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40.バレリオ、石化から目覚めたら息子が幼い美少女と結婚していた

「はあ? 貴族に復帰させたからなってどういう意味だ。俺をいったいどこの領主に任じたつもりだ。だいたいシリウスは昔から言葉が足らん! よくあれで国王が務まるな!」


 シリウスが姿を消したとたん、バレリオはベッドの上で頭を抱えた。


「父上、戻ったというのに、さっそく不敬罪で捕まりたいのですか」

「奴はもう出て行ったのだ。ベルノルトが黙っていれば不敬罪にはならん。それよりだ。十年の間、石となった我らをこの領地に預かり、石化解除に協力してくれたライナーの領主に挨拶をせねばならんな。ヴィットーリオすまんがライナーの領主に目通りできるよう面会の申し込みを頼む」

「……ライナーの領主ですか?」


 指名されたリオはバレリオの命令に思わず聞き返した。本来侍従ならば、すぐに面会予約を取りに退出するところだが、バレリオの思い違いを正すべきか一瞬迷う。


「ああ、そうだ。本来ならばこちらから馳せ参じなければならぬところだが……面会の約束が通る頃には起き上がれるようになっているだろう」


 バレリオは筋肉の動きを確かめるように、手を握ったり開いたりした。ふと息子の側から動いていないリオに気付き、首を傾げて顔を向けた。


「どうしたヴィットーリオ、しばらくの冒険者稼業で侍従の仕事を忘れたか?」

「い、いえ。行ってまいります」


 バレリオのからかうような笑みを向けられて、ひとまず代官のヴェリテに面会の予約を取り付けてこようとリオはベルンを部屋に残して退出した。戻ってくるまでにベルンが誤解を解いているだろうと期待して。




 結果として、ベルンは誤解を解いていなかった。領主との面会をバレリオが希望しているとリオが約束を取り付けに行ったところ、ヴェリテは愉快そうに笑って、即座にバレリオが身体を休めている部屋を訪った。

 部屋に顔を出したヴェリテを見るなり、バレリオは驚きの表情を顔に貼り付けて言った。


「ヴェリテ……か?」

「ああ、十年も寝ていやがって。その間俺がどれだけ苦労したと思っているんだ」

「お前、なんだその口髭は。それに老けたな」

「親友との再会にまず言う事がそれかよ」

「いや、済まない。そうか、お前がライナーを預かってくれているなら安心だ。ちと魔物討伐は荷が重いだろうが」

「その通りだ。バレリオ、はやく領主に戻って、俺を王都に帰してくれ。嫁さんも子どももあっちに残してきてるんだ」

「どういうことだ? ああ、タウンハウスにいると言う事か」

「違う違う。俺んちは昔から地方に領地を持たない宮廷貴族だ。そして今もな。お前の息子が平民の冒険者となっても、石化を解いて家族や領民を救う方法を探していると知った陛下が、早くに隠居したがっていた前王から王位を引き継ぐことを条件に異例の措置を取ったのさ。自分の在任中はライナーを王家預かりの直轄地とするってな。で、俺は代官として単身赴任中ってわけだ」

「はぁ? 直轄地だと?」

「そうだ。大多数の領都民、町民、村民が石化した旨味のない広大なライナー領をな。相変わらず魔物は森から湧いては来るが、直轄地だからこそ王国軍が駐留できて、なんとか森へ押し返しているよ。はやく身体のなまりを解消して前線に戻ってくれバレリオ。そしてシリウス陛下の気持ちに応えてやってくれ」


 ヴェリテの話す内容にバレリオは、信じられないとばかりに唸る。


「お前、陛下に慕われてるんだよ。あの時からずっと」

「こましゃくれた生意気なガキンチョだった殿下を完膚なきまでに打ちすえたあの時からか……卒業して王太子となった後も、何くれと面倒な事を言い出す奴だったが……はぁ。つまり、貴族に戻すと言ったのは、ライナー領主として今後も国のために努めよということだな」

「そういうことだ。しばらくは身体も動かせないだろうから、ここ十年の資料を運んできてやる。引き継ぎするからきっちり目を通せよ」


 座学より身体を動かす方が得意だというバレリオに書類仕事をさせるのが心底楽しいとばかりに、ヴェリテは足取りも軽く部屋を出て行った。バレリオは低く唸りながらベルンを呼ぶ。


