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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編

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316/416

254 同点→劣勢

 2点差を追いつかれて同点となってしまった直後の5回表。

 村山マダーレッドサフフラワーズの攻撃は6番の大法さんからの打順。

 再びリードを作って何とか美海ちゃんを援護したいところではあったが、4回裏に2ランホームランを放った大松君のピッチングは更に勢いが増していた。

 結果、こちらは粘ることすらもできずに僅か10球で3者連続三振。

 簡単に3アウトチェンジとなってしまった。


「ちょっと目まぐるし過ぎない?」


 対する東京プレスギガンテスもまた、5回裏は下位打線からのスタートだった。

 美海ちゃんは当然続投。

 文句を言いながら慌ただしくマウンドに向かった彼女は、しかし、7番の黒沢選手と8番の森部選手を内野ゴロに仕留めて順調に2アウトとした。

 そこから9番の坂岡選手にヒットを打たれてしまったものの、高めに投じた横のスライダーで1番の仁塚選手をセンターフライに打ち取って攻守交替。

 互いに先発の責任投球回(コールドゲームを除く)を投げ切った形となった。

 もっとも、同点のままなので勝ち負けは現状宙に浮いた状態ではあるけれども。

 そんな中で始まった6回表の村山マダーレッドサフフラワーズの攻撃は、正に大松君と熱い投げ合いを繰り広げている美海ちゃんからの打順だったのだが……。


「あー、もう!」


 彼女は空振り三振に倒れてしまい、悔しさを隠さずにベンチに戻ってきた。

 美海ちゃんは9番。続くバッターは1番のあーちゃん。

 なので、2番の俺は入れ替わりにネクストバッターズサークルに向かう。

 美海ちゃんのケアは女房役の倉本さんに任せ、この場は声をかけない。

 本当なら点を取ってくると確約してやりたいところではあったが、状況を考えると迂闊なことを言えないような空気を感じていたからだ。

 その予感が外れて欲しいと願いながら、それと同時に望み薄だろうなとも思う。

 そうしながら俺は、3打席目を迎えたあーちゃんの打席を静かに見守った。


 彼女はここまでレフトフライとライトフライで2打数ノーヒット。

【直感】持ちのあーちゃん的にはかなり珍しい事態だ。

 それだけに、もどかしさを相当感じていることが【以心伝心】で伝わってくる。

 その上で、しっかり色々と考えながら打席に臨んでいることが感じ取れた。


「ストライクツーッ!!」


 慎重に3球目も見送って1ボール2ストライク。

 続く4球目。

 投じられたのはインコース高めのOHMATSUジャイロだった。

 2打席連続で抑え込まれてしまった球だ。

 しかし、あーちゃんはそれを敢えて狙っていたようだった。

 この1打席の勝負のみならず、自ら中長期的な成長を図るためだったのだろう。

 彼女は俺に倣って己のバッティングフォームをその場で微調整し、ほとんどダウンスイングのような軌道でバットを振り抜いた。


 ──カキンッ!


 前2打席とは違い、しっかりと芯で捉えた打球。

 試合の中でうまく修正できた形ではあったが……。

 ライナー性の当たりは思いっ切りショートの正面を突いてしまう。

 2アウトランナーなし。

 結局また塁上に誰もいない場面で俺に回ってくることとなってしまった。

 となれば、インペリアルエッグドーム東京に集まった観客達も含めて1打席目や2打席目の再現が頭を過ぎるのも自然なことだろう。

 だが、だからこそと言うべきか。


「タイム!」


 すぐさま相手ベンチから阿原恒信監督が出てきて、審判に向かって分かりやすいジェスチャーをしているのを見て「やっぱりか」と察する。


『只今、敬遠が申告されました。野村秀治郎選手は出塁いたします』


 球場に流れたアナウンスの通り、俺の第3打席は申告敬遠となってしまった。

 2-2の同点という状況。

 加えて1塁は空いているし、既に2アウト。

 次のバッターは今日明らかに当たっていない昇二だ。

 ここで最も警戒すべきは俺の1発。

 だから正直なところ、打席に入る前からそうなるだろうと薄々思ってはいた。

 そのせいで美海ちゃんに何も言えなかったのだ。

 ホームラン宣言をしておきながら申告敬遠を食らったら、絵面が間抜け過ぎる。

 たとえ俺に非がある話ではないにしても。


 それはともかくとして。

 東京プレスギガンテスとしては大松君の2ランホームランによって追いつくことができ、勝ち筋がハッキリと見えてきた。

 そんな場面でまた点を取られては堪ったものじゃない。

 勝ちに徹するのであれば、ここで申告敬遠を選択するのは当然の流れだろう。

 2打席真っ向勝負してアリバイ作りは十分だと考えてもいるかもしれないしな。


「……にしても、昇二は本当にどうしたんだ?」


 申告敬遠は仕方がないと割り切るしかないが、そこはどうにも心配だ。

 準決勝ステージの磐城君との対戦でも明らかに調子が悪そうだった。

 そのため、試合の後に何か原因に心当たりがないか軽く尋ねてはいる。

 しかし、その時ははぐらかされてしまった。

 もしこの打席まで内容が悪い凡退をしてしまうようだったら、さすがにもう少し強く問い詰めなければならないかもしれない。

 と思ったことがフラグになってしまったのか――。


 ――カンッ!


