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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章幕間

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267 V&R野球盤

 12月初旬。俺達は再びインペリアルエッグドーム東京を訪れていた。

 ここに来るのは日本シリーズ決勝ステージの第2戦目以来だ。

 今日の用件も当然野球に関わるものではあるが、野球の公式戦ではない。

 いくつもオファーがあった全国放送のバラエティ番組の中から、唯一出演することに決めたビート・ザ・トップアスリート。その収録日だ。


 メンバーは俺とあーちゃん、美海ちゃん、正樹、昇二、倉本さんの6名のみ。

 全員、村山マダーレッドサフフラワーズからの出演だ。

 一応、磐城君や大松君にも打診する考えはあった。

 俺が出演の条件として設定すれば可能性はあっただろう。

 しかし、この企画のゲストはいつも大体5~6人ぐらいだったし、日本シリーズで敵としてやり合った相手でもあるので控えておいた。

 不仲ではないが、余り馴れ合った様子を見せるのもよろしくないだろう。

 下手をしたら、あの日のガチンコ勝負にもケチがつきかねないしな。


「……にしても、グラウンドから見ると余計様変わりしてるように感じるわね」

「ん。いつものインペリアルエッグドーム東京とは思えない」

「そうっすね。カメラに配線に、何だかゴチャゴチャしてるっす」


 明らかに趣の違うグラウンドをベンチから眺めながら感想を言い合う女性陣。

 内野にも外野にも、今回の企画に合わせて色々な機材が設置されている。

 球場がそんな状態にあることは皆も番組を見て分かっているだろうが、いつもは画面に映っているものだけだからな。

 普段の球場だって現地で観戦するとその規模間に圧倒されるもの。

 今日のこれにしても、直に見ると印象が違ってくるのは当然のことだろう。


 そんな風にインペリアルエッグドーム東京を貸し切って行われるこの番組。

 内容としては、様々な分野の第一線で活躍しているプロスポーツ選手と芸能人が当該スポーツに関わる何かで競い合うスポーツバラエティだ。

 勿論、ガチのアスリートと芸能人がまともに戦って勝負になるはずがない。

 なので、通常は相応のハンディキャップが設けられる。

 あるいは、実力差を覆す要素のあるトリッキーな種目にするか。

 いずれにしても、そこら辺の匙加減をうまいことやって取れ高のある白熱した勝負になるように持っていく。

 それもまた、企画側の腕の見せどころでもあるだろう。


 取り上げられる競技はサッカーやらテニスやらゴルフやら多岐にわたるが、この世界では当然ながら野球関連の企画が最大の目玉となっている。

 野球以外の競技に関しては、正月以外の番組改編のタイミングで不定期的に放送されている特別番組の方でメインに据えられている感じだ。

 もっとも、そちらでも正月版の野球対決を見据えた特訓の様子を放送したりすることがあるけれども、だとしても芸能人や元プロが中心となっている。

 あくまでサブ的なコーナーで、メインコンテンツという扱いにはなっていない。


 ちなみに。

 正月の方は今や新年の恒例となっているので、まるでレギュラーのように連続出演しているプロ野球選手もいる。

 しかし、今回はそちらとは別撮り。

 特別企画として枠を拡大し、2本立てで放送する予定とのことだった。


「にしても、このV&R野球盤。いつの間にか凄いことになってるわよね」

「目玉企画だけに金のかかり具合が半端ないっす」


 ビート・ザ・トップアスリートの野球対決企画はV&R野球盤と呼ばれている。

 正式名称はヴァーチャルアンドリアル野球盤だ。

 基本はバッティングによる対決で、プロとアマとで使える球速や球種の異なるピッチングマシンを用いて基本的な野球のルールを踏襲しながら打ち合う。

 配球は守備側のチームが決め、ピッチングマシンを操作する。

 ちなみにバッティングの結果を何で決めるかと言うと――。


「最新の測定機器とデータ処理ツールを利用して打球の行方を予測。平均的なプロ野球選手の守備範囲に基づいてシミュレートし、それをその打席の成績とする」


 あーちゃんが説明してくれたそれが正にヴァーチャルな部分だ。

 計測機器から得られた打球速度や打球角度、飛距離を入力すると実際の打球と守備の動きを映像化してくれるシステムもある。

 まあ、単にリアル系の野球ゲームを利用したものだが。

 これをバックスクリーンにデカデカと映し出し、皆で結果を見守るのだ。


 グラウンドにヒットゾーン? ネットに引っかかってアウト?

