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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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284 熱と若さ

「打倒アメリカ代表。WBW制覇。いずれも歴史的な快挙です」


 まあ、今生では改めて言うまでもないぐらい当たり前のことだ。

 これらは今生の野球史において、どの国も未だ成し遂げていないことだからな。

 当たり前のこと過ぎて。

 何より、余りにも難易度が高過ぎて達成の見込みがほぼないが故に。

 それこそサルがタイプライターでシェイクスピアを書き上げる与太話の如く、非現実的な妄想の類であるかの如く軽く流されてしまいがちだった。

 しかし、命題としては真だ。

 その事実を再確認して周知するように強く告げる。


「俺達が作ったプロ野球日本記録も霞む大偉業でしょう」


 実際の価値は比べるに値しないレベルだが、彼らも日本プロ野球の一員。

 そこは少し配慮して若干丸い表現にしておく。


 現状、日本の。もといアメリカ以外のプロリーグの記録など無価値に等しい。

 偏にWBWにおける圧倒的な格差故に。

 今生の現実だ。

 前世では本場アメリカでも知る人ぞ知る存在だった世界のホームラン王と同じように世界記録を達成したとしても、海外では何の話題にもならないだろう。

 その数字の価値や意義を問う議論すら起きないに違いない。


 誰も歯牙にもかけない。

 言わば単なる無関心。

 ある意味、敵視よりも遥かに厳しい反応だ。

 そんな状態を覆す方法は1つしかない。


「次回WBWでその栄光を、俺達が、日本が! 掴み取るんです!」


 必要なのはチーム全体の底上げ。

 そのために不可欠なのは仲間意識。

 それを形成するのは共通の目的。

 強固にしてくれるのは正に熱だろう。

 熱意を示すしかない。

 だから俺は1人称を安牌な感じの「自分」から「俺」へと意図的に変え、声に尚一層の力を込めるようにして続けた。


「落山監督は勿論のこと、俺達も本気です。ですから、どうか皆さんもその意識を共有して下さい! 本気で打倒アメリカ代表、WBW制覇を目指して下さい!」


 若干腰を浮かして軽く身を乗り出しながら一気に言い、一旦そこで区切る。

 それから俺は少し息を整えると、姿勢を正して改めて口を開いた。


「……共に、歴史に名を刻みましょう」


 言葉に重みを作り出すように。

 少しだけ声量を落としながらもハッキリと、ゆったりとした口調で働きかける。


「歴史に名を、か」

「はい。きっと、家族も誇りに思ってくれることでしょう」

「……まるで悪魔みてえな誘い文句だな」


 子供がいる面子を代表するように、黒井選手がそんなことを言って苦笑する。

 今回の件に関してその評価はちょっと心外ではあるけれども……。


「かもしれません」


 これまでのことを振り返ると、正直否定し切れない部分もなくはない。

 チラッとこちら側の面々に視線をやる。


 不遇な【成長タイプ:マニュアル】も【マニュアル操作】さえあれば、それ以外の【成長タイプ】よりも最終ステータスの高い選手を容易く作ることができる。

 であるならば、と身体能力の向上などの目に見えた成果を示して思考を誘導したり、甘言を駆使して鬱屈した感情を利用したりして仲間に引きずり込んだ。

 見方によっては正に悪魔の所業だろう。

 そんな俺と仲間達によって野球人生を狂わされてしまった選手も数多くいる。


「しゅー君、また悪し様に考え過ぎ。わたしの人生はしゅー君あってのもの」


 そんな思考がまた【以心伝心】でぼんやりと伝わってしまったらしい。

 以前と同じように、隣からあーちゃんに小声で諭されてしまった。


「うん。分かってる」


 テーブルの上で重ねられた彼女の手に視線をやりながら、微笑みと共に頷く。

 自戒のためにも仄かな罪悪感は胸に刻み込んだままにしておくが、それに囚われて立ちどまるようなことはしない。


 これこそが全ての可能性の中で最良の人生だったと仲間達に思って貰うために。

 その道中で夢を打ち砕かれた者達に「打倒アメリカ代表とWBW制覇を成し遂げた最強のプロ野球選手、野村秀治郎」に負けたのならばと納得して貰うために。

 何より、正に黒井選手達に告げた通り。

 今生の大切な家族に自分という存在を誇って貰うためにも。

 この場にいる彼らは勿論のこと、他の選手にも共有して貰わなければならない。


「……秀治郎選手は、ちょっと真面目過ぎるかもしれないね」


 少しの沈黙の後、岩中選手が苦笑気味に言う。


「まあ、余り言い回しに気を遣い過ぎると逆効果になることもあるからな。そこは気をつけた方がいいかもしれねえな」

「もっとド直球でいいんだよ。ここにいるのは野球馬鹿ばっかなんだから」

「馬鹿ってのは引っかかるが……否定はできないな」

「何だかんだ、今よりも野球がうまくなりたい気持ちを燻らせている人間ばかりみたいだからね。今回も継続して日本代表に招集されたのは」


 確かに海峰永徳寄りの選手はいなかった。

 その辺りは旗振り役である落山監督のおかげだな。


 野球選手もまた生身の人間。

 余計な欲求や保身に引っ張られてしまう者も当然いる。

 しかし、そういった存在は獅子身中の虫としか言いようがない。

【不幸の置物】のようなスキル程ではなくとも周囲のモチベーションに悪影響を及ぼし、チーム全体のプレイのクオリティを低下させてしまう。

