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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編

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313/416

252 イーファス・ピッチもどき

 日本シリーズ決勝ステージ第2戦。

 東京プレスギガンテス対村山マダーレッドサフフラワーズ。

 1回裏終了直後。

 丁度、3塁側のダグアウトに戻ってきたところだ。


「……やっぱりアレは投げるのがちょっと怖いわね」

「受ける方としても正直怖いっすけど、しっかりコントロールできてさえいれば使える球なのは間違いないっす。何はともあれ、必要なのは勇気っすよ」

「そのコントロールできればって部分が何より難しいんだけど――」


 初っ端から訪れたピンチを無事無失点で切り抜けることができた美海ちゃんと倉本さんは、冷静さを装うような会話に反して興奮を隠し切れていない。

 口元が僅かに緩んでしまっている。

 長いつき合いなので分かる。


「未来が構えてるとこに投げると不思議といいところに行くのよね。ナックルも」

「自分でも不思議っすけど、大体ここら辺を狙って投げてくれればストライクゾーンの四隅に来るって何となく分かるんすよねぇ」


 大松君と磐城君が新たな武器を手にしたのを見て、自分達も負けてはいられないとばかりに短期間で習得したイーファス・ピッチ的な新球。

 それがうまく決まって大松君を打ち取ることができ、手応えを感じたのだろう。

 とは言え。


「初回、ヒットを2本打たれていることも忘れずにな」

「わ、分かってるわ」

「大松君との勝負の結果も紙一重だったし」

「それも分かってるって、もう。秀治郎君ったらスパルタなんだから」

「お互いプロだからな。要求のレベルも高くなるさ」


 数ミリずれていれば長打だっただろうし、そうでなくとも打球速度が速かった。

 あーちゃん以外の【直感】を持たない二塁手だったら抜けていた可能性が高い。

 ちなみに、俺が即座にセカンドに入ったのは彼女が捕球体勢に入っていたから。

 逆に彼女がセカンドに入ろうとしていたら、打球の行方を注視していただろう。

 まあ、それは余談だ。


 いずれにしても、まだ1回の攻防が終わったところでしかない。

 試合は序盤も序盤。最序盤。

 水を差すようで少し申し訳なくも思うが、諸々結論を出すのは早過ぎる。


「次からは他のバッターの頭にもアレを投げてくるかもしれないって刻み込まれてるだろうし、また少し違ってくるはずよ」

「ん。でも、あの球を有効活用できるかどうかは配球次第」

「そこはウチに任せて欲しいっす!」


 あーちゃん共々、バッテリーに釘を刺したところでグラウンドに意識を戻す。

 2回表。村山マダーレッドサフフラワーズの攻撃は5番打者の崎山さんから。

 尚、今日のスターティングオーダーは以下の通りだ。


【先攻】村山マダーレッドサフフラワーズ

1番 二塁手 野村茜

2番 遊撃手 野村秀治郎

3番 右翼手 瀬川昇二

4番 捕手  倉本未来

5番 三塁手 崎山武蔵ムサシ

6番 一塁手 大法豊

7番 左翼手 志水義信

8番 中堅手 木村大成

9番 投手  浜中美海


【後攻】東京プレスギガンテス

1番 二塁手 仁塚利久

2番 右翼手 高井久伸

3番 中堅手 松丸勲雄

4番 投手  大松勝次

5番 一塁手 落畑和大

6番 三塁手 岡原和徳

7番 左翼手 黒沢纏

8番 捕手  森部卓三

9番 遊撃手 坂岡達弘


 マウンド上の大松君は険しい表情を浮かべている。

 初回1アウトランナー1塁、2塁のチャンスを自分のライナーゲッツーで潰してしまったことを悔やんでいるのかもしれない。

 しかも打った球はイーファス・ピッチもどき。

 見た目には単なる緩い山なりのボールだったからな。

 それで凡打してしまったとなれば、精神的なダメージも割と大きいだろう。


「ストライクスリーッ!!」


 だからか、ランナーなしの状況でも彼は全力投球。

 ギアチェンジなど一切考えていないかのように容赦がない。

 魔球OHMATSUジャイロと自身が名づけた改良抜けスラと、新しく引っ提げてきたジャイロ回転で落ちる球のコンビネーションで三振に切って取っていく。

 純粋に球の威力で圧倒し、そのまま3者連続3球三振。

 遊び球一切なしの僅か9球で3アウトチェンジとなってしまった。


「え、早くない?」

「エースが相手だとこういうこともザラにあるよ」


 驚いたようにグラウンドを二度見する美海ちゃんに苦笑気味に応じる。

 アマチュア時代からこっち。

 彼女は大松君クラスのピッチャーと投げ合った経験がない。

 それだけに、今までにない攻守交替のスピードに少し戸惑っているようだった。


 プロ野球1部リーグのピッチャーとしてローテーションを守り切った今シーズンではあったものの、美海ちゃんの対戦相手は6番手がほとんどだったからな。

 そのレベルのピッチャーが今の村山マダーレッドサフフラワーズの打線の手にかかれば、それこそ毎回のように1人か2人はランナーが出る。

 打てないなら打てないなりに球数は稼ぐ。

 たとえ無得点に終わったとしても平均攻撃時間は割と長い。

 そのせいで、そっちに慣れて感覚が狂ってしまっているのだろう。

