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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編

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255 申告敬遠でランナーが溜まったら②

 8回の表。2点を追いかける展開となった村山マダーレッドサフフラワーズの攻撃は下位打線、8番の木村さんから始まる打順だった。

 続く9番の美海ちゃんもまた、マウンドから戻ってきてすぐに準備を始める。

 しかし、ネクストバッターズサークルへと向かう前に。


「秀治郎君。この回、秀治郎君まで回せれば何とかなるのよね」


 現状の再確認を行うためか、彼女の方から俺に声をかけてきた。


「ああ。誰か1人でも出塁してくれれば、逆転できる可能性は一気に高くなる。どうにかして2人出塁できれば九分九厘、この試合は勝てるはずだ」

「本当に?」


 周りのバックアップもあってピッチングは立て直すことができたものの、やはり自責点4で負けている状況には少なからず責任を感じているようだ。

 今のところ2打数無安打2三振だし、試合終盤ともなれば尚のことだろう。

 だからか、美海ちゃんがどこか縋るように尋ねてくる。

 俺はそんな彼女から目を逸らさず、首を縦に振って「勿論」と強く肯定した。

 誓って、今の言葉に嘘偽りはない。

 何せ、こちらにはまだ切り札があるからな。

 うまいタイミングで切ることさえできれば、勝利の目は十二分にある。


「……そう」


 少しの間、美海ちゃんは俺の返答を自分に言い聞かせるように目を瞑った。

 やがて一先ず飲み込むことができたのか、1つ小さく頷くと再び口を開く。


「秀治郎君がそこまで言うなら、信じるわ。何とか出塁できるように頑張る」

「うん。頼んだ」

「ええ」


 彼女は意気込むように応じ、そのままネクストバッターズサークルに向かった。

 俺はその背を見送ってから、難しい顔でベンチシートに座る昇二に視線を移す。


「昇二、駄目そうか?」

「うん……」

「分かった。けど、今は悠長に話をしていられるような状況じゃない。ホテルに戻ったら、色々と詳しく聞かせて貰うぞ?」

「うん…………」


 昇二は自分の限定的な不調について自覚があり、その原因も分かってるようだ。

 準決勝ステージの後ではぐらかしたのは、やはり意図的なものだったのだろう。

 とは言え、今は8回表で2点ビハインドという厳しい展開の真っ只中。

 切り札を残した状態とは言え、仮にも首脳陣の1人であるところの俺が試合を余所に腰を据えて昇二のフォローをしていては面目が立たない。


「ストライクスリーッ!!」


 しかも、そうこうしている間に8番の木村さんが見逃し三振で倒れてしまう。

 彼は最後の最後までOHMATSUジャイロに歯が立たなかった形だ。

 簡単に1アウト。ランナーなし。

 今は目の前の試合展開に意識を向けなければならない。


「……さすがに2人出塁は欲張り過ぎか?」


 口の中で小さく自問する。

 今正に対峙している大松君もまた、今やステータス外の部分も含めて歴代日本プロ野球選手で5本の指に入るピッチャーと言って過言ではない。

 このクラスが相手では、どうしてもチーム全体としての出塁率は低くなる。

 結果として、得点力もまた著しく下がってしまう。

 俺が申告敬遠で勝負を避けられてしまえば尚更のこと。

 こればかりは避けようがない話だ。


 一方で、野球というスポーツとして当たり前の状態に戻ったとも言える。

 現代野球のルールで2桁得点がザラな状況の方がむしろおかしいからな。

 しかし、たとえそうだとしても。

 俺達は、こういう場面でこそ勝利を掴み取っていかなければならない。

 どこかで必ず、そうした経験を積んでいかなければならない。


 近い将来、当たり前のように俺も抑えられてしまうような場面が来る。

 申告敬遠の方が遥かにマシといった状況にも陥るだろう。

 これもまた、決して避けようのないことだ。

 現アメリカ代表という埒外のチームを前にして、国内のレギュラーシーズンと同じノリで活躍できると思うのは楽天的にも程がある。

 加えて、WBW全体で言えば常に最良のメンバーで戦える訳でもない。

 ルールによって必ず戦力が制限される中、うまくやり繰りしていく必要がある。

 1人の力を頼りにしても、決勝戦にすら残ることができないだろう。

 次回からは俺と同じ境遇の者が続々と参戦してくる訳だしな。


 いずれにしても。

 今日この試合に勝利するためには、8回表に俺が打席に立つことが絶対条件だ。

 脳内でシミュレートした限り、3者凡退だと9回裏サヨナラ負け。

 1人出塁なら一先ず同点延長。あわよくば10回表に勝ち越せるというところ。

 2人出塁することができれば、9回1点差で勝てる可能性が高い。

 とにかく最低でも1人、出塁して貰わなければならない。

 正に他力の極みだな。


「あーちゃん」

「ん。わたしに任せて」


 9番の美海ちゃんがバッターボックスに入り、その代わりに1番のあーちゃんがネクストバッターズサークルに向かう直前。

