第三章開始!秋の動き ~麗音愛・椿・剣一任務~
過ごしやすくなった秋の入り口。
マンションの屋上での鍛錬では足らず
剣一に山に連れてきてもらった2人。
そう遠くはない。
しかし、そこが妖魔王・紅夜の亡骸を封印していた場所だった。
そこは昔から呪い首塚の山として恐れられており
古くから穢れを流しやすいように、家や川など整備され作られていた。
それを利用したわけだ。
「しかし、見る影もないわけだ」
剣一の言う通り、
森のなかの開けた一角。
今は吹き飛ばされたように、何もなく
木々も倒れ、大きな穴が空いている。
まだ紅い瘴気が渦巻いているのが麗音愛も椿もわかった。
「修行ついでに、浄化も頼めるかな」
「はい!!」
大きな炎ではなく、圧縮するように
熱が上がるように
青く青白く、白く一気に燃え上がる。
椿は指先に灯らせた炎を、穴の中に投げ入れた。
するとまるで殺虫剤にいぶられた害虫のように
穴から妖魔の群れが飛び出してくる!!
おびただしい数の不気味な妖魔が牙を向く!!
すぐに麗音愛は、防御になる呪怨を繰り出した。
「椿! 兄さん!」
「はい!」
「おう!」
まさかの出来事だったが、麗音愛は顔色を変えずに
呪い刀『晒首千ノ刀』を構える。
椿も瞬時に燃える細剣『緋那鳥』を。
兄の剣一は、煌めく『綺羅紫乃』
片手には対妖魔の札を持つ。
「勝ったらドーナツ! 数は勝つモン!」
「いいよ!」
いつもの2人の討った妖魔の数競争。
勝負は五分五分だ。
炸裂する、怒濤する3人。
30分ほどで今日は片付いた。
普通の人間の剣一が一番バテて、その場に座り込んだ。
「ぜぇはぁ……やべ超過手当くれ……」
「剣一さん」
「兄さん、少し休みな」
椿が駆け寄って、紫の炎で剣一を包む。
「あぁ~……椿ちゃん最高!! まじ気持ちぃいいい!!
~~いで!!」
「だから、その言い方やめろ!!」
麗音愛に殴られる痛みも炎ですぐに消えていく。
「あれ? なんか、しんどい疲れも治ってく」
「本当ですか? 良かったーー!!」
「椿ちゃん最高!!」
椿の炎は成長し、疲れすら癒やす力を持ったようだ。
抱きしめようとする剣一をまた麗音愛が殴った。
「どうして白夜団は、紅夜を倒せたと思ったの?」
浄化作業をしながら麗音愛が剣一に聞く。
「玲央、大丈夫か?それ強いやつだから溶けるなよ」
「大丈夫」
聖水を撒き、剣一が釘のような金属を法則にしたがって打ち込んでいく。
「あー聞いた話だけど、
それなりに死闘して亡骸もあって
数年何も起こらないから滅したと思ったって感じ」
「108の武器も揃ってなかったのに?」
「108の武器は結構欠落してるよ、行方不明もあるしな
揃ったからなんとかなるっていうアイテムではないんだぞ」
椿は、1人新たに返却された弓の練習をしている。
帰兎
という名の弓だ。
横移動はできないが、宙に浮かぶことができる。
とりあえず今回この弓を持つ家が
椿への暴行もあり
存続の意志もないということで白夜団を退団したためだ。
浮かんだ椿の打つ矢は、真っ直ぐに狙った木を撃ち抜く。
矢は使用者の力が具現する為、火矢もできそうだ。
ふぅと満足そうな笑みを浮かべる椿。
麗音愛が見ていることに気付き照れたように笑った。
椿に襲撃された事を思い出す。
凄まじい攻撃だった。
それすら今は、麗音愛にとって微笑ましくすら感じる。
逃げる時に、飛び立って
頬ずりしてくれた……あの時は
あまり思い出さないようにしてる。
「よーっし!! これで完璧!! 椿ちゃん!!
