番外編・まじゅうだより
ベルンとリオとかいう二人組の冒険者にボコられた俺様は、一度消滅してからまた復活した。毛並みが気になり、舐め濡らせた前脚で撫で付ける。
《おーい、ミスリルフェンリルや。大丈夫か?》
ダンジョンコアと人間たちが呼ぶマスターが呼びかけてきたので、返事をする。
『オッケー、大丈夫よ』
《それなら良かった! また頼むな》
『はーい』
ダンジョンマスターは、長き間に魔力を蓄えて、意思を芽生えさせた魔石だ。自然発生的に生まれたダンジョンマスターは、自分の魔力を使ってダンジョンを作り、魔獣を産む。
蓄えた魔力がなくなれば、ダンジョンは徐々に衰退して消えてしまう。溢れた魔獣たちを外に逃して。
だけど冒険者とかいう人間がやってくると、ダンジョン内の魔獣を倒す。そうすると魔獣はまたダンジョンへと吸収されて魔力に変換される。たまに死んだ人間も吸収されてマスターの魔力になる。マスターに魔力を返してくれたお礼に人間には、ただの器になった魔獣の身体の一部をあげたりする。人間はそれを素材だとか言って喜び、また人間を連れてやってくる。
そうして吸収した魔力でまた魔獣を生む。ダンジョンはそうやって魔力を循環させることで存在を維持し、余剰魔力が増えると成長するんだってマスターが言っていた。
ここの楽園のダンジョンは、ずっとずっと人間が来なかった。だから、マスターの最初の魔力で作った三層までしかない。現状、最後の砦は俺様、ミスリルフェンリルとなっている。
『入り口がねぇ、分かりにくいんじゃないかなぁ。プリモの実目当てのプリズムミンクしか来ないじゃん』
《少しの地面の隙間から広い地底空間に入る仕様はロマンなんだよ、ミスリルフェンリル》
『地底空間じゃなくてダンジョンだけどね。プリズムミンクが落としていった種で、一層の入り口がプリモの樹海みたいになってるけどいいのー? あーあ、また人間が来たらいいなぁ』
そう思っていた日もありました。
何度かのリポップを繰り返して、我慢できなくなった俺様は、マスターに言った。
『ねぇねぇ! 俺様を倒さないと人間が外に出られない仕様もロマンだって言うの? 外に出るためだけにさっくりヤられるの嫌なんだけど!! 復活するって言っても痛いんだよおおおお!! 階段つけようよー!』
《ごめん、階段を付けないわがままを許して。ロマンなんだよ》
『ムキー!! いっつも来るのアイツらじゃん! ベルンとリオって人間!! 他にもちょこっと来るけど。みんな強いくせに、調査だとか言って、プリズムミンクの数数えたり、ウィングホースと遊んだり、ユニコーン見たりするだけなの! ぜんぜん魔力落とさない! なのに外に出るためだけに俺様を倒すんだよ。最近は作業みたいに倒していくんだよ。知ってる? こないだ発行されたまじゅうだよりに載ってた二人組だよ。沈黙のダンジョンのボスやってるコカトリスが被害に遭ったって! 何度も何度もリポップさせられては倒されて精神病んだって!! マスターは俺様が病んじゃってもいいの?? 労基に訴えるからーー!』
《わ、わかった。分かったから。次のアップデートでミスリルフェンリルの意志と魔力で脱出転移魔法陣を起動できるようにするからさ。だから病むのと訴えるのはヤメテ》
焦った声のマスターが労働環境の改善を約束してくれたから、少し溜飲が下がった。
『うん、俺様も感情的になってごめんね。権利を主張する代わりに、アイツら以外の時はちゃんと仕事するからさ』
《うん、頼りにしてるよ》
マスターとのおしゃべりを終えて、俺様は今週号のまじゅうだよりを前脚で引き寄せた。




