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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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302 とりあえず特別強化合宿もこれで終わり

『試合を終えたメキシコ代表団ですが、その日の内に日本を発っています。これについて日本のSNSを中心に反発が起こっており――』


 ロビーに置かれた大型テレビに朝のスポーツニュースが映し出されている。

 見た感じ、今日は昨日行われた特別強化試合の話題一色になりそうだった。

 それこそスポーツニュースの枠を越え、通常なら政治ニュースの時間でも大きく取り上げられているぐらいだからな。

 正直、話題になるにしても全く好ましくない形だけれども。


「……何だか、逃げるように帰ってったわね。メキシコ代表の人達」

「イタリア代表の人らと違って、会見もかなり短かったっす」


 テレビ画面を眺めながら、美海ちゃんと倉本さんが呆れたような口調で言う。


 どちらの国も試合の後に転生者と話す機会がなかったことに変わりはない。

 ただ、同じようにエースが打たれて日本代表に敗北したイタリア代表は記者会見に十分な時間を取っていたし、負けを真摯に受けとめている様子が見られた。

 一方で、メキシコ代表の記者会見は時間で言えば2分の1未満。

 更に言えば内容も薄っぺらかったし、時間が短いのも予定通りではない。

 途中で打ち切ってのものだ。

 それだけでも、逃げ帰ったような印象を受けるのは無理もないことだろう。


「ネットで凄い批判に晒されてるから?」

「うーん。タイミング的にそれは直接関係ないんじゃないか?」


 アナウンサーの言葉にもあった通り。

 確かに今、ネット上ではエドアルド・ルイス選手のピッチングが叩かれていた。

 更には街頭インタビューで思いっ切り顔を出して感情的に批判している人もいたりして、現在進行形で延焼していっているのが感じられる状況だった。

 それも当然と言えば当然のこと。

 ブラッシュボールを何度も意図的に投げ続けたところまではギリギリ許容できるにしても、最後の昇二に対するビーンボールは完全に一線を越えている。

 無理矢理打ってホームランにしたからよかったようなものの、もし頭に当たっていたら目を覆いたくなるような事態になっていたかもしれない。

 そんな風に思い、観客や視聴者は下手なホラーよりも肝を冷やしたに違いない。

 俺も別の意味で背筋が凍った。


 実際には昇二は【怪我しない】ので、ぶつけられたところで何やかんやうまいこと衝撃が逃げたりして無傷で終わっていただろう。

 しかし、そんなことを知らない人々にとっては間違いなく命の危険すら感じさせる1球であり、自分のスキルを認識していない昇二にとってもそのはずだった。

 だから、下手をしたら新しいトラウマを植えつけられかねない。

 そう俺は心配していたのだが……。


 昇二が言うには「体を狙ってきそうな気配を感じてムカッと来たから打ちに行ったけど、夢中だったし、打ち返したから別に恐怖心はないよ」とのことだった。

 後からビーンボールの映像を見てビビッていたのは御愛嬌というところだが、それはあくまでも画面越しのものであって主観視点ではない。

 バッターボックスに立つ上での足枷になるようなことはなさそうだ。

 むしろ早打ちでの超集中の再現性を証明する結果になってくれたように思う。


 それはともかくとして。

 野球に狂ったこの世界では、WBW日本代表に招集された選手というものは国の至宝と言っても過言ではない存在だ。

 そんな相手に対し、偶然でも何でもなく、明らかに意図して頭を狙って投げた。

 当たらなかったで済むような問題ではない。

 この特別強化試合が日本からの提案で、メキシコがそれに応じた数少ない国だったとしても、今生ではそれこそ外交問題にも発展しかねない出来事と言っていい。

 だからこそ政治ニュースでも取り上げられている訳だ。

 SNSを軽々と飛び越えて大炎上の様相を呈しているのは、それ程までに重大な事態だからこその話でもあるけれども――。


「その辺のことがメキシコ代表団にハッキリ伝わる間もなかっただろうしな」


 彼らが日本側の反感を直接的に実感したのは精々、昨日の短い記者会見の中で記者から糾弾染みた質問をぶつけられた時ぐらいのものだったに違いない。

 対してメキシコ代表の首脳陣は曖昧な応答に留め、予定よりも遥かに早い段階で記者会見を打ち切って去ってしまった訳だが……。

 彼らはその足で球場からホテルに戻ると休む間もなく荷物を纏めて空港へと向かい、速やかにチャーター機で日本を発った。

 日本のSNSの状況を把握していたかどうかは実際には分からない。

 ただ、時系列を考えるとそれが切っかけになっているとは思えなかった。


 何故なら。

 この強行スケジュールは、本来はもっと余裕のあった予定が変更されてのもの。

 それこそ、試合中から準備を始めるぐらいでないと時間的に無理があるからだ。

 つまるところ。


「エドアルド・ルイス選手がやらかしてしまった時点で、メキシコ代表団としてもさすがにヤバいと思ったんだろうな」


 彼が昇二にビーンボールを投げた段階から諸々動き出していたに違いない。

 実態を把握していなくても、大きな反発を予想することぐらいはできる。

 メキシコ代表のスタッフだって全員が全員、エドアルド・ルイス選手のようなアレなタイプの人間ばかりのはずもない。

