血まみれの椿を前に
暗い倉庫街
ため息を吐いた。
安堵なのか、痛みからか。
ぼたぼたとまだ血が流れていた。
「いたた……」
とりあえず連れて行かれなかった事が心から安心できて
涙が溢れる。
「はぁ……」
くらっとして
ペタンとその場に座り込んだ椿。
まだ濡れている地面。じわりと不快に冷たさが滲む。
貰ったスニーカーだけは汚れないように、足を慌てて伸ばしたり動かす。
服が血で汚れていく。
仕方なくパーカーを脱いで、腕をくるもうとしたがかさばるので
ロンTを脱いで傷を締め付ける。
キャミソール姿で寒気がしてクシャミをした。
まだこの生活を続けられる安堵……
麗音愛とみんなとまだ一緒にいられる……
良かった……とポロポロと涙が頬を伝う。
でも
こんな時間に美子と2人一緒……。
自分だって、一緒に朝までいてもらったことがあるけど……
でも部屋にはいなかったようだし……
どこで2人で……ってラブホテル
ラブホテルってなんだろう……LOVE?愛って……愛し合う2人が行く泊まるところ?
2人は男女交際してるんだ……とズキズキ発作が椿を襲う。
連れ去られなかった安心と、
ズキズキ発作で涙が、血と同じように止まらない。
そんな事考えている場合じゃないのに……。
「はぁ……寒い……ばかやっちゃったな」
少し歩いて……と思ったけど立ち上がれなかった。
虚しくて惨めで、涙も溢れていく。
10分も経たないうちに
呪怨をまとった麗音愛がドサッと降り立った。
「椿!」
座り込んで
血染めになったロンTを巻いたキャミソール姿の椿
泣き続けたような顔を見て
麗音愛は心臓が凍りつく思いで
結界を張りつつ駆けつける。
「麗音愛……」
「大丈夫か!」
「うん」
「遅くなってごめん!!」
着ていた上着を椿にかけるが
上着から、ふわりと女の子の香りがする。
フローラルの美子の香り……。
また椿の瞳から涙が溢れる。
「敵は!?」
「もういない……」
「痛むのか」
「痛まないよ……血が付いちゃうから……返すよ」
「いいから」
「来なくて良かったんだよ?」
「こんな時に何言って……」
「ラ、ラブホテルってとこに戻りなよ」
え! と麗音愛は驚いた顔になる。
「美子さんとこに、戻って」
「帰ったよ、送ってきたから。遅れて本当にごめん」
「……邪魔してごめんなさい」
「じ、邪魔なんてしてないよ!
俺がごめん、電話にも出ないで怒鳴ったりして」
「別に……大丈夫」
「何があったの? どうしてそんなに……」
泣いてるのとは聞けず。
「麗音愛には関係ないよ」
「か、関係ないって……」
「関係ないわけないよね。ごめん白夜団だもんね
紅夜の手下に呼び出されてたの」
「!! それで怪我を?」
「これは、なんてことない」
「結構、血が出てる……」
「平気なのわかるでしょ、なんでもないの。こんなの」
「帰ろう?」
「い、いい」
抱き上げようとする麗音愛を、椿が拒んだ。
2人の間にできた壁がお互いの心を刺す。
「飛んで帰ろう?」
「大丈夫」
「大丈夫って、そんな血まみれだったらタクシーも無理だよ……」
「歩いて帰る……」
「ごめん、怒ってるよね。夕飯の約束も破って、電話にも出ないで危険な目に合わせて」
「夕飯は剣一さんとおじい様と楽しかったし!! 今のは私が罰姫だから……麗音愛とは関係ない」
クシュンとまた、椿がクシャミをした。
白い肌がいつも以上に白く青白くなっている。
ボロっと落ちた涙をバッと右手で散らかした。
「関係ないなんて……」
それ以上は消え入るように麗音愛は言わなかった。
「行こう」
「あ!」
無理やり麗音愛が椿を抱き上げる。
お姫様抱っこした椿に麗音愛は「ごめん」と呟く。
「帰るまで我慢して、お願いだから」
「れ……」
「それから、無視しても嫌ってもいいから……お願い」
辛そうな麗音愛の声を聞いて、今度は椿の胸が痛む。
「麗音愛にも血がついちゃう」
「大丈夫だよ、捕まって」
「うん……」
ぎゅっと麗音愛の首元に抱きついた。
やっぱり、ふわりとフローラルの香りがする。
それでもそのままぎゅっと抱きつく。
ふわっと麗音愛の髪が頬に触れる。
麗音愛が出すスピードではこのくらい抱きついてないと落とされそうな勢いがあるので
不自然ではないが
麗音愛もぎゅっと抱きしめた。
椿の身体は冷え切って触れる肌も冷たい。
椿の涙が風に煽られて、頬に当たる。
自分の罪を思い知る気持ちだ。
「痛い? 寒くない?」
「……うん……」
「電話出れなくてごめん」
「……別にいいんだ」
「美子が参っててさ」
「そうなんだ……」
「ラブホには行ったけど、何もしてない」
自分でも何故と思うが言わずにいれなかった。
「……何かする場所なの?」
「あ……えっと、仲の良い男女が行く場所なんだけど」
「へぇ……男女交際してる人?」
「そ、そうだね……」
「麗音愛は……美子さんと……」
「俺と美子は今までもこれからも友達! 大切な友達」
ドンと電柱の上に降り立つ。
雨は上がって、灰色の月明かりに照らされた雲がゆっくりと動いて
2人の顔も月に照らされる。
「……そう」
「あは、そんな説明いらないよね。関係ないって感じだよね」
「……」
「でも、椿には本当の事だけ知っててほしい、誤解されたくない」
麗音愛の憂いに満ちた顔が月明かりに照らされる。
そしてまた飛ぶ。
「……親友だから?」
「そう」
「……わかった」
2人は男女交際はしていなかった……。
きゅっと椿が抱き締めて
ふわりと頬が触れた気がした。
「来てくれて、ありがとう……」
椿のか細い声に、心の奥がジリっと熱くなる感覚がして。
麗音愛もできるだけ椿の冷たい肌が温まるように抱き締めて飛んだ。




