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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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363/416

293 特別強化試合初回の攻守交替

 試合は未だ1回の表。ノーアウトランナーなし。

 打順は5番。両打ちの昇二が右打席に入る。

 アンジェリカ選手は、現状1アウトも取れずに4失点という状況ながら続投。

 ルカ選手とアントニーノ選手がマウンドに行って声をかけたおかげか、見た感じ落ち着きを取り戻している様子だ。

 精神安定系のスキルも十分機能する程度にまで回復したのだろう。


「……あれ、晒し投げ?」


 ソロホームランを打ってベンチに戻ってきた俺があーちゃんの隣に座ったところで、彼女が小首を傾げながら問いかけてくる。


「いやいや、さすがにそういうことじゃないだろ」


 いくら何でも1回表から晒し投げという形で投げ続けさせることはないはずだ。

 レギュラーシーズンだったらローテーションやリリーフの負担などを鑑みて「とにかく回を投げて欲しい」といった考えで続投させることは十分にあり得る。

 まあ、今回は特別強化試合なので後のことを考える必要はない。

 長期戦での台所事情的な問題で続投させている訳ではないのは確かだが……。


「晒し投げなら、アンジェリカ選手ももっと悲壮な表情を浮かべてるだろうしね」

「確かに。自然体な感じ」


 美海ちゃんの言葉にチラッとマウンドを見てから頷くあーちゃん。

 とりあえず、それらとは別の考えの下で降ろさなかったと見るのが妥当だろう。

 1回の表だし、ブルペンの準備が全く整っていなかった可能性だってある。


 ただ、まあ。

 短期決戦では初回からブルペン待機をすることも普通にあり得るからな。

 WBW決勝トーナメント級の相手だけに先発が打ち込まれることも含め、こちらはそういったことも想定して中継ぎ陣は既に肩を作り始めている。

 これに関しても次の試合まで時間が空くので問題はない。

 負担の度合いとしては練習とそう大きく変わらないだろう。


 いずれにしても。

 折角の国際試合の機会に何もしていないのであれば、それはもはや首脳陣の怠慢であり、油断と言っても過言ではない。

 そんな風に考えながら、昇二とアンジェリカ選手との対戦を見守る。

 その初球だった。


 ──カツンッ!


