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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第2章 制服の笑み花の涙

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椿、帰る~憎しみに揺れる~

 


 その後はあまり箸が進まずで

 椿(つばき)はまた、ぼんやりと縁側に寝転んでいた。

 まわりにフワフワと炎を漂わせてる。


 サイダーの氷は、溶けてくるりと回転し、コップの水滴がお盆に垂れていく。


 屋敷は高い場所にあるので、縁側でも風が吹くと過ごしやすい。


 縁側の広い庭は、椿が体力保持のために使っていたという。

 もうボロボロのブランコやジャングルジムがあって

 それを利用してトレーニングしていたらしい。


 麗音愛(れおんぬ)は少し離れて見守っていた。

 ふと気付けば、セミの音、鳥の鳴き声。

 夏真っ盛りの音がして、どこからか笛の音や太鼓の音が聴こえてる。


「いつも……この音聴こえてきてたんだ……」


「お祭り、楽しみだね」


「うん……あの……麗音愛……」


「ん?」


 ごろんと寝返って、縁側に座り直した椿。


「……あの人達が……死んだって聞いても……なんとも思えない……

 可哀想とも同情もできなくて……」


「俺だって思えない」


「さっきの……奥様とか言われてたの……」


「あぁ……」


「あの息子、いつも気持ち悪くて……私が10歳になったくらいから

 お風呂覗いてこようとしたり……」


 麗音愛も立ち上がって、椿の横に座る。


「一度夜に部屋に入ってきて…………いっぱい抵抗して

 沢山殴り返したら

 しばらく牢屋みたいなとこに入れられた……」


「!」


「でも、本当に指一本触らせた事ない」


 ぎゅっと自分の肩を抱く椿。


「うん」


「汚い? ……私……」


「思うわけない! 絶対に思わない!」


「本当……?」


 哀しそうに微笑む顔に、麗音愛の胸は締め付けられる。


「俺がそんな風に思うと思う?」


「……思わないって……思いたい」


 横に座りながら、椿に拳を向けると椿がコツンと拳を合わせた。


「思わない」


「……うん」


 人を憎むなんて、そんな感情から掛け離れた世界にいたのに

 麗音愛の心は憎しみで黒く染まっていきそうになる。


 命を絶ってやりたい……そんな思いで黒く染まる心。


 だけど、椿をこんなにも傷つけた奴らはもうこの世にはいない。


 そう、でも……自分なら……。


 無念の魂はきっと今も彷徨っている。


 何百、何千、それ以上かの怨霊が、麗音愛の足元から蠢き、手を伸ばす。


 仲間をよこせと……。


 お前の憎む魂を、喰わせろと……。


 未来永劫、転生することなく、彷徨う地獄へ落とせと……。


 死してもさらなる苦しみを……。


 冷たい血が喉元を流れる。


「ありがとう」


 いつものように椿が、こつんと麗音愛の肩にもたれた。


「っ……!」


 黒い世界がブワッと弾けて、またいつもの視界に戻る。


 はぁっと麗音愛が額に滲んだ汗を拭った。


「麗音愛……? ごめんね、疲れちゃうね。ずっとこんな話ばかり」


「いや…………サイダー飲もうか」




 椿はサイダーを飲んだ後、また屋敷を見回ると言い出し

 和屋敷の方を歩き回った。


 だが、特に変わった物はなかった。

 舞意杖(まいづえ)の同化に至る資料なども見つからない。


「すみません」


「椿さん、僕こそごめん。プレッシャーを与え過ぎて

 急がないから」


「でもお前がこの屋敷を歩き回るたびに、この土地の気の流れが良くなっていく」


 佐伯ヶ原が椿の回りを揺らす炎を見ながら、辺りを見回す。


「だな、この地を守る桃純家が帰ってきて循環が整っていくんだ。

 さっき聞いたら(かがり)さんが亡くなってからずっとこの地は色々災難ばかりだと

 おばさんも言ってた」


 剣一が、炎をツンツンすると炎は剣一にまとわりつく。


「私は春までここにずっといたんですよ」


「でも、きっと今みたいに生き生きしてなかったんだろ

