同化剥がし~意味のない資料~
いつものムーンバックス。
椿と椿フレンズの学校帰りの珈琲ブレイク。
夏休み中に彼氏と別れた加代はニコニコで
新しい彼氏とメールをしている。
「加代まじ早」
「新しい恋いいわ~いい人なんだって〜」
椿も驚きながらも何も言わずフラペチーノを飲む。
「椿この、キーホルダー可愛いね」
椿のリュックに付けた、
もふもふ君のキーホルダー。
あの緋那神社のお祭りで
麗音愛がくれたキーホルダー。
「うん、お気に入り」
「椿、また告られたのに断ったんでしょ?
今回の人結構イケメンだったのにさ~」
「そんなの、顔なんて……」
「付き合ってみてからさ、好きになるのもありだよ?」
「そういうのは無理かな、あはは」
あはは……と愛想笑いをする椿。
恋愛の話はどうも苦手だ。
みんな大好きな恋愛
その恋愛感情がよくわからないから。
好きが大嫌いになったり、愛してるが死ねとか
そんな感情変化って疲れちゃわないのかな? と思ってしまう。
「今度こそ身を焦がすような恋、運命の相手」
「頑張れ加代~」
とは言っても、今日の加代は幸せそうで輝いているのかもしれない。
「椿の好みってないの?」
「ん~考えたことないかな」
「剣一さんとか」
「剣一さんはとっても優しいけど……」
そこからはキャーと盛り上がった皆から
剣一話を求められたが、なんとか話して良い事だけを伝え
「ごめん、私、早く帰る日なんだ!ごめんね!!」
とその場を後にした。
最近、お友達と一緒にいても少し疲れてしまう。
恋愛話、家族の話、楽しいアルバイトの話。
椿には無縁の話
先日の会合で老人達から向けられた気味の悪い視線を思い出す。
家族はいない。
仕事は白夜団。
今日は剣一が、白夜団から
同化剥がしの資料、進行などを持ってくると言っていた日だ。
その時間に間に合うように帰る。
「椿!」
後ろから声がした。
「麗音愛!? どうして? 塾まだなのに」
「やっぱ気になって休んだ
なんかあった?」
麗音愛は、椿の顔を見て
少し沈んでいるのを感じる。
「ううん! ムンバみんなで行ってきたの」
「いいね」
「お土産買ってきたよ、ほらマフィン」
「ありがと」
同化剥がしは
術者、つまり椿の方が危険が大きいと聞いている。
それがどんな方法なのか
きちんと聞いておきたかった。
「椿ちゃん、玲央おかえりなさい」
「あ、美子ちゃん! ただいま帰りました」
「来てたんだ」
麗音愛の家にそのまま行くと
美子も私服姿で、リビングにいた。
「おう、おかえり
よっちゃんも気になるって言うからさ。
まぁそうだよね。だから呼んだ」
当然の話だ。
今回の同化剥がしをされるのは
藤堂美子
結界や攻撃のできる
鏡の錫杖槍
槍鏡翠湖
だ。
本来であれば、同化剥がしは禁術で
白夜団を退団するなど言語道断であった。
しかし、現在の人権や実情を考えると
本人の退団申し入れは受ける、という結果になった。
「あと、研究課が後押ししたんだと」
「研究……あぁ、誘魔結晶を作った」
「そうそう、剥がしの時の具合がもし分かれば
同化のメカニズムもわかるかも、とかなんとか」
「メカニズムなんて通用するのかな」
「俺もわからないことはわからない。研究課は専門外。
さ、座れ」
4人でリビングの6人掛けのテーブルに座る。
紙の資料には
同化剥がしの日付
開始時間
同化剥がし責任者
団長
咲楽紫千直美
桃純椿
祭壇の設置図
同化剥がし当時者
藤堂美子
同化剥がし術者
桃純椿
祭壇・術者保護責任者
咲楽紫千剣一
咲楽紫千玲央
に
手伝人
参列者
がずらりと書かれている。
「実質お披露目だな」
まぁ、こんなものはどうでもいいと
どんな事を行うか書かれた資料を麗音愛は探すが
今までの過去の資料があまりに少なく
祭壇設置をし
当事者を前に
桃純家当主の詠唱のあと
何が起きるのか不明だという。
「――こんな事、頼めない
何が起きるかわからないなんて」
美子が愕然とする。
「でも、美子ちゃん、当事者側の被害報告はなし
桃純家側での精神障害報告1件そのくらいだよ」
笑って椿は言う。
「それは資料がないだけで!
椿ちゃんの、桃純家当主になる件は叶えられたし
私は諦める!
