約束2人の海~しょっぱさ・オレンジ色~ ◇漫画あり
お城は完成し、写真を撮って
その後2人で豪快に破壊して笑った。
さて次はなにしようかと
辺りを見回す。
あまり混まない場所だからなのか
カップルが多い。
浜辺でもシートの上で抱き合ったりキスをしたり。
そして海に入ってるカップルは
男性が寄り添うようにして抱き合って支えたり
女性が上に乗ったりして楽しんでいる。
みんなイチャついているのだ。
「……」
2人とも面食らっているが、その事については話題にはしない。
「な、何して遊ぶ?」
「あ、えっと~~じゃあ、浮き輪に乗ってみたい」
大きな浮き輪に乗って波に揺られている人を指差す椿。
「じゃ一緒に借りに行こうか」
もう、なるべく1人にはしないようにと麗音愛は思う。
「流されないように、注意してねー」
「はーい
そっかー流されちゃったら危ないね」
大きな浮き輪を麗音愛が運ぶ。
「俺が押さえておくよ」
「乗るの難しそうだね」
「浜の方から乗ったらいいんじゃない?
俺が引っ張ってくよ」
「なんだか申し訳ないよ」
「ぷっなんでだよ!
ほら、座りなよ」
頷き、ギシッと浮き輪に座る椿。
よし! と近づくが浮き輪に座った椿の太腿がやたら強調される事に
気付きすぐ海を向いて紐を引っ張っていく。
「わーぷかぷかだぁ
きゃー!!」
無邪気にはしゃぐ椿。
あぁ良かった、と心から思う。
「きゃはっ! あは!」
波が来るたびに大喜び。
「ねぇ次は麗音愛乗りなよ!」
「ん? 俺は、このままでも結構楽しいよ」
「乗ってみて!」
椿は浮き輪から降りようとしたが
バランスを崩して穴からザブン!!と海に落ちた。
「わっ!」
「椿!」
椿の背では足が届かない。
水しぶきが上がって
ブクブク藻掻く椿をすぐに抱き寄せ海面に顔を出させる。
「はぁっ! びっびっくりした!!」
「大丈夫?!」
「うん、ありがっとっしょっぱい!!
はぁっはぁっ足、とどかなっ」
「落ち着いて
いいから落ち着くまで
支えてるから」
麗音愛は
右手で浮き輪を掴み
椿に首元に思い切り抱きつかれ
左手で椿の腰を支えた。
「はぁっごめんっ!」
「い、一回、あがろうか?」
ぎゅっと抱きつかれた麗音愛の胸元に
椿のフリルと柔らかい胸が
波に揺られるたびに押し付けられる。
「ごめんねっっ! はぁっ大丈夫っっ」
耳元で聞こえる声。
大きな波で
離れそうになって慌てて強く引き寄せると、柔らかいお尻だ。
ぎゅっとまた椿の腕にチカラがこもる。
「大丈夫か」
「大丈夫っ」
ぎゅーっと椿に抱きしめられ
お腹同士が触れ合ってドキーンとなる。
冷静さを必死に引き出す、
でもドキドキしてしまう。
「麗音愛こそ大丈夫? 重いよね」
「海の中だし重くなんかないよ
ただ
椿、背中に回って? おんぶの方が、安定するから」
「う、うん」
まだ、これでどうにか少し冷静になれる気がした。
「どう……?」
「私は大丈夫……息も整ってきた」
落ち着いてきた椿も少し身体を離して背中で肩に捕まってくれたので
ふぅと麗音愛も息を吐く。
「これはこれで波に乗れて楽しいかも」
「そうだね」
動揺がバレていないようで麗音愛は安心する。
「きゃー大きい波」
でも大きな波がくると抱きつかれ
フリルと柔らかい感触が背中に。
この前見たグロテスク妖魔とふんどし姿の祖父、微分法を脳内に思い浮かべる。
「麗音愛も、浮き輪乗ってみて!」
あぁその方がいいかなと思って椿を浮き輪に捕まらせると浮き輪に飛び乗った。
「楽しいでしょ?」
「うん」
「ふふ、あーでも私じゃ一緒に流されちゃう」
「じゃやっぱ浮き輪は椿だね。よっと」
身を翻して浮き輪から降りると、大きな水しぶきが立つ。
「きゃーしょっぱい!!」
「あはは! ごめんごめん」
「もう! あはは!」
向き合って笑い合う。
笑って濡れた髪をかきあげたその時
ふと、椿が手を伸ばしてきて、麗音愛に抱きついた。
「えっ」
「あっ……!