 昇二は初球を打ってサードファウルフライに倒れてしまった。

 3アウトチェンジで俺は残塁。

 いくら何でも淡白過ぎるバッティングだった。

 同点にされた後の攻撃でこれはちょっとよろしくない。

 甘い球だったならともかくとして、際どいところに落ちるジャイロ回転だった。

 大松君の方はかつてバッテリーを組んでもいた相手であるだけに、最大限警戒して決め球を初球から投じてきたのだろうが……。

 昇二の今の状態でそれをわざわざ狙っていくのは合理的ではない。

 すぐ6回裏の守備につかなければならないのでイニングが終わってからとせざるを得ないけれども、とにかく早めに話をした方がよさそうだ。

 ……そんな思考もまた、ある種のフラグだったのかもしれない。

 そんなことをしている余裕がなくなってしまう類の。


「あ――」


 それは6回の裏のことだった。

 東京プレスギガンテスは2番の高井選手がレフト前ヒットで出塁。

 3番の松丸選手は大きなセンターフライに倒れたものの、1アウトランナー1塁の状況から再び大松君が打席に立った。

 第2打席でも見せた集中力は一層研ぎ澄まされていた。


 ――カキンッ!!


 これもまた、正に打った瞬間だった。

 ショートの定位置から外野を振り返って打球を目で追う。

 それから程なくして。


「「「「わあああああああああっ!!」」」」


 右中間スタンドの最上段にボールが突き刺さり、逆転を果たした東京プレスギガンテスのファンは大歓声を上げた。

 文句なし。

 2打席連続の特大2ランホームラン。

 美海ちゃんは5回1/3時点で4失点となってしまい、今日はQS達成ならず。

 項垂れてしまった彼女の周りに内野陣が集まる。


「美海ちゃん」

「…………交代?」


 真っ先に声をかけた俺に対し、美海ちゃんが力なく問う。

 兼任投手コーチとして、それを告げに来たと勘違いしたようだ。


「な訳ないでしょ」


 今のところ長打は大松君にしか打たれていない。

 それに加えて、球数はまだ68球。

 70球にも到達していないし、球威だって衰えているようには全く見えない。

 気持ちさえ立て直すことができれば、続投で何ら問題ないはずだ。


「……はあ。秀治郎君は申告敬遠されるし、また私が打たれちゃって2点差。もう大分劣勢な感じがしてるけど――」

「こっちにはまだ切り札がある。逆転の目はある。だから、我慢強く投げてくれ」

「守りはゴロにしてくれたら、わたし達が何とかする」


 嘆息してしまった美海ちゃんに、あーちゃんと2人でフォローを入れる。

 今度はどちらも丸っと事実なので、躊躇うことなく告げることができる。


「秀治郎君……茜……」


 対して彼女は、呟くように俺達の名を口にしながら僅かに微笑んだ。

 それから大きく息を吐き、表情を引き締め直す。


「未来、ボール」

「はいっす」


 そして、黙って様子を窺っていた倉本さんに新しいボールを要求。

 彼女に手渡されたそれを、美海ちゃんは手に馴染ませるようによく揉み込んだ。


「……まだ投げていいってことなら、好きに投げさせて貰うわ」

「うん。頼んだ」


 そのやり取りを合図に、内野陣は各々自分の守備位置に戻っていく。


「プレイッ!」


 投球再開。

 美海ちゃんは見た目には立ち直ったように感じられたが、1本目のホームランの後と同様にコントロールには僅かばかり乱れがあった。

 それでも低めに丁寧に投げていき、後続を全てゴロに打ち取っていく。

 一先ず6回まで4失点で終えることができた。


 続く7回表。

 イニングの先頭打者たる4番の倉本さんは軽打で出塁。

 幸先よくノーアウトランナー1塁。

 しかし、大松君を打つイメージが湧かなかったのだろう。

 5番の崎山さんは苦肉の策の犠牲バント。

 それでも1アウトランナー2塁と得点圏にランナーを進めはしたが……。

 後が続かない。

 6番、7番とまた連続で三振に倒れてしまって3アウトチェンジ。

 短いインターバルで美海ちゃんは再びマウンドへ。


「秀治郎君、茜。打たせてくから、よろしく」

「ああ」「もち」


 ここに来て、程よく緊張した適度な精神状態に入ったようだ。

 7回裏は彼女の宣言通り。

 俺とあーちゃんのところに交互にゴロを打たせていって3者凡退。

 互いにラッキーセブンを終え、スコアは変わらず2-4のまま。

 日本シリーズ決勝ステージ第2戦目は東京プレスギガンテスが2点リードした状態で終盤戦、8回の攻防が始まろうとしていた。

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