第2章 熱砂の要塞 Act4 再臨 Part4
「あんのバカ・・・一人でカタをつける気ね」
チアキの魂を守護する娘が愚痴った。
「このままチアキを守っていては間に合わなくなるわね・・・どうしよう?」
チアキの背後に佇む守護天使となっているミハエルは、思わず爪を噛んで考えてしまう。
「今の作戦では、どうせミハルが戻って来ないと始まらない訳だし・・・
チアキを放っておいても、今なら大丈夫そうだから」
ミハエルは決めた。
「よしっ、こうなったら一時守護天使の役を放棄して・・・・
か・・・神様にしかられるけど・・・。ミハルを監視してやるっ!」
ニマリと笑う妖しい瞳で、ミハエルは言った。
「あのバカ娘を暴走から食い止める・・・立派な仕事よ・・・うん。
これなら言い訳が出来そう・・・かな?」
既に天使というより、人に近い感覚がミハエルにはあった。
ミハルの中で覚醒するまでに培われた人の感情が・・・。
「そうと決めたら・・・行くっきゃないわねぇ」
悪戯っ娘の様に瞳を輝かせたミハエルは、チアキの傍から離れて行った。
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「何処の誰が、我の領域に侵入してきたのだ!」
怒る<闇騎士>リンが、クワイガンに詰め寄る。
「知らぬ。
魔王イブリスよ・・・我が契約者の知らぬ事を我が知るはずも無かろうが」
素知らぬ顔をしたクワイガンが、リンの中に宿る魔王に答えた。
「知らぬだと?
では、誰が勝手に手を出しているというのだ?
王女ラルの魂は我等が手中にあった・・・それを何処の誰が勝手に使ったというのだ!」
怒る魔王イブリスが、真総統クワイガンに詰め寄る。
「悪魔の中での話しなぞ、この真総統の知る由もなかろうが。
そなたの下僕が、勝手に動いたのではないのか?」
冷めた眼で魔王に答えるクワイガンに、魔王イブリスは怒りの矛先を配下に向けた。
「そなたらの中に、我に背く者がいるのか?答えよ!」
闇の中へ吐き捨てる様に命じる。
「吾等は魔王に背くものではありません。
吾等は強き者の下僕なり。しかし、イブリス様の他にも強き方は存在します。
魔王の力を持つ者に、吾等は背く事など出来ないのですから・・・」
ある悪魔が答える。
「西の魔王イブリス様以外にも魔王は居られるのです。お忘れですか」
その一言に魔王が眼を剥いて怒鳴る。
「貴様等!その者の名を示せ。
我の領域に土足で踏み入った、愚か者の名を!」
魔王イブリスの怒りに恐れを抱いた悪魔が暗闇の中、その者の名を黒き霧で示した。
その名を・・・怖れる者の名を。
<ル シ ファ ->
「なんだと?」
魔王イブリスは、その名に目を剥いた。
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「なんだって・・・言うのですか、ミハエルさん」
ミハルがため息を吐いて振り向く。
そこにはニコッと笑っている天使の姿があった。
「ミハるぅ・・・何か隠しているでしょ?その顔は」
悪戯っぽく笑うミハエルが、
「だって、そんなに嫌そうな顔してるもの」
ミハルの顔をちょんと指差す。
「・・・。元々こんな顔です」
ジト目で見返したミハルが言い返す。
「で・・・ミハル。何をしに行くのかなぁ?どこに行くのかなぁ?」
ミハルに廻り込んで、ミハエルが尋ねる。
「正体を暴きに行くんですよ。悪魔の主人の・・・」
ミハルは遇えてミハエルに教えなかった。
ルシファーを観た事を。
「ふぅん・・・イブリスじゃないの?別の魔王なんだ?」
- びくりっ ー
感が良いミハエルに、身体が固まるミハル。
「な・・・何を?魔王だなんて言ってませんよ!」
慌てて言い返した。
「ほほぅ・・・図星だったか。
だとしたら南の魔王?それとも・・・」
じぃっと見詰められたミハルが、益々焦り、
「だっだから!
魔王だなんて言ってませんからっ!
魔王の姿に化けている者の正体を調べて、倒すだけだからっ!」
言ってはいけないドジを踏んだ。
「化けている?誰に?
魔王の姿に化けれるなんて、魔王クラスしか居ないじゃない。
それにミハルがわざわざその正体を暴きに行く者って・・・まさか!」
そして・・・バレた。
「あ・・・あああっ。
私って神の力を授かっても・・・やっぱり、ドジっ娘なのね・・・」
シクシク泣いて、天を仰ぐ<損な娘>ミハル。
「ミハルっ!ルシファーを見たのねっ!
私のルシファーの姿を観たんだね!」
ミハエルはミハルの肩を掴んで思いっきり揺さ振って訊く。
「あああ~っ、やっ、やめてぇっミハエルさ~んっ落ち着いてよぉっ!」
揺さ振られ続けるミハルが止めて、
「姿を見ただけで・・・ルシファーとは限らないんだからっ。
それに邪な者の主人として写ったんだからっ。
本当のルシファーとは、限らないよ!」
ミハエルに教えた。
「なっ!?邪な者の主人ですって?
ではルシファーはまた、闇の主人と化してしまっているの?」
驚きの瞳でミハルを見詰めるミハエルは、
「そんな・・・でも、もしルシファーが再び魔王として闇に君臨してしまったのなら。
停めなくっちゃ・・・」
拳を握り締めて、ミハルに話す。
「でも。まだ本当のルシファーだとは限らないから・・・」
ミハエルの先走りを制して、苦笑いを浮かべるミハルが、
「知られてしまったらしょうがないね。
私の元の人も行く・・・よね。・・・やっぱり」
ミハエルに訊いた。
「当たり前よ」
歩き出したミハルを追って、ミハエルも歩き始めた。
「・・・あ~あ。こりゃ・・・もめそうだなぁ」
ミハルの胸で白獅子グランの魔法石が、誰にも聞こえない位小さな声で呟いた。
ミハルとミハエルは闇の中へと向かう。
危険をともなう事と知りながらも。
そして・・・その時が訪れようとしているのだった。
一方、オスマンから遠く離れた始りの地でも真実を求める者がいた。
遠く離れた二人の身に襲い掛かる運命とは?
やがて闇に呑み込まれ様としているのか・・・2人の物語は・・・
次回 奈落 Part1
君は真実を求めた・・・そう。それが自らの破滅への道だとは知らずに・・・




