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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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296 たまにはキャッチャーとして

 3回の裏。イタリア代表の攻撃は8番バッターのロレンツァ選手から。

 彼女と9番バッターのモニカ選手はまだ1打席目。これが磐城君との初対戦だ。

 それ故に、2人はまだ彼の多段変化には対応し切れていなかった。

 ロレンツァ選手は高々と上がった内野フライ。

 モニカ選手はボテボテの内野ゴロに倒れて2アウトとなり、1巡目が終わる。

 そうして2アウトランナーなしの状況で打順は1番へと戻り……。

 2巡目。2打席目を迎えたジャンナ選手がバッターボックスに立った。


『──貴方、アントニーノに余計なことをおっしゃっていたようですわね』


 その彼女は俺に対し、ハッキリした敵意と共にそんな言葉を投げかけてくる。

 また【外国語理解(野球)】の翻訳が怪しいことになっている。

 これはもう仕様と思っておくしかなさそうだ。

 もしかすると彼女らの精神性が反映されているのだろうか。

 ふとそんな考えを抱くが、今は折角の特別強化試合の真っ只中だ。

 一先ず、余計な思考は頭の外に無理矢理追い出しておく。


『ええと、何の話でしょうか』

『ルカを抑え込めば勝てる訳ではないこと、わたくしが証明して差し上げますわ』


 どうやら俺と会話のキャッチボールをするつもりはないらしい。

 彼女はそう一方的に告げると、1打席目よりも大きなフォームで構えた。

 如何にもフルスイングで長打を狙っていますという感じだったが……。

 これは少々わざとらしい。

 別の狙いを隠すためのパフォーマンスと見るべきだろう。

 さりげなくバッターボックスの1番前に立ってもいるしな。


 それらを鑑み、俺は初球を一旦アウトコースに外して様子を見ることにした。

 そのように磐城君に対してサインを送って指示し、顔は正面に向けたままでジャンナ選手をマスク越しに横目で注視する。

 彼女の一挙手一投足を見逃さないように。

 そして磐城君が1球目の投球動作に入る。


「む」


 正に次の瞬間、ジャンナ選手は僅かにバットを握る左手を開きかけた。

 重心も通常のバッティングフォームとは若干異なる形で移動しつつあった。

 これは……。

 恐らく、彼女はセーフティバントの構えに移行しようとしていた。

 そう見て間違いないだろう。だが――。


「ボールッ!」


 俺達が初球に選んだのはアウトコースに明らかに外れる直球だった。

 ジャンナ選手もまた即座にそうと認識し、咄嗟にその動作をやめた。

 そして何ごともなかったかのようにボールを見送り、同時に彼女は見極めてバットをとめましたとでも言わんばかりの動きを見せる。

 自分の意図を隠蔽しようと試みているかのように。

 しかし、さすがに間近で見ていて誤魔化されはしない。


『成程。セーフティバントですか』


 ボールを返しながら呟いた俺に、ジャンナ選手は忌々しげに表情を歪めた。

 見抜かれたことよりも煽っているように聞こえてイラッと来たのだろうが、それはそれとして、そんな彼女の反応から改めて強く確信する。

 ジャンナ選手は間違いなく、初球セーフティバントによる出塁を企んでいた。

 ポンポンと2アウトを取った後の守備ということで綻びが生じると踏んだのか。

 あるいは、そんなものは関係なくセーフになる自信があったのか。

 いずれにしても、バントヒットの方が普通に打つよりも確率が高い。

 彼女はそう考えたに違いない。


 キャッチャーはそういったバッターの意図を僅かなフォームの違いや動作、視線などから見抜かなければならない。

 それもまた、このポジションの重要な仕事の1つと言っていい。

