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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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295 ピッチャーとしてのルカ選手

「みっく。アレの球、思ったよりもノビるし、キレもある。注意」

「茜っち……分かったっす。気をつけるっす」


 2回裏の守備を終えてベンチに戻る途中。

 ファウルラインを跨いだ辺りであーちゃんが倉本さんの傍にススッと近寄り、そうアドバイスを送っているのが耳に届く。

 3回の表。日本代表チームの攻撃は2番バッターである倉本さんから。

 その彼女はベンチで速やかにヘルメットを深く被ると、バット片手に駆け足で右のバッターボックスへと向かっていった。


「思ったよりもノビるし、キレもある。思ったよりもノビるし、キレもある」


 自分に言い聞かせるように、あーちゃんの言葉を繰り返し呟きながら。

 そんな倉本さんの背中を見送っていた美海ちゃんがあーちゃんに視線を移す。


「えっと……ルカ選手って、そんなにヤバいピッチャーだったの?」

「ん」


 美海ちゃんの問いかけに、少々不本意そうにしながらも小さく頷くあーちゃん。

 普段の彼女の反応と比較し、これはガチッぽいと美海ちゃんは表情を固くする。


 実際に打席に立って対峙しなければ、中々正確に評価することは難しいものだ。

 あーちゃんもまた、過小評価していた部分があったのかもしれない。


「あの球速帯にしては球質がおかしい。さすがに並のピッチャーとは言えない」

「球質……」


 やはり【比翼連理】が効いているのだろう。

 例えば、回転軸を調整して最適化するスキル。

 スピン量を制御し、その最大量を向上させるスキル。

 それらはルカ選手もアンジェリカ選手も共に保有している。

 つまり重複している訳で、それが【比翼連理】の効果によって1.5倍。

 まあ、そこから先。実際に現実へと出力される時にどうなるかはマスクデータになっている上に検証することもできないので分からないが……。

 いずれにしてもルカ選手の投げる球は、これらの相乗作用によって個人で通常なし得る最高レベルのノビやキレの更に一歩先を行っている訳だ。


「あのピッチングマシンの上限レベル。もしかすると少し超えてるかも」

「え、茜。マジで言ってる?」

「ん。マジ」


 勿論、あのマシンは球速だけだったらもっと速く設定することもできる。

 一方でスピン量や変化量は物理的な計算値の上限に基づいているのだが……。

 あーちゃんがここまで言うのであれば、ルカ選手の球は彼の球速で実現可能な回転の理論値以上を叩き出しているのかもしれない。

 あるいは、アメリカ代表のレジェンド達すら微妙に凌駕している可能性もある。

 とは言え、あくまでも167km/hの球質としては、の話だけれども。


 何せ、レジェンド達はそこから更に5km/h以上、当たり前のように球速を上乗せしてくる上に多段的に変化量を制御したりしてくるのだ。

 このルカ選手でさえ、総合的には一段も二段も劣ると言わざるを得ないだろう。

 それでも、現状対戦可能な敵の中では彼が最高のピッチャーなのは間違いない。

 対アメリカ代表戦を占う相手としては悪くないのは確かだ。


 ──カキンッ!!