 ハイレベルな戦いに置いて、そんな枷はあってはならないものだ。


 そういった部分を事前に除外して選手全員のやる気を引き出す。

 元々、野球というスポーツにおける首脳陣の重要な役目の1つとも言えるが、国際試合の短期決戦ともなれば尚更だろう。

 つまるところ、モチベーターという奴だ。

 近年では他の要素よりもそちらの方が重要視される場合も多い。

 そういった意味においても落山監督は有能だと思う。


「まあ、何にしても。最後の部分以外は熱さが感じられてよかったと思うぜ。家族のためってのも勿論、俺には十分響きはしたけどな」

「とは言え、あからさまなぐらい綺麗な言葉にし過ぎたかもしれないね」


 賢しらに感じられてしまったか。

 本心であることは間違いないが、確かに聞こえのいい説得材料として都合よく利用しようとしてしまった部分もなくはない。


「すみません。割と焦ってて安易な言葉選びをしてしまったかもしれません」

「世の中、安牌が正解とは限らないからな」


 それはそうだ。

 相手にもよるし、状況にもよるだろう。

 しかし、この場は相手も状況もこちらの味方をしてくれたようだ。

 そもそも比較的好意的だったおかげで、誤解や曲解のないやり取りができた。

 それは幸いだった。

 試合ではないが、これもまた落山監督の采配のおかげと言っていい。


「……にしても、若いってのはいいな」

「そう、ですかね」


 佐々藤選手が羨ましげにそんなことを言い出すが、微妙な反応になってしまう。

 こちらは転生者だからな。

 若いと言うよりは精神年齢が幼いと言った方が適切かもしれない。

 前世ではプライベートは独り身だったし、仕事は役職についてもいないしで大学ぐらいからはずっと徒に年月を重ねているばかりで成長していない感があった。

 転生して小中高と繰り返しても、そこは既に1度通った道。

 然程成長の糧にはならない。

 社会に出て、あーちゃんという伴侶を得ることができて、その辺りからようやく再スタートしたというところだろう。

 そう考えると、傍からは若さと捉えられても不思議ではないか……。


 まあ、それはともかくとして。

 若さということなら――。


「いやいや、落山監督に比べたら佐々藤選手もお若いでしょう」

「まあ、そりゃそうだな」


 落山監督はそれこそ前世の年齢と今生の年齢を足した俺よりも更に上だからな。

 にもかかわらず、ああして本気で世界最強に挑戦しようとしている。

 俺達という過去類を見ない強大な駒が日本に現れたおかげかもしれないが、早い段階から評価していたというところにまず意義がある。

 それだけで1つ優れた眼力を持っていると言うことができる。

 俺としても信用できることが分かっている数少ない人物だ。

 そんな彼が日本代表の監督になってくれて本当によかった。


 もしも落山監督がおらず、他の旧態依然とした指導者がそうなっていたら。

 ネガティブキャンペーンからクーデターのようなことを俺達の手で行い、尾高監督と首を挿げ替えるような無茶をしなければならなかった可能性もあるからな。

 そうなれば【好感度】稼ぎの食事会なんて吞気なことはできなかったはずだ。

 初招集組とそれ以外との間に好ましくない壁が生じ、WBWまでの期間では解消されることもなく、機能不全を抱えて戦わなければならなくなったかもしれない。

 この場にはいないが、間接的に助けて貰っていると言ってもいい。

 ありがたい存在だ。


 そんな風に感謝の気持ちを抱いていると。

 佐々藤選手が1つ息を吐き、表情を引き締めながら続けた。


「俺にとっては最後のチャンスかもしれないこの機会。確かに逃す手はないな」

「実際。歴史に名を刻むチャンスなんて、そうあるものじゃないからね」


 岩中選手共々、不敵な笑みを浮かべている。

 そこには熱が感じられる。


「ガキ共に一生自慢できるわな」

「目指すだけの価値はある。やってやろうじゃないか」


 黒井選手と白露選手も同様だ。

 一方で山崎選手は特に変化はない。


「まあ、やること自体は別に変わりませんが」


 彼はそれでいい。

 俺をライバル視していることもあり、山崎選手の【好感度】は変動していない。

 とは言え、自前で【経験ポイント】取得量増加系スキルを持っているからな。

 俺に対する【好感度】が低かろうが、別に問題はない。

 むしろライバルたる俺が打倒アメリカ代表を叫び続ければ、彼は自ずと同じかそれ以上のゴールを目指そうとしてくれるはずだ。

 だから、山崎選手については特に心配していない。

 彼のビジョンは勝手に重なるだろうし、4人と共有できれば万々歳だ。


「はい。やってやりましょう!」


 そんな感じで食事会を終え、翌日からの特別強化合宿。

 彼らは他の選手との橋渡しのような役目を担ってくれた。

 落山監督が掲げたビジョンは更に浸透を深め、同時並行的に【好感度】は特別強化合宿当初よりも全体的に上昇した。

 ただ、80の大台に乗ったのはあの食事会に出た山崎選手を除く4人のみ。

 他の選手はまだ時間がかかるか、間に合わないかもしれない。

 そう思っているところに――。


『本日。那覇空港にイタリア代表チームが到着しました』


 特別強化試合の最初の相手である彼らの来日がニュースで告げられたのだった。

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― 新着の感想 ―
イタリア代表が相手だと!? 女の子のいっぱいいるとこでしたっけ
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