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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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371/416

298 イタリア代表戦を終えて

 特別強化試合1試合目。イタリア代表チームとの戦いが終わりを告げた。

 結果は14-13と僅差で日本代表の勝ち。

 ここだけを切り取ると日本の辛勝という感じがするかもしれないが……。

 詳細に成績を確認していくと、大きく違った印象を受けることになるだろう。

 そんなこの試合のスコアは以下の通りだ。


       1 2 3 4 5 6 7 8 9  計

日本代表   4 0 0 0 0 0 6 3 1 14

イタリア代表 0 1 0 1 0 0 2 2 7 13


 数字の上にも割と表れているが、序盤から中盤までと終盤とでは別のゲームでもしているのではないかというぐらいに雰囲気が変わってしまっている。

 実際、俺の感覚としても似たようなものだ。

 ルカ選手をノックアウトすることができた7回の表。

 そこで1つ区切りがついている。

 なので、それ以前とそれ以後では全くの別物という認識があった。


 初回、アンジェリカ選手が打ち込まれたことで引きずり出されたルカ選手。

 彼がその実力を存分に示しつつも、最後には打ち込まれる形となった。

 そのおかげで、日本国民に対しても諸外国に対しても今回招集された日本代表の実力を明確に示すことができたと言っていいだろう。

 そこまではいわゆる仮想WBWとしての側面が強い試合だった。


 一方で、そこから先は通常の練習試合のような空気感が漂っていた。

 少なくとも日本代表の首脳陣はピッチャーには場数を踏むこと、野手については控え選手の試用といったところに主眼を置いた起用を行っているのが見て取れた。

 もっとも、トライアルとしては全体的に物足りない結果に終わってしまったが。


「はあ……」


 そうしたところを試合後のミーティングで首脳陣に告げられて、物足りない側の1人になってしまった美海ちゃんがホテルに戻ってきたところで深く嘆息する。

 彼女もまた8回に登板していたのだが、スコアを見て分かる通り1回を2失点。

 失点の内訳は、まずルカ選手のソロホームランによる1点。

 それと6番のリリアナ選手のヒット、7番のベアトリーチェ選手の進塁打からの8番のロレンツァ選手のタイムリーヒットの1点だった。

 9回の惨状に比べればマシな結果ではあるものの、とても好投とは言いがたい。

 美海ちゃん自身もまた、試合前にルカ選手が吐いた暴言を完全に否定し切るだけの活躍を見せることができなかったと考えているのがよく分かった。


『――終盤でどうにか巻き返すことができましたが、日本代表の主力の強さは想定以上でした。認識を改めつつ、次回WBWまで鍛え直したいと思います』


 ロビーに置かれた大型テレビから流れてきた音声に全員の視線がそちらに向く。

 画面には試合後に行われたイタリア代表の記者会見の様子が映し出されていた。

 今正に俺達の耳に届いた監督の発言が終わったところでカメラがルカ選手へと向けられ、彼が何とも神妙な表情を浮かべながら口を開く。


『今回の結果には忸怩たる思いがあります。ですが、野村秀治郎選手から1つ学びを得ることができました。次はこうは行きません』


 今日の試合が終わった後、イタリア代表の選手達は速やかに撤収していった。

 加えて、交流会のような場が特に設けられていなかったこともあって、彼らと腰を据えて話をする機会を得ることはできなかった。

 なので、彼の学びとやらがどういったものなのかは想像する以外にない。

 後半になるにつれて集中力が増していったことから、あるいは俺が何度も超集中状態に入っていたのを見て何かコツを掴んだ可能性もあるが……。

 いずれにしても、プレイヤースキルの面で彼にはまだ成長の余地がある。

 確かに今日は勝つことができたものの、だからと言って、過去の敵として忘れ去っていい存在ではないのは確かだ。


『一方で日本代表は層の薄さが露呈していたように感じます。怪我や好不調、トーナメントの組み合わせ次第ではアッサリと敗退する恐れもあるように感じました』


 続く言葉はかなりの部分が負け惜しみだろうとは思う。

 何せ今日スターティングオーダーに名を連ねた選手の大半は、怪我しにくくなるスキルや好不調の波を最小限に抑えるスキルを取得しているからな。

 ルカ選手もまた、それを【マニュアル操作】で確認しているはずだ。


 とは言え、【怪我しない】俺以外はあくまでも怪我をする可能性が低くなるだけだし、好不調の波も完全になくなる訳ではない。

 プレイヤースキル的な部分でのスランプというのもあり得る話だ。

 チームが機能不全に陥る可能性は、限りなく小さくともゼロになる訳ではない。

 確率が低いから問題ないと安易に考えるのは、スポーツ漫画なら負けフラグだ。

 だからこそ、常に万が一に備えておく必要がある。

 層が薄いという指摘についても間違いではないのだから、改善は必要だろう。


 しかし、それはそれとして。


「私って、やっぱり半端よね……」