 勿論、キャッチャー以外でも見極める目を持っているに越したことはない。

 特に内野手。

 1球毎に守備位置を的確に変えてくる守備の名手と呼ばれるような選手は、そういったところにも長けている訳だ。

 まあ、あーちゃんと倉本さんの二遊間は大分直感的なところに頼ってるけどな。


 それはともかくとして。

 こうしてハイレベルの戦いの中で実践できる機会は非常に貴重だ。

 十二分に活用しなければならない。

 現在、3回の裏2アウトランナーなしと比較的リスクが低い状況。

 ここは1つ、そういった部分に関する実践的な練習の場を作りたいところだ。


『中々悪くない戦術ですね」


 そこまで考えてから、俺は本心と煽りの混ざった称賛を口にした。

 ジャンナ選手は主に後者として受け取ったようで、あからさまに眉をひそめる。

 とは言え、実際。

 彼女が持つ【生得スキル】【天性のスプリンター】とそれは相性がいい。

 もし俺があの時このスキルを選んでいたとしたら、どのような状況で打席に立っていても常にセーフティバントを選択肢の1つとして持っていたはずだ。


 閑話休題。


 問題は今。俺に意図を見抜かれて、ジャンナ選手がどうするのか。

 セーフティバントをやめて打ちにいくのか。

 あるいはセーフティバントを強行するのか。

 対する俺達は、それをどうにかして防ぎに行くのか。

 それともバントをさせてアウトにすることを狙っていくのか。

 2アウトランナーなしと別に複雑な状況ではないものの、殊更堅苦しく、細かく状況を分析していくとそういった場面となる。


 並のバッターであれば、そもそもの話、余程油断していなければセーフティバントなど愚策。容易く防ぐことができるだろう。

 長打力の乏しいスピードスターだったとしても、無駄に意識することなく通常通りに攻めるのが肝要だ。問題提起をする意味はほとんどない。

 しかし、ジャンナ選手は【比翼連理】の効果もあって油断できない強打者。

 磐城君の多段変化で惑わせた1打席目のようには行かないはずだ。

 バントを防ごうとカウントを悪くした挙句、長打を打たれては堪らない。

 盗塁の懸念はあっても、バントヒットの方がまだマシという考えもある。


 それ以上に、彼女クラスの選手に対するバント処理もいい経験となるだろう。

 盗塁の攻防もまた。

 WBWならいざ知らず、今は特別強化試合だ。

 こういう場面でこそできる練習というものもある。

 1点詰められたとは言え、まだ3点差ついているからな。

 それこそ今の内だろう。


『……どうぞ。やって見せて下さい。シニョリーナ・ジャンナ』

『貴方、わたくしを舐め腐ってやがりますわね』


 俺の慇懃無礼な挑発に、ジャンナ選手がようやく会話をしてくれる。

 こめかみに青筋でも立てていそうな雰囲気なので、恐らく更に【好感度】は下がってしまっていることだろう。

 この場で確認はしないけれども。


『よろしいですわ。どうあれ、出塁してみせます』


 勿論、それで素直にセーフティバントをするとは限らない。

 それでも、バント警戒の指示をジェスチャーで出しておく。

 皆の頭にその情報をぶち込み、打席に立つのは警戒すべきバッターの1人のジャンナ選手であるという前提の下で次に自分がどう動くべきかを考えて貰うために。

 磐城君とは改めてサイン交換を行い、転がしやすいように低めの指示を出す。

 球種はインコース低めに落ちるスプリット。


 ――カツン。


 それに対してジャンナ選手は打つ前に走り出しながら寝かせたバットに当て、的確に打球の勢いをコントロールして3塁方向へと転がした。

 サードの白露選手が猛然とチャージしてくる。

 だが、内野陣は強打も警戒して守備位置を前にすることはできなかった。

 それではジャンナ選手の加速には対処することができない。

 白露選手がグローブを使わずに捕球して1塁送球するが、間に合わなかった。


「セーフッ!」


 そのジャンナ選手の脅威的なスピードに球場がどよめく。

