雪春の椿訪問
麗音愛の怒涛の週末は無事に終わり
何も知らない高校生達には普通の月曜日が始まる。
「あれ、渡辺さん、そこどうしたの?」
「ちょっとぶつけちゃって」
体育の着替え、自分で切った傷がまだ痕に残っている。
打撲の傷跡ではない事は特に気付かれず、すぐにジャージを羽織り
広いグラウンドを、みんなで走る。
ただ、普通の生活が嬉しくて嬉しくて椿は走った。
それから
夏服への衣替えもあり
夏のセーラー服も椿は良く似合った。
「麗音愛どうかな?」
「うん……いいと思う」
昨年も同じ学校の女子達の夏服を見続けたはずだが
キラキラと特別に見えるのは椿の眩しい笑顔のせいだろうか。
逆に男子は学ランを脱いだだけ。
「ええと……その……」
「いや、無理して感想言わなくていいよ。あはは」
その直後は椿に交際を申し込んだり、友達付き合いを望んだりの男達が増えたが
なんとか毎日交わして平穏に過ぎていく。
何度か仕事の依頼を受け働き、妖魔を斬り学校へ行き
一学期の期末テストの勉強を始める麗音愛と椿だった。
太陽は輝きを増し
夏の匂いが近づいてくる。
「じゃあ、塾行ってくるから」
「いってらっしゃい!」
「何かあったらすぐ電話して、絶対出るから」
「うん」
あの事件以来、ますますイトコンになった麗音愛だったが
実際白夜団も警戒が高まり
麗音愛達への見張りも増えた。
1人夕飯を適当に済ませた椿。
「あ、明日の朝ご飯買っておかなきゃ」
まだ明るいのに、椿は尾行に気付く。
すぐそこのコンビニなのに……。
振り返ると
メガネの男がにっこりと椿の後ろに立っていた。
「あ、あなたは……」
「こんにちは、椿さん」
先日の報告会議で会った絡繰門雪春だった。
コンビニに行ってからでいいよ。と言われたが
椿はそのまま引き返した。
「どうぞ……」
椿は、雪春にコーヒーを出した。
一応来客用にあった方がいいと、ブランド物のカップを直美が買ってくれていた。
「ありがとう、突然にすまないね」
「いえ……」
ローテーブルに2人向かい合ったまま正座。
「おや、テスト勉強かい?」
「は、はい。もうすぐテストなので……」
「玲央君は塾みたいだね、椿さんは?」
「私は、塾なんて贅沢ですし……」
「贅沢なんてないと思うよ。
でも今わからないところ、あるかい?教えてあげようか」
雪春が数学の教科書をとってペラペラとめくった。
「え?」
「僕、先生なんだよ。仕事は白夜団やらされてるけどさ」
「えぇ! すごい!! ……あ、でも大丈夫です」
あはは、と笑いながらも断る椿。
「君は……、1人で生きようとしすぎだね」
「え」
「距離感がわからないんだね」
椿の心臓が鳴る。
「あ、あの」
見透かされたようで、嫌な気持ちのような恥ずかしい気持ちのような
戸惑って下を向いた。
「こういう時、勉強で知りたい事があったなら
教えてください、で正解さ」
確かに、行き詰まっていた。
麗音愛に聞こうか迷っていたが、迷惑になるのではと思って聞けていなかった。
「でも、いいんでしょうか……」
「いいんだよ、教えてあげる。さ、どこ?」
そう言うと雪春は教科書に手を伸ばした。