あ、あの……あ、足が」
「え!つった!?」
ザブンと波が2人にかかる。
慌てて、また椿の顔にかからないように抱き寄せた。
「あの、すぐ治るから……
ごめんなさい……」
「いいよ、焦らないで
ちゃんと支えてるから」
「うん……ごめんね」
「大丈夫??」
ぴったりくっついてくる椿の顔は見えない。
また、椿がこんな近くに。
海に濡れているはずなのに、
いい香りがして、柔らかい身体が密着して
おかしいくらいドキドキしている。
でもなんだか安心する。
浮き輪を掴んでいる腕も離して
両手で抱きしめたい気持ちになる。
いつも元気で飛び跳ねて自分と張り合ってる
親友とは思えない、小さな身体、細い腰……。
椿の清らかな力が染みてくるようで、呪怨の喚きも少し収まる。
……ずっとこうしていたい……。
「!」
何を考えているのか、駄目だ。
このままじゃ呪怨に喰われる。
死んでいないと、殺されてしまう。
そう思った時、椿がうつむきながらゆっくり離れようとした。
それに合わせて手も支えながら離していく。
波で揺れる、身体。
「もう、大丈夫。ありがとう」
「あ、あぁ少し休もう。浮き輪に捕まって」
「うん」
ビーチにあがって戻ってきても
なんだか急に借りてきた猫のように、大人しくなった椿。
わーきゃー暑くて明るい海辺で似合わない大人しさ。
「ごめんなさい」
「何も気にしないで、足は大丈夫?」
「うん、もう全然平気」
ポタポタと流れる海水も、すぐに暑さでベタつきに変わる。
「パラソルも借りたし
少しのんびりしよう」
「ありがとう」
「ほらバスタオルかけときな」
目の毒になる前に、自分の大判バスタオルを渡す。
「うん」
「寝てもいいよ」
「うん……麗音愛は?」
「あぁじゃあ俺も寝るかぁ!!」
わざと明るく、ドスっと椿の横に寝転ぶ。
パラソルの下の景色。カモメの声が聞こえる。
肌についた砂の感触、海の香り。波音。
「天気いいね」
「だな、いい日だ」
また黙ってしまう椿。
「椿どうしたんだよ? 具合悪いの?」
「さっき、ごめんね……」
「なんだよ! そんな事を気にしてるの?
いつだってお互い助けあってるだろ?」
「うん……でも、あの、そこまで、あの
そんなんでも、なかったんだ……だから」
「酷くなくて良かったんだよ! 水の中は危ないんだし
別にもう気にしないこと! 親友なんだから」
「親友に嘘ついちゃったみたいな気持ちで……」
ぽつぽつ小さな声で話す椿。
ガバっと麗音愛は起き上がる。
「なんだよ~! 椿、お腹減った?
カレー? ラーメン?