 陸上短距離男子の最高レベルと同等。

 あるいは、それ以上。

 そのように感じたに違いない。


 まあ、実際に100m走をさせてもスキルが作用しないので、そうはならない。

 基礎ステータスは高いので、女子の世界記録は狙えるかもしれないけれども。


 ともあれ、これで2アウトランナー1塁。

 2番のナタリア選手が右のバッターボックスに入ってくる。

 彼女の打力もまた警戒を緩めることはできない。

 しかし、今この瞬間はより警戒しなければならないものが存在する。

 今正に1塁に出塁したジャンナ選手の盗塁だ。


『あれは、やる気ですね』


 塁上から挑戦的な目を向けてきている彼女に、初球から仕かけてくると察する。


『アンタに目に物言わせてやりたいんだろうさ』


 若干軽薄な感じの口調で翻訳されたナタリア選手の言葉に微妙な顔になる。

 彼女は俺が怯んでいるとでも考えたのか、少し得意気な笑みを浮かべた。

 それだけジャンナ選手の足を信頼しているのだろう。

 何せ彼女のプロにおける生涯盗塁成功率は現状、驚異の100%だからな。


 まあ、勿論。そこにはちょっとした絡繰りがある。

 何度か牽制死はあるのだが、ルール上それは盗塁成功率に関係しない。

 釣り出されてしまった時も1塁に戻ってアウトになれば牽制死だ。

 それを利用しているおかげでもある。

 当然ながら、だからと言って盗塁成功率100%の記録が色褪せることはない。

 盗塁を実行したら、しっかり全て成功させているのだから凄いことだ。


『ジャンナはとめられないよ』

『……それは、面白いですね』


 盗塁阻止は正にキャッチャーの華。

 たまにはそういうところで魅せるのもいい。


『では、受けて立ちましょう』


 俺は彼女にそう告げると【離見の見】をトリガーに超集中状態に入った。

 これが最も分かりやすく、派手に活躍してくれる場面はバッティングだ。

 しかし、何もそれだけにしか使えない訳ではない。

 守備にも、それこそキャッチャーの役目においても間違いなく有用だ。


『牽制しないのかい?』

『ええ。ジャンナ選手と、真っ向勝負です』


 磐城君にアウトコース高めに外したボール球のストレートを要求する。

 最も2塁送球しやすいコース。

 盗塁をしてくると分かっている。

 ジャンナ選手は恐らく、それ程までに明らかにキャッチャー有利の状況であってもイタリアでは無双していたのだろう。

 だが――。


 磐城君がセットポジションからクイックで投げる。

 ジャンナ選手が走る。

 ナタリア選手は空振りをして盗塁を助けようとする。

 それらを超集中状態で全て見極める。


 タイミングを合わせ、直球の軌道の上でボールを掴む前からテイクバックする。

 キャッチャーミットをその直前に差し込んで捕球。と言うか、ほぼ当てるだけ。

 それで投球の勢いを殺しつつ、最小限の動きで右手にボールを受け渡す。

 と同時に、強引に送球を開始した。

 ナタリア選手のスイングを避けるようにしながら、2塁ベースにスライディングしてくる走者に最もタッチしやすい位置への最短距離となるように。

 Max170km/hを存分に活かしたボールはしゃがんだ磐城君のすぐ脇を通過し、丁度2塁に入ったあーちゃんのグローブに収まる。

 僅かに遅れて、ジャンナ選手の右足がそこに触れた。


「シズアウッ!!」


 ジャンナ選手の走塁のスピード。

 俺のストライク送球のスピード。

 いずれも世界最高峰であるが故に、その攻防に2塁塁審は興奮したようだ。

 強く気合の入ったコールが球場に響き渡る。


「「「「わあああああああああっ!!」」」」


 遅れて観客達も沸き立った。

 ジャンナ選手を刺して3アウトチェンジ。

 日本代表はこの回を無失点に抑え、特別強化試合は中盤戦へと入っていく。

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