桃純家再興提案
録音も議事録もなしで
何を提案するのか、しばし緊張が走る。
が、雪春は笑みを浮かべた。
「手短に話すと、桃純家の再興を考えてみたらどうか、と」
「え!」
椿が声をあげる。
麗音愛には、どんな気持ちでの声かわからなかった。
「まずは、桃純家の補佐だったはずの秋穂名家を徹底的に言及し
罪を暴露し、罰を与える。刑事罰もだ。もちろん白夜団からは追放だ」
「……」
嫌な名前を聞いて怖くならないか心配だったが
椿は冷静に聞いている。
「それから改めて再興すれば、椿さんはもう罰姫なんて言われないよ
その美しさ、強さ、全て評価されるべきです。
頭の固い老人とは言っても、彼らも白夜で先代の篝様には相当の敬意を払っていた。
椿さんが
本当の後継者たる姿を見せればひれ伏すだろう」
「桃純家を……」
「ただ、どういうパフォーマンスをするかですね」
「可愛い椿嬢の顔を見せるだけじゃダメなのか?」
剣一はもうネクタイを緩めはじめた。
「難癖を付ける事に長けた老人共だよ。顔だけなんて到底無理さ」
「私、他の一族の武器を使役できます」
「その能力も桃純のもので管理できるのは素晴らしいけど
剣一君っていうチートキャラが今いてさ、輝羅紫乃
とか他一族の武器干渉して使っちゃってるから
インパクト弱いんだよね」
「その言い方~~~~やめてくださいよ俺悪いみたいじゃん!!」
「物凄い才能だよ、羨ましいね……もう少し強い……何かないかな」
さっと美子が手をあげた。
「藤堂さん、何かある?」
「あの……同化継承をやめさせることってできるんですか?」
「えっ」
一同が驚きの声を上げた。
「よっちゃん……それは禁忌だ」
「ん~……でも桃純最大といってもいい術だ
パフォーマンス的には十分だよね……でも、同化を誰かやめたい人なんているのかな?」
「あ、あの……私が……私がやめたくて、
咲楽紫千玲央君に相談したんです。あの日の夜」
シーンとなる部屋。
特に剣一は動揺したがもちろん表情には出さない。
「すみません、こんな発言は処罰対象に……でも……」
「俺は、この藤堂さんの訴えを尊重してあげたいと思うのですが」
「玲央……」
美子は偶然に、と思っていたが隣に座る麗音愛を見て
自分がどれだけこの人に、この男に
自然に頼ってきたかをここ何十時間で思い知った気持ちだった。
この場所も無意識に隣に座っていたのだ。
剣一ではなく、麗音愛の横に。
「私、やります!!」
「つ、椿さん」
「でも命の保証もない禁術ですよ」
「え!?」
麗音愛と美子が声をあげる。
「……それはっ」
「椿さん、それなら私望まない! そんな命に関わるだなんて知らなくて……」
美子が慌てて否定するが
「いえ、できるならやります」
「椿!?」
「紅夜を倒すための武器を使う人が、やめたいと言っているなら
無理強いなんて絶対したくない」
「椿さん、いいの私」
「いいえ! 桃純家を、復興させるためにもこれ以上ないのなら……
それも踏まえて、やりたいです。ただ美子さんに危険は……?」
「数少ない文献しかないので……予想ではありますが、術者側の負担ばかり大きいようですね」
「それなら、どんな事でも犠牲になる人はいないほうがいい……
あいつがいるせいで……不幸になる人がいるなんて嫌だ……」
椿の顔が辛く歪む。
あの日の死闘を思い出しているのかもしれない。
「俺も手伝うよ」
「麗音愛……!」
「ま、待って頂戴、それはここでだけでは決められない話よ。
話がおかしな方向へ行っているわよ。今日は……」
団長の直美が慌てて遮る。
「そうですね、椿さんの意思が聞けただけで今日は満足です」
じっと雪春は椿を見つめ、気付いた椿も雪春の瞳を見つめてしまう。
メガネの奥の妖艶な光。
見つめ合っていることを周りが見ていることに気付いた椿は
恥ずかしさで下を向いた。
「あと、これ……紅夜の使者に渡されたんです
桃純家の法具だって」
「それは……! 是非見せてください」
「はい、こちらです。お預けしますので」
トートバッグから小さな箱を取り出した椿。
「君の桃純家の家にも戻れるようにするからね、僕は君の味方だよ」
にこっと微笑まれ、椿はどうしたらいいかわからず、照れたように笑った。
「椿さんへの監禁暴行も僕の方でも厳しく調べて、必ず罰を受けさせるからね
紅夜会との闘いの前に白夜の膿の排除が先だなんて恥ずべき事だけど……
団長、ありがとうございました、もう結構ですよ」
「皆さん、お疲れ様でした。また何かあった時はお願いね。ごめんなさい
私テレビ会議が入っててこれで」
直美がバタバタと出ていってしまった。
「僕、なんのために呼ばれたんです?」
なにも聞かれずの佐伯ヶ原は、子鬼のような顔をした。
箱を雪春に椿が渡しに行くと、
何かあれば連絡を、と名刺を渡された。
またジッと見つめられる。
「……覚えてないかな」
「え?」
「いや、なんでもないよ。お疲れ様
何かあったら連絡するかもしれないので番号を入れておいてください。
お疲れ様でした」
「は、はい。お疲れ様でした!」
部屋の入り口で待っていた麗音愛の元に駆け寄る椿。
麗音愛は静かに、雪春を見つめる。
部長らしくなく、雪春は麗音愛にヒラヒラと手を振って『玲央君お疲れ様』と言ってきたので
ペコリと頭を下げて
『お疲れ様でした』と部屋を出た。
終わった時は14時で昼もすっかり過ぎていた。
「お疲れ様、みんな」
はぁ、と美子もため息をつく。
「すげー中途半端だけど腹減ったよな
よし! ラーメン行くか! ってなんでもいーけど」
「あ、あの兄さん」
「ん?」
「俺、椿と行くとこあるから、ここで」
「?? 麗……」
どこ行くの? と聞こうとした椿に、麗音愛が目で合図した。
黙る椿。
「おう! じゃあ……この微妙なメンツで行くか」
「えぇ玲央さま~~……」
「……」
本当に微妙なメンツで麗音愛の方が心配になる。
「む、無理せずに
解散したら?」
「ううん、ラーメン食べよ! 剣一君」
と美子が声を上げた。
「あ、あぁ! そうだ行こう!! 行くぞお前も!」
「名前覚えてくださいよ」
なんだかんだワイワイしながら剣一と美子と佐伯ヶ原の3人で駐車場へ消えて行く。
麗音愛と椿は歩き出した。
「あ……」
車からまだ歩いている麗音愛と椿を見る美子。
美子は
あの日、あんな事にならなければ、
椿がここに現れなければ
玲央が晒首千ノ刀なんて継承しなければ
いつまでも、剣一が好きな自分の隣にいてくれたのかな、
あの時も抱いてくれてたのかな
そうしたら、そのままずっと自分も玲央と一緒にい続けたのに……。
なんて自分でも自己中で最低だと思うことを考えてしまう。
そしてすぐに車から2人の姿は見えなくなった。




