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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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280 食事会は【好感度】稼ぎの場?

「ど、どうぞ、こちらへ」


 緊張の色を隠し切れない店員さんに案内され、店の奥の比較的大きな部屋へ。

 10人以上でも個室を利用することができる店ということもまた、ここを予約する決め手の1つになった部分だ。


「店員さん、何だか凄く挙動不審だったね」

「だな。けど、まあ、面子が面子だから仕方ない」


 ちょっと困ったような表情を浮かべる昇二の言葉に軽く同意しながら応じる。

 ここにいるのは正に日本を代表する10人。そう言っても過言ではないからな。

 今生の野球の地位を思えば、その知名度は前世の芸能人など比較にもならない。

 店全体に若干浮ついた雰囲気が漂っている気がするのも勘違いではないだろう。


「それでも節度を守って接客してくれる辺り、ちゃんとプロだよ」

「そりゃ変なことしたら燃えカスが残らないレベルで炎上するからね」


 野球選手に対する憧憬は、世界の強制力によってそれこそ前世の比ではない。

 しかし、それと同時に。

 まさしく野球選手が持つ圧倒的な権威と、国家にとって重要な役割のおかげで。

 それこそ形振り構わない半ば鉄砲玉のようなゴシップ記者でもない限り、選手のプライベートを侵してくるようなことはほとんどない。

 そうしたゴシップ記者にせよ、積極的に暴くのは選手の不道徳な行為が中心だ。

 勿論、何ごとにも例外というものはあるが……。

 少なくとも俺達がそうした面で理不尽な目に遭ったことはなかった。


「世間の目は厳しいからね」

「野球選手だって下手な真似をすりゃ明日は我が身だけどな」


 強大な権威を持つ者の不義。

 それが詳らかになり、世間の激しい批判にさらされること。

 野球狂神によって作られた野球偏重の世界の歪みから生じる、野球の才に恵まれなかった一般人の不平不満はそこに集約される形で解消されているのだろう。


 我らが母校、山形県立向上冠中学高等学校の補助金詐欺も大炎上してたしな。

 海峰永徳の漁色家っぷりも週刊誌などでは取り上げられ、批判されていた。

 ただ、どちらも割と例外寄りのネタではある。

 何せ前者はちゃんと公式戦で勝利したことによって鎮火に成功したし、後者は当時日本最高峰の実績で黙らせてきたからだ。

 人々の不満の捌け口として十全と機能していたかは微妙なところがある。


 とは言え、今や海峰永徳はそうした特権的な立場を完全に失ってしまっていた。

 結果、半ば世間のオモチャのような状態に成り果てている。

 現状、おいそれと顔を晒して街を歩くこともできないだろう。

 自業自得の部分もあるが、さすがに少し哀れでもあった。

 しかし、余計な手出しは延焼の基。

 彼については、世間に飽きられて忘れ去られるのを待つ以外ないだろう。


 そんなことよりも今は食事会だ。

【好感度】稼ぎなどと言うと途端に俗っぽくなってしまうが、打倒アメリカのための重要なピースの1つであるのは間違いない。

 割と大事な局面。勝負の場でもある。

 営業マンに倣って笑顔で武装して臨もう。


「とりあえず頼みましょうか。こちら側5人は20歳未満なのでアルコール類は飲みませんが、お酒を飲みたい方はご自由にどうぞ」

「ああ、いや。俺は飲まないようにしてるから……」

「僕も。年齢を重ねたせいか、飲酒はピッチングのクオリティが下がるからね」

「俺も引退まで禁酒中だ」

「さすがに練習期間中はな」

「自分はそもそも飲んだことがありませんので」

「そ、そうですか」


 振り返れば、確かに彼らは懇親会でも飲んでいなかったか。


 前世では、昭和の野球選手は割と酒にタバコと何でもありな感じだった。

 もっと言えば、金のネックレスにパンチパーマ、セカンドバックともはやヤクザのようなイメージすらあったが……。

 それはともかくとして。

 近年ではタバコは勿論、酒も全く嗜まない選手が増えている。

 フィジカル偏重の今生では尚更その傾向は強い。

 山崎選手については正直「そうだろうな」という感じだ。

 だが、割と年が離れている彼らも同様だったのは……これも意外ではないか。


 スポーツ選手にとってタバコも酒も百害あって一利なし。

 百歩譲ってストレス解消に効果があるように感じる場合はあるかもだが、それはあくまで普段からかかっているデバフが一時的に薄れているだけに過ぎない。

 最近の品行方正な若い選手達は、その多くが余計な嗜好品を経験するよりも先にそれらの負の側面に関する知識を得る。

 そうなると、存在そのものがストレスになるような場合すら出てくる訳だ。

 よくも悪くも様々な情報に触れられる時代。

 だからこその傾向に違いない。


 また、以前は好んで嗜んでいた場合であっても。

 衰えが見え始め、何かを変えようとしてまず禁酒や禁煙を試すパターンもある。

 そこで明らかなパフォーマンスの向上を実感できれば、引退まで禁酒禁煙を継続しようと決意する選手も当たり前に出てこようというもの。

 さっきの口振りだと、岩中選手もこれに該当するのだろう。


 まあ、もう少しばかり緩く考えて。

 シーズン中はパフォーマンス維持のために酒を断ち、ビールかけのような特別な催しや当面試合のないオフシーズンのタイミングなどであれば解禁する。

 そういったグレーゾーンタイプの選手も中にはいるだろう。

 むしろ、それが最大手に違いない。


 いずれにせよ。

