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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章幕間

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265 地元テレビ局への出演は息抜きを兼ねて③

「それにしても、改めて見ると今日の台本は割としっかりしてる方だったんだな」

「え? それって、これよりもしっかりしてない台本が存在するってこと?」

「あー……まあ、うん」


 驚いたように尋ねてきた美海ちゃんに、ちょっと言い淀みながらも肯定する。

 あのテレビ局の放送作家には悪いが、こればかりは事実だから仕方がない。


「昨日の収録が正にそれだった。だから、しゅー君とデートを楽しんできた」

「…………ごめん、茜。何言ってんのか分からないわ」


 間を完全にすっ飛ばしたあーちゃんの説明に首を傾げる美海ちゃん。

 さすがにこれは俺でも擁護できない程に要領を得ない発言だ。

 なので、ちょっとフォローを入れておくことにする。


「台本がスカスカで、ほとんど俺達の自由裁量に任せる感じだったからさ」

「ん。ずっとカメラマンがついてきただけの単なるお出かけみたいになってた」

「今回みたいに撮影中の司会進行役みたいな人もいなかったしな」

「……それ、番組としてちゃんと成り立ってるの?」

「一応、ディレクターの人は問題ないって自信満々だったけど……実際に問題ないかどうかは放送日を待って確かめないと分からないな」


 俺の返答に美海ちゃんは呆れたような表情になる。

 とは言え、相手もその道のプロだ。

 きっといい具合に編集して、しっかりと面白い番組にしてくれるはずだ。

 心配の気持ちもなくはないが、とりあえず今はそう信じておく。


「でも、今日の台本もこんな厚さっすよ?」


 と、倉本さんが昨日のあーちゃんよろしく台本をヒラヒラさせながら言う。

 出演者が素人ということもあってか、今回もやはり非常に薄っぺらい。

 しかし、彼女が手に持っているのは1冊ではない。2冊だ。

 尚且つ、それぞれ昨日の台本と同じぐらいの厚みにはなっている。


「今日は2本撮りの予定で、1冊につき1ヶ所の撮影だろ? 昨日の番組収録なんて6ヶ所巡ってこの薄さの台本が1冊しかなかったからな」


 単純計算で、今日の台本は6倍の密度があると言っても過言ではない。

 いや、もっとか。

 昨日収録したのは若干ぶらり旅っぽい構成の30分番組。

 今回のは30分番組の中にある10分程度の特別コーナー2回分。

 そうやって考えると更に3倍。合計18倍の密度と言えなくもないだろう。


 まあ、もっとも。

 事前に確認した限り、今回の台本は大半が司会進行役の人向けっぽいけどな。


「とは言っても。緻密に書き込まれた台本を貰ったところで、そもそもスケジュールがカツカツな俺達にはしっかり読み込んで暗記するような暇はないけど」

「それはその通りっすけどね」

「でも、曖昧なのと空っぽなのは全く別の話でしょ?」

「それもその通りっす」

「まあ、もう過ぎた話だから……」


 美海ちゃんの言い分はもっともだとは思うが、今更文句を言っても仕方がない。

 むしろ野球以外で忙しくなっている俺達への配慮だと思っておいた方が健全だ。


「それはそうと今日の企画ってさ。やっぱり俺は場違いじゃないか?」

「む。しゅー君が出演しないなら、わたしもこういうのには出演しない」

「つまり、そういうことでしょ? 茜も含めた村山マダーレッドサフフラワーズの女性陣3人の絵を撮りたいとなったら、秀治郎君も必要なのよ」

「……それって結局、場違いなことは否定してないよな?」


 俺の問いかけに対し、微妙に視線を逸らす美海ちゃん。

 それらしいことを言ってはいるが、誤魔化されはしない。


「2本撮りの1本目がファッションコーディネート対決。2本目がコスプレ対決っすからね。秀治郎君も場違いかもしれないっすけど、それはウチらも同じっす」

「そ、そうね。本当に需要があるのかしら」

