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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
第2章 雄飛の青少年期編

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閑話07 鮮烈に(美海ちゃん視点)

 9月中旬。

 秋季大会に向けて新体制となった山形県立向上冠高校野球部は、夏の甲子園決勝戦での敗北を糧に日々練習に励んでいた。

 特に磐城君の引き立て役のような形になってしまった大松君は、その悔しさをバネに厳しいトレーニングで自分を追い込んでいる。

 ただ、少しオーバーワーク気味ということで、そんな彼を休ませるために2年生組の一部は陸玖ちゃん先輩の講義という名の休養日を今日は指示されていた。


「……あの、陸玖ちゃん先輩。大丈夫なんですか?」


 1学年上である彼女は数ヶ月もすれば大学受験だ。

 未だに教材となる動画を作っているが、勉強する時間があるのか心配になる。


「え? えっと、うん。大丈夫大丈夫」


 怪しげな返答だけど、まあ、彼女がそう言うなら問題ないだろう。

 定期試験や模試の結果は悪くないようだし。


「それで、今日はどうするんです? 一応、講義するんですか?」

「それもいいけど、休養が目的なのに肩肘張ったことをしてもアレだからね」

「じゃあ、復習とか?」

「ううん。ええとね。今日はこれを見ます」


 私の質問にそう返すと、ノートパソコンを操作してミーティングルームのプロジェクタースクリーンに動画を映し出す陸玖ちゃん先輩。


「これって――」

「都市対抗野球本戦の野村君達の活躍をまとめたもの。って言っても、映像はテレビ中継の録画を簡単に編集したものだけどね」


 プロ野球。高校野球。大学野球。

 これらに比べると脚光が当たりにくい社会人野球だが、都市対抗野球の本戦まで行くと地上波でも普通に見ることができる。


 ただ、まあ。

 試合は平日の昼に行われていたりしていて、私は生で観戦できていない。

 試合結果を速報やスポーツニュースで確認したぐらいだ。


「じゃあ、まずは1回戦から順を追って」


 そうして映し出されたのは……。

 ベンチで秀治郎君と密着して座っている茜の姿だった。


「はあ。あの子は、全くもう」


 思わず頭を抱える。

 全国中継されている自覚がなかったのだろうか。


 ……いや、茜のことだから分かっててやってそうだ。

 秀治郎君が困り顔ながら許しているのも多分そう。

 お互いがお互いに変な虫が寄りつかないようにしているのだろう。

 私も変に有名になってから妙なアプローチをかけてくる人が増えたし。


 そう考えて、自然と小さな嘆息が出てしまう。

 ああいうのはホント迷惑だ。

 有名税なんて言う人もいるけど、私は野球に打ち込む普通の高校生なのに。

 まあ、プロの海峰永徳選手の名を騙って野球部のアドレスにメールしてきた人がいたのには、さすがにちょっと笑ってしまったけれども。


 何にせよ、ここで不満を募らせても何の解決にもならない。

 無視だ。無視。

 映像に意識を戻す。


『この試合注目の17歳バッテリー、野村秀治郎選手と鈴木茜選手は保育園からの幼馴染とのことです。小学校、中学校と全国優勝を経験しています』

『小学校の時は瀬川正樹君と、中学校では磐城巧君と、高校では大松勝次君とチームメイトだったようですね』

『ちなみに夏の甲子園で大きな話題となった美少女ナックルボーラー浜中美海さんとも、小学校からの幼馴染だそうです』


 実況の口から自分の名前が出てきて、少し恥ずかしくなる。

 美少女は勘弁して欲しい。本当に。

 わざわざ動画に入れた陸玖ちゃん先輩にも困ったものだと思う。

 彼女に全く悪意がないのは分かっているけれども。


『この世代は何かと注目を浴びていますからね。彼らにも期待したいところです』


 ……全然期待してる声じゃないわね。

 煽って話題作りをしているだけだ。


「この人ー、嘘つきだねー」

「だね。全然期待なんかしてなかったのが丸分かり」


 私と同じ感想を抱いたのか美瓶が不機嫌そうに呟き、琉子が同調する。

 実際、1回戦の時点では完全に色物枠だったと聞く。

 秀治郎君が先発だった訳だけど、都市対抗野球東北地区予選では調整登板すらしておらず、公式戦で最後に投げたのは中学生の時。

 しかも、当時とは違う左投げ。

 これであの結果を予想できる者がいたら、超能力者か何かだろう。

 だから、解説の口振りは不愉快だけど仕方がないとも思う。

 仕方がないとは思うけれども――。