やっぱりやめよう!!」
「当主が認められても、私はまだお飾りの人形なんだ。
どんなに妖魔を倒しても報告なんて見やしない。
お披露目だというなら、そこで見せつけたい気持ちもあるの」
当日は七当主以外の、当主も来るだろう。
皆が罰姫を見に来る。
そこで実力を見せれば、武器を守るだけの一族から
借りる事もできるかもしれない。
「椿ちゃん」
「でも何より、紅夜を倒すために創られた武器で
苦しむ人がいることが
私には耐えられないの」
「……ごめんなさい、私が私が浅はかに……」
「向き、不向きはあるよ
ね?麗音愛、剣一さん
美子ちゃんは普通の女の子だよね」
「あぁ、うん」
麗音愛も頷く以外なかったが、
椿だって強いし戦闘センスはあるけれど
もふもふ君が好きで、チョコが大好きな
勉強を頑張る普通の女の子。
そう思っている。
闘わなければいけない運命なんてない――そう思いたい。
「何があっても俺も、全力で成功に協力する」
「玲央」
「よっちゃん、俺らが守るぜ」
「……剣一君、ごめんね、私のせいで」
「ううん、私のわがままなの
美子ちゃん
同化剥がしをさせてもらってもいい?」
椿の笑顔に涙ぐみながら
『お願いします』と美子は言った。
その日の夜。
夕飯を終えて美子は帰り
リビングで、2人
また資料を眺めていた。
「何が起きるんだろう」
「そうだね……麗音愛に危険がないといいんだけど」
「俺は大丈夫」
そうは言っても、
前回の天海紗妃との戦闘や浄化作業中の事故での
麗音愛のダメージ。
麗音愛が怪我をする度に
椿の胸は張り裂けそうになる。
回復はしても、凍りつくように冷えていく身体。
いつか呪怨に飲まれてしまわないのか……。
「心配しないで、俺も全力でできることをするから」
「私のことに付き合わせてごめんね」
「謝るのはなしだって
俺が自分で選んだことだよ」
麗音愛も椿が一番の心配だ。
さっき椿は軽く笑って言ったが
精神障害は重症と書かれていた。当時の資料だ。
回復はしなかったのかもしれない。
そんな事は絶対にさせない。
「椿も絶対無理しないで」
「うん」
「美子の為にも、頑張ろう!」
「……うん」
頑張りの誓いとして、麗音愛は笑顔で
そう言ったが
麗音愛の口から出た美子の名前。
椿の胸はズキズキ発作が起きる。
相変わらず
この発作は何故起きるのか、椿にはわからない。
「あのね麗音愛」
「ん?」
「明日またお手紙が来て
呼び出しされたんだ……一緒に来てくれる?」
「そっか、うん行くよ」
「ありがとう!!」
嬉しそうな満開の笑顔に麗音愛は少しドキリとしてしまい深呼吸する。
最近
椿とよく一緒にいる自分に
嫌味や体育中にタックルなどしてくる輩達がいるのだが
それについては黙っておこう。
この注目されない呪いに勝る椿の魅了の強さ。
紅夜と篝の娘、故か。
あの当主会合の時のように
椿に触れようとする事がまた儀式の時にでもあれば
容赦はしない。
そして儀式当日。
曇天の空の下。
郊外に借りられた白夜団敷地の森。
野外の儀式はそこで行なわれる。
一般人の立ち入りはもちろん禁止。
建てられた準備室で
椿は用意された巫女姿のような着物を着る。
が、なんとなく華美に思えてしまう。
詳細な資料はないというのだから
誰かの趣味なんだろう。
着替えた後の髪結は、いつものように佐伯ヶ原がしてくれる。
「こんなの、闘い難いよね」
「お披露目会でも、あるんだ。我慢しろ」
最初の出会いは最悪だったが
なんだかんだ佐伯ヶ原とは、よく話すようになった。
少しの愚痴でも言うと、ホッとする。
「緊張するな」
「うん……」
「サラがいるから」
「うん」
麗音愛の名前を聞くだけで笑顔になる椿。
「ほら」
汚れないように、アーモンドのチョコレート。
御礼を言ってニコニコとカリッと口に入れた。
「やっと、白夜ではここまで来れた。
美子ちゃんのためにも頑張るよ」
「俺も、何か出番があれば出るさ」
そう言ってスーツ姿の佐伯ヶ原も
腰の短刀を見せた。
いつもありがとうございます
更新が少し遅れ申し訳ありませんでした。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます
執筆のエネルギーに直結いたしますので大変ありがたいです
同化剥がし編
始まりました。
またどうぞよろしくお願いいたします