 炎も出せずで、なんか可愛いなぁ。生きてるみたいだ」


「そう……そうですね。舞意杖のせいなのか、ここの場所なのか

 ぽんぽん出てきちゃって」


 椿は、

 いつもはそんな事はしないのだが、ここに帰ってきてからは

 なんとなく出しては回りにユラユラとお供にさせていた。


「お前は、浄化の力は辛くないのか?熱くないのか、これ」


 恐る恐る佐伯ヶ原が炎に触ると、ふわふわと手のひらの上に乗ってくる。

 ほんのり温かくて小動物のよう。思わずにっこりしてしまう。


「うん、心地いいくらい」


 紅夜の娘でも、椿は逆に浄化の術も炎も得意で気に入っている程だ。


「玲央は辛くないか?」


「うん、少し騒がしいくらい」


 サッと砂をはらうように

 肩をはらうと無数の呪怨が散っていく。

 影だけが剣一にも見えた。


 なんと言えばいいのか、わからなくもなるが

 麗音愛は『ん?』と、いつもの弟の顔。


「いや、さぁ! 一段落って事にしよう!!

 椿ちゃんお祭り行く用意しようか!

 浴衣、持ってきたんだろ?」


「は、はい」


「浴衣……??」


 椿が、照れたような顔をして、麗音愛は首をかしげる。


「剣一さん、本当に浴衣の着付けできるんですか?」


「本当だよ。俺ら着物着ての儀式もあるし

 浴衣姿の女の子を脱がせたからにはきちんと着せてやらなきゃって信念のもと……」


「え?」


「や・め・ろ!! なんの話だよ」


「あの……浴衣を持ってきたんだ」


「浴衣、へぇ……そうなんだ」


 なんで兄さんが知ってるんだ、と思う麗音愛。


「ばあちゃんの浴衣、じいちゃんがあげたんだってさ」


「そうなんだ……全然知らなかった」


「あ、なんか言いそびれちゃって……着る機会もないかと思ってたし」


 でも、もし着る事ができたら……と剣一に相談したのだった。


 剣一は椿に下駄や巾着などの小物のアドバイスをくれたので

 椿は1人でモールに買いに行った。


 浴衣着てお散歩なんて、玲央も喜ぶと思うよ。と言われて

 つい秘密にしてしまった。


「そっか。お祭りだし着たらいいとは思うけど……兄さんが着せるとか」


 危険だ。危険だ。


 麗音愛の頭はそればかり。

 ジトッと剣一を睨む。


「途中まではお家で練習したんだ、だから帯だけお願いしたいんです」


 浴衣の事はさっぱりわからないが、帯を最後に巻くのはなんとなくわかるので、それなら安心かなと思うが

 何か変な事をされたらすぐに呼びなさいという麗音愛だった。


 なんだかんだでもう夕方。カラスも鳴き始め

 少しずつ夕焼けに近づいてくる。


「じゃあ、支度行こ行こ! 椿ちゃん」


「はい。じゃごめんね。待っててね」


「……うん」


 麗音愛は、佐伯ヶ原と雪春という苦手2人と3人になり

 なんとも気まずい空気。

 雪春は庭に出て、風に当たっている。


「あの、サラ」


「ん……」


「すみませんでした」


「……椿に謝ってくれたんだし、俺は……殴ったし」


「お気楽ご気楽娘だと思ってて……」


 そう、天真爛漫・椿の生まれも育ちも気付く人なんて誰もいない。

 海外に両親がいて

 田舎のお嬢様学校の寮ですくすく育ち、なんて話を皆が信じている。

 悩みなさそう~と言われても、いつも笑って。


「椿はすごいよね。俺はあんな風に強くなれる自信ない」


「……はぃ」


「おい亜門!! お前髪やってくれよーー!」


「あ、はい!!」


 佐伯ヶ原は、走って行ってしまった。


 とうとう、雪春と2人きり。

 距離はあると思うのに随分と気まずい。

 自分も椿達のところに行きたいのに……行ってしまおうかと思ったが

 雪春が縁側に近づいてきて口を開く。


「まるでお姫様だね、みんなの」


「……そうですね」


 世が世なら、本当にお姫様だっただろう椿。

 紅夜の娘じゃなければ、きっと今だって

 この大きなお屋敷で幸せに暮らしてたんだろう。

 いや、篝が生きていれば、紅夜の娘でも幸せだったのかもしれない。


「彼女に随分負担をかけてしまったね……すまない」


「……何故篝さんが亡くなった時のことを、今更椿に聞く必要があるんですか?

