椿、帰る~紅夜会急襲!!!~
椿が封印を解いた鍵を鍵穴へ差し込むと扉のロックが解除された。
重たい鉄の扉を開けると
そこは狭い5畳ほどの書斎のような部屋。
壁のスイッチを押すと灯りが点いた。
書斎机に本棚、ペルシャ絨毯。
普通でホッとする麗音愛。
しかし緊張は解かずに入っていく。
「まさかトラップなんて無いと思うけど……」
年代を感じさせるマホガニー材だろうか
アンティークな雰囲気のどしりとした高級そうな書斎机。
篝のものとよく似ている。
空っぽの花瓶の横に
1枚の写真が写真立てに入れて飾ってあった。
生まれたばかりのような赤ん坊の写真。
「これ椿の赤ちゃんの頃の写真かな」
「そうなのかなぁ……私っぽい?」
「正直わかんない」
「だよね」
引き出しを開けると
万年筆とレターセットと
子どもの落書きのような絵が数枚。
「椿が描いた絵かな?」
「そんなものわざわざ……??」
「うちも、子供の頃の絵
大事にとっといてくれたりしてるよ
親にとっては大事なんだって」
「そうなんだ……」
よくわからない顔をする椿だが嬉しそうだ。
雪春が引き出しを開いて、床に置いていく。
「佐伯ヶ原君、頼むよ」
冷静な雪春が急かすように佐伯ヶ原にいう。
椿の母の部屋かもしれないのに乱暴だと思うが椿が何も言わないので
麗音愛も黙る。
「これも、折り紙とか
そんなものばっかり入ってる」
「椿が作ったものが宝物だったんじゃないの?
これも椿じゃないかな?」
七五三衣装を着た女の子の写真があった。
3歳の椿だろう、笑顔がそのままでとても可愛い。
「私、小さい頃の写真なんて見たことなかった」
「可愛いね」
子どもの頃の写真についてなら普通に言えたが
昨日のポッと言ってしまった事を思い出してしまった。
そんな時じゃない、と反省したが椿も思い出して頬が熱くなる。
本棚には、桃純家の家系図の本があったが
それは白夜団にもある資料とのことだった。
宝石箱のな中には、アンティークなブローチと懐中時計。
価値は高そうだが、特に術などはかかっていない。
「椿が持っていた方がいいんじゃない?」
雪春も賛同したので、椿はブローチと懐中時計
なんとなく絵を1枚と折り紙を1つカバンに仕舞った。
特に重要そうなものは何も、ない。
こんな大掛かりな仕掛けの部屋なのに
篝の部屋に置いてあっていいものばかりに感じられる。
「あ、そこの壁に金庫のようなものがあります」
佐伯ヶ原が示すところを、椿が触ると可視化できるようになり
また火を灯す場所があったので灯すとガチャリと金庫が開く。
「また、箱……」
椿が文箱のような箱をそっと取り上げる。
これには封印術がかけられているのがわかった。
「玲央ーーーーーーーーーーーー!!!!」
剣一の声が響く。
麗音愛は晒首千ノ刀をすぐ構え、椿を背後に隠すが
一瞬で階段を駆け下りてきた侵入者が2人部屋に入ってきた。
「姫様、その箱を開けてくださいまし」
紅夜会、ヴィフォだ。
コーディネーターに似た雰囲気の色気を放つ肉体で今日もパンツスーツでSPのよう。
その手には拳銃が握られている。
「なんのつもり……!!!」
「その箱を姫様のお力で開けて頂き、中身を回収いたします」
後ろから、摩美が現れた。
ぴょんぴょん跳ねたボブカットが揺れる。
「そうしないと、上のあの男死ぬと思いますよ~~~」
ロープを回す摩美。
「!! 兄に何を!!」
「ホールでカリンが相手してる。この前の失態で落ち込んでて
今日はやる気満々だから、結界術でボキボキになっちゃうかもね
首ボッキーンって、きゃ!こわ!ダークネス睨んでくる~」
「今すぐやめなさい!!! 剣一さんに何かあれば
絶対に許さない!!!」
椿が吠えるように叫んだ。
ヴィフォも摩美も、その気迫に紅夜を見た気がしてビクッとなった。
「いいえ、私達が殺されても実行するよう命じられておりますので」
「!! こんな箱なんていらない!!!あげるから!!
