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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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305 次ではなくその先のために

 受験生困惑気味のキャッチボールの後。

 素振りでフォームチェック。続けて短時間のフリーバッティング。

 ベースランニング、ノックという順番で彼らには軽めのメニューをこなしていって貰い、向上したステータスに体を徐々に慣れさせた。

 その過程で。スローイングに始まり、スイング、ベースラン、キャッチングに至るまで野球における基本動作を1つ1つ矯正していき……。

 あたかも、このおかげで動きが改善されたかのように周囲にアピールしていく。

 今はこちらで指定した守備位置につかせ、シートノックをさせているところだ。

 基礎ステータスと一緒に【守備適性】も弄っているので、ポジション毎に求められる動きの基礎も真綿が水を吸うように習得していく。

 いっそ気味が悪いぐらいに。


 勿論、だからと言って長年その守備位置でやってきた選手達には遠く及ばない。

 僅か1時間にも満たないような時間的な制約もあって、今この場で設定することができるシチュエーションには限りがある。

 と言うか、微々たるものだ。

 そうでなくとも、これらは体にも徹底的に覚えさせなければならないもの。

 一朝一夕で身につくようなものではない。

 ステータスがどれだけ向上しようとも、現状の彼らは経験の蓄積が全くない状態のまま。引き出しなどあってないようなものだ。

 残念ながら、俺達の基準では試合に出すことができるレベルにはない。


 しかし、彼らが臨んでいるのはレギュラー争いではなく創設セレクションだ。

 そして俺達が求めているのは完成品ではなく、磨けば光る原石。

 育成においては特に、現時点の実力よりも潜在能力を含んだ将来の形が大事だ。

 まあ、それを指導者が見抜けるかどうかはまた別の話になるが……。


 いずれにしても、彼らのケーススタディはこれからでも十分間に合うし、今生で言うならむしろどこかの強豪の色に染まっていない方がいいぐらいだ。

 この2時間でポテンシャルが非常に高いように見せることもできた。

 わざわざグループを分けた目的は十二分に達成できたと言っていいだろう。


「こ、こんなことが……」


 受験生達の動きは今も尚、それこそ秒単位でよくなっていっている。

 その光景を実際に目の当たりにした飯山さんと新葉さんの口は自然と半開きになり、彼らは呆然とした表情を晒してしまっていた。


「秀治郎選手の目には一体、何が見えているんですか?」


 球団スタッフにシートノックを任せて2人のところに戻ってきたところで。

 若干引き気味の飯谷さんに尋ねられる。


「いや、まあ、その、伸び代ぉ、ですかね……」


 対して俺は、そんなフワッとした答えを返すことしかできなかった。

 ステータスだのスキルだのは非常識過ぎるから、というのは大前提として。

 このようなシステムがこの世に存在していることを真っ当なスポーツ選手が知ってしまったら、複雑な気持ちを抱かざるを得ないだろうと思うからだ。

 それこそ理不尽だと腹を立ててもおかしくはない。

 あーちゃん達とは別の意味で、彼らに対しても誤魔化す以外の選択肢はない。


 そんなこんなで怪しげな反応をした俺を前にして。


「……伸び代、ですか」

「仕込みでは、ないですよね?」


 飯谷さんは釈然としないような声色で繰り返し、新葉さんは疑い半分確認半分といった感じの視線と共にそう問いかけてきた。

 こんな摩訶不思議と言ってもいいような状況に遭遇すれば、そんな風に疑われるのも無理もないことだろう。とは言え――。


「いやいや、まさか」


 それでも仕込みはあり得ないし、そもそも仕込みではない。

 彼らは最後のチャンスを掴み取るために自らの意思で受験しているのだ。

 だから、そこはキッパリと否定する。


「あそこにいる皆田和久君が、皆田久夫日本代表投手コーチのご子息なのはご存知でしょう? サクラにするのは無理がありますよ」

「まあ、そうですよね……」


 勿論、そうした疑いに対する反証のために1次審査を通過させた訳ではない。

 しかし、皆田和久君の素性については飯谷さんと新葉さんも重々承知しているだけに、他の受験生よりも説得力があるのは間違いないだろう。

 彼に演技をさせるのは全く現実的ではないし、それで2人を騙す意味もない。

 何より、受験生達の表情を見れば一目瞭然だ。


「あれだけ嬉しそうな顔をしている訳ですからね」

「ええ」


 最初の内は戸惑い。それが感動に変わり、今は歓喜と興奮というところ。

 これまでの人生、ずっと運動音痴と馬鹿にされてきたであろう彼らが今は自分の体をイメージ通りかそれ以上に動かすことができている。