「プロ野球選手にやらせてもネタにしかならないっす」

「いや、ネタになるのが需要あるから企画したんじゃないか?」

「だったら、秀治郎君にも需要があるから呼んでるのよ!」


 世の中にはバーター出演というケースもあるけどな。

 と言うか――。


「需要の有無と場違いかどうかはまた違う話だろ……」


 むしろ場違い感を見たい、なんて少し拗らせた需要も世の中にはあるだろうし。

 どこかで見覚えのある比較的低予算っぽい企画をスポーツ選手にやらせる。

 前世でも割と見かけたそんな番組には、正にそうした側面もあったのだと思う。

 特にそれは、それこそ球団の本拠地がある地域のローカル番組で顕著だった。


 実際。動画配信者ですら今時やらないような手垢がつきまくった企画でも、有名スポーツ選手がやれば一定の数字を確保できるだろうからな。

 今生の世界であれば尚更のことだ。

 どれだけぎこちなくても、オチがなくてつまらなかったとしても。

 プロ野球選手というだけで許される風潮がある。

 昨日の番組も、きっと笑って受け入れてくれるはずだ。


「っと、来たわね」


 美海ちゃんの視線を辿ると、番組のロゴが入ったマイクロバスが近づいてきた。

 それは俺達の目の前にとまると、中からディレクターが降りてくる。


「お待たせいたしました。それでは、参りましょう」

「はい」


 今回のロケ車に皆で乗り込み、そのまま出発。

 番組は地元スポーツを中心に応援するスポーツバラエティだ。

 球場にもよく取材に来ているので見覚えのあるスタッフもいる。

 この番組内で放送される1コーナーの撮影。

 繰り返しになるが、それが本日の仕事だ。


「移動時間は1時間程度か」

「昨日より短い」

「隣の県に行くのはどうかと思うけどね」


 車の中で、撮影班には聞かれないようにポツリと呟く美海ちゃん。

 彼女が口にした通り、今日は山形県内での撮影ではない。

 宮城県仙台市に移動し、そこで行う予定だ。

 どうやら今生の山形県では品揃えが豊富なコスプレショップを探し出すことができなかったらしく、そういうことになってしまった。

 その流れで、ファッションコーディネート対決もコスプレショップの近く……と言うか、同じビルに入っているアパレルショップが舞台となるようだ。


「まあ、今回はウチらによりフォーカスした内容ってことなんじゃないっすか?」


 実際、そういうことなのだろう。

 昨日は山形県の地域振興という側面もあったから県内縛りがあったが、今日は村山マダーレッドサフフラワーズの選手に迫るのが主たる部分。

 そもそもの番組のコンセプトが異なっている訳だ。

 とは言え、大枠では同じ東北という見方もできる。

 広い意味での地域振興にはなるかもしれない。


 ともあれ、そんな隣県に約1時間かけてロケ車で移動する。

 4人だからか、体感も鶴岡市より短いような気がした。


「いやあ、仙台は山形よりも都会っすね……」

「まあ、一応は政令指定都市だからな」


 ロケ車は仙台駅近くの予約制駐車場を貸し切って駐車し、そこからは歩き。

 コスプレショップは全国的によく知られるアニメグッズ専門店と同じビルに入っており、その下の階層には多種多様なアパレルショップがある。

 ちなみに、そのアニメグッズ専門店。

 以前は別のビルの2階にあったのだが、入り口付近が魚臭かったらしい。

 そのビルは朝市の流れを汲む市場の中にあり、1階が鮮魚店だったからだ。

 今はまた別のアニメグッズ専門店がそこに入っていて、日本一魚臭いアニメグッズ専門店の称号を受け継いでいるらしい。

 閑話休題。


「では、まず1本目のファッションコーディネート対決の撮影から行います」


 ビルのイベントスペースで準備が行われる中、ディレクターが低姿勢で言う。

 その隣には地元のニュースなどで見覚えのある男性がいた。


「こちら、本日進行役を務めますアナウンス部の山坂です」

「山坂です。よろしくお願いいたします」

「はい。よろしくお願いします」


 番組の制作元である山形のローカルテレビ局のアナウンサーも腰が低い。