「次に石化を解除するのはフレデリカと、俺の側近だったシルビオにしてくれと伝えてくれないか」

「あ、はい。マグダレッタ様とフィオレ様に伝えておきます」

「それからお前の婚約者だが」

「もう結婚したのでソフィアは妻です、父上」


 バレリオは頭が痛いのか眉間を揉む。ベルンはいまさら反対はされるまいと思うものの、シリウス陛下が自分も貴族に戻るのだと言われたことで事情が変わってきたことに胸のざわめきを感じていた。


「ああ、そうだった。どこで式を挙げたか知らんが相手は冒険者だったな。ソフィアさんは平民か?」

「ええ、妻は平民です。平民だった私が貴族と結婚するわけがないでしょう?」


 ベルンは警戒しながらも答えた。バレリオはそんな息子の警戒を察して苦笑する。


「そう警戒するな。今さら別れよとは言わんが、事情が変わった。お前は貴族の嫡男で次期領主という立場に戻るのだ。ソフィアさんにもそれに相応しい立場を用意せねばならん」

「私もソフィアもそれを望んでいません。父上も母上もまだ次の子を望めるのでは、と、思います……」


 若い容貌の父ならば可能ではないかという思いから口に出したベルンだが、バレリオの険しい表情に言葉は尻窄みになっていく。わがままを言っている自覚はあるが、これではマリアンヌの苦悩をソフィアもまた味わってしまうとベルンは勇気を振り絞る。


「次を作れるものならばな。しかし俺もフレデリカも生殖能力が正常かどうか分からん。陛下はああ言うが、領主としての働きが満足にできるかも分からん。すぐにでも領主を継げる歳も能力もある息子がいるのに、存在もしていない人間に期待をするわけにはいかん。まあ、冒険者をしている間に山賊の真似事でもして領主たる適性に欠けるというのであれば貴様を放逐するしかないがな」

「んなわけねぇ!……です。真っ当に冒険者として生きてきました。ですが、私はこの歳にもなって貴族としての社交デビューも果たしていませんし、ソフィアは孤児院の出身です。今からなんてとても……」

「そんなものは教育を受ければいいし、事情があったのは周知の事だ。今さら取り繕っても仕方がない。まあソフィアさんに会ってからだな。ソフィアさんはこちらに来ているのか?」

「は、はい。父上のお加減がよろしければすぐにでも呼んできます」


 バレリオが頷いたので、ベルンはソフィアを呼びに部屋を出た。


 別室では、ソフィアとマリアンヌ、アルデガルドとフィオレ、マグダレッタの五人がテーブルを囲んでお茶を楽しんでいた。


「ほう、それは貴重な目撃証言だな」


 興味深そうにソフィアとマリアンヌの話にマグダレッタが相槌を打つ。


「すると、アルデガルドも昔そのダンジョンに潜ったのか?」

「懐かしいのぅ。あの頃のワシでも熟した命の木の実を拾うのはなかなか骨が折れた」

「え、あれは拾えるんですか? バランスを取るだけでも必死で」

「すぐに溶けて消えてしまったんです」

「そうじゃろうの。しかしどうやって獲ったかは内緒じゃ。ソフィアちゃんもマリアンヌちゃんもその木が命の木という事は内緒じゃよ。命の木の実の事が広まれば戦争が起きるでの」