 青くなって、泡を食って撤収準備に入っていても不思議ではないだろう。


「けど、それでほとぼりが冷めるまで逃げるってのは大分悪手よね」


 美海ちゃんの言う通り、炎上対応としてはよろしくないのは確かだ。

 可及的速やかに、とにかく事実だけを並べて、責任転嫁や言い訳をしない。

 そして問題に対してどう対応するかを明確にする。

 炎上対策は過不足があってはいけない。

 沈黙は金とは言うが、こういったことに関しては事態の悪化を招くだけだ。


「ただ、今回のこれは国を跨いだ問題でもあるっすから、またちょっと話が違ってくるんじゃないっすか?」


 まあ、それはそうかもしれない。

 国家レベルの話になると、末端で勝手にあれやこれやするのは難しい。

 専門家に丸投げするのも手、どころか、そうするのがマストかもしれない。

 昨日の今日の話でもある。

 まだギリギリ致命的な遅れとまでは行っていない……はず。


「何にしても、ここから先はもう僕達の手には余るよ。そんなこと気にしてたってしょうがないし、考えない方がいいんじゃないかな」

「まあ、そうよね。それこそ、一番の被害者がこう言ってる訳だし……」

「わたし達は試合で相手を叩きのめすことだけ考えればいい」

「野球選手にできること、すべきことはそれだな。うん」


 あーちゃんの結論に全員同意したところで丁度予定の時間になったため、皆でホテルを出て琉球ライムストーン球場へと向かう。

 メキシコ代表との特別強化試合の翌日である今日。

 特別強化合宿の方も最終日を迎える。

 昨日の禍根が残っていても、これで日程は終わりだ。


 最後にグラウンドで手締めのイベントが予定されており、軽めの練習をこなした後で俺達はマウンドを囲むようにして円形に整列した。

 中央のピッチャープレート付近にはマイクスタンドが置かれている。

 その前に佐々藤選手が進み出て口を開いた。


「まずは今回の特別強化合宿と特別強化試合に携わって下さったスタッフ、関係者の皆様、ありがとうございました」


 春季キャンプなどではキャプテンが行うことの多い最終日手締めの挨拶。

 日本代表は今回キャプテンを設けない方針だったこともあり、最年長の佐々藤選手が落山監督に指名されて挨拶と一本締めを任されていた。

 最年長選手だけあって、こういった場面の経験も豊富なのだろう。

 彼の言葉は淀みなく続いていく。


「そして球場に足を運んで下さったファンの皆様、ありがとうございました。皆様の力強い声援のおかげで日本代表の自覚を忘れず、練習に臨むことができました」


 ほとんど練習のない最終日であっても当然のように満員御礼。

 その中には昇二と出会った桐生さんもいる。

 彼女も含め、この世界のファンの熱量には本当に頭が下がる思いだ。

 佐々藤選手が口にしたことも単なるリップサービスではないだろう。

 これだけの熱い視線を前にして気を抜くことができる者はいないはずだから。


「これから私達は各々の球団に戻り、春季キャンプ、オープン戦、レギュラーシーズンを経てWBW予選に挑むこととなります」


 彼は一度そこで言葉を区切ると、俺達を見回してから再び口を開く。


「各々、更なるレベルアップを果たして再び集まり、次回WBWで最高の結果を得ることができるように頑張っていきましょう」


 それを耳にしながら、俺もまたチラッと周囲を観察した。

 佐々藤選手の挨拶を受け、皆モチベーションを一層高めているのが分かる。

 俺達や転生者を間近に見て尚。

 そう考えると、その精神力には目を見張るものがある。

 しかし、水を差してしまうので口には出さないが、WBW本番でも全く同じメンバーが招集されることはほぼ100%ない。

 ほぼ、どころか、断言してもいいぐらいだ。


 それでも【経験ポイント】取得量増加系スキルのおかげで、この特別強化合宿に参加した選手は全員一回り以上レベルアップしているは間違いない。

 それを本番までしっかりと維持できるかどうかはまた別の話ではあるけれども。

 これから始まる春季キャンプではチームメイトの目標として、球界全体のレベルアップにも大いに寄与してくれることだろう。

 既にカンストしている俺達よりもそんな彼らの方が伸び代があるのは間違いない訳で、底上げという観点ではむしろ影響力が大きいとも言える。

 アメリカ代表との差が最も大きい部分でもあるだけに、他力本願に加えて上から目線にも程があるが、是非とも頑張って欲しいところだ。


「それでは最後、一本締めで締めたいと思います。皆様、お手を拝借」


 佐々藤選手に促され、俺も思考を打ち切って手打ちの用意をする。

 尚、一本締めなどと言いながら、実際にやるのは一丁締めだ。

 春季キャンプでの手締めも大概そうで1回しか手は叩かない。

 混同するといけないので事前にその旨、説明を受けている。


「よーおっ!」

 ――パンッ!!


 綺麗にタイミングが合わさり、重なった音がグラウンドに響き渡る。

 それが終わりの合図。


「ありがとうございました」


 スタンドの観客達からの大きな拍手を受けながら球場を出る。

 こうして特別強化合宿は幕を下ろしたが、既に2月も中旬。

 春季キャンプはとっくに始まっている。

 と言う訳で俺達は。

 そのまま今年も村山マダーレッドサフフラワーズの春季キャンプが開催されている久米島へと慌ただしく向かったのだった。

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