 ルカ選手の発言は、美海ちゃんに思いっ切りダメージを与えたようだった。

 更には近くで同じようにテレビを見ていた昇二にまで流れ弾が行ってしまったらしく、彼は俯いて口を一文字に結んでいた。

 隠すように顔を伏せているが、この場で最も背が高いこともあって丸見えだ。


 もっとも、昇二に関しては身体能力や技術的な問題ではない。

 それこそメンタル的な部分に端を発した不調だ。

 一方で、美海ちゃんは根本的なスペック不足という壁にぶち当たっている。

 大分ベクトルが違う。


「……ねえ、秀治郎君。どうにかならないかしら」

「もっと色々と変化球を覚える以外にないんじゃないっすか?」


 横から倉本さんが極めて常識的な解決案を提示する。

 だが、今の美海ちゃんはそれで納得できるような状態ではなかった。


「そりゃ球種があるに越したことはないだろうけど、WBWの決勝トーナメントレベルだと最低限の球速がないとダメよ」


 倉本さんのみならず自分自身をも言い伏せるかのように告げた彼女は、俺を見詰めながら正否を問いかけるように続けた。


「緩急を使うにしても、緩い球自体がある程度速くないと効果的じゃないもの」

「……そうだな」


 彼女の主張に頷いて同意する。


「緩急を使うピッチャーに限らず、平均球速が速い方が有利なのは間違いない。バッターが球種を見極められる時間的な猶予がそれに応じて短くなる訳だからな」


 だからこそ、不規則変化のナックルが美海ちゃんの生命線な訳だが……。

 ルカ選手に柵越えされたのはナックルを際立たせるために投じたボール球。

 ロレンツァ選手にタイムリーヒットを打たれたのは正にそのナックル。

 いずれにしても、見せ球がうまく機能していないのは明らかだった。

 勿論、今日よりも更にナックルが大きく変化して揺れるような環境であれば、また違った結果になってくるかもしれない。

 とは言え、それは強風とか余程の状態だろう。

 天候を頼みにするのは、かなり分の悪いギャンブルとしか言いようがない。


 次回のWBW決勝トーナメントの舞台も前回覇者のアメリカだ。

 基本的に屋外球場ではあるが、場所によって気温や湿度は大幅に違ってくる。

 季節や天候によっては風もなく、ナックルがほとんどブレないような環境で投げざるを得なくなる可能性だって当然ながらある。

 そういった状況下で、強敵相手にナックル以外の変化球とMax144km/hの直球のコンビネーションだけで戦い抜くのは心許ない。

 アメリカ代表は勿論のこと、転生者を擁する国を抑えるのも厳しいだろう。


「どうにか、もっと球速を上げられないかしら」


 その願望に行き当たってしまった美海ちゃんは、縋るような目を向けてくる。

 困難な、と言うよりも、ほぼほぼ不可能な話なのは重々承知の上に違いない。

 それだけに、今の彼女は行くべき道を見失って途方に暮れた迷子のようだった。


「ここでは何だから、一旦部屋に行って話をしよう」

「……分かったわ」


 込み入った話になるからと促すと、美海ちゃんは真剣に頷いて俺の後に続いた。

 とりあえず夕食はルームサービスで済ますことにして、村山マダーレッドサフフラワーズ組を引き連れて俺とあーちゃんの部屋に向かう。

 その間もずっと美海ちゃんは消沈していた。

 なので、俺は部屋の中に入って早々に話を再開することにした。


「あーちゃんもそうだけど、美海ちゃんも倉本さんも肉体的には既に完成されている状態だ。残念ながら、ここから身体能力の面で成長する余地はないだろう」


 基礎ステータスはカンストしているし、基本的なスキルは取得済み。

 一応、倉本さんの提案通りに球種を増やす余地はまだあるし、磐城君のような多段変化をこれから習得して投球の幅を広げるのは不可能ではない。

 しかし、いずれにしても──。


「普通に考えれば、後は持てる手札でどうにかするしかない」


 球速がネックになっていることが問題になっているにもかかわらず、そんな何の解決にもなっていないことを言わざるを得ないのが一般論だろう。

 それを耳にし、美海ちゃんは一層落ち込んだように顔を伏せてしまうが……。


「つまり、普通じゃない考えがある?」


 キッチリと含意をくみ取ったあーちゃんの問いかけを受け、美海ちゃんはハッとしたように顔を上げて俺を見た。

 そんな彼女達に対し、少し躊躇いながらも深く頷く。

 正直なところ、これは俺としては余り積極的に推し進めたい方法ではない。

 正に最後の手段。ある意味、禁じ手と言ってもいいぐらいだ。

 それでも、決して越えられない壁にぶち当たってしまった彼女を前にして提示しないままでいることはできなかった。


「秀治郎君。それって、どういうこと?」

「ここから先の領域に入っていくには、相応の代償を払う必要があるってことだ」

「代償……?」


 困惑したように呟く美海ちゃんに内心苦笑いしてしまう。

 もう何度目になるか分からないけれども、毎度毎度悪魔の取引みたいだ。

 そう思いながらも、真っ直ぐ美海ちゃんと目と目を合わせて口を開く。


「そう。だから、美海ちゃんにはまずその覚悟を問わないといけない」


 強く視線で圧をかける。

 生半可な気持ちで頷かれては困る。

 対して美海ちゃんは、僅かに視線を揺らしてから――。

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