「ええっ! でもレイスが出ない時は普通に薬草を採取してましたけど」

「歴史がそう物語っているので、二人とも他言は無用だ。薬草がよく育つ場所という認識でよい。だがアルデガルド、私にだけは木の実の採取方法を教えても良かろう?」

「マグダレッタには一個あげたじゃろ? フィオレちゃんこのクッキー美味いのぅ」

「ありがとうございます、アルデガルド様」


 アルデガルドが皿の上に乗ったクッキーを摘み、白い口髭に隠れた口にそれを運んだ。マリアンヌとソフィアはマグダレッタの淹れたお茶を飲む。

 そこへドアのノックが聞こえた。マリアンヌが立ち上がり誰何すると、ベルンだったのでドアを開け招き入れた。

 入ってきたベルンを見て、アルデガルドが顔を向ける。


「おお、ベルン。バレリオの様子はどうじゃ」

「親父を選んだのは俺だけどよ。やっぱり親父じゃ参考にならないんじゃねーかな」

「というと?」


 フィオレも興味深そうに聞き返す。


「親父の体力ヤバいぜ。そろそろ起き上がって歩きそうだ」


 ほう、とフィオレとマグダレッタが感心したように息を吐いた。


「家畜も野生の動物も石化を解いたとたんに走り出したのだ。現状に対する危機感か、石化させられた時の恐慌状態の記憶のままなのか。ただ十年石化していたが筋力などの衰えは感じられなかった。バレリオ殿の経過をこれからも観察していく必要があるな。2、3日様子を見たあとは、2、3人体格や性別の違うものの石化も解いてみようフィオレ」

「はい、師匠」

「あ、それだけどよ。親父から母上とシルビオのおっさんの石化解除を優先してくれってさ」

「フレデリカ様なら顔は分かるが、シルビオとは?」

「親父の腹心の人なんだ。さっきシリウス陛下が御尊来遊ばされて、親父と俺にまた貴族をやれってさ」


 ソフィアが息を飲み、顔を強張らせた。やっぱりそうなるよなぁとベルンはソフィアの心情を慮り眉を下がらせた。


「おいベルン。お前、さっきから貴族言葉と平民言葉がごっちゃになっておるぞ。どちらかに統一した方が良いのではないか?」

「ああ、そう……だな。気をつける。で、ヴェリテさんも来て、ベッドから動けないうちに領主業務を引き継ぎするって宣言してさ。親父じゃねぇや、父上だけじゃ仕事の手が回らないだろうから、シルビオさんと母上を戻して欲しいって事だと思う。フィオレ嬢、頼めるかな?」

「ふふふっ、大変ですねぇ。ベルンさんのお母様とシルビオさんのことは承知いたしました。女性と、武官ではない男性、いいテストケースになりそうなので、こちらも願ったり叶ったりです。ひとつ訂正させていただきますと、私はもう結婚致しましたので、貴族風に言うならばフィオレ夫人とお呼びくださいませ」

「これは失礼いたしましたフィオレ夫人」

「よろしくてよ。今回だけは許して差し上げます」


 つんと澄ました貴族夫人風のやりとりをしてみせたフィオレに、ベルンは目を白黒させたあと、顔を強張らせたまま、固唾を飲んで様子を伺っていたソフィアに顔を向けた。ソフィアの近くまで歩いていき、椅子の横で片膝をついて、ベルンを見つめるソフィアを見上げた。


「父がソフィアに会いたいってさ。会ってくれるか?」

「でも……私……」

「ソフィアは俺が守る。もしこの結婚が反対されるような事があればソフィアを連れて逃げてもいい。貴族になっても、冒険者のままでも苦労はさせないとは言いきれないけど、二人で乗り切れるように力を尽くす。だから頼む。父に紹介させてくれ」


 ソフィアは顔を赤く染めながら、ベルンが差し出した手に、そっと自分の手を重ねた。小さく柔らかいソフィアの手をそっと握り、ベルンはゆっくりと立ち上がる。そのままエスコートをしてソフィアと父の待つ部屋へ向かった。

 残されたマリアンヌは少し複雑な表情でベルンとソフィアのやりとりを見守っていた。二人が部屋を出ていくと、アルデガルドが白髪の頭をマリアンヌに向けてそっと下げた。


「ヴィットーリオの教育が足らんのはワシのせいじゃ。すまんかった。どうかヴィットーリオを見捨てんでやってくれ」





 バレリオが身体を休めている部屋のドアをノックし、返事があったのでベルンは声をかけた。


「ベルノルトです。ソフィアを連れて参りました」

「入れ」


 ベルンと似た低い声で返事があり、ソフィアは緊張で身を強張らせた。一度と言わず、3回くらいは、ベルンが貴族に戻ることになったら、自分も貴族の奥様になるのだと考えたことがあった。その度に必死で勉強してでもベルンとは離れないと覚悟を決めてきた。平民になったとは言え、跡継ぎを残すことに慎重になるベルンの姿に、いずれこんなこともあるのではないかと考えてはいた。

