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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第3章 日本プロ野球1部リーグ編

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303/416

244 日本シリーズ準決勝ステージ開幕前

 やってきたのは兵庫ブルーヴォルテックスの本拠地神戸エメラルド球場。

 日本シリーズ準決勝ステージの初戦、2戦目、6戦目、7戦目の開催地だ。

 ここを訪れるのは今シーズンの交流戦のビジターゲーム以来となる。

 その前は今年の非公式試合(オープン戦)

 更にその前だと全国中学生硬式野球選手権大会全国大会まで遡る。


 あの時は磐城君をスターダムへと押し上げるために彼を主軸としたチーム作りをし、決勝戦で正樹擁する東京プレスギガンテスジュニアユースチームに挑んだ。

 そして目論見通り、神童として世に名を知らしめるに至った。

 今日は正にその磐城君がエースピッチャーと4番打者を兼任する兵庫ブルーヴォルテックスと、日本プロ野球最高峰の舞台である日本シリーズで相対する訳だ。

 加えて、当時は(俺の手で)彼の踏み台にされた正樹も上限40人の出場資格者名簿に名前が載っており、ベンチ入り26人の中に入ることにもなっている。

 あるいは、そこにフォーカスした方が人々にドラマ性を強く感じさせることができるかもしれない。


 とは言え、ベンチ入りメンバーの発表は試合毎。

 当日の試合開始直前に行われる。

 スタメン発表もまだなので、今のところ正樹のベンチ入りは知られていない。

 勿論、出場資格者名簿は事前に発表されているが……。

 それについては数合わせとしか思われていないようだ。

 何かしら反響があるとすれば、ベンチ入りメンバーが発表されてからだろう。


 ……いや、実際に正樹が打席に立たないと話題にはならないかもな。

 何せ、現在世間の話題は予告先発一色。

 日本シリーズの準決勝ステージ初戦という場で、俺と磐城君が初めて投げ合う。

 その事実が既に発表されているからだ。

 ほとんどの野球ファンはそっちに気を取られていて、誰の頭にも正樹がこの試合に出場する可能性はないようだった。


「兵庫ブルーヴォルテックスは勇気がある。しゅー君にエースをぶつけるなんて」


 神戸エメラルド球場のビジター側ベンチにて。

 あーちゃんが改めて深く感じ入ったように言う。

 今は試合前のミーティングを終えてベンチに出てきたところだ。

 グラウンドでは兵庫ブルーヴォルテックスが打撃練習を行っていて、それが終われば村山マダーレッドサフフラワーズの打撃練習の時間となる。


「……勇気があると言うよりも、決勝ステージに進出するにはそうする以外ないと判断したんじゃないか? 単純に、他に選択肢がなかったんだろう」


 匿名掲示板やSNSでも囁かれていた通り。

 兵庫ブルーヴォルテックスの首脳陣は、投手野村秀治郎が7戦中4戦先発登板してくる可能性が高いと見込んだに違いない。

 そして、それは正解だ。

 7戦目までもつれ込むようであれば、そうするつもりでいる。

 つまり俺が投げる4試合のどこかで最低1勝しなければ、兵庫ブルーヴォルテックスはその時点で日本シリーズ決勝ステージ進出は不可能となる訳だ。

 投げ合いを回避すれば1勝ぐらいは狙えるかもしれない。

 だが、このような状況では敗退行為と非難されかねない。

 もし初戦でこければスイープも十分あり得る賭けだが、そうするより他ない。

 決勝ステージに進んで東京プレスギガンテスに当たったとしても、恐らく彼らもまた兵庫ブルーヴォルテックスと同じようにするだろう。


「それより、もう1度磐城君対策をおさらいしておこうか」

「……構わないが、いいのか? 自分で成長を促しておいて」

「まあ、磐城君にもあれぐらいで満足して貰っちゃ困るからな。ここで打っておいた方が後々彼のためにも、日本野球界のためにもなる」

「今更ながら、お前って何かズレてるよな。変に俯瞰してるって言うか」


 どことなく呆れたように正樹が言う。

 そりゃ1度死んだ身だし、野球狂神(超常的な存在)にも会ったからな。

 前世でどんなに凡人だったとしても、価値観が歪んで然るべきだ。


「しゅー君は特別だから」

「はあ、ものは言いようだな。正直、こいつは変人の類だろ」

「天才は理解されにくいもの」


 正樹の指摘に対し、あーちゃんが不機嫌そうに口をへの字にしながら反論する。

 相変わらず、この2人は互いに微妙な敵愾心が残っているようだ。

 とは言え、そのおかげで逆に率直な物言いができている側面もある。

 変に拗れたりしない限りは、そういう相手がいるのも悪くはない。

 2人には是非ともそのままの関係性でいて欲しいものだ。


「はいはい、2人共そこまで。これから試合なのよ?」

「そうっすよ。あの磐城君が相手なんすから」

「あの、と言ってもな。お前達だって今の磐城巧と対戦したことはないんだろ?」

「それはそうだけど……単純に数字で見たって日本で5本の指に入るピッチャーだよ? 舐めてかかったら駄目だよ、兄さん」

「無駄に自分の中のイメージを大きくするのも違うだろ。実際に対戦しないと本当の姿なんて見えてこないんだから」

「それもその通りだけどな。傍から見て実像と近づける能力は今後必要だぞ?」


 かく言う俺はステータス基準で見てしまう癖があるからな。

 プレイヤースキルの方をしっかり見極める目を養っていかなければならない。