『ピッチャー野村。第1球を、投げまし……え?』


 我ながら意地が悪いと思うが、画面の中の反応に溜飲が下がる。

 観客含め、球場全体が目の前の出来事を理解できずに静寂に包まれる様。

 ここはスポーツニュースでも取り上げられていた。

 正直、最高だった。

 何度見ても思わずニヤけてしまう。


『ひゃ、161km/hの直球が、内角高めに決まりました! ストライク!』

「左で160km/h超えはホントにヤバくて希少だよね。現役だと世界を見渡しても大リーガーぐらいしかいないもの。……うふふふ」


 レアもの好きの陸玖ちゃん先輩が恍惚の笑みを浮かべる。

 1000年の恋も冷めそうなだらしない顔だけど、まあ、彼女を選ぶ男性はきっとそんな姿を愛してくれる人だろうから問題ない。はずだ。


『最後は内角低めへのストレートで3球三振! 全く手が出ませんでした』

『完全に腰が引けていましたね』

『それもそのはず、電光掲示板に表示された球速は何と162km/h! 球場全体がどよめいています!』

「あ、ちなみに1球目と3球目の違い分かる人」


 実況と解説の興奮を余所に、陸玖ちゃん先輩は回答を促すように軽く片手を挙げながら私達全員を見回して問いかけてきた。

 講義も復習もしないとは何だったのか。

 ご丁寧に画面を左右に分けて1球目と3球目のスロー映像を流してるし。


「投球フォームが違うな」


 陸玖ちゃん先輩の問題に対し、大松君が複雑な口調で答える。

 これは、まあ、あからさまだ。

 比較映像がなくても分かるだろう。

 1球目と2球目は完全なオーバースローだったのに対し、3球目はサイドスローに近いスリークオーターという感じのフォームだった。

 秀治郎君はどんなフォームでも球速やコントロールが変わらない。

 こうされると球筋を完全に見極めることは困難だ。


「半分当たり。もう1つあるんだけど、分かるかな?」

「……ええと、プレートの位置?」


 おずおずと手を挙げて昇二君が答える。


「正解!」


 指で〇を作りながら告げる陸玖ちゃん先輩。

 言われて改めて見ると、確かに3球目はプレートの左端から投げている。

 1球目は真ん中少し左ぐらいの位置だ。


「左ピッチャーが右バッターの内角に投げるいわゆるクロスファイヤーなのは同じだけどフォームとプレートの位置で3球目はより抉るような軌道になってる訳!」


 多分、この球は1部リーグのプロ野球選手でもそうそう打てないだろう。

 1回戦から本気…………じゃないのよね。これで。

 秀治郎君には他にも昔、正樹君との勝負で見せたアンダースローもある。

 これについては小学校で一緒だった私達だけの秘密だけど。


「ただ、ここまでフォームを大きく変えるのは珍しいし、難易度が高いから、おいそれと真似しないようにね! ……うふふふ」

「真似るならプレートの位置の方っすか」


 ニヤける陸玖ちゃん先輩を無視し、腕を組みながら真剣な顔で呟く未来。

 不規則な変化というナックルの性質上、そこまで考えずに投げてたけど……。


「未来、行ける?」

「とりあえず、やってみてって感じっす」


 未来がプレートの位置まで考慮に入れた上でナックルを扱えるなら、私達ももう一段階上に行くことができるかもしれない。

 そんな風に思っていると場面が切り替わる。


『1回の裏。満塁のチャンスで先程凄まじいピッチングを見せた野村に打席が回ります! 果たしてバッティングでも魅せてくれるのか!』

『大事な本戦初戦の先発を実績のない17歳に任せたことも信じられませんでしたが、あるいは4番打者としても十分な実力を有しているのかもしれません』

『期待が膨らみますね!』

「声の調子がさっきまでと全然違いますね」

「手のひら返しが凄いねー」


 すずめと琴羅が呆れ気味に言う。

 まあ、でも。

 頑なに認めないよりはいいだろう。

 何せ、こんなのはまだまだ序章に過ぎないのだから。


『野村、初球を打った! 物凄い打球だ! センター全く動かず! これは行ったか!? 入った! バックスクリーンに飛び込むグランドスラム!』

「はあ、ホント。秀治郎君、やり過ぎよ」


 観客の熱狂が伝わってくる動画を眺めながら、ついつい苦笑してしまう。

 もう笑うしかない。


 都市対抗野球本戦1回戦の初っ端から秀治郎君が見せた鮮烈過ぎる活躍。

 それを受けて、チームが勢いづかないはずがない。

 今年の都市対抗野球本戦は正に彼らの独壇場。

 村山マダーレッドサフフラワーズのためにあると言っても過言じゃなかった。

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