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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第2章 制服の笑み花の涙

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椿、帰る~過去の母・椿の叫び~

いつもありがとうございます。


今回は椿の少し哀しい過去のお話になります。

虐げられた描写も出てきますので苦手な方はご注意ください。

 

 次の日、晴天のなか5人は広い台所のテーブルでサッと朝食を済ませ

 いよいよ桃純(とうじゅん)家の探索が始まる。


「私の部屋には何もないと思うけど……」


 屋敷の奥へ奥へと4人を案内する椿。


 華やかさはなくなっていき、薄暗くなっていく

 日当たりの悪い暗い廊下の

 質素な扉。


 今は錠前はないが外から鍵がかかるようになっている。


「この部屋、外から鍵をかけられてたの?」


「うん、トイレもシャワーもある部屋なの

 使用人さんのお部屋かな」


 トイレの心配をしたわけではないのだが、椿はそんな風に答える。


 6畳ほどの畳部屋にボロボロの本棚、机。

 華やかさもない、地味な部屋。テレビもない。

 不自然に窓だけが新しい。


「出る時に壊したから、直されたんだね」


「ひどいな……これが女の子の部屋だって……」


 剣一はショックを受けて、佐伯ヶ原は無言だ。


「窓には鉄格子もあったという話だったが」


「そうです。でもいつでも破壊できると思っていたし……景色が邪魔くらい

 ちょっと待っててくださいね」


 また軽く言う椿に、麗音愛(れおんぬ)の胸は痛む。

 押入れの中からゴソゴソと一冊の紐で綴じられた橙色の表紙の古めかしい本。


「あ、あったあった。これが私の明橙夜明集めいとうやめいしゅうろく録だよ」


 紅夜を滅ぼすために創られた108の武器の総称を明橙夜明集(めいとうやめいしゅう)といい

 またそれを載せた本の事を明橙夜明集録という。


「まぁ珍しくもない、白夜団(びゃくだん)の幹部一族なら持ってて当たり前の本だ」


 しかし見た事はない麗音愛のために、パラリと椿がめくる。


「武器名と保有する一族の名前が書かれているんだよ、住んでいる地域とね」


「へぇ……それを頼りに来たんだね。覚えているの?」


「うん、だって私の絵本みたいなものだから。ほら晒首千ノ(さらしくびせんの)(かたな)