 でも、その覚悟はしょせん貴族という特権階級に憧れる平民の夢想でしかなかったと思う。精霊樹の下で誓って結婚したというのに、ベルンのお父さんに反対されてしまったら簡単に挫けてしまいそうだ。ソフィアは逃げ出しそうな気持ちで、ベルンに縋るように見上げた。ベルンはソフィアを安心させるように微笑み、頷く。マリアンヌはこんな恐怖と戦っていたんだな、と今初めて気持ちが分かった。


「入ります」


 ベルンの手で、運命のドアは開かれた。



 結論から言うと、ベルンの父バレリオは、ベルンとソフィアの結婚に反対しなかった。

 ベルンにエスコートされて、ちょこちょこと入ってきた青髪の少女を見て、少し驚いた表情を見せたが、それだけだ。バレリオはソフィアに人好きのする笑顔を見せて、自身はベルンの父だと名乗った。ソフィアもまた慌てて頭を下げる。


「はじめまして。冒険者のソフィアです。よろしくお願いします」


 相好を崩しながらバレリオはベルンに向かって言った。


「ベルンよ、ソフィアさんはお前の妻だと名乗らなかったぞ。結婚したってのは、お前の思い違いじゃないのか?」

「あっ! 失礼しました。ベルンさんの妻のソフィアです」

「父上、あまりソフィアをいじめないでください」

「いじめてはおらん。ソフィアさん、本当にこんなむっさい男の嫁になっていいのか? 無理強いされたんじゃないのか? 後悔はしてないか?」

「ち・ち・う・え!」


 どう返すべきかと、ソフィアが挙動不審になっているうちに、頭の上で親子喧嘩が始まった。喧嘩というより、一方的にベルンがバレリオにからかわれている。


「こんな年端もいかぬ美少女を嫁にもらうとはな……やはり次期領主の資質に欠ける行いをしていたんじゃあるまいな」

「えっ? えっ? え?」

「誰がですか! どこからも攫ってきていませんし、こう見えてソフィアは成人しています」

「あ、あの! わ、私がベルンさんに一目惚れしました! 無理強いはされていません! むしろもうちょっと手を出して欲しいのに元貴族の跡取りだからって無闇に遊ぶこともしなくて!! 結婚したのに初夜もまだムグッ」

「わー、ソフィア! ストップ! ストップ!」


 ベルンはソフィアの暴走にギョッとして、慌ててその口を手のひらで覆った。同じく驚いた表情を見せていたバレリオは、弾かれたように豪快に笑い声をあげた。ヒーヒーと引き攣るように息を吸って、ベッドの上に二つ折りに倒れる。少し落ち着いたバレリオは涙を指で拭いながら身を起こした。


「それはいかんなぁ息子よ。淑女の気持ちを考えてやりなさい。敵前逃亡するような男には育てた覚えがないぞ?」

「縁があってオイーリアの精霊樹の下で結婚の誓いをしましたが、ロームに帰って教会で正式に登録を終えてからと思ったんですよ。断じて敵前逃亡ではありません。ソフィアを大事にしたい気持ちからです」

「ふむ、だがまあ、今回はベルノルトの慎重さに助かったな。まだこちらでは結婚登録をしていないのならば都合がよい。ソフィアさん、この度ベルノルト・ライナーは地方領主、辺境伯家の嫡男として貴族籍を復活させることになった」

「はい……」


 ソフィアは消え入りそうな声でなんとか返事をした。バレリオは優しい眼差しを向けたままでソフィアに話す。


「ゆえに平民のソフィアとは釣り合いが取れんのでな。そのままでは結婚を許す事ができん。何も頭ごなしに反対しているわけではない。流れている血が違うなどと貴族至上主義者のようなことは言わないが、生まれが違えばそれまで受けてきた教育や礼儀が全く違う」