 昨日に引き続き、プロ野球選手の特別さを改めて実感させられる。


「改めて概要としましては、自分以外の3人の冬のトータルコーディネートを行う形となります。それをそれぞれ着用いただき、視聴者投票にて勝敗を決めます」


 これは台本に書かれている内容のおさらいだな。

 勿論、他にもルールがいくつかある。

 やがて撮影が開始され、それを彼が俺達に説明する(てい)で視聴者に伝えていく。


「予算は1人当たり10万円支給されます。皆さんはその中で3人分、見える部分に関しては全てコーディネートを行って下さい。制限時間は1時間です」

「見えていればシャツや靴下も対象ってことですか?」

「はい。そうなります」


 逆に隠れてさえいれば買わなくてもいい、と。


「余裕があれば小物を買ってもいいってことっすか?」

「勿論です」


 いや、さすがに小物まで入ってくると難易度が高過ぎやしないか?

 そう思いもするが、支給額的にそもそも大したものは買えないだろう。

 平均すると1人にかけられるのは3万3000円ちょっと。

 アウターを含む冬物となると、割と絶妙な価格設定かもしれない。


「それともう1つ。今冬の真のトレンドカラーとなる……かもしれないマダーレッドを基調とした必ず1つ入れること。以上がルールとなります」


 ちょっとした球団要素も入れてきている。

 あーちゃん要素でもあるけれども。


「では、スタートです!」


 っと、始まったか。

 そう思っている間に女性陣が速やかに動き出す。

 人数分のカメラマンを伴いながら、3人揃って同じ方向に駆けていく。

 どうやら彼女達は、まず俺のコーディネートから済ませるつもりのようだ。

 一方で俺は対象に男が混ざっていないので別行動。

 レディースのフロアに向かい、目についたよさげなショップへと向かう。


「行動に戸惑いが見られませんが、ご自身でよく購入されたりするんですか?」

「いえ、最近は余り。ですが、茜の服はよく選んだりしていたので」

「では、逆に茜選手は……?」

「茜は茜で俺の服を選んだりしてるので、異性の服に関しては少し有利かもです」


 画面の向こうの視聴者を意識し、解説者のようにアナウンサーの問いに答える。

 しかし、それはある種のフラグになってしまったかもしれない。

 それから1時間後。

 時間切れとなり、それぞれのコーディネートが出揃ったのだが……。


「え、あーちゃん。どうしたの?」


 その中身に思わず素で突っ込みを入れてしまう。

 対して、あーちゃんは気まずそうに目を逸らす。


「……しゅー君のを選ぶのに時間とお金をかけ過ぎた」


 彼女は終盤、大慌てで俺達とは全く違う方向に走っていっていた。

 それを見て首を傾げていたのだが、そんな理由があったらしい。

 で、その結果として。

 あーちゃんの美海ちゃんと倉本さんのコーディネートは、ファストファッションと呼ばれる低価格帯のものだけで構成される形となってしまっていた。

 まあ、それはそれでバランスが取れていればいいのだろうが……。

 最後の最後で時間もなかったせいか、家のタンスから適当に引っ張り出してきて合わせたみたいな状態になっていた。

 更に時間と金をかけた俺のコーディネートも、考え過ぎで迷走している始末。

 これはほぼ間違いなく最下位だろう。


「はあ、もう。茜はしょうがないわね」

「それが茜っちの平常運転っすよ」


 その雑な服装に着なければならない2人は苦笑顔。

 しかし、呆れた様子ながらも楽しげだ。


「ごめん。みなみー、みっく」

「いいわよ。正直な話、予想できてたから」

「ウチもっす」

「2人共、酷い……」


 落ち込むあーちゃんも自然体。

 つき合いの長さが滲み出ている。

 和気藹々としていて雰囲気がいい。


「まあ、茜っちは脱落として。勝ちはウチが貰ったっすよ」

「あら、未来。それは早計じゃない?」


 初めて続きの番組撮影ではあるものの、どうやら彼女達にとっても割といい息抜きになっているようだった。

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