん!
……でも流石に、王様に向かってクソ野郎はマズイと思うよッ!?
当然ながら、そんなことを言ったら……、
「なっ……なんだぁ貴様ー!? 国王陛下に向かってなんて口をッ!」
「獣人風情は黙っていろー!」
口汚く喚きだす他の貴族たち。ウォルフくんが私を助け出してくれたような状況とはいえ、こうなるのも当然だ。
何故ならここは王城。そこで開かれている舞踏会の場なのだから、集まっているのは大臣など国王の第一臣下の人たちばかりだ。忠誠心も相当なものだろう。
「貴様、国王陛下に拾われたという『狂犬ウォルフ』だな!? 恩知らずの薄汚い異種族め……いよいよ追い出されたと聞いたが、まだ王城内をうろついていたか!
そもそも誰なのだ!? 貴様のようなものをこの場に連れてきた愚か者は!?」
華やかな舞踏会場に、悪意に満ちた声が溢れかえっていく。
しかしその時――不意にジークフリート国王陛下が指を鳴らした。
するとウォルフくんのことを『薄汚い異種族』と呼んでいた貴族が、見えない手に圧し潰されるかのように床に叩きつけられたのだった……!
「ぐぎゃぎぃいいいいいいいッ!? な、なに、が……ッ!?」
「――黙りたまえ」
絶叫を上げる男に対し、王は静かに口を開いた。
「彼を舞踏会に招待したのはこの私自身だ。……すまなかったね。どうやら君の主君は『愚か者』らしい」
「なっ、ななっ、め、滅相もございませんッ! 先ほどのはそのっ、言葉の綾でッ!?」
「いや結構。合わない上司の下で働くのは相当なストレスだろう。――君は今日限りでクビだ。貴族の地位と領地の全てを没収させてもらおうか」
「そ、そんなぁああぁあああッ!?」
……絶望の叫びを上げる貴族の男。
その光景を前に、誰もが黙り込むしかなかった。ウォルフくんを糾弾していた者たちは全員冷や汗をかきながら口を閉ざし、舞踏会場は静寂に包まれていくのだった。
……ってこッッッッわ!? この場に呼ばれてるってことは相当な地位の人間であるはずなのに、一言言葉をミスっただけでクビとか溜まったもんじゃないよ……!
うわぁ~、私も失礼がないよう気を付けよ……ッ! もしも貴族の地位を剥奪されたら、貧乏令嬢からただの貧乏になっちゃうし!!!
よ~しこれまでどうにか上手く(上手く?)やってきた私の底力を見せてやるッ! 絶対にクビにはならないぞーッ!
そう覚悟を決めた時だ。荒れていた部下たちを(力づくで)黙らせた国王陛下は、朗らかな笑みを私に向けてきた。
「……いやすまない、見苦しいところ見せてしまったね。先ほども失礼なことをしてしまったよ。
ソフィアくん、君があまりにも麗しかったから、つい……ね」
「……いえ、お戯れだとわかっていましたから。それに私も陛下の綺麗なお顔をたっぷりと見れて、満足でした」
そう言い放つと、再び他の貴族たちがざわつきだす。まぁ最高権力者に向かって軽口じみたことを言ったのだから当然だろう。
――しかし、とうの国王陛下は笑みをさらに深くして、愉快げに私の肩を叩くのだった。
「はっ……はははははっ! いやはや、お褒めに与かり恐悦至極というべきか!? 君は本当に肝が据わってるなぁ!
いやぁ素晴らしい……。実に面白いぞ、ソフィアくん……!」
よっしゃぁあああああああああッ! 好印象ゲットだぜぇええええええ! オラァ見たか貴族どもーッ!
事前の話で、とにかくジークフリート様は面白いモノ好きの変人って聞いてたからね。だったらかたっ苦しい態度は逆効果だと思っていたのだ!
それに……なんたって私は、商業都市を救った『英雄』としてこの場に呼ばれてるんだからね! だったら多少は無礼講だッ! ガンガンいって好印象を勝ち取れッ! 陛下のお気に入りになってみせるのだッ! そしたら大金がもらえるかもしれないしね~! うふふふふふ!!!
・次回、調子こいたソフィアちゃんが泣かされます。
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