第1章 New Hope(新たなる希望)Act15狙われる魂 Part3
ミハルはアンネに救われた。
そう・・・戦いに敗れた末に・・・。
「あ、姉さん気がついたんだね」
装填手ハッチから覗き込んできたマモルが、声をかける。
「うん・・・マモル。ごめんね・・・」
ハッチを見上げてミハルが謝ると、首を振ったマモルが、
「いいや、姉さんは善くやってくれたと思うよ。
皆の犠牲を無駄にすることなく、あの戦場から脱出させたのだから。
誰一人、死なせはしなかったのだから・・・さ。」
マモルがハッチから手を伸ばしてミハルを誘う。
「だけどマモル。私は部隊を全滅させてしまった愚かな指揮官なのには違いないわ」
マモルの手を握る事を躊躇して、ミハルが後退ると、
「まーた訳の判らない事を。
ミハル姉は間違ってはいないよ。
あの人達を救えたのだから。
<魔女兵団>に裏切られた反乱軍の人達を無事に解放出来たのだから・・・
それに戦車は駄目になったけど、皆は進んで姉さんと共に闘ってくれたのだし、
死者も出さなかったのだから・・・ね」
マモルの言葉に横に居たアンネが目を大きく見開き、
「えっ!
ではあの時<魔女兵団>の戦車に連れられていた車両を解放する為に闘ったのですか?
反乱軍は敵だと言うのに・・・」
改めてミハルに問い直した。
「だって・・・
同じ人として悪魔に連行されていくのを見過ごす訳にはいかなかったから・・・」
ポツリと下を向いてミハルが答えた。
「そんな・・・そんな理由で部隊を全滅させてしまったのですか!」
アンネが目を見開いて驚くと、その言葉にミハルよりマモルが言い返す。
「アンネ!そんな理由とは何て言い方だ。
反乱軍の人達も同じ血の通った人間なんだ、
闇の者にされて魂を穢されるのを指を咥えて見ていろと言うのか?
僕も姉さんも何と云われ様とも助け出したかったんだ。何がそんな理由だ!」
怒気を孕んだ言葉で応じてきたマモルに、アンネが両手を前で振って、
「マ、マモル様・・・落ち着いてください。
私は何も悪いとは言ってません。
人を護って闘う決断をされたミハル様に敬意を払おうとしていただけですから」
マモルに言い繕った。
「でも・・・結果は御覧の通りだから。
決して褒められた物ではないわ」
ミハルは首を振って2人の言葉を否定すると、
「で・・・動けるまで修復出来たのマモル?」
話を変えてマモルの返事を求めた。
「うん・・・後少しかかるよ、僕の修復魔法でも。
それまで休んでいてよ姉さん」
魔法力を使い果したミハルを気遣って答えるマモルに、
「そっか。でも、もう大丈夫だから私も手伝うよ」
マモル一人に魔法力を使わせまいと、ミハルが車外へ出る事にすると、
「ミハル様・・・少し宜しいでしょうか」
アンネが引き止める。
「何かな、アンネ?」
ハッチに手を掛けたミハルが、背中でアンネに問うと、
「ここが何処だか知られていないですよねミハル様は・・・
外に出られたら感じ取ってみてください」
アンネが意味ありげに言った。
「どう言う事・・・アンネ?」
「外に出られれば、解ります」
アンネの声に押されるようにミハルがハッチから顔を出すと。
「あ・・・ここは?何かの遺跡?」
ミハルの眼に飛び込んで来たのは古代の建造物らしき、石柱が建ち並んだ遺跡だった。
「そうです・・・旧世界の遺跡。
いいえ、神殿だと思います」
車内からアンネが答える。
「神殿?どうしてこんな所に?」
ミハルは車体から降りて周りを観た。
そこはまるで地下の様に薄暗く、
灯かりといえば遥か頭上に聳える絶壁の谷間から洩れてくる陽の光が、
僅かに注いで来ているだけだった。
「ここは・・・一体?」
周りを見渡してミハルが呟くと、
「ミハル先輩、どうやら此処で行き止まりだったようです。
アンネが導いてくれたのですけど・・・」
後ろからミリアが教えた。
「まさかアンネがアレに乗って追ってくるとは思いもしませんでしたけどね」
ミリアが親指をMHT-7の後方に停まっている重戦車JS-3を教えた。
「アンネが邪な者の代わりに乗っていただなんて、解りませんでしたから。
そりゃもう、必死にタルトに逃げろって叫んでしまいましたよ」
ミリアがチラッと車外へ出てきたアンネに一瞥を加えて苦笑いした。
「そっか・・・私が気を失ってしまったから。
でも、どうして此処に?」
ミハルがアンネにここへ連れ込んだ理由を尋ねると、
「ミハル様。私はユーリ様の命で敵との接触を試みていました。
敵の正体を探り、味方に知らせる為。
そしてある時知ったのです。オスマンに古から伝わる秘宝の事を。
伝説の魔法騎士が眠る谷があるという事を」
そう言ったアンネが石柱の奥に見える門を指差し、
「オスマンに闇の魔王が現れた時・・・
古の騎士が闘ったという伝説があるのです。
その騎士の魂が眠る神殿だというのです・・・ここが」
ミハルがアンネの指差す門を観た時。
<来れよ・・・天の巫女よ>
頭の中に重々しい声が届いた。
「え?ミハル先輩・・・どちらへ?」
ミリアが引き止めるのをアンネが、
「やはり・・・伝説は本当だったんだ」
神殿へ向かうミハルの背を見て呟き、
「ミハル様は選ばれた・・・騎士に」
ミリアに伝えた。
ミハルは誘われるまま遺跡へと入って行った。
その遺跡に眠るのは本当にオスマンに伝わる伝説の騎士の魂なのか?
ミハルが遺跡の中に向かう頃。
フェアリアでは・・・・
次回 狙われる魂 Part4
君は己の中に普通の人間にはない力を感じる。・・・そして。




