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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編

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304/416

245 アッパースイングとバレルゾーン

 本日の試合のスターティングオーダーは以下の通り。


【先攻】村山マダーレッドサフフラワーズ

1番 捕手  野村茜

2番 投手  野村秀治郎

3番 右翼手 瀬川昇二

4番 二塁手 倉本未来

5番 三塁手 崎山武蔵ムサシ

6番 一塁手 大法豊

7番 左翼手 志水義信

8番 遊撃手 大坂誠司

9番 中堅手 木村大成


【後攻】兵庫ブルーヴォルテックス

1番 右翼手 佐藤壱郎

2番 遊撃手 塩口誠

3番 中堅手 山友義

4番 投手  磐城巧

5番 左翼手 畑口荘衛

6番 三塁手 貝木禅

7番 一塁手 富士廉士

8番 二塁手 小島幸助

9番 捕手  若田太陽


 ほぼ同時にベンチ入りメンバーも発表されている。

 とは言え、そこに記された正樹の名前に何か意味を感じている人は、この神戸エメラルド球場に集まった観客の中にはいないだろう。

 もう間もなく試合開始。

 誰もが日本シリーズ開幕の瞬間を、固唾を呑んで見守っている。

 先攻は当然ながらビジターチームである村山マダーレッドサフフラワーズ。

 その先頭打者のあーちゃんが右のバッターボックスに入り、静かに構えを取る。

 マウンドには磐城君。

 あーちゃんは俺と一緒に高校を中退したため、ここも初の真剣勝負だ。

 比較的控え目ながら、割と話題になっているようだった。


「プレイ(ボール)!」


 主審のコールを受け、磐城君がゆったりと投球モーションに入る。

 気負いは感じられない。

 そのまま普段通りに投じられた日本シリーズ準決勝ステージ第1球目は変化球。

 挨拶代わりとばかりに、初手からシーズン終盤で磨きをかけた3段階カーブだ。

 変化量を大、中、小で分類するなら、その内の小カーブだった。

 右バッターにとって逃げていく軌道だが、小さな変化故にコースが大分甘い。

 俺達なら十二分に情報収集していて、大と中も選択肢として頭に入っている。

 それだけに初球から小カーブは意表を突くことができるはず。

 そう見込んでの1球だろう。

 対して、あーちゃんは初球から振りに行った。少し慌ただしく。


 ──カンッ!