 それは間違いなく初めての経験だったはずだ。

 だからこそ、夢中になって楽しそうに体を動かしている姿に嘘は感じられない。

 あれを見ればサクラだの仕込みだのとは誰も思わないだろう。

 まあ、それでも疑いを抱かざるを得ないぐらいの尋常ならざる事態なのは、俺自身も引き起こした張本人ながら認めるところではあるけれども。


「彼らは間違いなく伸びますよ。それこそ磐城君や大松君ぐらいには」

「そこまでの才能があると?」

「はい。間違いなく」


 何せ【成長タイプ:マニュアル】だからな。

 今生は【成長タイプ:マニュアル】とそれ以外に分けられてしまうぐらいだ。

【マニュアル操作】を持つ存在の有無で天国と地獄程の格差が生じてしまうことも含めて、改めて世界の歪みとしか言いようがないけれども。

 何にせよ、この辺りの文句は野球狂神にぶつけるしかない。

 もっとも、そうしたところで暖簾に腕押しでしかないだろう。

 それこそ言っても詮ないことだ。


「山形県立向上冠高校出身の選手達は全員、秀治郎選手が見出したという話は有名でしたが……これを見ると頷けますね」

「まあ、憚りながら、人の才能を見る目には自信がありますので」


 これも【マニュアル操作】のおかげだ。

 俺自身の目は別に大したものじゃない。


「ともあれ、彼らの潜在能力も考慮して下さると助かります」

「論より証拠。こうもまざまざと見せつけられては考慮せざるを得ないでしょう」


 新葉さんの言葉に心の中でホッとする。

 勿論、だからと言って100%合格とは行かないだろう。

 さすがに全員、俺の一存でゴリ押しできる訳でもないし、最終選考の面接で人格的な部分も含めて最終的な判断を下されることになるのだから。

 だとしても、一先ず【成長タイプ:マニュアル】の選手を十分な人数確保することはできそうなのはよかった。


 当然ながら次のWBWに間に合う訳ではない。

 しかし、その更に次。

 そのまた次のWBWのため。

 果てはもっと先の未来の日本プロ野球のために、これは不可欠な人材確保だ。

 種を蒔き、水をやり、いつか花を咲かせる。

 育成とは正にそういうものだ。


「ただ先行契約にも限度がありますからね。それ程の選手になったとして、村山マダーレッドサフフラワーズに入団しなければ他球団に流出してしまいますが……」

「構いません。日本野球界全体のレベルアップのためですから。それぐらいでないと、WBWで常に優勝を狙えるような国にはなり得ませんよ」


 まあ、行くところまで行ってしまうと「育成ゲームでカンスト選手を大量に作った結果、無個性チームになった」みたいな何とも言えない状況になりかねないが。

 ある意味、それは陸玖ちゃん先輩の友達である五月雨月雲さんが望んだ、スポーツが陳腐化した世界に片足を突っ込んだ状態とも言えなくはない。

 ただ、ゲームなら育成した選手を操作するのはプレイヤーだが、現実ではあくまでもそれぞれがそれぞれの考えで行動することになる。

 最終的にはここが勝負の分かれ目となる。


「そのためにも、改めてお2人にお願いしたいのは考える野球の浸透です」


 前世ならばいざ知らず、この世界だと未だに戦術面は脳筋なままだからな。

 その一方で。

 余程の突然変異が生まれでもしない限りは、日本人が【体格補正】においてアメリカ代表選手よりも優位に立つことはない。

 そういった意味でも、プレイングスキルを高めて不利を覆す以外にないのだ。

 彼らはその下地を作ることができる指導者だと俺は思っている。


「子供達の野球脳を鍛えてやって下さい」

「ええ。勿論です」

「そのために今回のオファーを受けたようなものですから」

「ありがとうございます。飯谷さん、新葉さん。末永く、よろしくお願いします」


 そうこうしている内に2時間が経ち、もう1つのグループの子らもやってくる。

 彼らは【成長タイプ:マニュアル】という訳ではないが、そうだとしても、この時期に村山マダーレッドサフフラワーズのユースを望んで来てくれた子供達だ。

 当然ながら不合格前提の選考に参加させるつもりはない。

 真剣にその素質を見極め、光るものがあれば合格とする意思は勿論ある。

 とは言え、そこはまた別種の見抜く力が必要だ。

 これに関しては、俺よりも飯谷さんや新葉さんの意見を重視すべきだろう。


 とにもかくにも。

 そこからジュニアユースチームの創設セレクション2次審査は本格的にスタートし、以後のスケジュールもまた恙なく消化していった。

 翌日のユースチームの選考も同じように2グループ体制で実施し、その日の内に全員で選考結果を大まかに纏めると。

 俺は翌日早朝に慌ただしく山形県を発ち、春季キャンプ真っ只中の沖縄県久米島へとトンボ返りしたのだった。

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