「あ! ……あぁ」


 いい打球音に期待したような目を向けた美海ちゃんは、しかし、その行方を確認して少しばかり落胆したような声を出した。

 2ストライクまでルカ選手の球をジックリと見ていた倉本さんは、3球目に投じられたスプリットの軌道にうまくバットを合わせた。

 だが、芯を食い過ぎたようだ。

 更に低めを打った分だけ弾道もまた非常に低くなってしまった。

 それによって飛距離が思うように伸びなかったようだ。

 結果としてレフト真正面へのライナーに終わって1アウト。


「……物凄く球が重かったっす」


 倉本さんは難しい表情を浮かべながらベンチに戻ってきた。


 球が重く感じるのは、主に適切なタイミングでミートできてないことが要因だ。

 つまるところ【軌道解析】と自分の認識とに明確なズレが生じたのだろう。

 あーちゃんと彼女には己の判断を信じるように言ってきた上での話。

 それだけ常識から逸脱した球だった訳だ。


 しかし、それはそれとして。

 今後はその打席の中で可能な限り修正していかなければならない。

 実際にできるかはともかく、それぐらいの気持ちは不可欠だ。

 その試合の決着がつくまでの間に対応する、というだけでは余りに呑気過ぎる。

 短期決戦の流れは速い。挽回のチャンスは巡ってこない。

 また次の機会などと悠長なことは言っていられない。


 そういった意味でも。

 改めて、今回の特別強化試合は経験を蓄積するいい機会と言っていい。

 だからこそ、その一助となるように俺からも軽くアドバイスをしておく。


「ストライクゾーンに来た球なら、見逃すよりは振った方がいい」


 ネクストバッターズサークルに向かう準備をしながら告げる。

 勿論、それは基本的なことだ。

 勉強会などでも度々口にしていることではある。

 とは言え、倉本さんは【軌道解析】のおかげでコンタクトが容易な分、ほとんどの場合において一々そんなことを考える必要はない。

 こういう場面でこそ、実感と共に咀嚼することができようというものだ。


「わざと空振りしてタイミングを見極める。万が一当ててしまっても、ファウルで逃げて凡退しないように気をつける。そうして自分の中の狂いを修正するんだ」

「それは勿論、頭では分かってるっすけど……中々難しいっすよ」


 キッチリ振り切りながらも意図的に空振りするというのは割と難易度が高い。

 ただ、彼女の場合のそれは特に心理的な部分の方が大きい。

 軌道が分かっているのだから、そこを避ければいいだけではあるのだが……。

 容易にミートすることができるが故に、どうしても打ちに行ってしまうのだ。

 しかし、微妙な感覚の狂いはやはり振ってこそ修正することができるもの。

 代打では「ファーストストライクは必ず振る」というのがセオリーだしな。


「ま、そういうところを練習するためにあるのが今日の特別強化試合だ。幸いにして次の打席もあるだろうから、そこを意識していこう」

「了解っす」


 倉本さんの素直な返事に頷いてから、ネクストバッターズサークルへと向かう。

 彼女との会話でちょっと時間を食ってしまったので急ぎ気味に。

 1アウトランナーなしで打席に入ったのは3番バッターの山崎選手。

 彼はコンタクト力に補正が入るような【生得スキル】は持っていない。

 他はカンストしているが、さすがに初回で完全に対応するのは難しいだろう。

 その予想通り。

 山崎選手は積極的に打ちに行ったものの、空振りの三振に終わってしまった。

 結果、2アウトランナーなしの場面で俺に打席が回ってくる形となった。


『――ルカ選手は凄いピッチャーですね』


 バッターボックスの中でルーティーンの動作を行いながら、キャッチャースボックスにいるアントニーノ選手に声をかける。

 今度はさすがに返答がなかった。

 別に期待はしていなかったので、意識をマウンドに向けて構えを取る。


『…………ストレート』


 ポツリと呟かれたアントニーノ選手の言葉に俺が何か反応するよりも早く、ルカ選手が投球動作に入った。

 そして1球目をストライクゾーンに投じてくる。

 球種はアントニーノ選手の言葉通りの直球だった。

 一瞬虚を衝かれてしまったものの、つい数分前に偉そうに倉本さんに対してアドバイスをした手前、ここで見送る訳にはいかない。

 これまでの投球を基に、ボールの少し下に入るようにスイングする。

 それでも僅かに掠ってファウルになる。そう予想していたが……。


 ――パァンッ!

「む」


 バットは空を切ってしまい、アントニーノ選手がいい音を鳴らして捕球する。

 想定したよりもホップ成分が効いており、ボールの軌道は更に上を行っていた。

 空振りで1ストライク。

 電光掲示板の球速表示は当然のように167km/h。

 俺よりは遅いが、やはり球質だけで言うならルカ選手の方が上だろう。

 基礎ステータス的には【全力プレイ】と【身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ】を取得している俺が勝っているが、それを質で十二分に補っている訳だ。


 勿論、それは既に分かっていたことなのでいいとして。


『中々面白い趣向ですね』

『……シュート』


 アントニーノ選手がささやきで駆け引きをしてくる。

 特別強化試合だからこそできるお遊びではあるが、これはこれで悪くない。

 先程は口にした球種がそのまま来たが――。


「ボールッ!」


 今度はパワーカーブが内角高めの更に内側に抉り込むように来た。

 一応振りに行くが、さすがにバットをとめて僅かに体を反る。

 変化球も一段以上変化量が大きい上に凄まじいキレもある。

 これは超集中状態に入らないと完璧には追い切れないだろう。

 と言うことで、早速【離見の見】をトリガーに意識を研ぎ澄ませる。


『ストレート』


 アントニーノ選手の声は認識したものの、俺の中の判断材料には入れない。

 ルカ選手のリリースポイントだけを見据える。

 握りはシンカー。回転もそう。

 投じられたのは高速シンカーだった。

 コースは外角低め。

 先程のカーブで補正をかけた変化量で考えれば、キッチリ四隅に来るはず。

 アッパースイングでかち上げてやろうとフルスイングに入る。


 ──カキンッ!

「ちっ」


 しかし、ルカ選手の球は想定よりも更に少し落ちた。

 結果、擦るように捉える形となり……。

 打球はセカンドのエリザベッタ選手の頭上を越えて飛んだ。

 右中間真っ二つ。長打コース。

 ポイントがズレたことでボールは強い回転がかかっており、追いかけるセンターとライトから逃げるようにうまく転がっていく。

 その間に一気にベースを駆け抜け、俺は3塁を陥れた。

 丁度その辺りで中継にボールが返ってくる。

 3ベースヒットで2アウトからチャンスを作った形だ。

 とは言え、超集中状態で仕留められなかったことには忸怩たる思いを抱く。

 まあ、俺を返してくれれば何の問題もないのだが、続くバッターは――。


『5番、センター、瀬川昇二』


 ウグイス嬢のアナウンス通り。

 ここ最近、早打ちの嫌いがある昇二だ。

 何はともあれ、結果を出して欲しい。

 俺はそう思って3塁上から見守っていたが……。


 彼はここでも待つということはしなかった。

 ただ、ルカ選手の球は昇二にとっても想定以上だったのか、手が出なかったボール球と空振りが2つずつあってカウントとしては2ボール2ストライクまで行く。

 しかし、その次のスプリットを空振りしてしまって三振。3アウト。

 日本代表は、3回表の攻撃もまた無得点に終わってしまったのだった。

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