 結果、耳に届いたのは完全に当たり損ねの音。

 バットの芯よりも内側の部分でボールの下を叩いてしまったようだった。

 打球は弱々しく、バックネット方向へと上がる小フライ。

 相手キャッチャーの若田選手は素早くマスクを外すと真後ろに方向転換し、まるで審判などいないかのように猛然と突っ込んでいった。

 そしてスライディングしながらボールをうまくキャッチしつつ、フェンスを踏みつけるようにして勢いを完全に殺す。

 キャッチャーファウルフライ。

 初っ端からファインプレイが出て1アウトとなり、本拠地球場に集まった兵庫ブルーヴォルテックスファンから大きな歓声が上がる。

 尚、審判は素晴らしい反射神経で衝突寸前でギリギリ回避して無事だった。


「……3択で迷った」

「うん」


 しょんぼりして戻ってきたあーちゃんに微苦笑しながら頷く。

 彼女は昔に比べると随分と社交性が増し、視野が広くなった。大人になった。

 それは間違いなくいいことだ。

 しかし、それによって若干【直感】が機能しにくくなっている部分もあった。

 勿論、多くの場合は問題ない。

 ただ、今回のようなケースでは正にその弊害が出てしまっていた。


 まず彼女はカーブが来ることに関して疑いを持っていなかったはずだ。

 だが、この1球には球種を絞った先で更に選択肢がある。

 そのように認識してしまったせいで小さな迷いが生じてしまったのだ。

 以前、宮城オーラムアステリオスとの練習試合で岩中選手の2段階の速度のスライダーを打ち損じてしまったことがあったが、その時もこれに近い。

 いくつかの持ち球からスライダーに絞った後の2択。

 いくつかの持ち球からカーブに絞った後の3択

 短期間に連続して突きつけられた選択問題において【直感】が2回続けて的中する、なんてことは毎度毎度確実に起こるような話じゃない。

 そんな常識的な感覚に引きずられて自分の【直感】を疑いなく間髪容れず受け入れにくくなり、それが迷いとなって微妙にバットコントロールが乱れた訳だ。

 彼女は【生得スキル】なんてものが実在していることを知らないからな。

 さすがに荒唐無稽過ぎて教えようもない。


 そんな状態のまま、この問題を解決する方法としては2つ考えられる。

 1つ目は捉え方そのものを変えること。

 例えば磐城君が10球種持っていたとして。

 10を1に絞ってから更に3択を選ぶという形で認識をするのではなく、もう最初から12球種持っているものとして認識する。

 即ち2回連続の選択問題ではなく、たった1回だけの選択肢。

 そう考えれば多少なり自分の【直感】を信じやすくなるのではないかと思う。

 とは言え、3段階カーブのように象徴的に括られて扱われてしまうと認知にバイアスがかかってしまうし、それを意識的に取り払うのは難しい。


 そうなると、後はもう繰り返し経験を積んで慣れる以外にないだろう。

 今回の磐城君のように同球種を使い分けることができる相手を練習台にして。

 トレースはできるが、俺だと彼女には【以心伝心】で伝わってしまうからな。

 少し前に納品されたハイエンドのピッチングマシンを使っても同じことだ。

 まあ、俺以外の誰かにそれを使って貰って特訓するのはいいかもしれないが。

 いずれにしても。

 何度も繰り返して試行回数を増やせば、異様な正答率を改めて自覚して自ずと幼い頃のように純粋に【直感】に従うことができるようになるはずだ。


 ただ、今はネクストバッターズサークルからバッターボックスへの道すがら。

 戻ってきたあーちゃんにかけられる言葉は少ない。


「前から言ってるけど、あーちゃんはもっと自分の【直感】を信じないと」

「……ん。ごめんなさい」

「大丈夫。俺が打つから」


 消沈した彼女を慰めるように、その肩に優しく手を置いて軽く摩る。

 あーちゃんは小さく頷き、俺の手に触れてからベンチに戻っていった。

 その背を見送り、2番バッターとして初回の打席に向かう。

 右投げの磐城君に対し、俺はセオリー通り左のバッターボックスに立った。

 そこで深く呼吸をして【離見の見】を発動。そのまま超集中状態に入る。

 俺にカーブを狙えと言われながら打つことができず、出塁もできなかった彼女の悔いを少しでも軽くするにはこの手で磐城君のカーブを打ち砕く以外にない。

【直感】や【軌道解析】を使わずに球種を見極め、安定的に打つにはこれに限る。


 静かにバットを構え、目線を磐城君のフォームのリリースポイント付近にやる。

 そうしながら、そのまま視界全体を意識して内野手の守備位置を確認する。

 全体的に後退守備だ。

 打球速度が速いゴロを外野に抜かさないように。

 まあ、強打者相手に対しては極々普通のシフトだな。

 その状態から、磐城君が俺の打席での1球目を投げる。


「ストライクワンッ!」


 初球フロントドアのワンシームを見逃し、高めいっぱいに決まった。

 切れ味鋭く、威力のある球だ。

 ファストボール系だけに150km/hを優に超えている。

 この大事な初戦の立ち上がり。キャッチャー若田選手のファインプレイのおかげで、うまく波に乗ることができたようだ。

 加えて、兵庫ブルーヴォルテックスの本拠地だけに球場の雰囲気もいい。

 1回の表から勢いが感じられる。

 しかし、その流れはここで強引にとめさせて貰う。


 磐城君の2球目。インコース低め。

 横はストライクゾーンだが、高さ方向でややボール球になるカーブ。

 回転数と回転軸から大カーブだ。


「来た」


 いわゆる野球のセオリー。

 とりあえず低めに投げておけば大概何とかなる。

 正にその常識的な考えに従ったような球だった。


 だが、それもまた1つのトレンドに過ぎなかったのかもしれない。

 フライボール革命の中で生まれた理屈。

 アッパースイングでかち上げれば、低めであってもかっ飛ばすことができる。

 暴論染みたそれをここで実行する。


 ──カキンッ!!


 真芯を食った打球はライト方向一直線。

 打たれた磐城君は振り返りもせずに愕然としている。

 ボールはそのままライナーのようにスタンド最上段に突き刺さった。

 盛り上がりに冷や水を浴びせられ、一瞬で球場が静けさに包まれる。

 そんな中、俺は淡々とダイヤモンドを一周していった。


 バレルゾーンと呼ばれるものがある

 ホームランやヒットの確率が高くなる打球角度の範囲のことだ。

 それは打球速度毎に定められており、158km/hの打球速度の場合でおおよそ25~31°の打球角度で打つと長打になり易いらしい。

 打球速度が上がる程に、許容される角度の範囲がドンドン広がっていく。

 187km/hにもなれば8~50°にもなる。


 ボールの中心から少し下を叩いてスピンをかければ打球が伸びるとか、そういった理屈を無視してボールの中心を斜め上に向けて打つ。

 打球速度があって角度がついていれば、そりゃ飛ぶだろう。

 というような脳筋極まりないシンプルな話だ。

 ただ、アッパースイングはボールを点で捉える必要がある。

 そのため、長打が出やすくなる代償として三振が増える。

 更に大前提として、打球速度を出すのに一定のスイングスピードが求められる。

 それでも長打狙いの方が得点効率がいいだろうというのがフライボール革命。

 もっとも、それすら一過性のもので次なるトレンドに移行していくのだが……。


 低めの球をアッパースイングでバレルゾーンにぶち込む。

 超集中状態とステータスの暴力でコンタクト力とパワーを十分発揮できる状態であれば、1つの武器として使うことができる。

 引き延ばされた時間の中で回転の仕方から球種を読み、回転数から3段階のどのカーブかを把握した上で適用すれば柵越えは容易い。

 その証明がこの打席の結果だった。

 そしてホームベースを踏み、ソロホームラン成立だ。


「まだシンとしてるよ」


 ネクストバッターズサークルで待っていた昇二にそう若干呆れ気味に声をかけられ、苦笑しながらハイタッチをしてベンチに戻る。


「かっ飛ばし過ぎっす」

「飛距離勝負してるんじゃないのよ? 全く」


 その辺りでようやく球場にざわめきが広がっていく。

 日本シリーズ準決勝ステージ初戦。

 まずは村山マダーレッドサフフラワーズが1点先制。

 こうして1回の表から試合が動いたのだった。

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ヴォルテックスにイチローおるやんけ
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