番外編・マリアンヌの防具
思いついたので番外編です。
今回は本編中16話「ソフィア、一大告白!なんだけど」付近、ソフィアとマリアンヌのところで食事会をした直後くらいの話です。
冒険者になってしばらくした頃――ベルン達と出会うよりずっと前の話だ――マリアンヌは頑張って貯めた貯金を手に拠点にしている街・テルメロマにある防具屋の扉をくぐった。
「おう嬢ちゃん、何が欲しいんだ?」
防具屋のオヤジはいかつい強面に営業スマイルらしき笑みを浮かべてマリアンヌに話しかけた。でもちょっとワニみたいで怖い。
「その、冒険者になって少しばかり元手ができたから、防具を新調したいんだ」
「へえ、なるほど」
まあ防具屋なんだから防具を買いに来たに決まっているのだが、緊張しているマリアンヌはそんなことに気づかず話し続けた。
「一応これだけ予算はある。これでできる限りいい装備を揃えたいんだ」
カウンターにジャラっと音を立てて革袋を置いた。中には結構な額のお金が入っている。
「なるほど。んであんたは職業は?」
「剣士だ」
「剣士か。ひとまず今の装備を見せてみろ」
店主がマリアンヌの全身の装備を見ながら言った。マリアンヌは身につけている装備をひとつずつ見せていく。どれも革製の防具で、正直防御力に優れているとは言えない代物だ。
防具屋のオヤジは一通り検分すると、ふむ、と腕を組んであごをこすった。
「剣士なら頑丈で、だが動きを妨げない程度の重量があったほうがいいか。とはいえあんたは女性だ。鍛えているって言っても男ものの鎧ほどの重量だと動けなくなっちまう。まあ今着けているブーツとか籠手なんかは悪くない代物だから急いで買い換える必要はねえだろ」
「なるほど」
「だから買うなら胴体を守るアーマーだな」
「そうか、わかった。店主、すまないがいくつか見繕って見せてもらえるか?」
「おうともさ。何しろ命を守る大事な防具だし決して安い買い物じゃねえ。きちんと専門家である俺の意見を聞いて選ぼうって姿勢がいいねえ。よし、とっておきを見せてやる。最高にあんたに似合うやつをな! 俺に任せとけ!」
「ああ、頼む」
*****
「――それで、その防具屋が勧めたのがそのビキニアーマーだったわけですか」
リオがちらりとマリアンヌを見て呟いた。
「嘆きの女神の泉のダンジョン」をクリアして、テルメロマにあるソフィア達のアパートで食事会をして酔い潰れた翌日、ベルンとソフィアはそれぞれまだベッドで二日酔いと戦っている。
そんな二人をそれぞれの部屋に放置して、リオとマリアンヌは二人で買い物に出てきていた。歩きながら話していたが、そのうちリオに聞かれてビキニアーマーを初めて買ったときの話になったのだ。
「ああ。一見無防備だけど魔法防御にも優れていてな。店主に『これ一択だろう』と勧められてな。試着もしたけどサイズも良かったし、店主もよく似合うって褒めてくれたし」
「ふうん、店主の前で試着もしたんですね。でもお腹あたりは無防備ですよね」
「そこは躱せばいいからな」
防具の意味がないのでは? マリアンヌの脳筋過ぎる返答にリオがため息をついた。
防御という意味ではどう見てもすっかすかなビキニアーマーだが、まだDランク冒険者であるマリアンヌにとっては確かに値段に釣り合う性能はありそうだ。
だが、それならビキニアーマーじゃなくて他にもがっちりと急所を防御する少し高級な革製のアーマーなんかもあっただろうに、防具屋の店主はわざわざこれだけを勧めて試着までさせている。それはなぜか?
つまりその防具屋のスケベ親父はマリアンヌのビキニアーマー姿を見たかっただけなのではないだろうか。そういう結論に至ってしまい、リオはとんでもなくむかついていた。今すぐその防具屋のスケベ親父を一発殴ってやりたい。
「マリアンヌ、これから防具を買いに行きましょう。そのビキニアーマーを買った店はどこですか」
「ああ、ドノバンの防具屋か? 残念ながら店主のドノバンはつい先日『もう年だから田舎に帰る』って引退して故郷に帰っちゃったんだ。今は違う防具屋を使ってるんだ、私たち」
「ちっ、逃げられましたか」
「何か言ったか、リオ」
「いいえ、何でもありません。さあ、せっかくC級に上がったんです。そのお祝いも兼ねて防具を見に行きましょう」
この段階ではまだ一緒に旅をすることは決まっていなかったが、結局テルメロマから4人で出発するときにマリアンヌは新しい防具に身を包むことになる。今回は露出の少ないビスチェタイプの防具だ。
ビキニアーマーは「軽くて涼しくて楽だから」とその後も時々着用するのだが、リオが小煩いのでマリアンヌは下にインナーを着込むことになるのだった。
たぶん明日ももう1話番外編更新します。