ホットドッグもあるし、焼きそばもあるし」
「麗音愛、怒ってない??」
「だから~何を気にしてるのかわからないよ
怒ってないし、いつだって助ける。わかった?」
「……うん! わかった」
麗音愛を見上げた椿がやっとまた笑うのを見てホッとする。
スポーツドリンクを飲む麗音愛を見つめながら
椿自身もどうして
あんな行動をとってしまったのか、わからなかった。
でも、いつも麗音愛に抱きつきたい気持ちになってしまう。
1度目はわざとではなかったけど
麗音愛の腕の中はやっぱり温かくて
優しくて心地良くて、ドキドキして
向かい合ったら、反射的に抱きついてしまった。
咄嗟に嘘をついてしまった事がショックで……。
でも許してもらえてホッとした。
どうしてどうして、あんな事……。
「昼飯食いに行こう?」
「……うん」
麗音愛が珍しく沢山話をして、気を取り直した椿は沢山お昼ご飯を食べた。
その後は2人で元気に、また遊び
まったりと寝転がり休んでいた。
夕刻になりかけなのに
まだまだジリジリと暑いが、ほどよい疲れで眠くなる。
幸せな時間。
しかし、麗音愛は感じた。
海から見える山
その先に殺意を感じる。
襲撃か。
顔まですっぽりバスタオルをかけている椿
少しうとうとしているのかもしれない。
なんだかんだ、ずっと寝不足だったんだろう。
ゆっくりと、椿の周りに結界を張った。
すっと立った麗音愛は
ぶわっ!!! と呪怨の羽を広げて
晒首千ノ刀を右手に携える。
そこまで行かねばならなくとも
そこまで行かぬ方法で。
麗音愛も殺気を放つと、
一瞬陽が陰ったような違和感がその場に広がる。
寒気を感じた人もいただろう。
空を見上げた人もいる。
だが異変を、麗音愛を見る人は誰もいない。
ビシィッと麗音愛の足元の呪怨が千の槍となり、
麗音愛はふーーっと揺らめく息を吐く。
そして晒首千ノ刀の
切っ先を向け構えたかと思うと、
一気に刀を殺意に目掛けて投げ飛ばした。
ビュンッ!!! と刀が風を切り
その瞬間に殺意は弾け飛ぶ。
弾け飛んだが追撃で千の槍が降り注ぎ
今頃は全て喰われているだろう。
椿がもぞもぞ、とタオルを顔から外した。
「ん……寝ちゃってた少し」
「いいよ」
影の闇から、晒首千ノ刀は麗音愛のもとへ戻った。
ひんやりとした地獄の風が流れる。
「あ、風……いい気持ち」
「本当だね」
幸せそうに微笑む椿を見て、麗音愛も微笑んだ。
帰りの電車でも、うとうとする椿。
Tシャツでジーンズで肩に寄りかかる椿はいつもの椿だ。
「寝てもいいんだけど、その前にさ」
「うん?」
「俺さ、白夜団の仕事しっかりやろうと思うんだ」
「うん! もちろんだよ。私も頑張るね!」
「でも、椿はさ、これから当主になるんだし
そんな駆除作業みたいな事しなくても……母さんも心配してるみたいなんだ」
「当主だからこそ、みんなを守らないと」
椿の強い、強い意志の瞳。
舞意杖に誓った当主の想い。
「わかった。じゃあ俺と一緒に頼もう」
「うん、一緒に戦いたい」
「本当は俺もそう思ってた」
だから麗音愛も椿を説得する気なんてなかった。
えへへ、と笑った椿に寝るように伝えると
また定位置の麗音愛の肩に寄り添い、寝息をたてる。
麗音愛は乗り過ごさないように
携帯電話をいじっていると、今日撮った写真に気付いた。
椿がまた記念に撮りたいというので
みんながやっているようにインカメラにして2人で撮ってみた。
そういえば自分で自分を撮るなんて初めてだった。
ブレてはいないようだが
写真の苦手な自分が引きつって笑ってる。
我ながら酷いと笑いがこみ上げる。
何枚か椿を撮ってあげた写真。
砂の城ができて笑う写真。
かき氷を食べる写真。
海の前で飛び跳ねた写真。
カレーを食べてピースする写真。
波消しブロックに立ってる写真。
普通に撮ったけど、それはもちろん全部ビキニ姿で、
麗音愛はそれを椿にメールで送った後ピッと全部消してしまった。
何をやってるんだ?
と自分でも思うけど、でもこうした方がいいと思った。
自分の携帯が揺れて、椿が目を覚ます。
「ん……」
「あ、ごめん写真送ったんだ」
「寝ちゃってごめんね……。
写真ありがとう……」
まだまどろみにいる椿は
麗音愛の肩で、ふにゃふにゃしている。
「もう少し時間あるよ」
「ううん……起きる……」
「起こしてあげるから寝てていいよ」
少し寝ぼけている時は
すりすり……と猫のように擦り寄ってくる。
オレンジ色の夕陽に照らされた電車。
車内もオレンジ色に染まって
幸せのような色。
擦り寄ってくる椿の頭に麗音愛もそっともたれた。
この幸せな温かな色を守るには
黒く黒く冷たくならなければならない。
楽しくて、ドキドキした1日。約束の海。
でも心のどこかの鍵を、また強く締めたような気がした。