 まあ、それはともかくとして。


「話を戻そう。ミーティングでも言った通り、磐城君はレギュラーシーズン終盤からカーブの変化量を3段階に制御して投げ分けてる」

「アメリカ代表のサイクロン・D・ファクト選手を引き合いに出してアドバイスしたからってそのままカーブで試してみるなんて、素直よね。彼」

「そこが磐城君のいいところではあるけど、改善が必要なところでもあるな。ここらでもう一歩踏み込んで隠し玉の1つでも持ってきてくれれば面白んだけど」

「いやいや、面白がってちゃダメっすよ。あの磐城君に秘密兵器があったら、さすがにヤバいっす。日本シリーズの、真剣勝負の場っすよ?」

「想定外に慌てるよりはそれぐらいの気持ちの余裕を持ってた方がいいだろ?」


 と言うか、もしレギュラーシーズンから何かしら進歩している様子がないようなら、むしろ徹底的に叩かなければならない。

 それを糧として更に成長して貰えるように。

 まだまだ打倒アメリカには足りないからな。


「今は3段階カーブの話」

「っと、そうだったな」


 あーちゃんに軌道修正され、軽く咳払いをしてから再び口を開く。


「実のところ、3段階カーブは別に磐城君の決め球って訳じゃない。彼はカットとかワンシームとかの小さな変化球で打ち取ろうとする傾向が強いからな」


 それは3段階カーブを習得した今も変わっていない。

 球数を減らし、消耗を抑えることが磐城君の理想的なピッチングなのだろう。


「だから、今のところ3段階カーブは配球の幅を広げるために使ってるだけだ。勿論、追い込んだら三振を取る球として投げてくることもあるけどな」


 主軸は変わらず効率よくバッターをアウトにすること。

 3択を強要してくるカーブよりもカットやワンシームの方がまだ打ちやすいと思わせ、その小さく鋭い変化球に手を出させる。

 しかし、緩い球であるカーブとの緩急もあってか芯を外されてしまい、分かっていても打ち損じてしまうようだ。

 結果、打たせて取る確率がデータ上でも高くなっている。


「で、その3段階の変化を見極めてカーブを狙えってんでしょ? 秀治郎君は相変わらず無茶なことを言うわよね」


 あくまでもおさらいなので、美海ちゃんが先んじて結論を言ってしまう。

 つまるところはそうなのだが、もう少し勿体ぶりたかった。

 まあ、ビジターチームの打撃練習時間も迫ってきているし、話を進めよう。


「磐城君の3段階カーブはまだ完璧じゃないからな。よく見れば見極められるぞ」

「変化量が違う以上はリリースも回転数も回転軸も軌道も違うって理屈は分かるけど、さすがにバッターボックスから都度判断しろってのはキツいわよ」

「それでも今日この試合で打ち砕いてやらないと、磐城君にその球が未完成だってことをハッキリと自覚させてやれないからな」


 何せ、サイクロン・D・ファクト選手の6段階カーブは3段階のみの磐城君よりも遥かに高度に制御されているのだ。

 同じ出所から同じような軌道をなぞった上で、最後の最後で変化量だけが違う。

 見極める術があるとすれば精々回転数や回転軸ぐらいのものだろう。

 難易度は更に高くなる。

 だからこそ、磐城君にはもっとレベルアップして貰わなければ困るのだ。


「コツは?」

「とにかくリリースポイントをしっかりと見ることだな」

「バッティングの基本中の基本ね……」


 こればかりはな。

 裏技とかそういうのは、普通はない。

 あーちゃんの【直感】や倉本さんの【軌道解析】はある種の裏技と言えるかもしれないけれども、さすがにパーソナルな能力過ぎる。

 それ以外の選手は結局のところ基本を突き詰めて対応していくしかない。

 外からの分析はそれとはまた別の話。

 全員で一丸となってやるべきことだ。


「と言うか、お前らは秀治郎がトレースしたので練習したんじゃないのか?」

「それはそうだけど、今回は今までより難易度が高くて」

「未完成とは言ったものの、3段階それぞれ並の選手だったら決め球にできるぐらいのキレはあるからな。割と打ててるのはあーちゃんと倉本さんぐらいだ」


 正に【直感】と【軌道解析】のおかげで。

 それでも結構苦労している。

 一足飛びに正解が分かっても、その正解を信じられるかはまた別の話だからだ。

 彼女達でそれなのだから、彼女達以外は尚のことだ。


「今までのように大量得点とはいかないだろうな」

「まあ、毎度毎度2桁得点とかやってる方がおかしいんだけどね。本当は」

「感覚が麻痺してるっす」

「いずれにしても、磐城君は間違いなく強敵だ。そんな相手との勝負の機会はそうそう得られない。互いに実りのある試合になるように頑張ろう」

「ん」

「だから、そういうのが、上から目線に感じるんだよな」


 確かに。自覚はある。

 心の中で丸っと同意するが、あーちゃんは不機嫌そうに正樹を睨みつけた。


「どっちかって言うと、先を見据え過ぎて視線が上がってるって感じっす」

「ん。みっく、それは悪くない表現」


 一転して倉本さんにグッと親指を立てるあーちゃん。

 彼女の感性はともかく、先の先を見る余り足元が疎かになってもいけない。

 そこは気をつけないとな。


「っと、俺達の打撃練習の時間だな。皆、行こうか」


 ホームチームの打撃練習が終われば、ビジターチームの打撃練習。

 次にビジターチームの守備練習。

 続いてホームチームの守備練習を経て、初日なので開会式を行い……。

 そうして、日本シリーズ準決勝ステージの初戦が始まったのだった。

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