 俺が呼びかけると、彼女はこちらの意図を全て理解して応じる。


「打ってくる」

「ああ」


 第3打席目でキッチリ修正してきた彼女なら、この打席は出塁できるはずだ。

 たとえ美海ちゃんが凡退したとしても、2番の俺まで打順が回ってくるだろう。

 勿論、集中して大松君を見据えている彼女に全く期待していない訳ではない。

 カンストしたステータスは【体格補正】の大きなマイナスを加味して尚、現日本代表選手と遜色ないレベルにあるのは間違いない。

 とは言え、仲間内で比較してしまうと打撃面では特に一段以上劣る。

 それについては否定できない。

 美海ちゃんは【成長タイプ:マニュアル】というだけで、あーちゃんや倉本さんのように体格を補って余りある【生得スキル】を持つ訳ではないからだ。

 それもあり、どうしても客観的な評価としては少し低いものとせざるを得ない。


「ファウルッ!」

「お」


 それでも、美海ちゃんは何とか大松君に食らいついていた。

 彼女のモチベーションに水を差さないようにと言い回しには注意した。

 そのおかげではないだろうが、この打席に没頭できているようだ。

 超集中状態程の凄みはない。

 しかし、その片鱗は見て取れる。


「ファウルッ!」


 4球目。

 1ボール2ストライクからアウトコースに落ちるジャイロ回転。

 対して美海ちゃんは片手を離してバットのリーチを伸ばし、何とか先で当てた。

 打球はバックネットへ。

 カウントは1ボール2ストライクのまま。


 5球目。OHMATSUジャイロがインハイに。

 美海ちゃんは配球を読んでヤマを張っていたようだ。

 アウトステップからのダウンスイング。

 OHMATSUジャイロ一点張り。


 ――カキンッ!


 それが功を奏し、うまいことバットの芯で捉えることができたようだ。

 引っ張った打球は球足が速いゴロとなり、三遊間を抜けていく。

 レフト前ヒットで1アウトランナー1塁。

 正に無形の力で実力差を覆した結果にハッとさせられる。

 頭で理解していても尚、容易くステータスやスキルに囚われてしまう思考。

 それを改めて諫めてくれたような気がする。

 あるいは、美海ちゃんこそ最も見習うべき存在なのかもしれない。

 そう思いながら、ネクストバッターズサークルに入る。

 と、更に自省を深める間もなく。


 ――カンッ!


 あーちゃんが初球のボール気味のシュートを流し打ちした。

 打球はハーフライナーでライト前に落ち、シングルヒット。

 完全に出塁だけを念頭に置いた打席だったことが分かった。

 しかし、これで1アウトランナー1塁、2塁。

 勝ちを大きく引き寄せることができた。


 ここで打席に立つことができれば痺れる場面なのだが……。

 1塁と2塁は埋まっているものの、3塁は空いている。

 満塁よりは余程心理的なハードルが低い。

 だからという訳ではないだろうが、俺は再び申告敬遠を告げられてしまった。

 まあ、シーズン中でも割とよくあったことだ。

 アチラの立場で考えると、そうせざるを得ないのも理解できる。

 実際、脳内シミュレーションでも想定内の展開だ。

 おかげで状況は整った。

 1アウト満塁。切り札を切るには十分だ。


『3番、瀬川昇二選手、に代わりまして、瀬川正樹選手。バッターは、瀬川正樹選手。背番号51』


 アナウンスが響き渡り、インペリアルエッグドーム東京にどよめきが広がる。

 クリーンナップへの代打は割と非常識だが、この場は短期決戦の日本シリーズ。

 明らかに調子が悪ければ変えざるを得ない。

 何より、ここの結果で試合が決まると言っても過言ではない状況だ。

 昇二は大松君に挑む気持ちができていないことが明らかだった。

 だから、1度目の申告敬遠の後にはこの采配を尾高監督に打診していた。


 正直、準決勝ステージで磐城君が登板した試合と似たような展開だ。

 東京プレスギガンテスも全く予想できなかった訳ではないだろう。

 場合によっては勝負を避ける選択肢もあったかもしれない。

 しかし、1人出塁を許した時点で勝負は不可避だった。

 いくらホームランを打っているとは言え、正樹の代打は僅か1打席。

 しかもレギュラーシーズンの出場記録もない選手だ。

 歴史ある球団が、連続して申告敬遠はさすがに厳しいだろう。

 後ろにはシーズン最多安打の倉本さんも控えているしな。


「さあ、今日もお前が決めろ。正樹」


 唯一の懸念は元東京プレスギガンテスユースの選手として意識し過ぎることだったが、その因縁はむしろ彼の集中力を増す材料にしかなっていなかった。


 ――カキンッ!!


 初球アウトコースのOHMATSUジャイロ。

 やや高めのボール球。

 コースに逆らうことなく、レベルスイングで球の少し下を叩く。

 打球はレフトスタンド目がけてグングン伸びていく。


 ――バコンッ!


 観客が静まり返る中、ボールは看板に直撃する。

 準決勝ステージに続いての満塁ホームラン。

 それによってスコアは6-4となり、村山マダーレッドサフフラワーズは8回の表に逆転を果たしたのだった。

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