 その時、白夜で調査しなかったのですか」


 つい、責めたい事を口から一つ出してしまい、


「あなた達が当時もっとしっかりしていれば、

 椿が酷い状況で放置される事もなかったんだ!」


 一番腹が立つ事を言ってしまった。

 何故、何故

 母親を亡くしただけでも辛い小さな女の子を保護もせず放置し続けた。


「…………桃純家は、篝さんが椿さんを産んだ時、白夜団から追放された。


 愛の裏返しは憎しみとでもいうのだろうか。


 僕の父親を見ただろう。


 あんな風に

 篝さんを影で愛していた男達が白夜団には沢山いたのさ。


 彼女が紅夜の子を宿した時、どんな理由があっても

 とんでもない裏切り行為だ。


 幹部連中は怒り狂い、彼女をここに閉じ込めた……」


「……っ!!! ふざけるな!!」


 怒りで寒気がする事を麗音愛は知った。


「ふざけるなだよね、亡くなった日ですら定かではなかった……」


「そんなふざけた奴らが……白夜の上層部なのか」


「いっそ、全員早く死んでくれたら手っ取り早いんだけどね」


 ギクリと麗音愛が雪春を見る。


「そうなってくれたら、どんなにいいか。咲楽紫千(さらしせん)団長が取り仕切ってくれたら

 一番平和だと僕も思う……」


 場違いな微笑み、自分の父親もそのなかに含まれているというのに。


秋穂名(あきほなけ)家は事故死なんですか?本当に」


「……君が殺したかったかい?」


 麗音愛の足元の呪怨が揺れる。


「本当はさらわれて後日、拷問されて死体で見つかったよ

 紅夜会の仕業だろうね」


 言わなかったのは、椿のためか。

 本当に、紅夜会なのか。

 みすみす家族全員さらわれるなんて……。


「失態だらけの、ふざけた組織に見えるだろう……。

 あの時…………僕は子どもで篝さんが亡くなった事だけしか

 教えられなかった」


 さっきまで微笑んでいた雪春が、哀しみか憎しみで顔が歪んだ。

 だけど、すぐ

 いつもの冷静な無表情のような微笑のような顔に戻る。


「どうして、篝さんは自ら命を経ったのか……娘を残して

 ……それを知る事に意味はないと思うかい」


「意味はあるとは思いますけど、椿に負担ばかりかけるのは……」


「でも、彼女は自分を愛されていた事を思い出した。良いことだと思うよ?」


「そうですが……」


 あの壊れるほど泣いた椿を見ていないから

 心が壊れてしまうんじゃないかと、どれだけ不安だったか……。


「僕が昔、山の中で彼女に会った時もニコニコと輝いていた。

 一度も愛された事のない人間だとは思えなかった……

 どれほど辛い経験をしても

 幼少で乗り越える心を彼女はもう篝さんから与えられていたんだ」


「椿はただ我慢して我慢して生きてきただけだ!!

 そんな風に美談にしても、椿が受けてきた傷は時間は……」


「過去には戻れない……これから癒やしていくしか……ないね」


 もう時間を巻き戻すことはできない。

 麗音愛はもう、過去に干渉しようがない。

 小さい椿を助けてはあげられない。


 これから癒やす。

 言われなくても全力でするが

 でも、そんな簡単な事じゃない。


「椿さんが笑っていられる未来がいいよね」


「……もちろんです」


「今日は疲れているだろうけど、沢山楽しんでおいで

 椿さんのこと、頼むよ」


 ガヤガヤと縁側に向かってくる声が聞こえてきた。


「お、お姫様の登場だね」


 殺気が滲むのを抑えていた麗音愛は、はぁっと息を吐いた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 佐伯ヶ原くん、なんだかんだ良い奴なんよな……(* . .))ウン 椿ちゃん、帰郷編は境遇の不憫さがどんどん浮き彫りになっていって、愛おしさが止まらぬ……。ホンマ健気な子やで……。お母ちゃんに…
[良い点] 椿ちゃんがみんなのお姫様で嬉しい!! 辛いことあった分、いやそれ以上にちやほや甘やかされて何の不安もなく生きて欲しい…うう、先が…先が気になる… 佐伯ヶ原も良い子(´;ω;`) おじいちゃ…
[一言] 何だかきな臭いな、雪春さん。 雪春さんは、白夜団にながらにして、向こうとも繋がっているとかないよね? ただ、本当に今の組織を潰したいと思っているだけならいいんだけど、何だかいまいち信用できな…
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