 そこには晒首千ノ刀所有・咲楽紫千(さらしせん)家、の後に筆字で

「麗音愛」と書き加えられている。


「えっ俺の名前が……なんで」


「どうしてだろうね?だからずっと私、咲楽紫千れねあちゃんだと思ってて」


「あぁ……じゃあ、そんな昔から俺を女の子だと思っていたんだ」


 あの日の椿を思い出す。

 女の子だと思いこんでいたら一緒にいた美子だと思うだろう。


「追われてたから絶対敵対されると思って攻撃しちゃって……ごめんなさい。

 でも、どんな女の子なんだろうっていつも考えてたよ」


「ごめんね、男で。すごくショックだったよねきっと」


 相変わらず、椿に殺されかけた事なんてもうどうでもいい麗音愛。


「ううん!! 麗音愛は麗音愛で!! 麗音愛でいい……」


「そう……?」


「うん!」


「友達になれたしね」


「そうなの!」


 微笑む椿を見て麗音愛も微笑む。

 2人のまわりを、ほのぼの空気が流れる。


「俺達は一体何を見せられているんだ……」


 苦笑いする剣一。


「それにしても、玲央(れお)君の本来の名前、

 麗音愛を知っていてそこに書き込んだのは……(かがり)さんなのか」


「咲楽紫千家との繋がりが??でもそんな事、母さん達はなにも……」


 むしろ関わるなと言われたばかり。

 何か隠しているのだろうか……。


「兄さんは椿の事、今まで繋がりとか聞いたこと」


「紅夜の娘がいると存在はもちろん聞いていたけれど、保護されて生活している程度しか

 親から聞いた事もない。ここに来たのも初めてだ。まぁ聞いてみるさ、帰ったらな」


 それをしてしまうと、家探ししたのがバレてしまうが

 その辺りは後で剣一と相談すれば良い。


 椿は特に大事に思っていないようだが、雪春は写真を撮らせてほしいと言って

 麗音愛と書かれたページの写真を撮った。


 椿は他には何もないと『明橙夜明集』だけを持って部屋を出る。

 もうここには来たくないと思い、強く扉を閉めた。





 そして、また屋敷が豪華さを醸し出す廊下に変わり

 主人の部屋に着く。


「ここは母様のお部屋……母様の……」


 ここだけ(ふすま)ではなく、装飾されたドアが付いている。


「椿は入らないほうが……」


「……緋那鳥(ひなどり)を取りに来て窓を壊しちゃったの。お部屋どうなってしまったのか……」


「修理は完全に終わっているよ」


 畳ではない板張りの洋室仕様にされた篝の部屋。

 決して華美過ぎず、だが上質だとわかるインテリア。


 奥には緋那鳥が祀られていた祭壇があるが、もう緋那鳥は椿のなかにあるため、

 厳重な護りもされていない。


 祭壇の倒れて散らばった飾りを、椿が一つ一つ戻していく。


 もう主人のいないロッキンチェアは、麗音愛が触れるとゆっくりと動いた。


「母様の家具、壊しちゃった……母様ごめんなさい」


 椿が破壊した窓はもう直っていたが、たしかに窓際の書斎机は半分壊れかかっている。


「ん……そこ机の中」


 佐伯ヶ原が、手を伸ばす。


「なに……?」


「この引き出し、なんか術がかかってる……ほら、二重底。お前ここ殴って壊せ」


 椿に言ったが、麗音愛が出て刀で切り落とす。


 コロリと小さい箱が出てきたようだ。

 確かに力のある麗音愛達には、ぼんやりと存在が

 わかるような気がする。


「俺は見えるだけで、干渉はできないんですよ。

 これ箱ですけど俺には開けられない。ほら」


 椿は手のひらに渡されると、箱が目視できるようになった。

 桃純家の家紋が入っている。


「私、開けられるかな……」


「椿さんが持っていたほうがいいようだね、もし何かわかれば僕に教えてくれるかい」


「はい、もちろんです」


 ぎゅっと握りしめ、ショルダーに大切に仕舞う。


 こもっていた空気を逃すように、窓を開けるとフワリとレースのカーテンが舞う。


「……母様はこの部屋で亡くなったの……自分で喉を緋那鳥で……」


「椿、いいんだよ。思い出さなくて」


「申し訳ないが。その時の事を、もし椿さんが思い出す事があれば僕は聞きたいんだ」


 その雪春(ゆきはる)の申し出に、麗音愛は顔をしかめる。


「大丈夫、麗音愛……お母様がどうしてあんな事になったのか、私も知りたい気持ちもあるの」


「無理しないで」


 うん、と頷く。


 あの日の記憶は封印したまま、篝がいなくなった途端に

 豹変した側近の一族に虐げられてきた過去。


 心を閉ざしてしまっても仕方ないのに、椿は強くて明るくて優しい。

 それでも、一瞬で壊れてしまう衝撃があるかもしれない。

 それが麗音愛は怖かった。


「では、僕が誘導しよう」


 情報調査管理部部長ゆえの技術でもあるのだろうか

 雪春に言われ、椿はロッキンチェアに座り目を瞑る。


 窓も閉め、麗音愛達も息を潜めた。


「あの日君はここにいた……小さな君……手も足も小さい……」


 椿は一つ一つの言葉を、ゆっくりと耳に入れて脳に送る。


「……はい」


「……小さい君は……何が見える……」


 じっと……言葉を聞いてから、ゆっくりと答える。


「……灯りが……ついてる……」


 灯りということは夜だろうか。


「小さい君は……何をしている……?何か、見えるかい……?」


「ゆらゆら……この椅子で……ゆらゆら……赤い……リボン……ドレス……」


「それは、君のドレス……?」


「……違う……目の前に……」


 椿は自分の心臓の音を感じる。


 お前のせいでお前の母は狂った。


 お前のせいでお前の母はいつも泣き喚いて。


 お前のせいで、お前の母は自殺した。


 お前の母はお前の事をいつも疎ましく思っていた。


 いつも言われていた……


 封印している過去。


 見たくない過去……。


 美しい母は、自分が嫌い。


 (めぐむ)なんて名前なのに、愛されてなんていない。


 でも好き、母様が好き、きっと好き


 でも、愛されてない


 愛されてなんていない…………。


 でも、


「母様が……抱き締めて……くれてる……」


 椿の脳裏に浮かんだ。

 ロッキンチェアの上、抱っこされ温かい、ぬくもり……。


 ドクンと心臓が鳴る。


 記憶のガラスにヒビが入っていく。


 目を閉じた椿の瞳から涙が溢れてた。


 手も震えて、呼吸も荒くなる。


 麗音愛は雪春に、もうやめるよう目で訴えるが雪春は続ける。


「君を抱き締めている?」


「そう……優しく抱っこしてもらってた、この椅子で……膝の上……だって……あの日」


「何か見えるかい」


「……あの日……ろうそく……の」


「ろうそく……」


 儀式に使う何かか、雪春が慎重に椿に聞く。


「それは……どんな、ろうそくかな……」


「ケーキ……ろうそく……ううっ」


「ケーキ……?」


 閉じた瞼から涙が止めどなく溢れてくる。


「椿……」


 心の封印を開けた椿に

 あの時のイメージが断片的だが蘇っていく。


「ケーキのろうそく……


 お誕生日のお祝いを……してもらった……ううっケーキ……食べて」


 よろっと泣き崩れる椿を、すぐに麗音愛は支える。


「私、お誕生日のお祝いしてもらったことなんてっないっって、思ってた

 だって……ずっと……あぁ」


 誕生日なんて、散々日なんて言っていた椿。

 辛い思いしかしない日だと


 ユラユラと揺れるロッキンチェアから見える……


 ろうそくも火もユラユラ揺れる……


 ケーキに……


 温かい、抱っこのぬくもり……


 嬉しくて上を向いた椿の目に入った


「!」


 母の微笑み……


「私、母様のことずっと……私を嫌ってるって……母様はっううっ

 ずっと…………ごめんなさい……母様うううあぁ!!!あぁあああ!!」


「椿っ!!」


 声をあげて泣き出す椿を、麗音愛は抱き上げる。


「終わりだ!」


「あぁ……すまない」


 そういう雪春の横顔を剣一は見ていた。

 一瞬、の表情を剣一は見逃さない。


 椿が今わかった内容など、雪春はどうでもいいと思ったんだろう。

 まぁそれは当然といえば当然かもしれない。


 だがやはり信用はできない男だな、そう思いながら剣一も麗音愛達の後を追う。


「俺も行きますんで」


 佐伯ヶ原もそう言って、出て行った。

 1人残された雪春はまだ部屋を見回していた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] >「俺達は一体何を見せられているんだ……」 他の人おいてけぼりで二人の世界に!最高だな!! [一言] 過去に触れるのはドキドキする。こわい……
[一言] 椿はもしかして記憶を換算されてたりするんだろうか? それとも本当にこの時だけ優しくされたんだろうか? 雪春の行動と考えがわからない。 でも椿にとってよくないような気がするのが気のせいであって…
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