第2章 熱砂の要塞 Act3請う者乞われる者 Part3
「間も無く、花火が上がるね」
一人ポツンとベランダに居たチアキの背後からシャルが声を掛けて来た。
「うん・・・そうだねシャル」
振り返って答えたチアキが何を考えているというのか、
浮かない顔をしているのに気付き、
「ミハル中尉の事?それともこれからの事?」
一緒に並んで夜空を見上げた。
「うん・・・昨日からずっと考えていたんだ。
私ってやっぱり半人前・・・いいえ、駄目な魔法使いなんだなあって・・・想って」
胸の魔法石に手を当てて、シャルに応えるチアキ。
「どう駄目だと言うのチアキ。
ボクは立派だと思っているよチアキの事」
<ヒュルルル・・・・ポン>
二人の前で花火が始まった。
夜空に上がる花火の灯かりが2人を彩る。
「ありがとうシャル。
でも・・・でも私はシャルを護れなかった・・・一人では。
私ではシャルを護れない事が解ったんだ。
どんなに頑張っても・・・あの時、もしミハル中尉が助けてくれなかったら。
2人共<闇騎士>の手で殺されてしまった筈なんだ・・・悔しいけど」
花火を見上げてチアキが話すのは。
「ごめん・・・シャル。こんな愚痴を聞かせてしまって。
私・・・もっと強くなる・・・強くなって一人でシャルを護れる様になる。
だから・・・だから私を傍に居させて。
シャルの元に居続けさせて・・・お願い」
シャルに振り向いたチアキの瞳は・・・真剣だった。
「そうだねチアキ。
もっと強くなって貰わないと・・・ね。
ボクの騎士になるんだから」
シャルがチアキの言葉に喜びを噛み締める様に笑う。
「あははは、チアキ。
そんなに真剣な顔で見詰められると照れるよ。
ボクだって同じだよ。
喩えチアキが祖国に還る時が来ても、一緒に行こうと思ってたんだ。
チアキの母国、フェアリアに!」
シャルが頬を搔いて言い切った。
「シャル!ホント!?」
頷いたシャルが、
「だから、ラル姉様には元に戻って欲しいんだ。
ミーク姉と2人でこの国を治めてくれれば、ボクはチアキの元へ行ける。
ずっと・・・ずっと一緒に居られると思うんだ!」
王女シャルレットとしてではなく、一人の少女シャルが希望を告げた。
「チアキ、ラル姉様を救おうよ。
そうすればボク達は一緒に生きていく事が出来る・・・そう思うんだ」
「シャル・・・」
2人の視線が交わる。
2人の影が花火の明かりでベランダに写る。
重なる一つの影となって・・・
______________
「たーまやぁー」
ジラが花火を見上げて歓声をあげる。
「おい、車長はどこだ?」
掛けられた声にジラが答える。
「ああ、ラミル少尉なら士官達と一緒に大使館へ行かれましたよ」
花火を見ながら答えるジラの後ろには、
重戦車MHT-7の姿と、JS-2の影が見えていた。
「そっか・・・何か作戦の打ち合わせでもするのかな」
呟くタルトが腕を組んだ。
「善く戻ってくれたな、ミリア准尉マモル准尉」
マジカが2人を前に労いの声を掛けた。
「お久しぶりです大使閣下。こちらも大変だったみたいで」
マモルがラミルに眼をやり答える。
「うむ、まあな。ところで・・・彼女は?」
2人に尋ねるマジカが、
「もう、動いているのか?」
にやりと笑い、訊いた。
「はい。中尉は別行動で探られています」
ミリアの答えに、
「アンネも・・・か?」
ラミルが横から口を挟んだ。
「はい、ラミルさん。
ミハル姉とアンネさんはラル王女の元へ出向いています」
マモルの答えにマジカが頷き、
「そうか・・・では、任せておくか。<光と闇を抱く者>に」
二人に告げると、マモルが首を振った。
「いいえ、マジカさん。
もう、ミハル姉は巫女ではなくなりましたから」
「?」
マモルの言葉に小首を傾げたマジカに、ミリアが胸を張って教えた。
「ミハルセンパイは<破邪なる者>へとなられましたから。
聖獣を下僕とした神の御子に」
笑顔で答えるミリアにマジカは目を見開き、驚きの声を上げる。
「ミハルが?神の使徒ではなく、神となったっていうのか?マジか!?」
マモルもミリアもラミルさえも、マジカの驚きに半ば呆れた様にため息を吐いた。
「ふうん・・・そうなんだアンネ。王女は死んだ者と変わらないって事なのね」
「はい、ミハル様。息だけは有りましたが。
殆ど心臓も停まりかけていましたから・・・」
ミハルとアンネは王宮の廊下で話す。
そこは第1王女ラルの寝室からは、程遠い薄暗い片端。
「この王宮自体が、闇に侵食されかけているみたい。
どうやら魔王とは別に呪いをかけている者が居るようね」
右手のブレスレットを見て、ミハルがアンネに命じる。
「じゃあアンネ、この呪いを放った者を探ってみて。
多分、この王宮の中に居る筈よ」
「解りましたミハル様。
・・・それでミハル様はこの後?」
了解したアンネがミハルに尋ねる。
「うん・・・呪の元を断つまでに知っておきたい事があるから」
そう告げたミハルが振り向いたのは。
「王・・・オスマンの皇帝の元へ行ってみる。
その身体に何が潜んでいるのかを」
碧き瞳で王の居る寝室を見たのだった。
王の寝室・・・
そこには黒き霧が漂う、悪しき空間が待ち構えていた。
はい!ミハルだよっ!
王の寝室まで来た時にね、現れたんだ。
あの娘が・・・。
痴話喧嘩なんてしている場合じゃないのに・・・
しょうがないなぁ。
次回 請う者乞われる者 Part4
君達はどれだけ繋がる者なの?・・・・あ、そうか。そういう事か!