麗音愛!! 剣一さんを」
「椿さん!!! それにどんなものが入っているかもわからずに!!!」
「そこをどけ」
冷たい風が吹くように、麗音愛が口を開く。
狭い部屋の中が地獄になるような光景をこの部屋の一同、抱き寄せた椿以外が
見ることになる。
足元、壁、天井、階段から迫りくる亡者。腐り落ちる死体が手を伸ばし生命を呪い殺そうとしてやってくる。
「ぎゃああああ!!!」
佐伯ヶ原は失神し、摩美も叫ぶ。
雪春もヴィフォもぐらりと身体が揺れた。
「外の女を殺してくる」
麗音愛の身体が、抱き締めていても冷たくなっていく。
まるで死神のような表情。
「麗音愛……」
いつもの優しい麗音愛と、全然違う。
氷の表情。
でも、心は絶対優しいままの麗音愛。
信じなきゃと椿は思う。
「ヴィフォ!!! 剣一さんの無事を証明しなさい!!
箱が開ける時間もない!!」
「承知しました」
平静を装いながら、冷や汗が流れたヴィフォは
イヤホンでカリンに応答させる。
「俺達も上へ!」
「いいでしょう」
麗音愛と椿は階段を駆け上がる。
「兄さん……!!」
「玲央っ…」
ホールでカリンの結界術で上に持ち上げられていた剣一がドサリと倒れ込む。
「いやーーー!! 剣一さん!!!」
麗音愛の顔を見たカリンはゾッとして逃げようとした身体を、また正して向き直す。
「こ、怖くない!! あんたなんて!!」
呪怨の矢でカリンを追撃するが、カリンの結界で弾かれる。
ギリっと歯を噛み締め、晒首千ノ刀を構えて攻撃するか迷うが
走り出した椿を守る体制をとった。
椿はすぐに剣一の元へ行き
全身を紫の炎で包む。
「剣一さん! しっかりして!! ごめんなさい……」
「大丈夫……ありがと、椿ちゃん大好き。だから泣かないで」
椿は剣一が倒れ込んだ時、絶望が身を包み
駆け寄って触れた時の温かさで涙が止まらなくなった。
「良かった……良かったぁあああ」
寝転んでいる、剣一の胸元に顔を埋める椿。
椿の治癒の炎で回復した剣一は、なでなでとしながら転がった愛刀・輝羅紫乃を右手で掴む。
「さぁ、約束を果たしてください」
後ろからヴィフォが言う。
「引け、引かないなら3人とも斬り捨てる」
麗音愛がそう言い切った。
「咲楽紫千麗音愛、此処は桃純家の計算尽くされた場所です。
此処はもっとも聖なる結界を張ることも可能な場所。
この屋敷を囲んで私達は強力な浄化結界をいつでも張る用意ができています」
「ダークネスなんて消し飛べ!!」
「そうだ!! 死ね!!」
ギッと麗音愛に睨まれ
カリンが摩美に抱きついた。
「こちらとしても、消滅までいければ嬉しいのですが
そうはいかないでしょう、
でも姫様……精神が保つかはわかりません」
「!」
「椿、大丈夫だ」
「だ、ダメ……! ダメ!!」
剣一とともに立ち上がり、細剣・緋那鳥を構える。
距離の離れてしまった麗音愛を見つめる。
「この屋敷に火を放つ用意もできています」
「!」
憎い、憎い、憎しみは強さになる。
とても強い強さになる。
でも、それは黒い力、黒く心が染まっていく呪いの力だ。
「待って!! 開けるから!! 待って!!」
椿は
麗音愛を守らないと、その気持ちだけ。
「椿さん!!」
雪春が叫ぶ。
「それにとんでもない秘密が入っていたら!!」
そういう雪春に微笑む。
その微笑みは篝に似て、神々しくさえある。
これが重要だろが、そんなことはどうでもいい。
3種類の炎を混ぜ合わせ
文箱を両手で挟み、祈るように念じる。
「……開かない」
「姫様」
「本当だよ!! 私の力じゃ開かない!! このまま持ってって!!」
「摩美!!」
「姫様動かないで!!」
摩美がロープ術で箱を奪う。
「麗音愛の無事の保証をして!!
麗音愛になにかするつもりなら、
今ここでその箱を焼き尽くす
お前の身体ごと骨も残らず、私も一緒にな」
「姫様……冷静におなりください
私どもはいくらでも焼かれます、
でもその御身に傷をつけることなど
してはいけません」
「なら麗音愛に何もしないで!!!」
「今、連絡をいれます……了解」
麗音愛は隙を見て椿のもとへ舞い降りる。
「俺は平気だ。何をやられてもこいつらを殺して、あの中身を取り返す!!」
「そんなものいい!!」
「椿」
「封印されてたものなんて関係ない!!
なくても平気だったものだよ今まで
そんなもので麗音愛が危険になるなんて嫌だ」
椿の強い意志の瞳を見て
どうする……と麗音愛も迷う。
「結界の使用は注意されました。ですが……屋敷は焼失せよとの命令がございますので」
残酷な言葉が、椿の耳に響いた。