 前世にはそんな番組もあったな。


「まあ、当初は最新とは名ばかりで、全部人力で判定してたみたいっすけどね」

「記憶にあるわ。カメラに分度器当てて打球角度を見て、飛距離から打球速度を計算して、最後に当時の等身が低い野球ゲームにその数値を入力するのよね」

「アナログだから変な結果が割と出て面白かった」


 他にも、計測班の胸三寸で試合展開に応じて数値に下駄を履かせたりな。

 芸能人チームとプロ野球チーム共に計測班に賄賂(芸能人は高級なお菓子、プロ野球選手はサイン入りグッズなど)を贈るといったネタ要素もあった。


「それが今やこれだものね。技術の進歩は早いわ」


 芸能人チームのバッティング練習を眺めながら、美海ちゃんがしみじみと言う。


「……みなみー、おばあちゃんみたい」

「な!? さすがに酷いわよ、茜!」

「けど、今のは確かに年寄りっぽかったっす」

「未来まで。怒るわよ」

「ごめん、みなみー。みなみーは若い」

「他意しか感じられない言い回しはやめなさい! と言うか、同い年でしょ!」


 全国放送の撮影の場だが、彼女達は普段通りの様子だ。

 あーちゃんがマイペースなのは当然として、美海ちゃんと倉本さんについてはドラフト会議前の特別番組で撮影経験があるおかげかもしれない。

 しかし、その一方で。


「うぅ、緊張する……」


 ベンチでガチガチになっている者もいた。

 昇二だ。


「何で日本シリーズの時より緊張してるんだよ」


 そんな弟の姿を目の当たりにして、正樹が呆れたように突っ込みを入れる。

 そう言いたくなる気持ちも、まあ、分からなくはない。


「いや、だって全国放送だし」

「日本シリーズも全国放送だろうが。しかも観客あり」


 それもその通りではあるのだが、今は試合中に作用するタイプの精神安定効果のあるスキルが効いていないだろうからな。

 日本一を決める試合より緊張してしまう者がいても仕方がない部分はある。

 実際、撮影が始まってもスキルが機能するかは怪しい。

 試合として認定されずに発動しない可能性の方が高い。

 そうなると、昇二にとっては精神修業の場にもなるかもしれない。


「あ、中田那珂が出てきたっす」

「デューク隆も来たわね」


 倉本さんと美海ちゃんの言葉に、彼女達の視線を辿る。

 そこには確かに番組レギュラーである中田那珂とデューク隆の姿があった。

 お笑い芸人として有名な2人だが、高校時代は野球部に所属していたそうだ。

 しかも、強豪校でアマチュアとしてそれなりの実績がある。

 自身はプロ野球選手になることはできなかったが、チームメイトにはドラフト指名された者や私営2部以下からスカウトされた者もいるそうだ。

 その関連で、芸能人チームには元プロ野球選手や現役選手がいたりする。


「……あれって何をしてるのかしら」

「自分の動画配信チャンネルの動画撮影をしてるみたいだな」


 番組のMCの立場を利用し、視聴者の需要がある準備部分を撮影して配信する。

 そんなこともできる訳だ。

 これもまたある意味役得だな。


「っと、こっち来たっす」


 中田那珂とデューク隆はしばらく配信動画の冒頭部分を撮っていたようだが、それを終えると数名のスタッフを伴ってこちらに来た。

 両者共に大分年上なだけに少しばかり身構えてしまう。


「やあ、どうも初めまして。中田那珂です。今日はよろしく」

「初めまして。野村秀治郎です」


 意外と丁寧さとフランクさを兼ね備えた感じで来た。

 まあ、お笑い芸人同士で絡む時とは違い、インタビュアーとしてスポーツ選手に接する時はリスペクトが見て取れる態度で臨んでいることは知っていた。

 実態がどうかは知らないが、少なくとも今日は常にカメラが回っている状態。

 そして俺達は今や押しも押されもせぬ日本のトッププロ。

 恐らく、ずっとこんな感じで応対して貰えるはずだ。