「あ、昇二。また」


 あーちゃんに対して9球。倉本さんに対して8球。

 山崎選手に対して3球。俺に対して4球で合計24球。

 そこからのアンジェリカ選手の25球目。

 アウトコースのストライクゾーンからボールゾーンへと逃げていくシンカー。

 昇二はそれを振りに行き、態勢を崩しながらバットの先の先で何とか当てた。

 打球の速度としては程々。ただし、イージーゴロで、その行方はファーストのベアトリーチェ選手の真正面だった。


「ヒズアウトッ!」


 1塁ベースのほぼ直上で容易に捕球し、そのままベースを踏んで1アウト。

 ホームランで1度試合が途切れていたこともあり、ようやくのアウトという雰囲気ではなく、すんなりアウトを取られてしまったかのような錯覚が少しあった。


「バッティング方面は私が大きな顔で言えないけど、これはやらかしたわね」

「単なる1アウト以上に罪深いっす」


 4失点。

 ホームランの後のノーアウトランナーなし

 その場面で僅か1球でアウト。

 試合全体の流れに影響を及ぼしかねず、倉本さんの評価も過剰ではない。


「…………なあ、昇二の奴、ここ最近ずっと淡白な打席が続いてないか?」

「あー、まあ、うん」


 大松君の問いに対し、若干返答に迷いながらも眉間にしわを寄せて肯定する。

 同じ球団の選手ではないので最近の傾向について彼に説明はしていない。

 傍から見ていて大松君自身が気づいたことだ。

 そうなるとイタリア代表チーム側も認識していても不思議ではない。

 昇二に対する初球のボール球は俺に対するような逃げのボール球ではなく、そういった部分を加味しての計算された1球だった可能性が高い。


「このまま後2人もサクッと倒れたら息を吹き返しそうだね……」

「6番は黒井選手、7番は白露選手だからな。あり得なくはないゼ」


 大松君が他の選手もいるベンチで大分失礼なことを言って冷やりとする。

 チラッと周囲の様子を窺った限りでは聞こえていなかったようだ。

 心の中で安堵の溜息をつく。

 とは言え、彼らがスキル的に一段も二段も落ちてしまうのは否めない。

 そして実際に。

 2人の発言がフラグとなったかのように、彼らも倒れてしまって3アウト。

 日本代表チームは初回からホームラン3本で4点を挙げたものの、3者連続ゴロアウトでチェンジとなった。

 それでも昇二とは違って4球ずつ投げさせていたので貢献度は随分と違う。


「……イメージをよくするための続投?」

「かもな」


 ベンチに引き上げていく途中、ルカ選手がアンジェリカ選手を労わっている姿を見て、あーちゃんが無表情で問うように呟く。

 打ち込まれて降板するよりも1回を投げ切ってからの方が気持ちよく……とは行かないが、マシな精神状態で降りることができる。

 後々、内容を引きずらずに済みやすい。

 そういったことを狙って続投させた側面もありそうだ。


「舐められてる」


 あーちゃんは昇二に対し、そう簡潔に告げてショートのポジションに向かう。

 5番、6番、7番。

 その面子を見た上で、何とかなると判断して続投させた。

 つまりはそういうことだ。


「うん……」


 昇二はぐうの音も出ないとばかりに頷き、そのままセンターへと駆けていく。

 守備に影響が出なければいいが……。

 精神的な部分はケアがとにかく難しい。

 転生した程度では、専門的な勉強をした訳でもない俺には難しい話だ。


 こういうのは専門的なスポーツカウンセラーに頼るべきなのだろうが、そっち方面は人材的にまだ充実していないからな。

 山大総合野球研究会に心理学を学んでいる人はいたものの、彼女は確か行動心理学方面だからまた少しズレている。

 そういった部分も含め、改善の切っかけを待つことしかできないのが現状だ。

 本当にもどかしい。

 もどかしいが、今は試合中。

 まだ1回の表の攻撃が終わったばかりだ。

 試合に集中しなければ。


「磐城君。全体ミーティングでも話に出てた通り、1番バッターのジャンナ選手は出塁させると厄介になる。立ち上がり丁寧に行こう」

「勿論。分かっているよ」


 磐城君とそう言葉を交わしてから俺もまた守備位置へと向かう。

 投球練習を終え、左のバッターボックスに入ってきたジャンナ選手をキャッチャースボックスから横目で観察する。

 注意すべき【比翼連理】持ちの選手の内の1人だ。

【成長タイプ】は【スピード】で、スキルも全体的にそちらに寄っている。

 更に彼女は【生得スキル】を1つ持っていた。


 名称は【天性のスプリンター】。

 効果は名前から想像できるそのままで『走り出しから最高速度に至るまでの時間を大幅に短縮する』というものだ。

 走塁・盗塁系統の【通常スキル】や【極みスキル】とも重複する上、それらはいずれも【比翼連理】で効果が増している。

 ほとんど1歩目から最高速度に達するぐらいだろう。

 その上、ステータスそのものもまた【体格補正】のマイナスをルカ選手の【パトロネージュ(対女性)】である程度打ち消されている。

 塁に出すと引っ掻き回されること間違いないスピードタイプの1番打者だ。


「プレイッ!」


 主審のコールに合わせ、サインを交わしてミットを高めに構える。

【戦績】を見る限り、低めの方が打率はいい。

 一方で長打率、ホームラン数は当然ながら高めの方が高い。

 つまりは、足を活かした内野安打がそれなりの割合を占めているということだ。

 それが【戦績】からも明確に見て取れる。


 加えて盗塁。

 ジャンナ選手はイタリア最高峰のプロリーグ、スクデットリーグの盗塁王だ。

 シーズン最多記録を更新している。

 単なるシングルヒットが2ベースヒットや3ベースヒットにもなり得る。

 フォアボールも回避しなければならない選手だ。


 かと言って、ストライクゾーンの高めで押せばいい非力な選手ではない。

【戦績】のコース別成績を見るに、女性だからと安易に力勝負を挑んでホームランを打たれてしまったピッチャーが何人もいたのは間違いない。

 そんな彼らと同じ轍を踏む訳にはいかないが、4点の差ができた状態であれば先頭打者のソロホームランはそこまでダメージが大きくはない。

 勿論、1点は1点。

 小さい訳ではないが、出塁されて掻き乱されるのとどちらがいいかという話だ。


「ボールッ!」


 初球。インコース高めへのカーブは見逃されてボール。

 高めに外した形。

 しっかりとカーブを認識して見極めた感じだ。

 ふむ。

 2球目のサインを送り、ミットを構える。

 磐城君が再びカーブを投じる。


「ストライクワンッ!」


 球審のコールに、ジャンナ選手が俺の方を見る。

 全く同じ軌道から、縦の変化量を僅かに大きくした。

 そのカーブは高めいっぱいに決まった。

 ジャンナ選手は1球目と同程度の変化と判断したのだろう。

 結果、見逃しとなって1ボール1ストライク。

 続いて3球目。

 今度は外角高めから更に外れた位置から曲がる球。

 変化量を最大にしたカーブを要求する。


「ストライクツーッ!」


 アウトコース高めいっぱいに決まって1ボール2ストライク。

 ジャンナ選手が再び俺を見て、今度は明らかに睨んできている。

 そんな彼女に俺は視線をやり、わざとらしくフッと笑った。

 一層厳しい表情を浮かべるジャンナ選手を無視し、磐城君の方に顔を向ける。

 そのまま次の球種のサインを送る。

 1ボール2ストライクからの4球目。


 ――パァンッ!

「ストライクスリーッ!!」


 内角高めへ抉り込むような162km/hの直球。

 ジャンナ選手は手が出ずに見逃し三振。

 厄介な選手を出塁させずに済み、ホッと一息つく。

 初回の最初のバッターから、いきなりハイカロリーな戦いだった。

 しかし、WBW本番ではこれが当たり前になるのだろう。

 それを疑似体験できただけでも特別強化試合の価値がある。


『くっ』


 凡退した彼女はバッターボックスの中で立ち尽くして忌々しげな声を出すと、体全体をこちらに向けてキッと俺を睨みつけた。

 そうして負け惜しみを1つ。


『……小賢しい真似をなさいますこと。次は打ちますわ』

『お、おう』


 おい、【隠しスキル】【外国語理解(野球)】。

 彼女の口調は本当にそれでいいのか?

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