 日本代表選手から10人ピックアップして誰も酒を飲まない確率は、高いとは言えずともそう低いものではないはずだ。

 晩飯に来て誰も酒を頼まないということも十分あり得る話と言える。


「では、飲みものはソフトドリンクにして、ガンガン食べましょう」


 そもそも今日は酒目的で来た訳ではない。

 酒を飲まない分は食えばいいだけのことだ。


「とりあえず自分は店オススメの特上リブロースカツ御膳と……サイドメニューのロースカツとヒレカツとハムカツの合い盛りにしようかと思います」

「俺も御膳はそれで。後は豚しゃぶにするかな」

「俺はサイドメニュー、トンテキとラフテーにするわ」

「自分はソーセージ盛り合わせで」


 トンカツが美味いと評判の店だが、アグー豚専門店なので豚肉料理は大体ある。

 各々3000円ちょいの御膳をメインに2000円前後のサイドメニューを1つか2つ、それからソフトドリンクを合わせて注文する形となった。


「では……紅白戦お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした」」」


 そうして一通り揃ったところでウーロン茶片手に乾杯。

 一口飲んでから、早速ロースカツを口に放り込む。


「これは――」


 思わず目を見開く。


 サクッとした衣とジューシーな肉汁。

 甘さに感じられる程の旨味のある濃厚な豚肉の味。

 それらを自家製ソースが更に引き立てている。

 一緒に頼んだ合い盛りのヒレカツは大分サッパリとしていながらも味は負けておらず、ハムカツの方はハムカツの方で旨味が一層濃縮されていた。

 自然と肉の三角食べの合間にご飯を挟むスタイルとなる。

 これは全く飽きが来ない。

 ご飯が消失マジックのように消えていくので、お代わりを頼む。

 正に評判に偽りなし。

 気づくと、俺達はしばらく黙々と箸と口を動かすこと以外できなくなっていた。


 勿論、時間も時間で空腹だったのもあるだろう。

 しかし、何よりもその味には沈黙を作り出す魔力があった。


 ……こうなると、しゃぶしゃぶやソーセージも気になってくるな。

 ん? あーちゃん、シェアしてくれるって?

 美海ちゃんと倉本さんも?

 よし。追加で頼もうか。


「――にしても、本当によく食べるな。女の子達も」


 やがて空の皿が増えてきたところで、佐々藤選手が半ば呆れたように言う。

 彼の視線の先には追加注文した料理を今も淡々と減らし続けている3人娘の姿。

 割と通常運転ではある。


「これだけ食うなら、あの活躍も頷けるわ」

「ホント、そうだね」


 黒井選手と岩中選手は納得の表情。

 白露選手と山崎選手は若干引き気味だ。


「シルエットは普通……と言うか、小柄な方なのにな。筋肉の密度が違うのか?」

「そう、かもしれません」


 口には決して出さないけれども、見た目に反して3人共重いしな。

 あーちゃんとか触れると柔らかいけど。

 しなやかさと強さを兼ね備えた筋肉なのだろう。


「まあ、逆に言えばこれぐらいは食えねえと体が持たねえわな」

「食べることも才能、か」

「ああ。しかしよ。改めて考えると、食える環境も重要だよな」


 しみじみとした言葉に、白露選手が意図を問うような視線を向ける。

 対して黒井選手はウーロン茶に軽く口をつけてから続けた。


「俺は曲がりなりにも年俸が億を超えてるから、ウチのガキ共にゃ食う才能の限界まで食っていい環境を作ってやれる。けどよ……」

「まあ、それはそうだな。今や野球も金持ちのスポーツと呼ばれて久しいが、道具代に加えて食費までとなるとかなりの負担になる」

「当人の才能以前のところで切り捨てられる可能性すらある訳だ」

「……ですね」


 幼少期のウチなんかも切り捨てられる側になるはずだったと言えるだろう。

 実際、俺の場合は鈴木家に相当助けられたと思う。

 振り返って改めて考えてみると。

【衰え知らず】が作用して筋肉が成長し続ける(=消費カロリーが増える)なら何らかの整合性が取られた結果、健康体のまま餓死とかしていた可能性もある。

 考え過ぎかもしれないが、多大な恩を受けたことは間違いない。


「筋トレ研究部が特製プロテインを、とは言ってたが、それ以外はやっぱり家族のサポートがあったのか?」

「それは、ない訳ではないですけど……成長期はどちらかと言うと、中高の料理研究部が作ってくれた補食がメインになってたように思います」

「取り戻した補助金の配分、多めにするように先生にお願いしたりもしたなあ」


 昇二の返答に補足を入れる。

 おかげで、朝昼晩に一品か二品追加できる保存食品を用意して貰えたりもした。

 これもまた、母校が全国優勝できた要因の1つと言える。


「やっぱり、その辺りもどうにかしないと才能が取りこぼされてしまうよな」

「……もしかして、佐々藤選手は将来的に指導者になることもお考えに?」

「まあ、そんなとこだ」

「成程」


 単に指導者になるのみならず、野球界全体の行く末も考えているのだろう。

 岩中選手、黒井選手、白露選手も神妙な表情を浮かべている。

 彼らも実績は十分なので指導者の道は開けている。

 だからこそ、我がこととして捉えているに違いない。


「……村山マダーレッドサフフラワーズもそこは重く考えていまして、今回新たに始めるユースチームではそうしたサポート体制も可能な限り充実させる予定です」


 専用の食堂を運営するのは勿論、金銭的な負担もなくせるようにするつもりだ。

 経済的な理由で才能が埋もれることだけは許されない。

 野球が国の趨勢を左右する今生であれば尚のこと。


「独自の選考基準も含め、普通なら取りこぼされてしまうような才能の受け皿としたい。そのように考えています」

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