 今の俺達に下手なことをしたら、今生の世界では炎上するのは相手方だしな。

 ……なんて、大御所芸能人だからと穿った目で見過ぎか。

 大海原さんも気のいい人だったしな。


 それはともかくとして。

 今は仕事の場だ。

 ちょっとした不安は心の奥底に押し込み、笑って握手をする。


「幼い頃に『大リーグ/ジャパニーズルーキー』を何度も拝見しました」

「お、もう大分古い映画なのに。ありがとう。今シーズン、歴史に残る活躍をした秀治郎選手にそう言って貰えるのは光栄です」

「日本人選手が大リーグに挑戦して活躍する。現実には制度的に荒唐無稽な話ですが、いつかは実現したいと考えています」

「…………と言うと?」

「WBWでアメリカ代表を打倒した暁には、大リーグの門戸を開放して貰えるように交渉したいと思っています」


 俺がそう言い放つと、中田那珂は大きく目を見開いた。

 一瞬置いて我に返った彼は、カメラマンに顔を向けて「撮った?」と確認した。

 それから勢いよくこちらを振り向く。


「い、今の、放送しちゃって大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

「もし現実になったら、俺は大リーガーの先輩になっちゃうかな。なんて」


 中田那珂は冗談っぽくも、どことなく興奮したように言った。

 この世界でも俺と同じようなことを考える人は少なからずいただろうが、さすがにプロ野球選手で公言した者はいない。

 この発言で非現実がほんの少しだけ現実に近づいた……などと言うのは、今はまだ錯覚でしかないけれども。

 野球人の1人として高揚してしまうのも無理もないことだろう。


「中田さん」

「おっと、そうだった」


 スタッフに声をかけられ、中田那珂は我に返って言葉を続ける。


「視聴者プレゼントとしてサインを貰いたいのだけど……」

「ええ、問題ないですよ」


 色紙や番組専用のキャップなどにサインをしていく。


「にしても、本当に提案された通りの内容で大丈夫ですか? 今回貸してくれたあのピッチングマシン、凄まじい性能だったけれども」

「ええ。いつも俺達はこのレベルで練習してますから。打倒アメリカ、そしてWBW優勝のためには、こういった機会も糧にしないといけません」


 プロとアマの実力のギャップを埋めるためのV&R野球盤におけるハンデ。

 使用できるピッチングマシンの機能の範囲の差がそのままそれになるが、現状ではプロ用でも最速155km/h程度となっている。

 正直、それでは不十分だ。

 残念ながら、俺達を抑えることのできるスペックではない。

 ハンディキャップとしては不十分だ。

 が、そう率直に言ってしまうと角が立ちそうだ。

 なので、あくまでも打倒アメリカのためということをアピールしておく。


 ちなみに、このオーバースペックのピッチングマシンを使うに当たって。

 フルスペックを捕るのは危険なので、俺達が攻撃側の時はキャッチャーなし。

 審判も含めて、後から合成ではめ込むことになっているとのこと。

 ストライクとボールの判定はいつものアプリを使用する予定となっている。


「……つまり本気、ということですね」

「当然です」


 俺が投げて圧倒できない分、ある意味公式戦より困難な戦いになるだろう。

 だからこそ尚のこと、勝ちに拘っていきたい。

 そんな俺の意思を受け、中田那珂は感情を高ぶらせた笑みを見せて口を開く。


「ありがとう。日本最高の選手の本気を目の前で見ることができる幸せを噛み締めながら、今日は挑ませて貰います」


 改めて握手を交わし、収録前の挨拶を終える。

 それから俺達もまた軽くバッティング練習をし……。

 しばらくして番組収録が始まったのだった。

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