影響あったら困るから
降りといで! 玲央も離れてろ!! 結構遠くに行けよ!!」
「うん」
降りてきた椿に手を伸ばして、降りやすくする。
「ありがとう」
帰兎を珠にして、首元に仕舞う椿。
そこには麗音愛の第2ボタンも揺れている。
巨大な穴の前に立つ
剣一がまた右手に綺羅紫乃を構え、今まで穴の周りに打った釘についた糸を左手に束ねる。
チラリと距離をとって浮かんでいる麗音愛と椿の距離を見て
「兄貴のかっこいいとこ見とけよーー!!」
と叫んだ。
そしてグッ!! と力を込める。
「天に舞い
地に眠りし
聖なる源流よ
我が血
我が肉
我が精神の呼ぶ
猛る力の名のもとに
穢れし闇に
またの光を
さらなる光を
煌めきの果て
全てを光に」
剣一の元に七色に輝く光が
集まっていくのが目に見える。
祝福されているように
集まっていく。
「剣一さんすごい……」
「うん……」
「天才剣一君のために、全てを輝きにぃーーーーー!!! 」
「「えぇ!?」」
その瞬間
綺羅紫乃がカン!! と煌めき八方に強い光が飛散する。
あ!この光はヤバい!と麗音愛は焦り
椿を抱き締めもっと遠くへ飛ぶ。
晒首千ノ刀の再生力や
妖魔王・紅夜の血の再生力を持たないで
ずっと闘い続けてきた兄・剣一の凄さを改めて知った麗音愛。
だが、強烈に浄化の力が集まった時
先程の戦闘では出てこなかった最後の穴の主が
地響きとともに一気に吹き出た!!
嘘だろ!? と剣一は心の中で叫ぶ。
「――くっ!!」
最強浄化術を張っている時は、無防備。
剣一は一層、術を強め一気に消滅させようとするが――!!
最後に残った頭の一牙が剣一の目前に迫った。
くそっ!!
術だけは守ると歯を食いしばった剣一。
牙はもちろん届かない。
晒首千ノ刀、麗音愛の刀が、妖魔の頭を一太刀で斬り捨てる。
玲央――!!
「麗音愛ーー!!」
遠くで椿の声がする。
強力な兄の最強浄化術。
麗音愛の身体が溶けていく。
「大丈夫だから!!」
術を止めようとする剣一に、麗音愛は叫び
溶けながら振り返って微笑む。
そしてすぐに呪怨の翼でそこを飛び去った。
「麗音愛!!大丈夫!?」
「あぁ、平気」
そう言いながらも、翼も溶け落ちて転がるように椿のもとにたどり着いた。
椿は抱き留めて、麗音愛の頭を膝に乗せた。
麗音愛の全身は再生する煙に包まれている。
全身は鋭い痛みに襲われる。
「――ぐ……!」
「逆効果だったら言って!」
椿は慌てて紫の炎を麗音愛にまとわせる。
腕が切れ落ちても、再生する晒首千ノ刀の力だ。
今まで
麗音愛が紫の炎を使ってもらう機会はなかったが
あまりの惨状に
つい麗音愛を包んでしまう。
あたたかい炎。
やわらかい紫の炎。
治っていくのがわかる。
ふっ、と麗音愛は笑ってしまう。
「麗音愛?」
「……本当に気持ちいいね」
キョトンとした後、ふふっと笑う椿。
麗音愛も笑う。
「椿ありがとう」
「良かった麗音愛」
浄化術を終えた剣一が走ってくるのが見えた。
「ったく~俺の見せ場が」
「剣一さん、かっこよかったですよ」
自宅に戻り
ぱくぱくとチョコかけのドーナツを頬張る椿。
結局ドーナツは全て剣一が買ってくれた。
「お疲れ、すごかったよ」
「ぐす……弟に気遣いされるとか情けねぇ」
剣一に、落とした珈琲を渡して
麗音愛もチュロスを齧った。
「すごい溶けたし兄さんが敵だったら、俺もまずいかも」
「ふふふ、俺は白夜団で最強2番、もう3番? の術剣士だからな」
麗音愛と椿の次だと言いたいんだろう。
「俺達は、何もわからないからさ、がむしゃらに闘えるけど
指揮官は必要」
「そうですよ、最強は剣一さんです!!」
「なんだよーお前ら小遣いでも欲しいのかよぉ!!」
あははと3人で笑うと、それぞれの携帯電話が一斉になる。
白夜団の連絡メール。だが一斉メールではない。
「……同化剥がし容認か」
出ていなかった本部からの答えが出た。
麗音愛は
動揺はしない。
椿は、麗音愛を見る。
頷く。
それを見て微笑む椿。
剣一も微笑む。
「よっし!! んじゃ部長として
君たち頑張ってくれよぉ?」
「はい!」
「あぁ」
ドーナツで乾杯。
本格的に涼しい秋が始まる。
乾いた風が吹く。