 野手として出場している時とはまた違うしな。


「こういうのも1つの経験だ。2回のピッチングも頑張れ、美海ちゃん」

「え、ええ。やってやるわ!」


 まあ、俺もこのレベルの相手と投げ合ったのは磐城君が初めてだったので、そこまで先輩風を吹かせる資格はないかもしれないけれども。

 日本シリーズ準決勝ステージで勝利した実績がある分で許して欲しいところだ。

 そう心の中で言い訳をしながらベンチを出て自分の守備位置へと向かう。


 2回の裏。

 東京プレスギガンテスの攻撃もまた5番打者から。

 スターティングオーダーの通り、ファーストの落畑選手が打席に入る。

 クリーンナップに名を連ねていることから察せられる通り、長打力がある選手だ。

 そんな右の強打者への初球として美海ちゃんと倉本さんが選んだのは……。

 再びイーファス・ピッチもどきだった。

 前回の大松君から連続だ。

 その度胸には見習うべきものがある。


 一方で、バッターボックスの落畑選手は早々に構えを解いた。

 そのまま山なりの軌道をゆったりと目で追って見送る。

 この世界でも稀に投げられることのあるこの類の超スローボールは、前世と同じくストライクがコールされることは余りない。

 そのため、振らないのがセオリーとなる。

 落畑選手もそれを承知しているのだろう。


 ここで参考までに。

 ボールになりやすいのは、単にストライクゾーンに入れることが難しいからだ。

 テレビ中継などで通常ストライクになる捕球位置でボールになるのを見て、審判の一存でストライク判定されないのではないかと勘違いする人が時折いたりする。

 しかし、ストライクゾーンというものは捕球位置に依存している訳ではない。

 ホームベース上の五角柱状の空間こそがそれであり、通過したボールとの位置関係を基にストライクとボールのジャッジは行われる。


 イーファス・ピッチの場合は、時に画面から外れてしまうぐらいの弧を描く。

 テレビ中継で見ていてド真ん中に来たなと思うぐらいの捕球位置だと、もう高めに完全に外れてしまっていると考えていい。

 少なくとも、通常の投球で低めストライクぐらいの見え方になっていなければまず間違いなくストライクゾーンを通過していないはずだ。

 加えて言うと、五角柱状の空間はそこそこ広いものの、ボールがホームベースを越える前にバウンドしていると問答無用でボールになる。

 ホームベースを越えてからであればバウンドしてもストライクになるが……。

 山なりの超スローボールに対してもこの条件が適用されると、ストライクゾーンの半分ぐらいはボールゾーンと化してしまう。

 つまるところ、余程精密にコントロールしなければストライクにならない訳だ。

 だが、逆に言えば。


「ストライクワンッ!」


 ホームベースを越える前にバウンドしないようにストライクゾーンを通過させることができれば、イーファス・ピッチでも見逃しストライクになることはある。

 実際、前世も含めてそういう事例はあるし、動画サイトで見たこともある。

 とは言え、基本的に振るべきではないことに変わりはない。

 高い確率でボールになることもそうだが、何よりも無理に打ちに行くとバッティングフォームが崩れかねないからだ。

 山なりの軌道に対しては、アッパー気味のスイングじゃないと面で捉えにくい。

 1回裏の大松君はよく我慢して、本来のフォームのレベルスイングで留めた。

 それはよかったが、点で捉える形となって打球が上がらなかった訳だ。


「ストライクツーッ!」


 2球目はナックル。

 余り揺れてはいないものの、おおよそ45km/hから倍以上の速さだ。

 ストレートとナックル狙いの指示を受けていたであろう落畑選手でも手を出すことができず、ノーボール2ストライクとなり……。

 そこから144km/hのストレートに振り遅れ、彼は空振り三振に終わった。


 実のところ。

 美海ちゃんが投げるこの球にはタイミングを外したり、相手のバッティングフォームを乱したりする効果の他にも更にもう1つ。大きなセールスポイントがある。

 それはナックルに近い握りとフォームから投じられていることだ。

 おかげで、リリースで見抜かれやすいナックルに選択肢を作ることができる。


 大松君の抜けスラを利用した新球OHMATSUジャイロではないが、ナックルのすっぽ抜けを意図して投げる。

 それが彼女のイーファス・ピッチもどきの正体だった。

 更に倉本さんの【軌道解析】との合わせ技でコースもコントロールできている。

 しかも、屋外球場だったら微妙に揺れる変化球になる特典つき。

 この新球は彼女の魔球と言っていいものになりそうな気が割としている。


 尚、名前はまだない。

 シーズンオフの話題作りにファン公募で決めようかという話が出ていたりする。

 まあ、これもまた余談だが……。


「どう? 3者連続三振よ!」


 さすがに3球三振とまでは行かなかったものの、美海ちゃんもまや縦横のスライダーも交えながら2回裏の東京プレスギガンテス打線を三者凡退に抑えた。

 彼女と倉本さんはドヤ顔。

 対照的に大松君は鬼気迫る表情。

 そのまま3回の表裏も互いに三者凡退となり。

 戦いの場面は、俺と大松君にそれぞれ打席が回る4回の攻防へと移っていく。

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