 厳しいことを言っている自覚のあるバレリオは、しおしおと萎れるソフィアと、憤りを隠せない、まだまだ青い息子の様子を微笑ましく観察しながら続けた。


「だが教育は遅れても取り返すことができると私は思っている。かなり大変だとは思うが、努力し、貴族夫人となって、この先もベルノルトを隣で支えてくれるだろうか」

「はい、ベルンさんと離れることは考えられないので、頑張ります」

「そうか。ベルノルトはかけがえのない伴侶と出会って幸せものだな。安心しなさいソフィアさん。ベルノルトは貴族学校にこそ入っていたが、ライナー領が壊滅するほどのスタンピード事件があって卒業はしていないし、15の時に平民になったのだ。それまでも貴族子息とは思えぬ山猿ぶりだったが、今はそれに磨きをかけたようだ。再教育が必要なのはベルノルトも一緒だから共に励みなさい」

「はいっ」

「父上、ソフィアを励ましてくださりありがとうございます。しかしもう少し息子を立ててくださってもよいのですよ?」

「フレデリカが戻ったら、ソフィアさんの教育のことも相談しよう。あとは一度他家の養女に入ってもらって貴族籍を得てからロームでの結婚登録をしよう。シリウスの耳に入ればややこしいことになるからな。ベルン、頼めそうなアテはあるか?」


 ベルンは少し考えてから浮かんだ顔の名前を挙げる。


「私も十年平民として過ごして来ましたので、正直なところツテといえるものはないのですが、リオの養い親で【塔】の魔法使いアルデガルド様、リオの義理の祖父となるオイーリアのフォレストラ前公爵、同級生のアンドレアはアンナ嬢とご成婚されてリオーネ侯爵がもつリモネンド伯爵になられたそうですから……パッと思いつくのはこのくらいでしょうか」

「ふむ、参考にしておこう。勝手に進めるとフレデリカが怒るだろうから、この話はフレデリカが目覚めてからにする。ソフィアさんもそれでいいかな?」

「は、はい」

「あ、父上。あとリオもマリアンヌって冒険者と結婚する約束をしています」

「ほう、そうなのか。それはめでたいな」

「リオはオイーリア公爵家の血筋だった事が判明しまして、その婚約者のマリアンヌもまたソフィアと同じく孤児院の出身でして……」

「つまりベルンは、身分差に悩むもうひとりの淑女の養子先も探してやって欲しいとそう言いたいのか?」

「そうです」


 バレリオはベッドに上半身を起こしたまま、腕を組んで悩んだ。


「正直なところ、わがライナー家が世話をする意味が分からんのだが。それはフォレストラ公爵家がなんとかする話ではないのか? ベルノルトよ」

「リオの血統は明らかになったんですが、リオは貴族になる気はなくて、俺の侍従を続けるつもりでいてくれています。父上が石になっている間、剣の腕前はもしかすると父上を凌ぐものになっておりますし、近ごろは魔法も使えるようになりました。マリアンヌはソフィアと系統が違いますが容姿は整ってますし、剣の腕もたちますし、回復魔法が使えるのです。リオとともに夫婦でソフィアの護衛として俺たちに忠誠を誓ってくれると言っています。雇用されている者が憂いなく働けるように世話をするのは雇用主の義務ではないでしょうか!」


 勢いよく言葉を並べたてたベルンに、バレリオは苦笑を漏らす。


「分かった。マリアンヌ本人を見てからと言いたいところだが、リオの人を見る目は信用している。あれが伴侶にと望むなら、余計に忠誠が揺らがぬようにうちの子にしてしまえば良いのではないか?」

「えっ?」

「回復魔法が使える人間は貴重だから、囲い込んでおけと言っている。ベルノルトの妹にすれば良いだろう? 辺境伯は侯爵家同等。オイーリアではどうか知らんが、まあ見劣りはしないのではないか?」


 ベルンとソフィアは互いに視線を合わせ、目で語った。


「願ってもない申し出です」

「そうだろう? どうせベルノルトとヴィットーリオも主従といいつつ兄弟のように育ったんだ。どうせ肩書きだけの話なのだから、他家に取られるよりは、うちの子にしてしまった方が早い。その方がソフィアさんも変なしがらみがなくマリアンヌと近くにいられていいだろう?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 私も回復魔法が使えます、となかなか言い出せないソフィアだった。


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